オレの体の部位たちがオレに「ダメ出し」してきた件

咲良きま

文字の大きさ
上 下
16 / 48

第16話

しおりを挟む
ゲリラ豪雨もあたりまえになってきて、日本列島が熱帯雨林化しているのをひしひしと感じる梅雨も明け、季節は初夏を迎えようとしていた。
今日も朝から蒸し暑い。
熱いだけでも気がめいるのに蝉のうるさい鳴き声がさらに癇に障る。
少しの涼を求めて、皆、下敷きでぱたぱたとあおいでいる教室はちょっと異様な感じがする。
今日もいつものように一日が終わろうとしていた。
銀子は、せっせと俺に趣味をおすすめしてくる。アニメやドラマや演劇、クラシックとジャンルは幅広い。
(BLはさすがにご勘弁願った)
「価値観を共有する為には労力を惜しまないわよ。」
と言って、いそいそとプレゼンするのだ。俺は大した感想も言えないのに。何をどう見込まれたものか…。
いや、まてよ。俺の中に銀子の趣味を受け入れる要素があるっていうのを見越しての行動だよな?
うーーん。
だがおかげで、俺の小さな世界は確かに広がったような気がする。
玉塚歌劇や歌舞伎の世界を理解するのはちょっと、俺には厳しかった。
なぜって?あれは、睡眠導入剤の役割を果たすのだ。寝付けない時にお勧め。すぐに寝られる。効果は絶大。あくまで、俺の場合の話だ。
ところで、アジア系のカルチャーが熱い。全く興味なかったが意外といける。
俺、最近世界的に有名な韓流の某アイドルグループにはまっている。おおっぴらには言えないけど。だって、男子高校生が男のアイドルが好きだなんて、おおっぴらには言えないじゃん?人間、どんな時でも客観性を持っていなくちゃいけないからな。だから、俺は好きなことは誰にも言っていない。
彼らダンスも、曲もいい。のれるんだ。特に、グループのリーダーが最高。男の俺から見てもかっこいい。
最新曲のPVなんて見始めたらエンドレスだ。めちゃくちゃ、熱い!最高だぜ?
こないだ初めて美容室デビューをして、髪型を韓流に寄せてみた。アシンメトリーの髪型なんだ。自分的にはちょっとした高校デビューのつもりだったのだけど、誰も気づいてくれなかった…。地味に悲しい。
使ったことなかったワックスも手に入れて毎日朝からちょちょっとスタイリングをしている。できあがりは、悪くないはずだ。ちょっとだけアイドルスターに近づけたようで嬉しい。卒業したらカラーにも挑戦してみたい。
って、コレ銀子の洗脳か?
あれ?
銀子の布教活動、もとい啓蒙活動(?)も、功を奏しているようだ。
また、中華ドラマにもはまっている。華流というらしい。
漫画的な超人がでてくるのが面白い。
俺的に心くすぐられるのが以下の中華時代劇あるあるだ。
・血を吐く(色んなパターンの吐き方がある)
・空を飛ぶ(なんちゃってで飛ぶ場合と剣に乗ってガッツリ飛ぶパターンがある)
・薬が魔法のように効果覿面(針治療も効果覿面/現代医学を超えるレベル)
・体のツボをつけば人間の動きがとまる
 (逆につぼをつけば動けるようになる)
・崖から落ちても死なない(ただし主要キャラに限る)
・主人公がドアマット(踏みつけに)にされる
 (恋の相手役〔ヒロインorヒロー〕もドアマットにされる)

つっこみどころ満載だが妙に癖になる。
1話45分のドラマがだいたい60話、70話もある。時間泥棒だな。
中華の3Dアニメのクオリティもやばい。
某FFゲームのような映像美。
アジアカルチャー熱気がたまらなく面白いと思う。
大学に進学したらアジア系の言語の講義をとるものいいかもしれないな。
銀子にはオスマン帝国を題材にしたドラマも勧められているのだが…はまるのがこわい。
夢中になるものが増えたおかげで勉強がおろそかになってきているのが今後の課題だ。


いまさらだとは思ったが、本山と銀子の接点について、こないだ銀子に聞いてみた。
「ああ?本山君?
 うっふっふ。
 ね、ゆきぴろって、ギャップ好き?」
「ギャップ?」
「そうそう、ギャップ!」
「よく、分らないな。」
「分からないの?
 私、ギャップに弱くってさ。
 本山君がただのイケ面じゃないことを知って、興味が湧いちゃったの!
 再び『友達になってね攻撃』を発動しちゃったんだ♪」
なんて、無謀なことを…。
俺は、銀子が本山にひどいことを言われていないか心配になった。
だって、ああいう外見のいい奴は、外見がよくないやつや、ちょっと普通じゃないやつのことを、たいていよく知りもせずにばかにするだろう? 俺が卑屈なだけか?でも、俺の経験上はそうなんだ。
「大丈夫だった?」
俺が聞くと、銀子はきょとんと言った。
「大丈夫って、何が?」
「…。いや。」
「変なゆきぴろ。
 でさ、ギャップってなんだと思う?
 彼ね、実は寺の息子なのよ!」
「へえ。それのどこがギャップなの?」
「え?だって、面白いと思わない?いまどきの男子と伝統的な寺の組み合わせが!」
「よく分らないけど、萌と関係があるの?」
「そう、それ、萌~なの!」(恍惚)
銀子は、どんな時も、どこまでも銀子なのだと、俺はある意味感心させられる。
俺は、本山が銀子のことを傷つけなかったようなのでちょっと安心した。
話はそれで終わったものだと思ったが、本山に関する話はなおも続いた。興味のあることを夢中で話す銀子はどんな時よりも生き生きとしている。
「でね、本山君のお家って、もちろん寺だから庭にお墓がたくさんあるんだって。」
「へえ。」
「それでね、本山君が小学校の高学年だったある日の草木も眠る丑三つ時にね、庭からカーン、カーンって音が聞こえてきて目が覚めてしまったんだって。」
え!ちょっと、いきなり話の流れが怪談になっていないか?
俺、めっちゃくちゃびびりだから正直困るんだけどなぁ。コレ聞いて今日、家に帰ってトイレ行けなくなったらどうすんだよ。
いや、それよりも風呂だな。風呂の方が困る。
だって、シャンプーしている時に、後ろに何かいるかもしれないとか考えると、めっちゃめちゃ怖いじゃないか。
でも、怖いと思っていても聞きたくなるのが人間心理の不思議さだよな。
俺は、話の展開をちょっと期待しながら銀子に尋ねた。
「丑三つ時って正確には何時なのかな?」
「ええとね。午前2時から2時半だよ。」
「流石、秀才。
 さっと答えが出てくるなんてすごいね。」
「エッヘン。まかせて。
 それでね、本山君はその音がどうしても気になって庭にそっと一人で出てみたんだって。」
「へぇ。勇気あるなぁ。
 俺だったら布団かぶって気付かないふりして寝る。」
「ウフフ。ゆきぴろらしい。
 そしたらね、なんと庭の真ん中にある一本の木の所に白装束を着た女の人がいたんだって!」
「え…。それってもしかして…?」
「そう、額にろうそく二本さしてたって。
 呪いの儀式だよね。あの、藁人形に釘をさすって言う。」
「げぇ。それ、幽霊じゃないじゃん、人間じゃん。
 こえーー。むしろ、幽霊より怖い。
 ってか、普通にそれ不法侵入だよね?
 通報したのかな?」
「本山君、気付かれないようにそのまま布団に戻って寝たって言ってたよ。」
「わぁ。それも変。普通、親を起こすとかしないか?
 豪胆って言えば、豪胆なのかも知れないけど…。」
「そうねぇ。寝ぼけているんだと思ったんだって。確かに、リアルじゃないかも。
 本山君には言わなかったんだけど、あの儀式って呪っているところを誰かに見られたら、いけないんだよね。
 確か、見られた相手を殺さなくちゃいけないって聞いたことがある。」
「…。壮絶。」
「だよね~。
 本山君、その女の人に見つからなくってよかったよねぇ。」
「見つかった時のセリフって決まっているよね。」
二人同時に声が重なった。
「み~た~な~。」
ふふふと、笑い合って、俺は言った。
「いくらなんでも、子供相手に…殺すなんて、そこまでするかなぁ。」
「するでしょ。
 だってまともな神経していたら、そもそもそんなことを夜中にやらないって。
 本山君、次の日にその木を見に行ったら、幹に釘でさした穴がちゃんとあったって言っていたわよ。」
「げーー。
 寝ぼけていたんじゃないってことかぁ。びびっただろうなぁ。」
「ね~。今でもしっかりと残っているんだって。」
「まさか、今でもその女の人、定期的に通っていたりしないよな。
 釘で刺した穴が増えていたりして…。」
「まさか。…定期的って、いくらなんでもないと思うけどね。
 嫌なリピーターよ、それ。
 あ、でも今度聞いとこう。
 でも、呪いなんて、よくやるわよね。
 『人を呪わば穴二つ』って言うのにねぇ。」
「それ慣用句だっけ?『人を呪わば穴二つ』。
 呪った人も呪われた人も殺されるって意味だよね。
 本当にそうなのかな。」
「そうね。慣用句になるぐらいだものね。
  戒めの為に言われているのかもしれないけど。
 そう言われてみれば、気になるわ。
 うん、どうなのかしら。
 そもそも呪いって世界中であるわよね、古今東西。
 …気になるじゃない。」
銀子がまた変なことに夢中になりそうな予感がする。
ああ、銀子の奴、明後日の方向見て何やらめちゃくちゃ考えているぞ。
やっぱり、俺は巻き込まれることになるんだろうな。むむむ。
どうせなら本山に、寺でクリスマスはどうするのかを聞いてもらいたい。
本山が子供の頃、家にサンタは来たのだろうか?煙突はもちろんないだろうしなぁ。墓石をまたいでやって来るっていうサンタはちょっと面白いかも。ホラーサンタ!
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ザ・青春バンド!

モカ☆まった〜り
青春
北海道・札幌に住む「悪ガキ4人組」は、高校一年生になっても悪さばかり・・・ある日たまたまタンスの隙間に挟まっていた父親のレコード「レッド・ツエッペリン」を見つけた。ハードロックに魅せられた4人はバンドを組もうとするのだが・・・。

Hand in Hand - 二人で進むフィギュアスケート青春小説

宮 都
青春
幼なじみへの気持ちの変化を自覚できずにいた中2の夏。ライバルとの出会いが、少年を未知のスポーツへと向わせた。 美少女と手に手をとって進むその競技の名は、アイスダンス!! 【2022/6/11完結】  その日僕たちの教室は、朝から転校生が来るという噂に落ち着きをなくしていた。帰国子女らしいという情報も入り、誰もがますます転校生への期待を募らせていた。  そんな中でただ一人、果歩(かほ)だけは違っていた。 「制覇、今日は五時からだから。来てね」  隣の席に座る彼女は大きな瞳を輝かせて、にっこりこちらを覗きこんだ。  担任が一人の生徒とともに教室に入ってきた。みんなの目が一斉にそちらに向かった。それでも果歩だけはずっと僕の方を見ていた。 ◇ こんな二人の居場所に現れたアメリカ帰りの転校生。少年はアイスダンスをするという彼に強い焦りを感じ、彼と同じ道に飛び込んでいく…… ――小説家になろう、カクヨム(別タイトル)にも掲載――

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

カップに届け!

北条丈太郎
青春
日本一、世界一を目指す女子ゴルファーたちの血と汗と涙の青春物語

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

信仰の国のアリス

初田ハツ
青春
記憶を失った女の子と、失われた記憶の期間に友達になったと名乗る女の子。 これは女の子たちの冒険の話であり、愛の話であり、とある町の話。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...