悪役に転生させられたのでバットエンドだけは避けたい!!

あらかると

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3一方的な説明

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 全てがホラー映画のようだった、とつくづく思う。 
 何かよく分からないが急に人が居なくなったと思ったら襲われ、少女にトラックに投げ込まれ。起きたら知らない場所にいて、姿見から少女が現れ、引きずり込まれるのだ。
 
 しかもジェットコースターのように上昇から落下する腹の底がヒヤッとする体験付。
 そこからまた意識が途切れてしまって何が起こったのかわからないが今度はふわふわして宙に浮いているような気分で目覚めた。
 もう肉体的にも精神的にも疲れ果てて何もしたくないのが本音なのだが、そうしてくれないらしい。
 目の前には先ほどの少女がニコニコと笑みを浮かべている。周りには歪な形をしている星々が無数に飾られている。灰色で、あの時、空から落ちてきた物と似ている。
「ようこそ春樹さん。無理矢理連れてきてしまってごめんなさい」
 シュン、と眉と肩をわざとらしく下げる少女がどうにも信じられず、目が泳いでしまう。
「私、人が暮らす世界に長時間居られないのものでして・・・・春樹さんには大変申し訳ないことをしてしまったから説明を、と・・・」
 少女はこちらの反応が無くとも気にしないのか、または慣れているのか返答が無くとも話し続けてくる。
 ゆったりと口調に大人になり切れていない声色は高く、手を差し伸べてくる手の所作が子供じみておらず、なんだかちぐはぐは印象を受けてしまう。
 何だか恐怖を覚え手を受け止めることが出来ず、手を引こうと思った際に違和感が掠める。
 おかしい。ありえない手を引くような動作をした感覚だけあるがどこを見ても自分の手どころか身体も見えない。目線を上下左右とくまなく動かしても見えるのは少女と真っ白が広がる場所と無数の歪な星のみ。
 自分自身がどこにも映らない。どういう事か混乱していると少女が「ああ!」と一人納得したように頷いて。
「春樹さんの肉体をこちらに持ってこれなくて、今の貴方の姿は魂だけです」
 何を言っているのか。少女の言葉の意味が分からず立ち尽くしたまま少女を見る事しかできなかった。
 そっと少女の手が自分の下に置かれ、そのまま少女側へと近付く。
「正確には魂が入ったアームですね。周りにある星の形をしたこれがアームと言います」
 周りに飾られた金平糖のような形の星を指して説明してくれる。
 にわかに信じがたいが少女の掌が動くと一緒に自分も動くのだ。
 真っ白な風景が続いてるような世界にポツンと横に長い台と椅子。そして大きな姿見が置かれたところに連れてこられ『春樹さんの魂の輝きです』と見せられた。
 少女の掌の数センチ上に浮かぶ歪な星・アームと呼ばれた器から薄い青に薄い金が混じった銀色が光り輝いており、あの時の空から降ってきたモノと似ている。

「春樹さん、貴方はこれからアルカ・スパイトフルとして、あの世界で生きて頂く事になります」 
 色々と思う事がある。あるがどう言葉にしていいかわからない。
 23年間生きてきて、ゲームのキャラに会えたと思ったら殺された結果、そのキャラで生きてくれ、と言われる事なんて初めてで何と形容していいのか。
 
「アルカさんの魂と春樹さんの魂は同じなのです。器と魂が一緒でなければ解離してしまい、定着する事が出来ません。別世界の、己と同じ魂を求めたのでしょう。・・・・あの時のアルカさんは魂の死を迎えようとしてましたから」
 
 話しながらゆっくりまた別のところに歩いていく。 
 淡々と。抑揚のない声色で。

「アルカさんは願い事を一つされたんです。時を巻き戻してほしい、と」

 続く白さは何だか生活感も無く、寂しいような空間だなっと話される内容に関係ない事をつい考えてしまう。少し現実逃避をしてしまっているのかもしれない。
 今度辿り着いた場所は長机のところだった。
 ふわふわしてそうな毛が長い布をひいてもらい、その上にそっと置かれた。少女は椅子へと腰を下ろす。
 置かれたところでこの姿では小さなクッションの手触りも感じる事も出来ず、ただ少女の言葉に耳を傾ける。


「世界を巻き戻す事も肉体を直す事も何ら問題はありません。ただ魂だけは治せませんし、巻き戻せない―――とお伝えしました。アルカさんも承諾され、願いを受理しました。この時、別件で席を外してしまって・・・」
 少女の声をトーンが下がり、眉尻を下げる。
「まさか別世界の己の魂を奪いにくる・・・なんて思いもしませんでした。発見した時にはお二人共手遅れ状態で、良くて春樹さんだけが死を。最悪、お二人共魂ごと消滅するところでした。消滅を避ける為に春樹さんの魂をアルカさんの体に取り込ませ、魂と体を解離させるのに肉体の死が必要でしたから、あのように肉体を破損させて頂きました」
 説明をしてくれている少女の言葉がうまく処理できないでいるが自分をトラックに放り投げた件はアルカに乗っ取られる前にこの少女が殺した、と。この内容で合っているのかは不明ではあるが、到底納得できるものではない。
 心臓の奥がぐらぐらと揺らぐような、搔きむしりたくなるような叫びたくなるような感情を抱いたのは初めてじゃないだろうか。こんな姿じゃなかったら詰め寄っていたかもしれない。
 何も出来ない状態で、何も発せられない状態で説明されたところでどうしろ、と言うのだ。別人として生きろ、と拒否出来る手段が無いではないか、と目があったならきっと少女を睨んでいたと思う。外見が十代前半から半ば位の子にそれが出来るかは断言できないが。

「貴方はアルカ・スパイトフルとして生きて頂く事になりました。夢でも物語でもありません。現実として貴方はアルカさんとして人生を歩んで下さい」

 少し項垂れた頭を上げると少女が分からない言語を唱え始める。それはここに来る前に聞いたようなリズムに感じる。段々と眠気のような意識がぼんやりとしていき、保つのが難しくなる。意識が途切れる瞬間に見た少女は、口元に笑みを浮かべているのに全く笑っていない鮮やかなルビーが嵌め込まれているのではないと、思える程の紅い瞳と冷ややかな声色だった。




「・・・・やっと代わりが見つかると思ったのに」

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