27 / 33
第27話
しおりを挟む
弾丸のようなスピードでこちらに追いつくと彼女はいきなりぽんと人魚化した。場の空気にふさわしくない陽気な、
「どーーん」
という掛け声とともに、やってきた高速スピードのまま森田君にぶつかる。ふいをつく背後からのアタックで森田君はよろめき、私は森田君もろとも地面に投げ出された。
「あいたたた」
と起き上がろうとすると、コスモスのおかしそうな表情にでくわした。
「あら、ごめんなさい」
森田君はというと、驚愕の表情で私を見ている。どうしたんだろう。
無意識におでこに手を当てようとしたけれど、私の右手の先はなかった。
え?
近くに肘から上の私の右手と指が数本きれいな形で落ちていた。
指?
左手に目をやると、親指以外の指がない。
あふれ出る血と強烈な痛みでパニックに陥りそうな時、不敵な笑いをしていたコスモスに銀の糸が襲いかかった。あっと思った次の瞬間、彼女の体は二つに分けられていた。上半身と魚部分の下半身とに。銀の糸にすぱっと切られたのだ。それでようやく、私は転んだ時に糸の壁に触れてしまったことに気が付く。
あふれ出る血がとまらない。ああ、どうしよう。私の鮮血が緑の芝生を染めて行く。
くらくらする。
森田君は怪我したコスモスを抱き締めて、何か傷口に処理をほどこしているようだ。私はほっとかれたまま。
とっさの時の行動がその人の本心。
森田君は私よりもコスモスが大事なんだ。ぼうっと二人を見ているけれどやがて目がかすんでいく。
仕方ないよね、つきあいの長さも違うんだから。
あーあ。私何しにここに来たんだっけ?
あきらめとともに、私は目を閉じる。痛みも恐怖も悲しみも消えてなくなればいいんだ。
すると、何かに優しく包まれた。温かい。気持ちいい。優しい眠りに誘われるまま、私は落ちていく。
どのくらい時がたったのだろう。もしかすると、ほんとうは一瞬のことだったのかもしれない。
目を開けると、そこは優しい淡い黄色の光に包まれている場所だった。痛みはひいている。右手の切断部分には、黄色の太い柔らかな糸が幾重にも巻きついている。糸を媒体にして失った右手が再びつけられているようだ。左手の指も同じ様に治癒の途中にあった。
どうして。ここはどこ?
すると、穏やかな声が聞こえた。
「リサ、やっと会えたね。」
「どーーん」
という掛け声とともに、やってきた高速スピードのまま森田君にぶつかる。ふいをつく背後からのアタックで森田君はよろめき、私は森田君もろとも地面に投げ出された。
「あいたたた」
と起き上がろうとすると、コスモスのおかしそうな表情にでくわした。
「あら、ごめんなさい」
森田君はというと、驚愕の表情で私を見ている。どうしたんだろう。
無意識におでこに手を当てようとしたけれど、私の右手の先はなかった。
え?
近くに肘から上の私の右手と指が数本きれいな形で落ちていた。
指?
左手に目をやると、親指以外の指がない。
あふれ出る血と強烈な痛みでパニックに陥りそうな時、不敵な笑いをしていたコスモスに銀の糸が襲いかかった。あっと思った次の瞬間、彼女の体は二つに分けられていた。上半身と魚部分の下半身とに。銀の糸にすぱっと切られたのだ。それでようやく、私は転んだ時に糸の壁に触れてしまったことに気が付く。
あふれ出る血がとまらない。ああ、どうしよう。私の鮮血が緑の芝生を染めて行く。
くらくらする。
森田君は怪我したコスモスを抱き締めて、何か傷口に処理をほどこしているようだ。私はほっとかれたまま。
とっさの時の行動がその人の本心。
森田君は私よりもコスモスが大事なんだ。ぼうっと二人を見ているけれどやがて目がかすんでいく。
仕方ないよね、つきあいの長さも違うんだから。
あーあ。私何しにここに来たんだっけ?
あきらめとともに、私は目を閉じる。痛みも恐怖も悲しみも消えてなくなればいいんだ。
すると、何かに優しく包まれた。温かい。気持ちいい。優しい眠りに誘われるまま、私は落ちていく。
どのくらい時がたったのだろう。もしかすると、ほんとうは一瞬のことだったのかもしれない。
目を開けると、そこは優しい淡い黄色の光に包まれている場所だった。痛みはひいている。右手の切断部分には、黄色の太い柔らかな糸が幾重にも巻きついている。糸を媒体にして失った右手が再びつけられているようだ。左手の指も同じ様に治癒の途中にあった。
どうして。ここはどこ?
すると、穏やかな声が聞こえた。
「リサ、やっと会えたね。」
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
ヒナタとツクル~大杉の呪い事件簿~
夜光虫
ホラー
仲の良い双子姉弟、陽向(ヒナタ)と月琉(ツクル)は高校一年生。
陽向は、ちょっぴりおバカで怖がりだけど元気いっぱいで愛嬌のある女の子。自覚がないだけで実は霊感も秘めている。
月琉は、成績優秀スポーツ万能、冷静沈着な眼鏡男子。眼鏡を外すととんでもないイケメンであるのだが、実は重度オタクな残念系イケメン男子。
そんな二人は夏休みを利用して、田舎にある祖母(ばっちゃ)の家に四年ぶりに遊びに行くことになった。
ばっちゃの住む――大杉集落。そこには、地元民が大杉様と呼んで親しむ千年杉を祭る風習がある。長閑で素晴らしい鄙村である。
今回も楽しい旅行になるだろうと楽しみにしていた二人だが、道中、バスの運転手から大杉集落にまつわる不穏な噂を耳にすることになる。
曰く、近年の大杉集落では大杉様の呪いとも解される怪事件が多発しているのだとか。そして去年には女の子も亡くなってしまったのだという。
バスの運転手の冗談めかした言葉に一度はただの怪談話だと済ませた二人だが、滞在中、怪事件は嘘ではないのだと気づくことになる。
そして二人は事件の真相に迫っていくことになる。
ヤムヤムガール! 〜ブルーム・アカデミーの悪夢記録〜
中靍 水雲
ホラー
オレンジの月が笑うとき、赤い悪夢が目を覚ます——夢見士たちはバクに乗り、悪夢を喰らいに夜空を駆ける!
夢見士———それは、パートナーのバクとともに人々の夢を守る職業のこと。
月が笑う夜に、悪夢はその顔をあらわす。
それぞれ性格の違う、色とりどりのバク。
そのなかから、夢見士は1匹をパートナーに選ぶ。
夢見士たちとパートナーのバクとともに悪夢を駆け抜け、人々を守っていた。
六門ククルは見習い夢見士。
夢見士の専門学校であるブルーム・アカデミーに通いはじめた、〝気にしい〟の女の子。
すぐに「ヤム……ヤム……」というので、パートナーのバク・バベルにいつもツッコミをいれられている。
夢はりっぱな夢見士になること!
「ヤミー!」な悪夢を食べることが大好きなバベルとともに、勉強にテストに頑張るぞ!と、思っていた、そのやさき……
気にしいのククルに、クラスの強気な女子たちが目をつけてきて……?
悪夢×ホラーファンタジー×短編連作!
こわーい悪夢も、ククルとバベルがパクッと食べちゃう!
その悪夢、夢見士たちにおまかせあれ!
表紙イラスト:ノーコピーライトガール さま
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
迷い家と麗しき怪画〜雨宮健の心霊事件簿〜②
蒼琉璃
ホラー
――――今度の依頼人は幽霊?
行方不明になった高校教師の有村克明を追って、健と梨子の前に現れたのは美しい女性が描かれた絵画だった。そして15年前に島で起こった残酷な未解決事件。点と線を結ぶ時、新たな恐怖の幕開けとなる。
健と梨子、そして強力な守護霊の楓ばぁちゃんと共に心霊事件に挑む!
※雨宮健の心霊事件簿第二弾!
※毎回、2000〜3000前後の文字数で更新します。
※残酷なシーンが入る場合があります。
※Illustration Suico様(@SuiCo_0)
#彼女を探して・・・
杉 孝子
ホラー
佳苗はある日、SNSで不気味なハッシュタグ『#彼女を探して』という投稿を偶然見かける。それは、特定の人物を探していると思われたが、少し不気味な雰囲気を醸し出していた。日が経つにつれて、そのタグの投稿が急増しSNS上では都市伝説の話も出始めていた。
ヴァルプルギスの夜~ライター月島楓の事件簿
加来 史吾兎
ホラー
K県華月町(かげつちょう)の外れで、白装束を着させられた女子高生の首吊り死体が発見された。
フリーライターの月島楓(つきしまかえで)は、ひょんなことからこの事件の取材を任され、華月町出身で大手出版社の編集者である小野瀬崇彦(おのせたかひこ)と共に、山奥にある華月町へ向かう。
華月町には魔女を信仰するという宗教団体《サバト》の本拠地があり、事件への関与が噂されていたが警察の捜査は難航していた。
そんな矢先、華月町にまつわる伝承を調べていた女子大生が行方不明になってしまう。
そして魔の手は楓の身にも迫っていた──。
果たして楓と小野瀬は小さな町で巻き起こる事件の真相に辿り着くことができるのだろうか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる