オレの体の部位たちがオレに「ダメ出し」してきた件

咲良きま

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第34話

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銀子のお宅へ訪問する日がついにやってきた。
事前に銀子に聞いたところによるとテーブルマナーは気にせず楽しく食事をしてほしいと言われた。ちなみに、ランチはフレンチらしい。好きな食材を聞かれたけれど、答えられるわけもなく…。おまかせでお願いしてみた。
現在am10時。駅のコンコースで本山と陣さんと3人で待ち合わせをしている。
陣さんにも事前に手土産の相談をした。快く買い出しを引き受けてくれた。ありがたい。
準備は万全だと思う。たぶん…。
よくよく考えたら友人のお宅へ遊びに行くこと自体が初めての体験だ。ドキドキ、わくわくする。しかも銀子だしな。どんな大邸宅に住んでいるのやら…。
約束は10時半なのだが、俺は待ち合わせ場所に30分も早くついてしまった。
俺もたいがいうかれているよな…。ちょっと恥ずかしい。
待ち合わせまで何をして時間をつぶそうかと考えていたら、本山がすでにコンコースにいるのが目に入る。
おまえが浮かれないわけがないよな。張り切る俺たち…青いな。
本山の私服を俺は離れたところからじっくりと観察した。赤のキャップをかぶって、白のTシャツにジーパンを合わせている。靴はなんだかおしゃれなスニーカを吐いている。腕には目に鮮やかなレモンイエローの時計をはめている。キャップの赤とジーパンの水色と腕時計の黄色が鮮やかで目をひく。刺激的な感じだ。
信号機かよ…とか思っちゃったのはひがみでしかない。
悔しいけど、普段よりもよりいっそう、めちゃくちゃイケている。
ジャージ姿ですらかっこよく見えてしまうからな…。そりゃ、そうだよな。
やつは、イケメンオーラ全開で、行きかう人達の視線を独占していた。
よかった。スーツ姿で髪型が固めた七三だったらどうしようかと思っていた。
それは、それで思い出深いのか?
いやいや…。そんなサラリーマン姿の隣に俺は立ちたくないぞ!
想像して俺は首を横にブルブル振った。
「おはよう!」
俺が近寄って声をかけると、スマホを見ていた本山が顔を上げた。
「うっす!」
「待ち合わせの30分前にすでにいるおまえは…一体何時に来たんだ?」
「いや…。そわそわしすぎて…家にいても落ち着かなくてさ。9時にはここに着いていた…。」
照れくさそうに顔を背ける本山が、なんだかかわいいぞ…。
「バカなの?」
おっと。思わず本音が出てしまった。
「うっせーな!おまえだって、30分も早く来てるじゃん。」
ちらりと腕の時計を見て本山が言った。
そして、俺に軽くけりをかまそうとする。
「へへへ。」
俺はそれをさっとよけながら…よけきれずに笑った。
「陣さん、はやく来ないかなー。」
おっと、心の声が口に出てしまった。
思わず口を両手で抑えると、本山があきれた顔をした。
陣さんの私服姿…。どんな感じかな…。ドキドキする。
「おーい。ユキピロ…。戻ってこーい!」
俺の顔の前で本山が大きな手をひらひらさせている。
いかん。
俺は意識を本山にあわてて戻して言う。
「テーブルマナーは別に気にしなくていいって銀子が言っていたけどさ。
 どうせ本山のことだから、昨夜は徹底的に予習してきたんだろう?」
「当たり前じゃん。好きな子の前で恥をかきたくないもんな。」
「だな。俺も昨夜は寝る寸前まで動画で予習してきた。」
「この後、全員が集合したら、銀子の家のおかかえ運転手に銀子のうちまで、送ってもらう流れであってる?」
「うん。あってる!きっとロールスロイスだよ。」
「マジか。すごい。俺、ロールスロイスに乗るの初めてだ!ヤバい。テンションあがってしょうがないな!」
「だよな!しかもクラシックカーだからなー。ロマンだよなー。」
二人で盛り上がって話をしていると30分なんてあっという間だった。
時間どおりに陣さんは現れた。
「ごめん。待たせちゃったかな?」
陣さんのちょっとハスキーな声に振り向いてその姿を見た瞬間、俺は固まった。
ふりふりの白いワンピース姿。
斜めにかけた黒のショルダーバッグはエナメル質でテカテカしている。靴も同じ質感でテカテカ。
おぉぉぉーーーー!!かわいい!!
ふわふわしている。
綿菓子みたい!!
俺の語彙力…が、がんばれ…。
「手土産ありがとう。持つよー。」
俺がほうけている間に、本山がさらっとイケメンぶりを発揮する。
…ちょっと悔しい。
「ありがとう。」
陣さんが渡したのはトラのロゴが印刷された紙袋だった。
「羊羹なんだっけ?」
俺が聞くと、陣さんはニコっと笑いかけてくれた。
あぁぁぁーーーーーー!!
ズッキューン!!!
かわゆす!!!
「そう。銀子は意外と和菓子が好きで、このトラ印の羊羹に目がないって前に話していたから。」
「そっかー。買い出しありがとう。助かったよー。」
「ううん。全然大丈夫だよ。」
くぅ。
どこから、どう見てもかわいい。
俺は顔中が溶けそうなくらいデレデレしている自信がある。
これはまずい。
もっとキリッとしなくちゃ…。
「女子とこんなに会話できるなんて…。ユキピロ…成長したね…。」
ぱっと瞳が現れて、ウソ泣きをハンカチでぬぐうふりをする。
やめれ。
俺の至福の時間の邪魔をするな…。
この瞬間を永遠に心に刻むのだ。
「お!あれじゃない?」
本山が指で示す方向に以前目にしたロールスロイスのクラシックカーが止まっていた。
「おーーーー!」
俺たちは思わず、歓声を上げた。
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