オレの体の部位たちがオレに「ダメ出し」してきた件

咲良きま

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第16話

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ゲリラ豪雨もあたりまえになってきて、日本列島が熱帯雨林化しているのをひしひしと感じる梅雨も明け、季節は初夏を迎えようとしていた。
今日も朝から蒸し暑い。
熱いだけでも気がめいるのに蝉のうるさい鳴き声がさらに癇に障る。
少しの涼を求めて、皆、下敷きでぱたぱたとあおいでいる教室はちょっと異様な感じがする。
今日もいつものように一日が終わろうとしていた。
銀子は、せっせと俺に趣味をおすすめしてくる。アニメやドラマや演劇、クラシックとジャンルは幅広い。
(BLはさすがにご勘弁願った)
「価値観を共有する為には労力を惜しまないわよ。」
と言って、いそいそとプレゼンするのだ。俺は大した感想も言えないのに。何をどう見込まれたものか…。
いや、まてよ。俺の中に銀子の趣味を受け入れる要素があるっていうのを見越しての行動だよな?
うーーん。
だがおかげで、俺の小さな世界は確かに広がったような気がする。
玉塚歌劇や歌舞伎の世界を理解するのはちょっと、俺には厳しかった。
なぜって?あれは、睡眠導入剤の役割を果たすのだ。寝付けない時にお勧め。すぐに寝られる。効果は絶大。あくまで、俺の場合の話だ。
ところで、アジア系のカルチャーが熱い。全く興味なかったが意外といける。
俺、最近世界的に有名な韓流の某アイドルグループにはまっている。おおっぴらには言えないけど。だって、男子高校生が男のアイドルが好きだなんて、おおっぴらには言えないじゃん?人間、どんな時でも客観性を持っていなくちゃいけないからな。だから、俺は好きなことは誰にも言っていない。
彼らダンスも、曲もいい。のれるんだ。特に、グループのリーダーが最高。男の俺から見てもかっこいい。
最新曲のPVなんて見始めたらエンドレスだ。めちゃくちゃ、熱い!最高だぜ?
こないだ初めて美容室デビューをして、髪型を韓流に寄せてみた。アシンメトリーの髪型なんだ。自分的にはちょっとした高校デビューのつもりだったのだけど、誰も気づいてくれなかった…。地味に悲しい。
使ったことなかったワックスも手に入れて毎日朝からちょちょっとスタイリングをしている。できあがりは、悪くないはずだ。ちょっとだけアイドルスターに近づけたようで嬉しい。卒業したらカラーにも挑戦してみたい。
って、コレ銀子の洗脳か?
あれ?
銀子の布教活動、もとい啓蒙活動(?)も、功を奏しているようだ。
また、中華ドラマにもはまっている。華流というらしい。
漫画的な超人がでてくるのが面白い。
俺的に心くすぐられるのが以下の中華時代劇あるあるだ。
・血を吐く(色んなパターンの吐き方がある)
・空を飛ぶ(なんちゃってで飛ぶ場合と剣に乗ってガッツリ飛ぶパターンがある)
・薬が魔法のように効果覿面(針治療も効果覿面/現代医学を超えるレベル)
・体のツボをつけば人間の動きがとまる
 (逆につぼをつけば動けるようになる)
・崖から落ちても死なない(ただし主要キャラに限る)
・主人公がドアマット(踏みつけに)にされる
 (恋の相手役〔ヒロインorヒロー〕もドアマットにされる)

つっこみどころ満載だが妙に癖になる。
1話45分のドラマがだいたい60話、70話もある。時間泥棒だな。
中華の3Dアニメのクオリティもやばい。
某FFゲームのような映像美。
アジアカルチャー熱気がたまらなく面白いと思う。
大学に進学したらアジア系の言語の講義をとるものいいかもしれないな。
銀子にはオスマン帝国を題材にしたドラマも勧められているのだが…はまるのがこわい。
夢中になるものが増えたおかげで勉強がおろそかになってきているのが今後の課題だ。


いまさらだとは思ったが、本山と銀子の接点について、こないだ銀子に聞いてみた。
「ああ?本山君?
 うっふっふ。
 ね、ゆきぴろって、ギャップ好き?」
「ギャップ?」
「そうそう、ギャップ!」
「よく、分らないな。」
「分からないの?
 私、ギャップに弱くってさ。
 本山君がただのイケ面じゃないことを知って、興味が湧いちゃったの!
 再び『友達になってね攻撃』を発動しちゃったんだ♪」
なんて、無謀なことを…。
俺は、銀子が本山にひどいことを言われていないか心配になった。
だって、ああいう外見のいい奴は、外見がよくないやつや、ちょっと普通じゃないやつのことを、たいていよく知りもせずにばかにするだろう? 俺が卑屈なだけか?でも、俺の経験上はそうなんだ。
「大丈夫だった?」
俺が聞くと、銀子はきょとんと言った。
「大丈夫って、何が?」
「…。いや。」
「変なゆきぴろ。
 でさ、ギャップってなんだと思う?
 彼ね、実は寺の息子なのよ!」
「へえ。それのどこがギャップなの?」
「え?だって、面白いと思わない?いまどきの男子と伝統的な寺の組み合わせが!」
「よく分らないけど、萌と関係があるの?」
「そう、それ、萌~なの!」(恍惚)
銀子は、どんな時も、どこまでも銀子なのだと、俺はある意味感心させられる。
俺は、本山が銀子のことを傷つけなかったようなのでちょっと安心した。
話はそれで終わったものだと思ったが、本山に関する話はなおも続いた。興味のあることを夢中で話す銀子はどんな時よりも生き生きとしている。
「でね、本山君のお家って、もちろん寺だから庭にお墓がたくさんあるんだって。」
「へえ。」
「それでね、本山君が小学校の高学年だったある日の草木も眠る丑三つ時にね、庭からカーン、カーンって音が聞こえてきて目が覚めてしまったんだって。」
え!ちょっと、いきなり話の流れが怪談になっていないか?
俺、めっちゃくちゃびびりだから正直困るんだけどなぁ。コレ聞いて今日、家に帰ってトイレ行けなくなったらどうすんだよ。
いや、それよりも風呂だな。風呂の方が困る。
だって、シャンプーしている時に、後ろに何かいるかもしれないとか考えると、めっちゃめちゃ怖いじゃないか。
でも、怖いと思っていても聞きたくなるのが人間心理の不思議さだよな。
俺は、話の展開をちょっと期待しながら銀子に尋ねた。
「丑三つ時って正確には何時なのかな?」
「ええとね。午前2時から2時半だよ。」
「流石、秀才。
 さっと答えが出てくるなんてすごいね。」
「エッヘン。まかせて。
 それでね、本山君はその音がどうしても気になって庭にそっと一人で出てみたんだって。」
「へぇ。勇気あるなぁ。
 俺だったら布団かぶって気付かないふりして寝る。」
「ウフフ。ゆきぴろらしい。
 そしたらね、なんと庭の真ん中にある一本の木の所に白装束を着た女の人がいたんだって!」
「え…。それってもしかして…?」
「そう、額にろうそく二本さしてたって。
 呪いの儀式だよね。あの、藁人形に釘をさすって言う。」
「げぇ。それ、幽霊じゃないじゃん、人間じゃん。
 こえーー。むしろ、幽霊より怖い。
 ってか、普通にそれ不法侵入だよね?
 通報したのかな?」
「本山君、気付かれないようにそのまま布団に戻って寝たって言ってたよ。」
「わぁ。それも変。普通、親を起こすとかしないか?
 豪胆って言えば、豪胆なのかも知れないけど…。」
「そうねぇ。寝ぼけているんだと思ったんだって。確かに、リアルじゃないかも。
 本山君には言わなかったんだけど、あの儀式って呪っているところを誰かに見られたら、いけないんだよね。
 確か、見られた相手を殺さなくちゃいけないって聞いたことがある。」
「…。壮絶。」
「だよね~。
 本山君、その女の人に見つからなくってよかったよねぇ。」
「見つかった時のセリフって決まっているよね。」
二人同時に声が重なった。
「み~た~な~。」
ふふふと、笑い合って、俺は言った。
「いくらなんでも、子供相手に…殺すなんて、そこまでするかなぁ。」
「するでしょ。
 だってまともな神経していたら、そもそもそんなことを夜中にやらないって。
 本山君、次の日にその木を見に行ったら、幹に釘でさした穴がちゃんとあったって言っていたわよ。」
「げーー。
 寝ぼけていたんじゃないってことかぁ。びびっただろうなぁ。」
「ね~。今でもしっかりと残っているんだって。」
「まさか、今でもその女の人、定期的に通っていたりしないよな。
 釘で刺した穴が増えていたりして…。」
「まさか。…定期的って、いくらなんでもないと思うけどね。
 嫌なリピーターよ、それ。
 あ、でも今度聞いとこう。
 でも、呪いなんて、よくやるわよね。
 『人を呪わば穴二つ』って言うのにねぇ。」
「それ慣用句だっけ?『人を呪わば穴二つ』。
 呪った人も呪われた人も殺されるって意味だよね。
 本当にそうなのかな。」
「そうね。慣用句になるぐらいだものね。
  戒めの為に言われているのかもしれないけど。
 そう言われてみれば、気になるわ。
 うん、どうなのかしら。
 そもそも呪いって世界中であるわよね、古今東西。
 …気になるじゃない。」
銀子がまた変なことに夢中になりそうな予感がする。
ああ、銀子の奴、明後日の方向見て何やらめちゃくちゃ考えているぞ。
やっぱり、俺は巻き込まれることになるんだろうな。むむむ。
どうせなら本山に、寺でクリスマスはどうするのかを聞いてもらいたい。
本山が子供の頃、家にサンタは来たのだろうか?煙突はもちろんないだろうしなぁ。墓石をまたいでやって来るっていうサンタはちょっと面白いかも。ホラーサンタ!
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