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第12話
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「リョーコ、中学まではバスケ部でね。たまたま練習試合にうちの中学に来たのを私が目をつけて、お友達になってね攻撃をしたんだ。」
へえ…。
って、怖い。恐すぎる。
お友達になってね攻撃。…嫌だ、とてつもなく嫌な響きだ。
「大会にも毎回応援に行ったんだよ。差し入れ持って。」
「へぇ。」
「そうだゆきぴろ。私が何の部活に入りたいか、分かった?」
「…。
声優研究部みたいなの?」
「あ!いい線いってる~。
でも、違うんだな。
放送部に入ろうと思って。
そのうち、私の美しい声が聞こえてくるから、耳の掃除きちんとしてちゃーーんと聞くんだぞ!」
「…。うん。」
思ったよりも意外に普通な選択でなんだか残念なような、安心したような。めんどくさいような?
まぁ、かってにしてくれって感じだ。
俺が微妙な反応なのを気にする風でもなく銀子は聞いてきた。
「ゆきぴろ、いいかげんそろそろ部活動決めないと期限きちゃうよ?
どうするの?」
「うーーん。
まだ、決めかねている。
そうだ、陣さんはどこの部に入るの?」
「リョーコ?ゆきぴろが他人を気にするのって、珍しい。
いい兆候だね。もっと、社会に溶け込めるようになっておかないとね。」
銀子、一体何の心配をしてくれているんだ?
銀子にだけは言われたくない言葉だ。
俺の心外な思いなど意に介さず、銀子は話を続ける。
「ハンドボール部にもう入部しているんじゃないかな。
ふふふ。あの子普段はあんなだけど、スポーツすると別人なんだ。
めちゃかっこいいんだよ。」
「そう。見てみたいな。」
「うん。リョーコがレギュラーになったら一度応援しに行かなくちゃね。」
「そうだね。」
「もし、どこの部活にするか決めきらなかったら、放送部においでよ。面倒みてあげるから。」
「…ありがとう。」
これは、…まずい。四六時中いっしょにいる事態は回避しなくては。
銀子に面倒みてもらうのはあらゆる意味で危険だ。俺の高校生活にこれ以上の混乱はいらない。
俺はその日から、真剣にどの部に入るのか考えるようになった。
蕁麻疹のできた右足は三日後には、はれもひいて落ち着いた。はれている間は想像以上にかゆかった。何度ムヒをぬっても、無意識にかきむしってしまってしまい、気付くと皮膚が破れて汚くなってしまっていた。
まるで虫食いの痕のようだ。どんな家に住んでいるんだって思われそうだな。
なんて、ぼんやり考えていたら、ふいに野太い怒号が聞こえてきた。
「お前の、ワタシに対する愛情を確かめさせてもらった。」
家に帰り、その日の勉強を終えてほっと一息ついた時だったので、俺はすごく、すごく面倒くさい気持ちになった。
軽やかに俺の頭上を舞いながら、
「あ、右足君がね。
どうしても、君にものもうしたいんだって。」
と、瞳があくびをしながら説明する。
何?まだ怒っているの?…執念深いやつだな。
話しやすいように、右足も映像イメージしたほうがいい?
すると、右足は俺と瞳の会話に割って入った。
「それには及ばない。瞳のような甘ったるい姿にされてしまったら末代の恥。
ワタシはワタシの思う姿で現れよう!」
すると、どどーーんと、芝居がかった効果音と煙とともに、鉄血宰相の異名を持つビスマルクが俺の目の前に現れた。
天にそりかえった立派なお髭もそのままに、いかめしい姿で登場だ。プロイセン式軍帽(頂にとがった金具が付いている)もきっちり着用している。
俺の脳、一体どうなっているんだ。こんなリアルな幻覚みていて、正常といえるのか?
それにしても、これまたけったいなのがでてきた。
「けったいとは何事だ。貴様、いちいちけしからん。
ワタシは猛烈に失望している。
ワタシの美しい右足をなぜああもむごい姿になるまでかきむしったのだ。
愛情が足りない。
絶対に足りない!」
そんなの、かゆかったからに決まってるじゃん。
…愛情って。
自己愛の話になるんだろうか?それは、なんとも気恥ずかしい話な気がする。
なんだよ。怒るぐらいなら最初から蕁麻疹なんて出すなっつーの!
それに、ちゃんとムヒぬったじゃん。そこんとこ、認めてくれてもいいと思うよ?
俺努力したじゃん?それでもかゆかったんだからしょうがないじゃないか。
「しょうがなくない!
ムヒなど言語道断。そんな邪道、そもそも認めるものか。
耐えてこそ男じゃではないか!」
怒りのためか、ビスマルクはわなわなふるえている。
なんか、相手がヒートアップしているとこっちはすっと冷めちゃうよな。
なんでだろ。
そんな俺をよそに、ビスマルクはまた吠える。
「貴様!たるんでおる!」
自分の怒りに疲れたのか、肩で息をしている。
血管切れそうな感じだな、おい。
奴は呼吸を整えている様子。
そして、きっとにらむと大げさな身振り手振りで話しだした。
「お前、何の部活に入るのかを考えあぐねていたな。
よろしい。ワタシが決めてやる。
お前のようなあまったるい奴は、応援部だ!
そこで、そのどうしようもない根性を徹底的に鍛えなおしてこい!」
人差し指を向けて、びしっと言われても、困るんだけど。
だいたい、人に向かって指で指すなんてことしちゃいけないんだぞ。
っていうか、はぁ?って感じだし。
勘弁してよ。
応援部って、どの運動部よりきついじゃん。上下関係厳しいし。
明治時代そのままな体質ですよ?精神論・精神論・精神論のエンドレス。
成せば成るっていう感じがね、俺には無理だよ。
それに、手のひらの皮膚が破れるまで拍手の練習なんてさせられたら、俺えんぴつもてないじゃん。勉強に支障をきたすのは学生の本分にもとる。承服しかねるぞ。
瞳も、俺に同意してくれた。右手を左右にぷらぷらふって緊張感なく意見をのべる。
「僕も、反対。
ゆきぴろが、そんな過激な部に耐えられるわけがないじゃん。
僕らの体は立派でもゆきぴろの精神はとってもとってもナイーブなんだから。
そんな自殺行為は認めません!」
瞳の奴、なでだろ、すごくむかつく。
ナイーブって言い方が、子馬鹿にしてないか?
それに、こないだお前のせいでソフトボールが腹に当たったよな?あれは確実に生命活動の危機だったぞ。まさに自殺行為。
こいつ、自分のことは棚上げかよ。
でも、まぁいいや。ここは、擁護してもらっているんだし、流しとこう。
大人になれ、俺!
すると、ビスマルクはつばをまきちらす勢いで反論する。
「分かってないな。
その軟弱な精神を一から鍛えなおすと言っておるのだ。
けしからん。何が、草食系男子だ。流行りだと?ふざけるな。
っく、日本男児はかくも落ちたものよ。
ワタシは認めないからな。
ゆきひろだけでも、ワタシが世界に誇れる日本男児となるよう導いてやる。」
瞳は首をすくめて言う。
「論点ずれているし~。
ちょっと頭冷やしたほうがいいんじゃない?
左足君、たのむよ。」
「仕方ないなぁ。分ったよ。」
艶っぽい声と共にビスマルクは消えていった。
へえ…。
って、怖い。恐すぎる。
お友達になってね攻撃。…嫌だ、とてつもなく嫌な響きだ。
「大会にも毎回応援に行ったんだよ。差し入れ持って。」
「へぇ。」
「そうだゆきぴろ。私が何の部活に入りたいか、分かった?」
「…。
声優研究部みたいなの?」
「あ!いい線いってる~。
でも、違うんだな。
放送部に入ろうと思って。
そのうち、私の美しい声が聞こえてくるから、耳の掃除きちんとしてちゃーーんと聞くんだぞ!」
「…。うん。」
思ったよりも意外に普通な選択でなんだか残念なような、安心したような。めんどくさいような?
まぁ、かってにしてくれって感じだ。
俺が微妙な反応なのを気にする風でもなく銀子は聞いてきた。
「ゆきぴろ、いいかげんそろそろ部活動決めないと期限きちゃうよ?
どうするの?」
「うーーん。
まだ、決めかねている。
そうだ、陣さんはどこの部に入るの?」
「リョーコ?ゆきぴろが他人を気にするのって、珍しい。
いい兆候だね。もっと、社会に溶け込めるようになっておかないとね。」
銀子、一体何の心配をしてくれているんだ?
銀子にだけは言われたくない言葉だ。
俺の心外な思いなど意に介さず、銀子は話を続ける。
「ハンドボール部にもう入部しているんじゃないかな。
ふふふ。あの子普段はあんなだけど、スポーツすると別人なんだ。
めちゃかっこいいんだよ。」
「そう。見てみたいな。」
「うん。リョーコがレギュラーになったら一度応援しに行かなくちゃね。」
「そうだね。」
「もし、どこの部活にするか決めきらなかったら、放送部においでよ。面倒みてあげるから。」
「…ありがとう。」
これは、…まずい。四六時中いっしょにいる事態は回避しなくては。
銀子に面倒みてもらうのはあらゆる意味で危険だ。俺の高校生活にこれ以上の混乱はいらない。
俺はその日から、真剣にどの部に入るのか考えるようになった。
蕁麻疹のできた右足は三日後には、はれもひいて落ち着いた。はれている間は想像以上にかゆかった。何度ムヒをぬっても、無意識にかきむしってしまってしまい、気付くと皮膚が破れて汚くなってしまっていた。
まるで虫食いの痕のようだ。どんな家に住んでいるんだって思われそうだな。
なんて、ぼんやり考えていたら、ふいに野太い怒号が聞こえてきた。
「お前の、ワタシに対する愛情を確かめさせてもらった。」
家に帰り、その日の勉強を終えてほっと一息ついた時だったので、俺はすごく、すごく面倒くさい気持ちになった。
軽やかに俺の頭上を舞いながら、
「あ、右足君がね。
どうしても、君にものもうしたいんだって。」
と、瞳があくびをしながら説明する。
何?まだ怒っているの?…執念深いやつだな。
話しやすいように、右足も映像イメージしたほうがいい?
すると、右足は俺と瞳の会話に割って入った。
「それには及ばない。瞳のような甘ったるい姿にされてしまったら末代の恥。
ワタシはワタシの思う姿で現れよう!」
すると、どどーーんと、芝居がかった効果音と煙とともに、鉄血宰相の異名を持つビスマルクが俺の目の前に現れた。
天にそりかえった立派なお髭もそのままに、いかめしい姿で登場だ。プロイセン式軍帽(頂にとがった金具が付いている)もきっちり着用している。
俺の脳、一体どうなっているんだ。こんなリアルな幻覚みていて、正常といえるのか?
それにしても、これまたけったいなのがでてきた。
「けったいとは何事だ。貴様、いちいちけしからん。
ワタシは猛烈に失望している。
ワタシの美しい右足をなぜああもむごい姿になるまでかきむしったのだ。
愛情が足りない。
絶対に足りない!」
そんなの、かゆかったからに決まってるじゃん。
…愛情って。
自己愛の話になるんだろうか?それは、なんとも気恥ずかしい話な気がする。
なんだよ。怒るぐらいなら最初から蕁麻疹なんて出すなっつーの!
それに、ちゃんとムヒぬったじゃん。そこんとこ、認めてくれてもいいと思うよ?
俺努力したじゃん?それでもかゆかったんだからしょうがないじゃないか。
「しょうがなくない!
ムヒなど言語道断。そんな邪道、そもそも認めるものか。
耐えてこそ男じゃではないか!」
怒りのためか、ビスマルクはわなわなふるえている。
なんか、相手がヒートアップしているとこっちはすっと冷めちゃうよな。
なんでだろ。
そんな俺をよそに、ビスマルクはまた吠える。
「貴様!たるんでおる!」
自分の怒りに疲れたのか、肩で息をしている。
血管切れそうな感じだな、おい。
奴は呼吸を整えている様子。
そして、きっとにらむと大げさな身振り手振りで話しだした。
「お前、何の部活に入るのかを考えあぐねていたな。
よろしい。ワタシが決めてやる。
お前のようなあまったるい奴は、応援部だ!
そこで、そのどうしようもない根性を徹底的に鍛えなおしてこい!」
人差し指を向けて、びしっと言われても、困るんだけど。
だいたい、人に向かって指で指すなんてことしちゃいけないんだぞ。
っていうか、はぁ?って感じだし。
勘弁してよ。
応援部って、どの運動部よりきついじゃん。上下関係厳しいし。
明治時代そのままな体質ですよ?精神論・精神論・精神論のエンドレス。
成せば成るっていう感じがね、俺には無理だよ。
それに、手のひらの皮膚が破れるまで拍手の練習なんてさせられたら、俺えんぴつもてないじゃん。勉強に支障をきたすのは学生の本分にもとる。承服しかねるぞ。
瞳も、俺に同意してくれた。右手を左右にぷらぷらふって緊張感なく意見をのべる。
「僕も、反対。
ゆきぴろが、そんな過激な部に耐えられるわけがないじゃん。
僕らの体は立派でもゆきぴろの精神はとってもとってもナイーブなんだから。
そんな自殺行為は認めません!」
瞳の奴、なでだろ、すごくむかつく。
ナイーブって言い方が、子馬鹿にしてないか?
それに、こないだお前のせいでソフトボールが腹に当たったよな?あれは確実に生命活動の危機だったぞ。まさに自殺行為。
こいつ、自分のことは棚上げかよ。
でも、まぁいいや。ここは、擁護してもらっているんだし、流しとこう。
大人になれ、俺!
すると、ビスマルクはつばをまきちらす勢いで反論する。
「分かってないな。
その軟弱な精神を一から鍛えなおすと言っておるのだ。
けしからん。何が、草食系男子だ。流行りだと?ふざけるな。
っく、日本男児はかくも落ちたものよ。
ワタシは認めないからな。
ゆきひろだけでも、ワタシが世界に誇れる日本男児となるよう導いてやる。」
瞳は首をすくめて言う。
「論点ずれているし~。
ちょっと頭冷やしたほうがいいんじゃない?
左足君、たのむよ。」
「仕方ないなぁ。分ったよ。」
艶っぽい声と共にビスマルクは消えていった。
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