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第7話
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昼休み、いつもの通り一人で母親の作ってくれた弁当をつついていたら弁当が影で覆われた。
視線を上げると、見たこともないようなイケ面が俺の前の席に座って俺をじっと見ていた。
やはりまだまだ対人恐怖症は健在だ。俺としたことが、赤面してしまって相手の出方を待つという情けない対応。
イケ面はちょっと不機嫌そうな表情でぼそっと話しかけてきた。
「山田銀子と仲がいいのっておまえ?」
予想外の問いかけ。
って、初対面なのに、イケ面だからって何?何でおまえよばわりされないといけないんだ?む…むかつくなぁ。
でも、俺の口から出たのは消え入るような声。
「…仲がいいって…。席が隣だから…。」
くそっ。情けない。情けないぞ、俺。
「へぇ。」
そう言って、イケ面は俺をじろじろと無遠慮に眺めた。そのあなどるような視線に俺は、はらわたが煮えくりかえるような思いでいっぱいになった。
「だったら、がつんと言ってあげちゃって。
何を見てんだよ、って。」
…瞳の奴がまたしゃしゃり出てきた。
くそ、俺はまた強烈な視線を瞳の奴にくれてやった。
そう、瞳の奴にくれてやったはずだった。しかし、その姿は幻覚。実際、瞳の姿はそこにあるはずもない。瞳の姿の先にはイケ面の視線があった!
なんと、俺のにらみはイケ面の視線とぶつかってしまったのだ!
こら、瞳。はめたな!
どうすんだ?どうすんだ!
「へぇ。がんたれてやんの。
なんだ、意外。おまえ、気骨あるんじゃん。
なぁ、おまえってさ、おかまなの?」
流石に俺もカチンときた。
それに、俺の体の部位達がいっせいに、叫んでいた。
「ゆきぴろ、ガツンと言ってやれ!」
って、大合唱。
そうだ、俺に対する侮辱は俺だけに対する侮辱じゃないんだ。死んで行く俺の細胞ひとつひとつに至るまでに対する侮辱なんだ。俺には彼らの分まで俺であることに対する責任がある。
俺がしっかり怒んないで誰が怒るというんだ?
俺は一つ息をすって言ってやった。
「けんか売ってんの?」
すると、イケ面は口だけにやっとゆがめて言った。
「いや、確かめたかっただけだ。別にジェンダーで差別する気はないよ。
だってほら、おまえって仕草がな…。なよってるじゃん。
違うのか。
だとすると、おまえ俺にとって脅威だよ。
…悪かった」
そう言って、イケ面は立ち上がって去って行った。
意外に簡単に立ち去ったので、ちょっとひょうしぬけ。でも、かなりびびっていたので、ほっと胸をなでおろした。
しかし、解せぬ。
仕草がなよっているだと…。
マジか。
地味にショックだ。
目指すべき方向に「男らしさ」も付け加えることを心に誓う。
どうやら、教室中の注目を集めていたらしい。
クラスの女子は皆、イケ面の姿を目で追っている。彼が教室から出たのをきっかけに、なんと、こともあろうに女子達が俺に群がってきた!
「山根君!何?どういうこと!
本山君と友達なの?」
「きゃー。すごい。初めて近くでみた。
めっちゃくちゃイケてる!!」
「ねぇ、本山君ってまた来るの?」
「やっぱり背が高いよね。ね、ね、何センチあるのかな?」
「彼ね、確か184センチよ。マネージャーの子に聞いたもの。」
「え!マネージャー?
部活何やってるの?」
「何部?何部?」
「バスケ部。」
「あーー。っぽい。めちゃくちゃ、っぽい。
かーーっこいい!」
「ねーー。最高だよね。そんじょそこらの芸能人なんかよりもよっぽどイケてる。」
「彼、あの長身で走るのめちゃくちゃ速いし、バスケやってる時なんか、まじやばい。
しかも、入学早々一年でレギュラーらしいよ。」
「まじで?」
「まじで!」
「きゃーー。」
いっせいに黄色い声が弾けた。
ああ、俺、気を失いそう。
肝心な時に銀子はいないし。いや、でも銀子がいたところで事態はさほど変わらないか。あの子も人づきあい得意じゃなさそうだし。
俺は、機関銃のようにくりだされる女子達の会話を尻目にとっととその輪を抜けだした。くそっ。弁当半分しか食ってないのに。
勘弁してくれよ。俺が何をしたって言うんだ?
廊下をとぼとぼ歩いていると、瞳の奴が羽をぱたぱたいわせて俺の半歩先から振り返って話しかけてきた。
「本当に災難だね。
でも、ゆきぴろえらい!よくがんばった!初めてきちんと自己主張できたんじゃない?
自分を守る為にきちんと文句言えるなんて、もう僕感激!
今日はお赤飯を炊いてほしいくらい。」
おおげさだな。
いや、でも、俺、本当にがんばった。うん。やればできるじゃん。
って、ちょっとまて、瞳!さっきはよくもはめてくれたな!
「まぁ、細かいことは気にしない。結果、オーライだったんだから。ゆきぴろがまた一つ成長できて、僕本当に感激しているんだ!
だけどさー、彼女達の話を総合すると、身長184センチで入部早々バスケ部レギュラーの本山君だっけ?そんな女子憧れの彼が一体君に何の用だったんだろうね。
ゆきぴろのこと、脅威って言っていたけどさ。ゆきぴろが、一体どんな脅威になりうるというんだろうか。
こんなに人畜無害な子もいないはずなんだけどねぇ。皆目見当もつかないなぁ。」
瞳の奴はうーんと首をかしげている。
確かにあのイケ面、なんだったんだろう。
…銀子と何か関係があるんだろうか?
視線を上げると、見たこともないようなイケ面が俺の前の席に座って俺をじっと見ていた。
やはりまだまだ対人恐怖症は健在だ。俺としたことが、赤面してしまって相手の出方を待つという情けない対応。
イケ面はちょっと不機嫌そうな表情でぼそっと話しかけてきた。
「山田銀子と仲がいいのっておまえ?」
予想外の問いかけ。
って、初対面なのに、イケ面だからって何?何でおまえよばわりされないといけないんだ?む…むかつくなぁ。
でも、俺の口から出たのは消え入るような声。
「…仲がいいって…。席が隣だから…。」
くそっ。情けない。情けないぞ、俺。
「へぇ。」
そう言って、イケ面は俺をじろじろと無遠慮に眺めた。そのあなどるような視線に俺は、はらわたが煮えくりかえるような思いでいっぱいになった。
「だったら、がつんと言ってあげちゃって。
何を見てんだよ、って。」
…瞳の奴がまたしゃしゃり出てきた。
くそ、俺はまた強烈な視線を瞳の奴にくれてやった。
そう、瞳の奴にくれてやったはずだった。しかし、その姿は幻覚。実際、瞳の姿はそこにあるはずもない。瞳の姿の先にはイケ面の視線があった!
なんと、俺のにらみはイケ面の視線とぶつかってしまったのだ!
こら、瞳。はめたな!
どうすんだ?どうすんだ!
「へぇ。がんたれてやんの。
なんだ、意外。おまえ、気骨あるんじゃん。
なぁ、おまえってさ、おかまなの?」
流石に俺もカチンときた。
それに、俺の体の部位達がいっせいに、叫んでいた。
「ゆきぴろ、ガツンと言ってやれ!」
って、大合唱。
そうだ、俺に対する侮辱は俺だけに対する侮辱じゃないんだ。死んで行く俺の細胞ひとつひとつに至るまでに対する侮辱なんだ。俺には彼らの分まで俺であることに対する責任がある。
俺がしっかり怒んないで誰が怒るというんだ?
俺は一つ息をすって言ってやった。
「けんか売ってんの?」
すると、イケ面は口だけにやっとゆがめて言った。
「いや、確かめたかっただけだ。別にジェンダーで差別する気はないよ。
だってほら、おまえって仕草がな…。なよってるじゃん。
違うのか。
だとすると、おまえ俺にとって脅威だよ。
…悪かった」
そう言って、イケ面は立ち上がって去って行った。
意外に簡単に立ち去ったので、ちょっとひょうしぬけ。でも、かなりびびっていたので、ほっと胸をなでおろした。
しかし、解せぬ。
仕草がなよっているだと…。
マジか。
地味にショックだ。
目指すべき方向に「男らしさ」も付け加えることを心に誓う。
どうやら、教室中の注目を集めていたらしい。
クラスの女子は皆、イケ面の姿を目で追っている。彼が教室から出たのをきっかけに、なんと、こともあろうに女子達が俺に群がってきた!
「山根君!何?どういうこと!
本山君と友達なの?」
「きゃー。すごい。初めて近くでみた。
めっちゃくちゃイケてる!!」
「ねぇ、本山君ってまた来るの?」
「やっぱり背が高いよね。ね、ね、何センチあるのかな?」
「彼ね、確か184センチよ。マネージャーの子に聞いたもの。」
「え!マネージャー?
部活何やってるの?」
「何部?何部?」
「バスケ部。」
「あーー。っぽい。めちゃくちゃ、っぽい。
かーーっこいい!」
「ねーー。最高だよね。そんじょそこらの芸能人なんかよりもよっぽどイケてる。」
「彼、あの長身で走るのめちゃくちゃ速いし、バスケやってる時なんか、まじやばい。
しかも、入学早々一年でレギュラーらしいよ。」
「まじで?」
「まじで!」
「きゃーー。」
いっせいに黄色い声が弾けた。
ああ、俺、気を失いそう。
肝心な時に銀子はいないし。いや、でも銀子がいたところで事態はさほど変わらないか。あの子も人づきあい得意じゃなさそうだし。
俺は、機関銃のようにくりだされる女子達の会話を尻目にとっととその輪を抜けだした。くそっ。弁当半分しか食ってないのに。
勘弁してくれよ。俺が何をしたって言うんだ?
廊下をとぼとぼ歩いていると、瞳の奴が羽をぱたぱたいわせて俺の半歩先から振り返って話しかけてきた。
「本当に災難だね。
でも、ゆきぴろえらい!よくがんばった!初めてきちんと自己主張できたんじゃない?
自分を守る為にきちんと文句言えるなんて、もう僕感激!
今日はお赤飯を炊いてほしいくらい。」
おおげさだな。
いや、でも、俺、本当にがんばった。うん。やればできるじゃん。
って、ちょっとまて、瞳!さっきはよくもはめてくれたな!
「まぁ、細かいことは気にしない。結果、オーライだったんだから。ゆきぴろがまた一つ成長できて、僕本当に感激しているんだ!
だけどさー、彼女達の話を総合すると、身長184センチで入部早々バスケ部レギュラーの本山君だっけ?そんな女子憧れの彼が一体君に何の用だったんだろうね。
ゆきぴろのこと、脅威って言っていたけどさ。ゆきぴろが、一体どんな脅威になりうるというんだろうか。
こんなに人畜無害な子もいないはずなんだけどねぇ。皆目見当もつかないなぁ。」
瞳の奴はうーんと首をかしげている。
確かにあのイケ面、なんだったんだろう。
…銀子と何か関係があるんだろうか?
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