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第2話

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「な、なんだよー。だ…だ…だれだよー。」
視線をさまよわせつつ、裏返る声で答える俺。つくづく情けない。
「ああ、本当に情けないな!」
なんと、俺の思考に答えるかのようにまた声が響く。なんだ、なんだ。俺がきょどっている間にまた声が聞こえた。
「なんだって、言われてもね。君の目だよ!」
はぁ?目?俺はこわごわと起き上がり、窓に映った顔を眺める。そこには代わり映えのしない俺。不安そうな瞳。
「そうだよ。瞳って、内面の輝きだったり、その逆だったり、心を映す鏡だからね。
だから、君にはもっといい男になってもらってさ。僕自身が輝きたい!」
意味不明。ついに俺は幻聴を聞くようになったんだろうか。
「幻聴じゃないよ。だから、僕は君の目なんだって。君を構成する目の細胞の代表格さ!」
はぁ?ますます意味不明。俺は俺だし。何?多重人格だったりする?もしかして。でも俺、記憶飛んだこととかないしな。
「だから、何度も言っているじゃない。君の目なんだって。
 体の細胞にだって意志はあるんだよ。
 あんまり君が不甲斐無いから、今日はちょっと文句を言ってやろうと思ってね。」
不甲斐無いのは認めるけど。文句ってなんだよ。俺のくせに。
「まぁ、君なんだけど、君じゃないんだ。
 文句って言うのはさ。まず、メガネだね。
 君さ、視力いいのに対人恐怖症を理由に伊達メガネをかけるのいいかげんやめようよ。レンズ越しにすることで外の世界と距離をとろうって魂胆なんだろうけどね。
 あんまり意味ないじゃない。
 結局緊張して、話す相手の目をまともに見られないんだから。
 そろそろそんな不甲斐無いところを卒業してほしいんだよね。」
そうは、言われても。何か遮るものがないと不安じゃないか。
そうとも、とてつもなく不安だぞ。
「せっかくメガネも割れたことだし、今がいいチャンスじゃないかと思って出てきたんだ。」
いいよ、ひっこんでいてくれたままで。
なんだか頭がおかしくなりそうだ。
「いいや、ひっこまないよ。君、思考の段階ではとても男らしいのに、どうしてそう無様な言動ばっかりしてしまうのか僕、見ていてはがゆくて、悔しくてね。
 だから、まずは僕が君をサポートして行こうかと思って。」
サポートって、必要ないし。ただ生活することだけでこんなに必死なのにこれ以上の混乱を持ち込まないで欲しいよ。
「いいや、君は君の細胞の頂点にいるんだよ。君の細胞がどれだけあるか知っているかい?」
知らないけど。嫌な感じの話の流れだな。
何?そういえばさっき「まずは」って、言ったな。これから手や足なんかが主張してきちゃうわけ?はは。…まさか。
「そのまさかだよ。みんな君には不満を持っているんだ。
 だってそうだろ?この体は完璧なのに。操縦者がうまく利用できていないんだ。
 君には本当にもったいない。
 みんな、もう黙っていられないってね。」
やめてくれ、そんなに色々文句言われたら、俺立ち直れない。打たれ弱いのを知っているだろ?って、いや俺つかれている。気のせいだ。気のせいだ。きっと環境の変化によるストレスってやつに違いない。
「いい加減に現実を受け入れようよ。…聞き分けないと、乗っ取っちゃうよ?」
そう言うと、瞳が俺の意思とは関係なしにまぶたに覆われてしまった。正直、かなりのショックだぜ?俺の背中に汗がつっと流れた。…気がした。
閉じた瞳の中で俺はなぜかたくさんの幻を見ている。しかも全部俺自身の部位だ。やめてくれ、俺自身の解体なんてみたくない。ばらばら状態なんてえぐいだけだぞ。
その暗闇に輝く二つの瞳。
「やあ、僕がさっき君と話していた君の目だよ。」
そ、そうか。うん。確かに俺の眼球だ。うん。眼球。あのさ、コレもっと脳内イメージメルヘンにできないかな。ちょっと、刺激がきついんだけど。
「あ、オッケー。これでどう?」
アニメのような淡いイメージ画像に切り替わった。ああ、これならまだいけそう。うん。さっきより大分まし。分かった。俺も男だ。人との対話なら厳しいが、せめて自分との対話くらい自信をもって臨もうじゃないか。
だって、とりあえず、俺が一番偉いんだろう?
「偉い?うーん。まぁそうだね。僕らが大人しく君に従えばの話だけど。」
なんだよ。俺の考えることはつつぬけなのか。プライバシーもへったくれもないな。納得し難い状況だ。
っていうか、さっきの話。聞き捨てならないぞ。大人しく従わないつもりなのか?俺を心のどこかに閉じ込めて勝手に操る、なんてことをやっちゃおうってのか?
すると、眼球はパチクリ瞬きをした。…まぶたついているのか。
「それをしてもいいけど、とりあえず僕ら自分自身であること、君の体の部分であることには満足しているからね。
今のところその気はないよ。…今のところね。
君、変わってくれなくちゃ。チェンジだよ!チェンジ!ふふ。」
「そうだ!チェンジだ!」
「そうだ、チェンジだ!」
「そうだ。そうだ。」
複数の声があちらこちらから重なった。みると、俺は無数の俺自身に囲まれていた。
「ふふふ。
 そう、たじろがないでよ。ゆきぴろ。」
笑い声の主は瞳だ。
「ゆきぴろって呼ぶな!」
「だって君、悲しくなるほど半人前なんだもん。もうちょっと、しっかりしたら改めてあげるから、がんばってよ。
 ね、怖がらないで見渡してみて。
 ちゃんとみて、みんな君自身なんだ。そして、中にはどんどん死んで行く細胞達もいる。君の体は絶えず死滅し再生しているんだ。君の気付かないうちにね。髪の毛はぬけるだろ?爪は生えかわる。多くの消えゆく細胞の為にも、君は責任を感じなければならない。
 認めたくはないけど、君がこの体の頂点にいるんだからね。」
俺は、言われた通り見渡してみた。
形をなしていないもの。そして、様々な俺を形作るもの達を真剣に見つめた。俺の手、足、腕、凄く小さなものに至るものまで。
「はい、いいよ。みんな御苦労さん。とりあえず、今のところ僕がゆきぴろ担当だから。」
瞳がそう言うと、みんなすっと視界から消えた。
俺は、いつのまにかつめていた息をふっとはいた。呼吸するの、忘れていた。
しかしまだ一つ、俺に対面している奴がいる。瞳だ。
自分の目って、何度見ても違和感ありまくりなんだけど。うーーん。
「ゆきぴろ。そんなに、瞳に違和感があるなら、ちょっと僕を擬人化してみてよ。僕にイメージをつけてみて。」
イメージ。そうだな。ティンカーベルの男版みたいな感じがいいな。…威圧感なさそうで。すると、もくもくと煙が瞳を隠していった。
イメージ。イメージ。
煙が消えた時瞳は、緑のかわいい帽子をかぶった羽の生えた妖精になっていた。帽子からは鮮やかな金髪がこぼれている。それは短くはね、くるくると、かわいいハート型の顔を囲っている。瞳は鮮やかなブルー。羽は虹色に輝き、緑のワンピースには銀のスパンコールがふんだんに飾られていて、きらきら、きらきら。
瞳は己の姿をまじまじと眺め、苦笑した。
「…シニカルな割に、意外とかわいい想像力を持っているんだね。」
そんな言い方されるとちょっとむかつくな。
「まあ、そういわず。気にいったよ。こんなにかわいいなら、「瞳」ってよばずに、ひらがなの「ひとみ」って呼んでよ。」
「おまえが、ゆきぴろって呼ぶのをやめたらな。」
「あ、それは嫌。」
「じゃ、こっちもなしだ。交渉の余地はないぞ。」
「いけずな子だね。」
「…」
「あ、そうだ。僕、君の監督役だから。
 期限は高校3年間。その間にもっと魅力的な人間になってよね。
 その為に、課題を与えるよ。
 その一、夢をみつけること。但し、人の役に立てることね。
 その二、友達をつくること。せっかくの高校生活なんだから。今までみたいに一人でいても仕方ないでしょ?
 その三、恋をすること。今どき、初恋もまだなんて正直終わってるから。ここで一発、ときめいちゃいましょう。
 その為に、まずは人と話せるようにならないとね。」
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