オレの体の部位たちがオレに「ダメ出し」してきた件

咲良きま

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第30話

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彼を初めてみたのは、散歩中の犬に吠えられて、吠え返しているところだった。
飼い主のおばさんがびびって、犬を抱きしめている。
彼は気が済むまで大声で吠え返すと、何事もなかったようにその場を去った。
次に見た時、彼は信号まちの途中で突然アニメソングを爆音で歌いだした。その後、はっとまわりを見渡し、口パクになった。通学時間のため、大勢の学生がいた中、彼も流石にまずいと思ったようだった。しばらくうつむいたままだったので、恥ずかしのかなと思って見ていたら、彼はその後もずっと口パクで一人わずかに音楽にのりつつ体をゆらして歌っていた。なかなかのツワモノである。
学年でも「トップ・オブ・ザ 変人」として不動の地位を築いている彼の名は、佐藤湊。名前はしごく平凡だ。
そんな交わることのない俺たちが…出会ってしまった。出会ってしまったのだ!
きっかけは委員会である。初めての委員会に出席した時、俺の隣の席に座った佐藤を目撃した瞬間、俺は安易に図書委員を選んでしまったことを激しく後悔した。そして不運にもその瞬間に彼と目が合ってしまう。固まった俺に、佐藤はへらっとした笑顔をむけてからんできた。
「隣のクラスのやつだよな。名前、何て言うの?俺、佐藤。よろしくな。」
変人のくせに意外と高いコミュ力に呆然としつつ、俺は返事をした。
「俺は山根。よろしく。」
それからはヤツのペースだった。ことあるごとに話しかけられて…。つられて返事をしているうちに…なぜか友達ポジションにおさまっていた。
マジか…。友達って勝手に出来るときもあるんだな…。
最初は佐藤に対して恐る恐る接していたが、以前目撃したような変人めいた言動も特になく、俺の心も落ち着いたころ、会話アプリのID交換をすませた。俺ははにわのスタンプを送れる相手が一人増えたことを純粋に喜んだ。
そうして、何回目かの佐藤と二人で行う図書室でのカウンター当番の日がやってきた。
その日は特に利用する人もいなくて、俺たちは暇をもてあましていた。すると、貸出カウンターで隣に座っていた佐藤が落とした声で慎重に話しかけてきた。
「山根。実はさ…。俺さ…。人の発するオーラとか霊的なやつが見えちゃう体質なんだ。」
「マジで…?ええ?本当に?」
「ああ、小さいころから色々見えてて…。人に理解されないだろ。めちゃくちゃ苦労したんだよね。」
「へー。大変だったんだね。」

その気持ち…。すごい分かる。俺も瞳や左足や右足達のこと、誰にも打ち明けられないから…。
佐藤も特殊体質なんだな…。

「それでさ、お前の肩にも何かのっているのがみえるんだ…。」
俺の肩には瞳がのってるんだが…。マジか、俺だけの幻覚かと思っていたんだが…。
佐藤!すごいぞ!おまえにも見えるんだな!
「マジで、見えてる?すごい。こいつ瞳って言うんだ!」
普段は口下手な俺だが、その瞬間、同志を見つけたことに目がくらみ、矢継ぎ早にこれまでの経緯を打ち明けた。
「…で、今ではさ、風呂に入ると左足のやつが…名前はシオンっていんだけど…うるさくてさ。左足だけ毛をそるはめになっちゃって…。
 見てくれよ、俺の足。」
俺はズボンのすそをたぐって山根に足をさらす。左足は毛の処理がなされた状態でつるつるなのに対し、右足は何の処理もしていないので、毛並みがわかるほどふさふさだ。
「どうせなら右足も剃って目立たないようにしたいんだけど、右足のやつが剃るのを許してくれなくてこんな状態なんだ。俺、体育の授業で足のすねをさらすたびにひやひやするんだよ。誰かに見つかったらなんて言い訳すればいいかわからないじゃん。これだけは本当に悩みの種だよ。…困ってるんだー。」
俺の息継ぎなしで話す怒涛の勢いに耐えかねたのか…佐藤が引き気味な態勢になって、若干ひきつった笑みを浮かべている。
「へー…。色々大変なんだね。」
「なぁ、佐藤から見て瞳ってどんな姿なんだ?」
俺はわくわくと聞いた。目を泳がせる佐藤。なんだか様子が変だ。
「いや…。俺が見えるのはオーラだからさ。なんつーか…。こう黄色い感じなもやもやが見えるっていうか。」
「へー。そうなんだ。瞳ってさ、けっこう素早く動くから目で追うの大変じゃない?今も佐藤の右肩にのってるし。」
「ひぃ…。あ、そうなんだ。俺の肩にのっているんだ…。」
「佐藤、どうしたの?なんか、顔色が悪くなっていない?」
「いや…。流石の俺も…。ちょっと現実が見えたというか…。」
「ええ?何を言っているの?体調が悪いんじゃない?」
「ああ…。うん。ちょっとまだ時間になっていないけど、帰ってもいいかな。」
「うん。体調が悪い時は無理をしないほうがいいよ。あれ?冷や汗かいてる?
 マジで大丈夫?一人で帰れる?」
「あ…。はい。大丈夫です。お構いなく。本当。大丈夫だから…。
 じゃ、悪いけどお先に…。」
「うん。気を付けて帰ってねー。また、色々と話したいな。」
「え…。うん。そうだね。じゃー。」
途中から佐藤の様子が変だったけれど、その原因は体調不良だと俺は思っていた。
その後、なぜか図書委員でカウンター当番のペアに佐藤と組むこともなくなり、俺は不思議に思っていた。
そうなると、話す機会も俄然へるわけで…。せっかく見つけた同志と疎遠になるのはすごく嫌だ。そんなの、絶対にもったいない。
ここは、俺からアクションをおこすべきだよな。
俺は意欲に燃えていた。

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