オレの体の部位たちがオレに「ダメ出し」してきた件

咲良きま

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第35話

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ピカピカに磨き上げられたロールスロイスの運転席から、制服姿のお兄さんが下りてきた。
なかなかなイケメンだな!
「杉山さん、今日はよろしくお願いします。」
若い運転手とどうやら顔見知りのようで陣さんがぺこりとお辞儀をする。
俺たちもあわてて会釈した。
「みなさん、こちらこそよろしくお願いします。」
お兄さん、声もイケボだな!
陣さんが、俺らを振り向いて言った。
「私、ちょっと車に酔うから助手席を譲ってもらってもいいかな?」
「あ、全然大丈夫だよ。な?」
本山の答えに俺もうなずく。
今しかない!
俺は勇気をふりしぼって声をだした。
「俺、記念に写真を撮りたい。
 本山、とってくれない?」
ちょっと声が震えていたのは流してほしい。
にやりと笑った本山が差し出した手に俺はスマホを渡す。
天使のようにかわいい恰好をした陣さんと俺とのクラシックカーを前にした奇跡のツーショット。気の利く本山が何回もシャッターボタンを連打してくれた。
カーー!!お宝ゲット!これはもう、家宝だな!
まさに感無量!
俺が一人でじーんと感動していると杉山さんが、
「よかったら三人でどうですか。私がとりますよ?」
と、粋な提案をしてくれた。
俺たち3人は満面の笑顔でクラシックカーとともに写真に納まった。
通行人の視線がすごく気になったけど、俺は心を強く持ったぞ!
「後で、シェアするね。」
俺の言葉に本山と陣さんが笑顔でうなずく。
杉山さんは助手席のドアの前に立つと、まずは陣さんの為に車のドアを開けた。
レディファースト。流石である。杉山さんの真っ白な手袋が目に眩しい。
陣さんが慣れた様子で車に乗り込んだ。
俺は思わず、自分のスニーカーの裏を確認する。
うん。汚れてない。大丈夫だ。
そんな様子を杉山さんにも見られていて…ちょっと恥ずかしい。
杉山さんが笑顔で気さくに声をかけてくれた。
「さあ、どうぞ。」
俺たちのために開かれたドアから本山、俺の順番に後部座席へと意気揚々と乗り込んだ。
胸の高鳴るときめきがとまらない。
俺たちはクラシックカーに興味津々だ。まじまじと車内を見渡す。内装は独自にカスタマイズされているようだった。座席はとてもふかふかだ。
「かっけーー!」
隣で本山が興奮気味に叫んだ。
うん。俺も体中で赤い血潮が沸騰しているぞ!
クラシックカーが勢いよく動き出し、車内から眺める見慣れた町は特別なものに変わった。
車の知識が豊富な杉山さんに、俺と本山は競うようにして質問を投げかけていく。
時たま、陣さんのかすれたハスキーな笑い声が車内に響く。
カーッ!
超楽しい!
あっという間に貴重なクラシックカーでのドライブは終わってしまい、車は大邸宅の門の前についた。
杉山さんと守衛さんとのインターフォンごしの通話の後に重厚な門が開く。名残惜しいけれどもそろそろ車を降りるのかなと思いきや…。
車はその後、全く減速することなく、どんどんと進んでいく。
え?なんで止まらないのかな?
不思議に思って外に目をやる。
そこにはメインの道を真ん中にしてシンメトリーのヨーロッパ式庭園が悠々と広がっていた。
きちんと剪定された美しい造形の庭木。咲き乱れるたくさんの花々。
うん?夢かな?
あれ?ここは植物園かな?
俺は一瞬、杉山さんが行先を間違えたのかと思った…。
ここ…街中だよね!?
マジか…。山田家…半端ねー!!
俺と山本は互いに一瞬顔を見合わせた。
そして俺たちは無言のまま左右それぞれの窓に張り付いて、広大な庭の様子を凝視する。
まるで小学生みたいだけど…。
そうなっちゃうよね?
すごすぎる…。
敷地内をゆっくりと10分ほど車はすすんだのだろうか。彫刻の施されている大きな噴水を迂回した先に、レトロな洋館が現れた。
広大な敷地の割に建物はコンパクトに見える。
十分大きいんだけども。
もう、感覚がちょっとおかしくなってきている。
洋館は赤茶のレンガで建てられて、とってもオシャレな感じだ。
明治時代の建物様式にこんな感じのがあったような気がするな…。正しいかは、分からないけれど…。
玄関口で車はようやく止まった。
「お疲れ様でした」と、杉山さんが振り返って爽やかに言った。
「ドアを開けますので車内でお待ちください。」
「恐縮です」と、俺と本山は答えた。
まずは、陣さんが先に車を降りて、俺たちは後に続く。
玄関先には燕尾服を着た一人の初老の紳士がにこやかな表情でたたずんでいる。
もしや…この方は…執事なのだろうか…。
憧れのセバスチャン!!
杉山さんが俺たちに初老の紳士を紹介した。
「こちらはバトラーの川上竜之介さんです。
 これから先は川上さんが皆さんをご案内致します。
 では、川上さん私は車を戻してきますね。」
「はい。杉山さん、ご苦労様でした。
 皆様、ようこそおこしくださいました。
 バトラーの川上でございます。
 さっそく皆様をご案内いたしますね。こちらへどうぞ。」
去り行く杉山さんに俺たちは会釈した。
そして、川上さんに促されながらお屋敷の玄関に足を踏み入れる。
本山が陣さんにこっそりと手土産の虎印の紙袋を渡している。
「これは陣から、銀子に渡してくれる?」
「うん。わかった。」
本山よ!さりげない気配りのできる男だな。
憎らしいぞ!
ちょっと面白くなかったけれど、エントランスホールを目にした瞬間にその感情は吹き飛んだ。
まず、目に入ってくるのは燦然と輝く天井中央からつるされた巨大なシャンデリアだ。
俺は二回、ゆっくりと瞬きをした。
シャンデリアの先の高くて広い天井には、巨大な絵が描かれている。
天使がたくさん飛んでいるよ?
あれ?
ここはヨーロッパなんだっけ?
俺と山本は呆然と顔を見合わせた。


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