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第18話
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校則がないのは、生徒の自主性を重んじての建前で、「自由」って言っても常識の範囲内でやらないといけないと言うのが教師の言い分なんだろう。
明文化されていないのに守らないといけない暗黙のルールの存在。社会にでれば俺たちはもっとこの矛盾にぶち当たることになるんだろ。
唯々諾々と受け入れる俺みたいな人間と彼女のように抗う人間。どちらが自分らしく人間らしいといえるのだろうか。彼女の抵抗はとても純粋で強烈で魅力的にみえる。
そんなわけで俺、仕方なく一人でドイツ文学研究部の部室に向かっているところ。
「一人でやれるのかな?心配だ。」
いつになく、しおらしい声で瞳が話しかけてきた。
なんだよ。気持ち悪いな。
「いや、ゆきぴろ。はりきるのはいいんだけど、本当に心配しているんだ。
悪いこと言わないから、後日改めますって言えばいいじゃない。」
でもなぁ、俺いつになくなんかやれる気がするんだ。
まぁ、部室に入って様子をみてからでもいいじゃん。こりゃだめだって思ったら、出直せばいいんだし。
「どうしたの?熱でもあるんじゃない?」
おおげさだなぁ。
「なんか、変だよ。
本当に、熱でもあるんじゃない?」
そうこうしているうちに、指定された教室についた。俺はためらうことなく、教室のドアをがらっと開けた。
教室内には4人の男子学生がいた。教壇の前あたりに各々好きなようにばらばらに座っている。突然現れた闖入者を気にすることなくみな静かに、手元のプリントに目を通している。
ど…、どうしよう。なんかめちゃくちゃ話しかけづらい雰囲気なんだけど。
俺が、もじもじしつつも、
「こんにちは」
と声をかけると、その時になって初めて人が入ってきたのに気づいた様子。
一番手前に座っていた一人の男子学生がきさくに話しかけてきた。
「あ、新聞部の人?」
「はい。1年の山根です。
今日は宜しくお願いします。」
「こちらこそ、宜しく。僕は2年の佐々木。あっちの黒ぶち眼鏡が花山で、牛乳瓶の底みたいな眼鏡のやつが、木村。で、こっちのピンクの眼鏡が河野。」
すごい、オール眼鏡だ。しかも、なんか個性的なのばっかり。佐々木さんの眼鏡が一番変だ。だって、眼鏡の耳にかける部分が普通の眼鏡の半分しかない。こめかみで固定するタイプ。気のせいか佐々木さんのこめかみのあたり赤くなっているっぽい。
痛くないのか?いや、痛いよな?あれ、絶対に痛い。
きっとなんか変なポリシーがあるんだ。銀子みたいに。あいつも何かといちいちこだわっているからな。
どうしてその眼鏡をチョイスしたのか聞きたい。でも、取材と全然関係ないし。うーーん。もやもやする。
いやいや、そんなことどうでもいいじゃないか。気をとられている場合じゃないぞ俺!取材第一。集中、集中。
あんまり眼鏡ばっかりじろじろ見るのも変だし、俺はとりあえず佐々木さんの鼻だけを必至に凝視することにした。視線のやり場に困ったら相手の鼻を見ればいいというのは、取材に行くにあたっての、銀子のアドバイス。
ちゃんと、役立てているぞ、銀子!
どうやら、俺は自然にふるまえているらしい。
佐々木さんは普通に話しを続けていく。
「本当は部員はもっといるんだけど、活動しているのはほぼここにいる4人かな。
うちの高校、部活動必須だから、席だけおくのが目的の人が多いんだ。まあ、そういう人も学祭の時なんかは率先して色々やってくれるから、いいんだけどね。
あ、こんなことは新聞に載せないでね。」
「あ、はい。分りました。」
「じゃ、とりあえず好きなところに座って。活動を見てもらうのが一番だと思うから。
四人でローテーションで好きな題材を持ってくるって形をとっているんだ。
今日は、木村だな。」
牛乳瓶の底みたいな眼鏡の木村さんが立ちあがって、無言で俺におしつけるようにプリントを手渡した。
こいつもコミュ障とみた。親近感。
俺は、そのプリントを何気なく見てぎょっとした。ドイツ語なのだ。
あ、後ろの方に汚い手書きで対訳がついている。えんぴつで新聞部の人用って書いてある。
…へえ。ってことは皆、ドイツ語を原文のみで読んでいるってこと…なんですね。すごい。
それから、試練の時が始まった。
十数枚のプリントを小一時間かけて読むと、そこからこの詩の意図、問いかけなどについて四人それぞれが激論を繰り出した。
俺、ドイツ語がそもそも理解できないから、なんの話で盛り上がっているのか謎。
っていうか、ドイツ語が話せても彼らの話を理解できる気がしない。ベースになる知識がないのに、いきなりこの議論を聞いてもなぁ。無理だろう。
その後、どんどん白熱する議論に俺はたじたじ。頭が白くなった。
最後の方は、放心状態のあまり、俺、ちゃんとした記憶がない。
かなり、刺激が強すぎたようだ。
その夜、眼鏡戦隊4レンジャーとなったやつらが、俺の夢に勝手にでてきて、ドイツ語攻撃をしかけてきた。まさに、悪夢。
次の日目覚めると熱が出ていた。うん。知恵熱だね。
こうして俺は初めて高校を休むことになったのだった。ちーん。
明文化されていないのに守らないといけない暗黙のルールの存在。社会にでれば俺たちはもっとこの矛盾にぶち当たることになるんだろ。
唯々諾々と受け入れる俺みたいな人間と彼女のように抗う人間。どちらが自分らしく人間らしいといえるのだろうか。彼女の抵抗はとても純粋で強烈で魅力的にみえる。
そんなわけで俺、仕方なく一人でドイツ文学研究部の部室に向かっているところ。
「一人でやれるのかな?心配だ。」
いつになく、しおらしい声で瞳が話しかけてきた。
なんだよ。気持ち悪いな。
「いや、ゆきぴろ。はりきるのはいいんだけど、本当に心配しているんだ。
悪いこと言わないから、後日改めますって言えばいいじゃない。」
でもなぁ、俺いつになくなんかやれる気がするんだ。
まぁ、部室に入って様子をみてからでもいいじゃん。こりゃだめだって思ったら、出直せばいいんだし。
「どうしたの?熱でもあるんじゃない?」
おおげさだなぁ。
「なんか、変だよ。
本当に、熱でもあるんじゃない?」
そうこうしているうちに、指定された教室についた。俺はためらうことなく、教室のドアをがらっと開けた。
教室内には4人の男子学生がいた。教壇の前あたりに各々好きなようにばらばらに座っている。突然現れた闖入者を気にすることなくみな静かに、手元のプリントに目を通している。
ど…、どうしよう。なんかめちゃくちゃ話しかけづらい雰囲気なんだけど。
俺が、もじもじしつつも、
「こんにちは」
と声をかけると、その時になって初めて人が入ってきたのに気づいた様子。
一番手前に座っていた一人の男子学生がきさくに話しかけてきた。
「あ、新聞部の人?」
「はい。1年の山根です。
今日は宜しくお願いします。」
「こちらこそ、宜しく。僕は2年の佐々木。あっちの黒ぶち眼鏡が花山で、牛乳瓶の底みたいな眼鏡のやつが、木村。で、こっちのピンクの眼鏡が河野。」
すごい、オール眼鏡だ。しかも、なんか個性的なのばっかり。佐々木さんの眼鏡が一番変だ。だって、眼鏡の耳にかける部分が普通の眼鏡の半分しかない。こめかみで固定するタイプ。気のせいか佐々木さんのこめかみのあたり赤くなっているっぽい。
痛くないのか?いや、痛いよな?あれ、絶対に痛い。
きっとなんか変なポリシーがあるんだ。銀子みたいに。あいつも何かといちいちこだわっているからな。
どうしてその眼鏡をチョイスしたのか聞きたい。でも、取材と全然関係ないし。うーーん。もやもやする。
いやいや、そんなことどうでもいいじゃないか。気をとられている場合じゃないぞ俺!取材第一。集中、集中。
あんまり眼鏡ばっかりじろじろ見るのも変だし、俺はとりあえず佐々木さんの鼻だけを必至に凝視することにした。視線のやり場に困ったら相手の鼻を見ればいいというのは、取材に行くにあたっての、銀子のアドバイス。
ちゃんと、役立てているぞ、銀子!
どうやら、俺は自然にふるまえているらしい。
佐々木さんは普通に話しを続けていく。
「本当は部員はもっといるんだけど、活動しているのはほぼここにいる4人かな。
うちの高校、部活動必須だから、席だけおくのが目的の人が多いんだ。まあ、そういう人も学祭の時なんかは率先して色々やってくれるから、いいんだけどね。
あ、こんなことは新聞に載せないでね。」
「あ、はい。分りました。」
「じゃ、とりあえず好きなところに座って。活動を見てもらうのが一番だと思うから。
四人でローテーションで好きな題材を持ってくるって形をとっているんだ。
今日は、木村だな。」
牛乳瓶の底みたいな眼鏡の木村さんが立ちあがって、無言で俺におしつけるようにプリントを手渡した。
こいつもコミュ障とみた。親近感。
俺は、そのプリントを何気なく見てぎょっとした。ドイツ語なのだ。
あ、後ろの方に汚い手書きで対訳がついている。えんぴつで新聞部の人用って書いてある。
…へえ。ってことは皆、ドイツ語を原文のみで読んでいるってこと…なんですね。すごい。
それから、試練の時が始まった。
十数枚のプリントを小一時間かけて読むと、そこからこの詩の意図、問いかけなどについて四人それぞれが激論を繰り出した。
俺、ドイツ語がそもそも理解できないから、なんの話で盛り上がっているのか謎。
っていうか、ドイツ語が話せても彼らの話を理解できる気がしない。ベースになる知識がないのに、いきなりこの議論を聞いてもなぁ。無理だろう。
その後、どんどん白熱する議論に俺はたじたじ。頭が白くなった。
最後の方は、放心状態のあまり、俺、ちゃんとした記憶がない。
かなり、刺激が強すぎたようだ。
その夜、眼鏡戦隊4レンジャーとなったやつらが、俺の夢に勝手にでてきて、ドイツ語攻撃をしかけてきた。まさに、悪夢。
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こうして俺は初めて高校を休むことになったのだった。ちーん。
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