悪役に転生させられたのでバットエンドだけは避けたい!!

あらかると

文字の大きさ
上 下
17 / 18

17.お茶をしましょう

しおりを挟む
 冬に近付いているからなのかここ最近天気が優れない。良くてもどんよりとした雲が空を覆ってしまっている。朝の支度しているとリュグナーが今日話がしたい、と。
 最初はずっと傍にいたリュグナーだが、ここ最近は朝から昼過ぎの辺りが不在だ。
 そもそも未だに親と会っていない。自分から会いにも行っていないのもあるかもしれないが息子が事故ってと聞いているのに。
 心配しないのだろうか?
 それとも来れないくらい忙しい?
 独りぼんやりと部屋で過ごしている。暇だからまた書斎まで行こう、と立ち上がり広い廊下に出る。
 相変わらず自分を見ると頭を下げてくるのでいたたまれない。早歩きでその場をさっさと逃げるように去る。なんで頭下げてくるんだろう。
 
 そんなに部屋から書斎まで距離はない。
 ここ数日通っているので馴れたものだ。最初は机の中を覗くのでさえ躊躇していたがもうそんな事さえない。今まで書いた記録を読み返して漏れがないか確認してみる。
 ゲームの流れ。あの日に起きた事。少女との出会い。
 溜息つく。
 なんでもいいからゲームがしたくなってきた。RPGとかパズルゲーとか。
「・・・・テレビ見たくなってきたな・・・」
 そんなに見てなかったのに。
 日本で過ごしていた生活が恋しくなってきた。まだここにきてそんなに経っていない。
 紙から目を逸らして天井を見る。
 特に何もない。人がいるはずなのに静かな屋敷。
 アフェクが来た時、楽しかったなと。
 ここにきてまともに話したことがあるのが3,4人のみ。別に以前の生活で人に囲まれて過ごしていたわけじゃない。就職も失敗してバイトしながらダラダラ過ごして来たような生活だ。友人とも呼べる人間はいなかった。
 考えていくうちに気持ちが沈んで行ってしまう。最近こんなのばっかだ。
 ホームシックにでもなってるんだろうか。なんだか前の生活がすごく恋しく感じてしまう。
 ぼうっとまたゲームの内容や起きた出来事を記載した紙を眺め、また机の中へしまう。
 改めて周りを見る。左程広くない部屋を囲むように背の高い本棚が並び、その中にはびっしりと本が詰まっている。見上げると小さな窓があるくらいだ。出入り出来るとしたら正面にある扉しかない。
 立ち上がり、本棚に近付く。
 新しめのものから古書もある。期待はしてはなかったが漫画っぽいものはやはり見つからない。少し残念に思いながら上段の本を見上げる。さすがに脚立がないとちゃんと確認できそうにない。
「なんか簡単で面白いやつないかなー・・・」
 小説ならあったのだ。本を読むのは好きなのだ。この世界の文字を読むのは苦労するが馴れていかないといけないと思う。だが、疲れと酔いが先に来てしまうため絵本みたいな簡単に読めるものがいい。そんな可愛いものがここにあるのかわからないが探さなければ無いと一緒。
 それに時間だけは沢山ある。
 机の近くにある本は比較的にアルカが読んでいたのだろうか?
 魔法学や教会、宗教が多く置かれている。魔法は気になるが辞典のように太いので後に回そう。読めそうにない。
 ふらふらと本棚を眺めていると下のほうに目を向ける。
 何も書かれていない表札のシンプルなノートが一冊。
(なんだろう、これ)
 捲ってみると書かれた後が残っているような汚い紙だけ。読めるようなものは一切なかった。
 一体何だったのだろう。こういうノートなのだろうか。
 首を傾げているとノックの音が鳴る。
「はーい?」
 持っていたノートを元の場所に戻して扉に顔を向けて返事を返す。少し間が開いてからゆっくりと扉が開かれる。
 小さな窓から差し掛かる光でまだお昼程度だだろう。この時間帯に何故かリュグナーが姿を現さないから声がかかる事が初めてだ。いつも一人でぼーっと過ごしているか記録を書いているだけだったから。
「すみません、アフェク様が心配されていましたので連れてきました」
 狐のように糸目の男だ。深い紺色の髪の色。楽しそうに話すこの男はアルカのことは知っている。それにアフェクの名を出すという事は何かの関係で二人と話す仲なのだろう。
 男が首を軽く傾げる。
「どうかされました?」
 
「・・・ほら、アフェク様アルカさんですよ」

 黙ってしまったからか男は後ろにいたであろうアフェクを優しい手付きで前に出してくる。
 若干俯き加減で部屋に入ってきたアフェクは自分を見ると顔を上げる。
「その、いつも来る授業に来ないから、まだ体が痛いのなかって」
「・・・え、授業?」
 リュグナーからは何も聞いてない。そんな事していたのか、と思った流石に教養は受けているはずだから授業も受けていても可笑しくはない。
「ごめん、リュグナーがまだ体を休めたほうがいいって言っててさ・・・」
「やっぱり体が痛むのか?」
 大丈夫か、と自分に駆け寄ってくれる。
「大丈夫、大丈夫だよ。ちょっとだけリュグナーが心配性なだけだよ」
 そうそう。至って健康体なのに未だに外出禁止なのだ。確かに一週間意識不明の状態だったと言っていたからそうそう安心も出来ないのだろう。
「そうですか、リュグナーが。彼が帰ってくるまでお邪魔してもいいですか?」
「いいですけど」
 狐目の男は近付いてきて自分に目線を合わせて優しい声色で自分に聞いてくる。リュグナーがどう思うかはわからないがアフェクもいる事だ、承諾したもののこの部屋に人をもてなす物は一切ない。どうしたものか、と考える。ここ今時点で寝室と書斎しか移動していないのだ。もう少し移動範囲を広げればよかったのかもしれない。が、周りの反応がどうも嫌過ぎる。あの中で探索なんて出来るわけがない。
 
「でしたら、お茶でもしながらリュグナーを待ちましょう」

 楽しそうに糸目の男が提案をする。確かにお昼食べてから時間が経っている。自分が何も思い浮かばなかったのだからこの意見に賛同しよう。彼に大きく頷いて。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

婚約破棄されて捨てられた精霊の愛し子は二度目の人生を謳歌する

135
BL
春波湯江には前世の記憶がある。といっても、日本とはまったく違う異世界の記憶。そこで湯江はその国の王子である婚約者を救世主の少女に奪われ捨てられた。 現代日本に転生した湯江は日々を謳歌して過ごしていた。しかし、ハロウィンの日、ゾンビの仮装をしていた湯江の足元に見覚えのある魔法陣が現れ、見覚えのある世界に召喚されてしまった。ゾンビの格好をした自分と、救世主の少女が隣に居て―…。 最後まで書き終わっているので、確認ができ次第更新していきます。7万字程の読み物です。

勇者召喚に巻き込まれて追放されたのに、どうして王子のお前がついてくる。

イコ
BL
魔族と戦争を繰り広げている王国は、人材不足のために勇者召喚を行なった。 力ある勇者たちは優遇され、巻き込まれた主人公は追放される。 だが、そんな主人公に優しく声をかけてくれたのは、召喚した側の第五王子様だった。 イケメンの王子様の領地で一緒に領地経営? えっ、男女どっちでも結婚ができる? 頼りになる俺を手放したくないから結婚してほしい? 俺、男と結婚するのか?

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

婚約破棄された悪役令息は従者に溺愛される

田中
BL
BLゲームの悪役令息であるリアン・ヒスコックに転生してしまった俺は、婚約者である第二王子から断罪されるのを待っていた! なぜなら断罪が領地で療養という軽い処置だから。 婚約破棄をされたリアンは従者のテオと共に領地の屋敷で暮らすことになるが何気ないリアンの一言で、テオがリアンにぐいぐい迫ってきてーー?! 従者×悪役令息

乙女ゲームが俺のせいでバグだらけになった件について

はかまる
BL
異世界転生配属係の神様に間違えて何の関係もない乙女ゲームの悪役令状ポジションに転生させられた元男子高校生が、世界がバグだらけになった世界で頑張る話。

実はαだった俺、逃げることにした。

るるらら
BL
 俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!  実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。  一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!  前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。 !注意! 初のオメガバース作品。 ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。 バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。 !ごめんなさい! 幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に 復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!

乙女ゲームのサポートメガネキャラに転生しました

西楓
BL
乙女ゲームのサポートキャラとして転生した俺は、ヒロインと攻略対象を無事くっつけることが出来るだろうか。どうやらヒロインの様子が違うような。距離の近いヒロインに徐々に不信感を抱く攻略対象。何故か攻略対象が接近してきて… ほのほのです。 ※有難いことに別サイトでその後の話をご希望されました(嬉しい😆)ので追加いたしました。

処理中です...