オレの体の部位たちがオレに「ダメ出し」してきた件

咲良きま

文字の大きさ
上 下
12 / 48

第12話

しおりを挟む
「リョーコ、中学まではバスケ部でね。たまたま練習試合にうちの中学に来たのを私が目をつけて、お友達になってね攻撃をしたんだ。」
へえ…。
って、怖い。恐すぎる。
お友達になってね攻撃。…嫌だ、とてつもなく嫌な響きだ。
「大会にも毎回応援に行ったんだよ。差し入れ持って。」
「へぇ。」
「そうだゆきぴろ。私が何の部活に入りたいか、分かった?」
「…。
 声優研究部みたいなの?」
「あ!いい線いってる~。
 でも、違うんだな。
 放送部に入ろうと思って。
 そのうち、私の美しい声が聞こえてくるから、耳の掃除きちんとしてちゃーーんと聞くんだぞ!」
「…。うん。」
思ったよりも意外に普通な選択でなんだか残念なような、安心したような。めんどくさいような?
まぁ、かってにしてくれって感じだ。
俺が微妙な反応なのを気にする風でもなく銀子は聞いてきた。
「ゆきぴろ、いいかげんそろそろ部活動決めないと期限きちゃうよ?
 どうするの?」
「うーーん。
 まだ、決めかねている。
 そうだ、陣さんはどこの部に入るの?」
「リョーコ?ゆきぴろが他人を気にするのって、珍しい。
 いい兆候だね。もっと、社会に溶け込めるようになっておかないとね。」
銀子、一体何の心配をしてくれているんだ?
銀子にだけは言われたくない言葉だ。
俺の心外な思いなど意に介さず、銀子は話を続ける。
「ハンドボール部にもう入部しているんじゃないかな。
 ふふふ。あの子普段はあんなだけど、スポーツすると別人なんだ。
 めちゃかっこいいんだよ。」
「そう。見てみたいな。」
「うん。リョーコがレギュラーになったら一度応援しに行かなくちゃね。」
「そうだね。」
「もし、どこの部活にするか決めきらなかったら、放送部においでよ。面倒みてあげるから。」
「…ありがとう。」
これは、…まずい。四六時中いっしょにいる事態は回避しなくては。
銀子に面倒みてもらうのはあらゆる意味で危険だ。俺の高校生活にこれ以上の混乱はいらない。
俺はその日から、真剣にどの部に入るのか考えるようになった。

蕁麻疹のできた右足は三日後には、はれもひいて落ち着いた。はれている間は想像以上にかゆかった。何度ムヒをぬっても、無意識にかきむしってしまってしまい、気付くと皮膚が破れて汚くなってしまっていた。
まるで虫食いの痕のようだ。どんな家に住んでいるんだって思われそうだな。
なんて、ぼんやり考えていたら、ふいに野太い怒号が聞こえてきた。
「お前の、ワタシに対する愛情を確かめさせてもらった。」
家に帰り、その日の勉強を終えてほっと一息ついた時だったので、俺はすごく、すごく面倒くさい気持ちになった。
軽やかに俺の頭上を舞いながら、
「あ、右足君がね。
 どうしても、君にものもうしたいんだって。」
と、瞳があくびをしながら説明する。
何?まだ怒っているの?…執念深いやつだな。
話しやすいように、右足も映像イメージしたほうがいい?
すると、右足は俺と瞳の会話に割って入った。
「それには及ばない。瞳のような甘ったるい姿にされてしまったら末代の恥。
 ワタシはワタシの思う姿で現れよう!」
すると、どどーーんと、芝居がかった効果音と煙とともに、鉄血宰相の異名を持つビスマルクが俺の目の前に現れた。
天にそりかえった立派なお髭もそのままに、いかめしい姿で登場だ。プロイセン式軍帽(頂にとがった金具が付いている)もきっちり着用している。
俺の脳、一体どうなっているんだ。こんなリアルな幻覚みていて、正常といえるのか?
それにしても、これまたけったいなのがでてきた。
「けったいとは何事だ。貴様、いちいちけしからん。
 ワタシは猛烈に失望している。
 ワタシの美しい右足をなぜああもむごい姿になるまでかきむしったのだ。
 愛情が足りない。
 絶対に足りない!」
そんなの、かゆかったからに決まってるじゃん。
…愛情って。
自己愛の話になるんだろうか?それは、なんとも気恥ずかしい話な気がする。
なんだよ。怒るぐらいなら最初から蕁麻疹なんて出すなっつーの!
それに、ちゃんとムヒぬったじゃん。そこんとこ、認めてくれてもいいと思うよ?
俺努力したじゃん?それでもかゆかったんだからしょうがないじゃないか。
「しょうがなくない!
 ムヒなど言語道断。そんな邪道、そもそも認めるものか。
 耐えてこそ男じゃではないか!」
怒りのためか、ビスマルクはわなわなふるえている。
なんか、相手がヒートアップしているとこっちはすっと冷めちゃうよな。
なんでだろ。
そんな俺をよそに、ビスマルクはまた吠える。
「貴様!たるんでおる!」
自分の怒りに疲れたのか、肩で息をしている。
血管切れそうな感じだな、おい。
奴は呼吸を整えている様子。
そして、きっとにらむと大げさな身振り手振りで話しだした。
「お前、何の部活に入るのかを考えあぐねていたな。
 よろしい。ワタシが決めてやる。
 お前のようなあまったるい奴は、応援部だ!
 そこで、そのどうしようもない根性を徹底的に鍛えなおしてこい!」
人差し指を向けて、びしっと言われても、困るんだけど。
だいたい、人に向かって指で指すなんてことしちゃいけないんだぞ。
っていうか、はぁ?って感じだし。
勘弁してよ。
応援部って、どの運動部よりきついじゃん。上下関係厳しいし。
明治時代そのままな体質ですよ?精神論・精神論・精神論のエンドレス。
成せば成るっていう感じがね、俺には無理だよ。
それに、手のひらの皮膚が破れるまで拍手の練習なんてさせられたら、俺えんぴつもてないじゃん。勉強に支障をきたすのは学生の本分にもとる。承服しかねるぞ。
瞳も、俺に同意してくれた。右手を左右にぷらぷらふって緊張感なく意見をのべる。
「僕も、反対。
 ゆきぴろが、そんな過激な部に耐えられるわけがないじゃん。
 僕らの体は立派でもゆきぴろの精神はとってもとってもナイーブなんだから。
 そんな自殺行為は認めません!」
瞳の奴、なでだろ、すごくむかつく。
ナイーブって言い方が、子馬鹿にしてないか?
それに、こないだお前のせいでソフトボールが腹に当たったよな?あれは確実に生命活動の危機だったぞ。まさに自殺行為。
こいつ、自分のことは棚上げかよ。
でも、まぁいいや。ここは、擁護してもらっているんだし、流しとこう。
大人になれ、俺!
すると、ビスマルクはつばをまきちらす勢いで反論する。
「分かってないな。
 その軟弱な精神を一から鍛えなおすと言っておるのだ。
 けしからん。何が、草食系男子だ。流行りだと?ふざけるな。
 っく、日本男児はかくも落ちたものよ。
 ワタシは認めないからな。
 ゆきひろだけでも、ワタシが世界に誇れる日本男児となるよう導いてやる。」
瞳は首をすくめて言う。
「論点ずれているし~。
 ちょっと頭冷やしたほうがいいんじゃない?
 左足君、たのむよ。」
「仕方ないなぁ。分ったよ。」
艶っぽい声と共にビスマルクは消えていった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

Hand in Hand - 二人で進むフィギュアスケート青春小説

宮 都
青春
幼なじみへの気持ちの変化を自覚できずにいた中2の夏。ライバルとの出会いが、少年を未知のスポーツへと向わせた。 美少女と手に手をとって進むその競技の名は、アイスダンス!! 【2022/6/11完結】  その日僕たちの教室は、朝から転校生が来るという噂に落ち着きをなくしていた。帰国子女らしいという情報も入り、誰もがますます転校生への期待を募らせていた。  そんな中でただ一人、果歩(かほ)だけは違っていた。 「制覇、今日は五時からだから。来てね」  隣の席に座る彼女は大きな瞳を輝かせて、にっこりこちらを覗きこんだ。  担任が一人の生徒とともに教室に入ってきた。みんなの目が一斉にそちらに向かった。それでも果歩だけはずっと僕の方を見ていた。 ◇ こんな二人の居場所に現れたアメリカ帰りの転校生。少年はアイスダンスをするという彼に強い焦りを感じ、彼と同じ道に飛び込んでいく…… ――小説家になろう、カクヨム(別タイトル)にも掲載――

ザ・青春バンド!

モカ☆まった〜り
青春
北海道・札幌に住む「悪ガキ4人組」は、高校一年生になっても悪さばかり・・・ある日たまたまタンスの隙間に挟まっていた父親のレコード「レッド・ツエッペリン」を見つけた。ハードロックに魅せられた4人はバンドを組もうとするのだが・・・。

Missing you

廣瀬純一
青春
突然消えた彼女を探しに山口県に訪れた伊東達也が自転車で県内の各市を巡り様々な体験や不思議な体験をする話

善意一〇〇%の金髪ギャル~彼女を交通事故から救ったら感謝とか同情とか罪悪感を抱えられ俺にかまってくるようになりました~

みずがめ
青春
高校入学前、俺は車に撥ねられそうになっている女性を助けた。そこまではよかったけど、代わりに俺が交通事故に遭ってしまい入院するはめになった。 入学式当日。未だに入院中の俺は高校生活のスタートダッシュに失敗したと落ち込む。 そこへ現れたのは縁もゆかりもないと思っていた金髪ギャルであった。しかし彼女こそ俺が事故から助けた少女だったのだ。 「助けてくれた、お礼……したいし」 苦手な金髪ギャルだろうが、恥じらう乙女の前に健全な男子が逆らえるわけがなかった。 こうして始まった俺と金髪ギャルの関係は、なんやかんやあって(本編にて)ハッピーエンドへと向かっていくのであった。 表紙絵は、あっきコタロウさんのフリーイラストです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

GIVEN〜与えられた者〜

菅田刈乃
青春
囲碁棋士になった女の子が『どこでもドア』を作るまでの話。

モブが公園で泣いていた少女にハンカチを渡したら、なぜか友達になりました~彼女の可愛いところを知っている男子はこの世で俺だけ~

くまたに
青春
冷姫と呼ばれる美少女と友達になった。 初めての異性の友達と、新しいことに沢山挑戦してみることに。 そんな中彼女が見せる幸せそうに笑う表情を知っている男子は、恐らくモブ一人。 冷姫とモブによる砂糖のように甘い日々は誰にもバレることなく隠し通すことができるのか! カクヨム・小説家になろうでも記載しています!

ヤマネ姫の幸福論

ふくろう
青春
秋の長野行き中央本線、特急あずさの座席に座る一組の男女。 一見、恋人同士に見えるが、これが最初で最後の二人の旅行になるかもしれない。 彼らは霧ヶ峰高原に、「森の妖精」と呼ばれる小動物の棲み家を訪ね、夢のように楽しい二日間を過ごす。 しかし、運命の時は、刻一刻と迫っていた。 主人公達の恋の行方、霧ヶ峰の生き物のお話に添えて、世界中で愛されてきた好編「幸福論」を交え、お読みいただける方に、少しでも清々しく、優しい気持ちになっていただけますよう、精一杯、書いてます! どうぞ、よろしくお願いいたします!

処理中です...