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第6話

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あの日から、山田銀子とはよく話すようになった。
全く他人に関心のなかった俺にも気づくことがいくつかでてきた。
 銀子のかんぺんケースにはアニメのシールが貼ってある。多分、メジャーじゃないものだ。かなりマイナーな代物に違いないと俺はみている。
そして、銀子にも、どうやら友達がいない様子。
 つまり、クラスで浮いているのは俺だけじゃないってことだ。山田銀子もどうやらかなりのくせもののようだ。
今、また見つけてしまった。
山田銀子のノートの端っこにはプロ顔まけの漫画の落書きが描かれている。薔薇の花でも背負ってそうなキラキラの目をした男だ。
うん、ここに至って俺は断定する。山田銀子は完全なるオタクと言われる人種であると!
いや、だからって差別するつもりはない。
 むしろ、差別されるべきはきもいと言われ続けてきた俺であって。だから、いや何が言いたいかというと、ひくとかそういうことじゃなくて、むしろ都合がいいと。
 だって、俺が唯一話ができるのは山田銀子だけなんだからな。俺は、この友情を大事にするつもりだ。うん。と、一人うなずく俺。
ふいに、山田銀子が話しかけてきた。
「ねぇ、山根君。部活何に入るか決めた?」
「部活?
 あ、そっか、うちの高校、部活動必須だったっけ。」
「そうだよ。
 私ね。ふふ。気になる部があるんだ!」
「…」
「ね、ね、知りたい?」
山田銀子は目をきらきらさせて聞いてきた。
「まさか、漫研?とか?」
「お!いいとこついてくるわね。ふふ。
 でも違うんだな。
 そうだ。今日ね、私のお気に入りのCDを持ってきたんだ。めちゃくちゃいいの、コレ。えっとね。私が気に入っているのが、これで、山根君向きなのが、これね!」
そう言って、袋に入ったCDをのぞきこみ、うんうんとうなずくとそれを俺に
「はい、どうぞ」
と、手渡してくれた。
「へぇ。」
俺がCDを取り出そうとすると、なぜか山田銀子は猛烈な勢いでそれを阻止するのだった。
「だめ。だめ!絶対だめ!
 学校では開けちゃだめだからね。絶対だよ。家に帰ってみて。
 それ、ヒントね。私の入りたい部活の。」
あまりの勢いに俺は圧倒され、かすかにうなずくしかなかった。
一体、何なんだ。…人に見せて恥ずかしいものなんだろうなぁ。それを、俺が見て何を思っても気にしないってことか。
…微妙な感じだ。
今時CDか…PCで再生したらいいのか。
その時、朝の補修授業の開始チャイムが鳴った。
ここのチャイムは変わっていて、オルゴールで校歌の伴奏が流れる。こうして、日々愛校心を育んでいくのだ!
うん。地味に洗脳されてる気もする。
「あれ?あれ?
 もしかして、今日単語テストだった?」
銀子が焦って尋ねるので、俺は出題範囲を教えてやった。
しかし、ただのテストとあなどるなかれ。単語帳ざっと6ページ分だが、熟語等も出題されるので、ただ単にその意味を覚えればいいというわけではない。筆記もあるしな。出題は変化球ばかりで、教材そのままの形では出されない。
はっきりいって、つけやきばじゃかなり難しい。
しかし、銀子はめげずに真剣にページを目で追っていた。
「Good morning, class!」
はきはきした声でアメリカ人のご亭主のいるグラマーの先生がすばらしい発音で挨拶しながら教室に入ってきた。この女性の先生は、厳しいことで有名だ。
授業開始の挨拶も早々にテスト用紙が配られたので、銀子は3分くらいしか単語帳を眺めることができなかったんじゃないだろうか。
制限時間は10分。
10分が経つと隣の席に座っている学生どうしでテストを交換し、答え合わせをする。10点満点中8点未満は再テスト。再テストは更に難易度があがるとの噂だ。
俺は、銀子の哀れな結果を予想して採点をした。
「ねえ、山田さん。」
「何?」
「実はちゃんと、勉強していたんだよね?」
「ううん。さっき見ただけ。満点だった?」
「うん。満点。
 まじ?」
「へへへ。
 私、暗記得意なんだよね!」
俺は昨日少なくともこの単語テストの為に、1時間以上は割いた。
見ただけで満点?なんだそれ。
「こらこら、ゆきぴろ。むっとしちゃいかんでしょ。顔に出てるよ。
 銀子の才能の一つなんだから。」
なんだよ瞳、また出てきたのか。
「こら、なんだとは、なんだ。って、コレ決まり文句だけど、ちょっと好き。ふふ。
 って、なんだよー。
 人がせっかく心なごませてあげようとでてきてあげたのに。ぷんだ。
 本当は僕がなかなか出てこないから寂しがっていたの、知っているんだぞ?」
その、小さな子供に向かって話すようなの、やめてくれ。
「山根君?山根君?」
見ると、トリップした俺の視線の先で銀子の白い手がひらひらゆれていた。
「あ、ごめん。ぼうっとしていた。満点だったよ。はい。」
そう言って、渡すと銀子はちょっと、ニヒルな笑顔をみせた。
「よかった。嫌われたかと思ったよ。」
「ああ。見透かされていた?
 ちょっとだけ、悔しくなったけど。まぁ、しょうがないよね。山田さんの才能なんだから。」
「ふふ。山根君、素直だなぁ。
 いいね。気に行った。
 山根君って、幸博っていうんだったよね。ゆきぴろくんって呼んでもいい?」
瞳に続いて、ゆきぴろ…くん。
まぁ、いいか。慣れって怖いな。いつの間にか違和感を持たなくなっていくから。
「くんなしでだったらいいよ。」
「決まり。じゃー、私のことは銀子って呼んでね!」
「う…ん。呼べるかな。それ、ちょっとハードル高いかも。…慣れるまでちょっと時間をちょうだい?」
「流石、シャイボーイ。いちいち、かわいいのね。
 オッケー。そのうちでいいよ。でも、ちゃんと呼んでね!」
そう言って笑う銀子はおたふくそのもので、なんだかやっぱり人間味にかけるのだった。
 テスト用紙を回収する間、ぼんやり教科書を眺めていると、瞳の奴がまた話しかけてきた。
「ゆきぴろーー。やったねえ。他人に山根君以外の名前で呼ばれることって初めてなんじゃない?
 あ、幼稚園の時は違ったか。でも、物心ついての初めてだ!
 僕は今、猛烈に感動している!!
 嬉しいなぁ!」
瞳の奴は何を浮かれているのか、こともあろうに授業中に、そう神聖な授業中にだ。実体化して俺の目の前に現れやがった!
俺の怒りを無視して、きゃっきゃ、きゃっきゃと小躍りしている。なんだか、怒るのもばからしくなってきてどっと疲れがおしよせてくる。
瞳!分かったからさぁ、さっさと消えてくれないかな。授業始まっているだろ。俺、銀子に遅れをとりたくないんだよね。
瞳の片眉がぴくりとあがった。その仕草に、実態でもないのになかなか芸が細かいなと、感心していたら、瞳の奴がギロっと睨んできた。
「あれ?ライバル魂に火がついちゃった感じ?
 いーーやーー。もっとこう淡い感じの感情じゃないの?
 な・ん・で?
 セピアな甘い感じを期待していたのに。
 ゆ・き・ぴ・ろ!
 ちーーがーーうーー!」
ああ、もう。だまれ!俺は猛烈な怒りを込めて瞳を睨みつけてやった。
「ああ、ご機嫌ななめ。つれないでやんの。
 ちぇっ。ちぇっ。すっごく不本意な感じ。まぁ、いいや。また後で話をしよう。」
そう言うと、やっと瞳は消えてくれた。
くっそ、怒りが不完全燃焼。いや、この思いのたけを勉強にぶつけるのだ。ああそうさ。俺のスイッチはもう戦闘モード。最初のテスト。
見てろよ銀子!!中学で越せなかった壁を今こそ越えてやるぞ!
俺は静かに闘志を燃やすのだった。
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