悪役に転生させられたのでバットエンドだけは避けたい!!

あらかると

文字の大きさ
上 下
11 / 18

11 思い出した地獄と現実の可愛さ

しおりを挟む
 自分がひっくり返した食器を綺麗にして貰ったが破片で怪我をしたら大変だから、と別室に移動しましょう、と言われた。なら自分の部屋でいいよ、と伝えた際にこの場にいる全員の視線が自分に集まってしまった。
 信じられない、とでも言うように。
 ああ、難しい。もう投げ出したい。泣きそうな気持ちがまた心に広がる。

 リュグナーの準備が早く部屋に着いた辺りで湯の準備が出来た、とアフェクを連れていってしまった。
 ヒラヒラと手を振って見送ると自室で一人残される。無造作にベットに仰向けに寝転び、やらかしたであろう記憶が甦る。
「うぅぅぅ・・・失敗した。絶対変な奴だって思われた・・・」
 改めて奇異の目で見られると心がやられる。突然こんなことになってしまったが周りから見れば突然アルカが変になったとしか認識されないのだ。
 はぁ、と息を吐き出す。
 こんな状態でやっていけるのか、何度も過る思考。幾ら考えてもやっていくしかない。こちらの世界で目覚めた時と変わらない白の天井を見つめる。白を基調とした内装、必要な物しかない部屋ははかとなく少女がいた世界に似ている気もする。
 また息を深く吐き出す。ガバッと上半身を起こすと両頬を軽くパシッと叩く。
 どうしようもないのだ。この時代の記録は自分にはない。別人が本人になり得る筈がない。自分として、春樹としてこの世界で生き抜くしかない。
 今日の引っ掛かる点を考えよう。
(アフェクが伯父さん発言した時と自室に招いた時だな)
 伯父は今日はいない、と言っていた。アフェクの伯父・・・・と考えたところで「あっ」と声が漏れた。
 アフェクの母親は他界し、父親は居ないとゲーム内で溢している。必然と親の兄弟で二人が関係しているとなるとアフェクの伯父と言う人物はアルカの父親の事だ。まさか一緒に住んだ期間があるとは思わなかったが。
 
 
 そして違う疑問も生まれてしまった。アフェクとアルカの父親は一緒の屋敷に住んでいてアルカは離れに住んでいる。逆じゃないか?もしくは一緒の屋敷で過ごすわけではないのだろうか。
 何らかの問題で別で住んでいるのか。もしくはこの世界、もしくは地域の風習なのか。風習だとしてアフェクの態度が引っかかる。風習で普通に行うのであれば自分を気にするか?悶々と疑問が頭を過る。 
 もしそれらに何らかの問題があったとしてそれが今後の生活で何か影響するだろうか?ただのアルカの反抗期的なものでギクシャクしている程度なら自分が穏便に過ごす事によって解消する事が出来る可能性もある。無い場合はどう逃げるかを考えねばならない。
 やはりアルカの今の年齢を知る必要があるかもしれない。最悪家出になったらバイトして部屋借りて・・・と考えて口をへの字に曲げてしまう。
 東京で一人暮らしの生活をこの世界でも繰り返す事になるのか、と思ってしまう。こういう時の異世界は日本よりハードモードである事が多い。目覚めてから日数が少ないがチートがある気もしない。魔力無い、と言われてしまっているし。
 もし魔力が復活するなら漫画やアニメの世界の事が出来るならやってみたい。空を飛んだり、攻撃魔法でバシッとモンスターを倒してみたいのだ。
 ゲームで空を飛ぶなんて描写はなかったが。
 今後の空想と共に東京での暮らしを思い出し、こちらでは仕送りもなさそうだなぁと呑気に思っていると重要な事実を思い出してしまった。
「あっ!!!」
 自分が集めたオタクグッズとゲーム。家に人も呼ぶことが無かった為大分オープンに広げてしまっている。
 実家ではこそこそと隠れるように活動していたから親にオタクである事を知られていない筈だ。
 それを急の訃報と共に暴露されるオタク活動。バレる性癖。勝利品達が身内に見られる地獄。
「あ、ああぁぁああ、うそだろうぉぉぉぉお、え、まじで。うそ、うそ」
 ベットの上で頭を抱えながら意味のない言葉を唸る。
 親の事も嫌いではなかった。ただアニメや漫画を好まなかった人達だった。その人達にあれを見られて何と思われるのか想像すると何だか腹の中がキュッと収縮するような痛みが起きる。
 一瞬でお迎えした推し達が無くなってしまった悲しみも押し寄せてきて尚痛みが増してきた気がする。
 蹲りながら呻いていたら扉からノック音と声が掛けられる。よく聞いた声が二人分だ。
 むくっと起き上がり、その声に「はい、どうぞ」と返答する。心理的に落ち込んでしまったせいで声色が張れない。
 扉を開けた先には思い浮かべた二人がいる。リュグナーは特に変わりが無いがアフェクは新しい服に身を包んでいる。柔らかい水色のフリルが付いたシャツにふんわりとふくらはぎ辺りが膨らんでいるパンツ。胸元に大きなリボンが目立つ。
 アフェクの顔を見ると眉間に皺を寄せて軽く俯いている。
「・・・・えっ、可愛い」
 思わず呟くと俯いていたアフェクが顔を上げると頬が赤く染まっている。
「これ以外の服のないのかっ!もう!!」
「新品でアフェク様に差し上げれそうなものはこれしかないのです」
 アフェクとリュグナーで言い合っている。否、リュグナーはあまり相手にしていない感があるが。
 アフェクの動作が大きいからか長い髪がサラッと流れる。その姿は本当に可憐な少女に見えて落ち込んでいた心が少し浮上していく。
(かっわいい・・・・可愛い。ああ、画像に保存したい。この二人の組み合わせは初めて見たな。このスチル保存したい)
 無意識のうちに手がスクショを取る位置で布団を押す。
 指先に滑らかなシーツの感触だけを残る。自分の指先を見て、染み付いた動作に遠い目をしたくなる。何をしてるんだ、自分は。と。
 それはそうとアフェクとリュグナーだけの会話やスチルはゲーム内にはなかったから中々に新鮮だ。
「アルカ!聞いてるの?」
「え、ごめん。可愛すぎて何も聞いてなかった」
 もう!ってまた憤慨するアフェクに笑ってしまった。リュグナーは苦笑のような表情でアフェクをなだめてる。
 言葉だけごめんと謝りながら扉の近くにいる二人に近付いて、手を取り唯一ある小さなテーブルと椅子に座らせる。二人分しかないから自分はベットへ座り、悪いなっと思いながらも抑えきれない笑いが漏れてしまった。
 それに対してまた怒られたがそれも可愛くて笑ったら今度は顔をプイっと背けられてしまった。しまった、やり過ぎたかもしれないな。と思いながらも何だかんだ楽しい時間を過ごせてもらった。


(・・・何だかんだこのままいけば心配する事はないんだ。だって、誰かを害そうなんて思わないんだから)
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

婚約破棄されて捨てられた精霊の愛し子は二度目の人生を謳歌する

135
BL
春波湯江には前世の記憶がある。といっても、日本とはまったく違う異世界の記憶。そこで湯江はその国の王子である婚約者を救世主の少女に奪われ捨てられた。 現代日本に転生した湯江は日々を謳歌して過ごしていた。しかし、ハロウィンの日、ゾンビの仮装をしていた湯江の足元に見覚えのある魔法陣が現れ、見覚えのある世界に召喚されてしまった。ゾンビの格好をした自分と、救世主の少女が隣に居て―…。 最後まで書き終わっているので、確認ができ次第更新していきます。7万字程の読み物です。

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

婚約破棄された悪役令息は従者に溺愛される

田中
BL
BLゲームの悪役令息であるリアン・ヒスコックに転生してしまった俺は、婚約者である第二王子から断罪されるのを待っていた! なぜなら断罪が領地で療養という軽い処置だから。 婚約破棄をされたリアンは従者のテオと共に領地の屋敷で暮らすことになるが何気ないリアンの一言で、テオがリアンにぐいぐい迫ってきてーー?! 従者×悪役令息

乙女ゲームが俺のせいでバグだらけになった件について

はかまる
BL
異世界転生配属係の神様に間違えて何の関係もない乙女ゲームの悪役令状ポジションに転生させられた元男子高校生が、世界がバグだらけになった世界で頑張る話。

乙女ゲームのサポートメガネキャラに転生しました

西楓
BL
乙女ゲームのサポートキャラとして転生した俺は、ヒロインと攻略対象を無事くっつけることが出来るだろうか。どうやらヒロインの様子が違うような。距離の近いヒロインに徐々に不信感を抱く攻略対象。何故か攻略対象が接近してきて… ほのほのです。 ※有難いことに別サイトでその後の話をご希望されました(嬉しい😆)ので追加いたしました。

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

前世である母国の召喚に巻き込まれた俺

るい
BL
 国の為に戦い、親友と言える者の前で死んだ前世の記憶があった俺は今世で今日も可愛い女の子を口説いていた。しかし何故か気が付けば、前世の母国にその女の子と召喚される。久しぶりの母国に驚くもどうやら俺はお呼びでない者のようで扱いに困った国の者は騎士の方へ面倒を投げた。俺は思った。そう、前世の職場に俺は舞い戻っている。

処理中です...