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第4話
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「時間には、神経質なのにぎりぎりに来るなんてめずらしいわね。」
ミキの透き通る声が軽やかに響く。
「それがねぇ。最近寝不足なんだ~。」
首をかしげ、ミキが私の額に手をあてる。
「具合でも悪いの?」
「そんなことはないんだけど、夢見が悪くて。」
答えながら、ぞっとするほど冷たいミキの手に驚く。
「ミキこそ、手がめちゃくちゃ冷たいよ。大丈夫?」
思わずミキの手を握るとすっとはずされてしまった。
「ああ、平気。いつものことなの。
どんな夢?りさの好きな食べ物が目の前に並んでいるのに全部食べきれないとか?」
「あ、ひどい。
そんな夢だったら、もう本望なんだけれど。
なんかね。得体のしれない視線を感じる夢なんだよね。」
「それは、嫌ね。変な人に付きまとわれたりしているの?」
「いや~。それはないよ。
だけどなんでなんだろうな~。気持ち悪くて嫌なんだよね~。」
そう言って笑ってみせたけれど、ひきつった表情になっていたかもしれない。
ここ数日、嫌な夢をみている。
とてもリアルな夢を。
しかも、それは断片的なものではない。寝る度に更新されていく。
夢の中でも私は日常を過ごしている。
学校に行って、帰って、宿題して、テレビみて、また学校に行ってというように。
夢と現実との間にある違いはまとわりつく気配。
最初は不穏な予感を感じるだけだった。背筋が凍るような、まるで知らない誰かに観察されているような違和感を。
だって背中がぴりぴりしているんだ。目を閉じても鼻先に手をあてると、触ってもいないのにそこに何かがあるのを感じとることができるように。
危険だと、何かが激しくうったえる感覚が夢を重ねるごとに強くなっていく。
わけのわからない焦燥。恐怖のあまりに夜中に目を何度も覚ます。冬というのにぐっしょりと汗をかいて。
そして遂にある夜、突然あいつは姿を現した。
巨大な黒い影。
私の寝室にはベランダにつながる引き戸があって、寝る時はカーテンをしめているのだが、ある時そこに巨大な影が現れた。シルエットだけでおぞましいものだとわかる奇形。
遂に現れたかと思った。
それから、数日の間その影は全く私に近づこうとせずに、じっと同じ場所でたたずんだまま、こちらをじらす。嫌な緊張の続く夜が続いた。私の恐怖を楽しんでいるかのようにも見える。
影の大きさだけだと5メートルぐらいあるんじゃないだろうか。実像は分からない。見えない分、恐怖が増す。私は影と対峙する緊張と恐怖で何度も目を覚ます。
そして、昨日、遂にアレは部屋に押し入ってきた!
ばりばりといとも簡単にドアを破壊し室内に入ってきたのだ!
私は部屋の端へあとずさりながらまじまじとその姿を眺める。
グロテスク。
その一言につきる。
黄色と赤の筋が同体部分に縦にのびて、いく筋もの鮮やかな色彩を放っているのが分かった。夜のにぶい月明かりがなめらかな黒い肌にサテンのような光沢をあたえる。みいっているうちに、やつのくさい呼気が部屋中を生温かくしていく。体の縦じまと真っ赤なルビーの様に輝くいくつもの瞳が私にじわじわとせまる。
たくさんの足の緩慢なる動き。
移動するさいの耳障りな音。
細部の様子までしっかりとわかるのが嫌だった。リアルでいっそう恐ろしいから。
現れたのは巨大な蜘蛛だった。
ミキの透き通る声が軽やかに響く。
「それがねぇ。最近寝不足なんだ~。」
首をかしげ、ミキが私の額に手をあてる。
「具合でも悪いの?」
「そんなことはないんだけど、夢見が悪くて。」
答えながら、ぞっとするほど冷たいミキの手に驚く。
「ミキこそ、手がめちゃくちゃ冷たいよ。大丈夫?」
思わずミキの手を握るとすっとはずされてしまった。
「ああ、平気。いつものことなの。
どんな夢?りさの好きな食べ物が目の前に並んでいるのに全部食べきれないとか?」
「あ、ひどい。
そんな夢だったら、もう本望なんだけれど。
なんかね。得体のしれない視線を感じる夢なんだよね。」
「それは、嫌ね。変な人に付きまとわれたりしているの?」
「いや~。それはないよ。
だけどなんでなんだろうな~。気持ち悪くて嫌なんだよね~。」
そう言って笑ってみせたけれど、ひきつった表情になっていたかもしれない。
ここ数日、嫌な夢をみている。
とてもリアルな夢を。
しかも、それは断片的なものではない。寝る度に更新されていく。
夢の中でも私は日常を過ごしている。
学校に行って、帰って、宿題して、テレビみて、また学校に行ってというように。
夢と現実との間にある違いはまとわりつく気配。
最初は不穏な予感を感じるだけだった。背筋が凍るような、まるで知らない誰かに観察されているような違和感を。
だって背中がぴりぴりしているんだ。目を閉じても鼻先に手をあてると、触ってもいないのにそこに何かがあるのを感じとることができるように。
危険だと、何かが激しくうったえる感覚が夢を重ねるごとに強くなっていく。
わけのわからない焦燥。恐怖のあまりに夜中に目を何度も覚ます。冬というのにぐっしょりと汗をかいて。
そして遂にある夜、突然あいつは姿を現した。
巨大な黒い影。
私の寝室にはベランダにつながる引き戸があって、寝る時はカーテンをしめているのだが、ある時そこに巨大な影が現れた。シルエットだけでおぞましいものだとわかる奇形。
遂に現れたかと思った。
それから、数日の間その影は全く私に近づこうとせずに、じっと同じ場所でたたずんだまま、こちらをじらす。嫌な緊張の続く夜が続いた。私の恐怖を楽しんでいるかのようにも見える。
影の大きさだけだと5メートルぐらいあるんじゃないだろうか。実像は分からない。見えない分、恐怖が増す。私は影と対峙する緊張と恐怖で何度も目を覚ます。
そして、昨日、遂にアレは部屋に押し入ってきた!
ばりばりといとも簡単にドアを破壊し室内に入ってきたのだ!
私は部屋の端へあとずさりながらまじまじとその姿を眺める。
グロテスク。
その一言につきる。
黄色と赤の筋が同体部分に縦にのびて、いく筋もの鮮やかな色彩を放っているのが分かった。夜のにぶい月明かりがなめらかな黒い肌にサテンのような光沢をあたえる。みいっているうちに、やつのくさい呼気が部屋中を生温かくしていく。体の縦じまと真っ赤なルビーの様に輝くいくつもの瞳が私にじわじわとせまる。
たくさんの足の緩慢なる動き。
移動するさいの耳障りな音。
細部の様子までしっかりとわかるのが嫌だった。リアルでいっそう恐ろしいから。
現れたのは巨大な蜘蛛だった。
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