悪役に転生させられたのでバットエンドだけは避けたい!!

あらかると

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2.悪役子息!?

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「あああああああっっっっ!!!!!」
 
 叫び声ともに上半身をがばっと起こす。バクバクと激しく脈を打つ胸元を抑え、息を数回浅く吐いたり吸ったりと自分自身を治めようとする。
 ぶわっと噴き出る汗。視界をきょろきょろと見渡すと真っ白な手触りのよいシーツにふわふわと柔らかいベット。白を基調とした部屋のようで窓にはグレーのカーテンが綺麗に纏めれており、暖かな日差しが部屋を照らす。
 決してトラックと衝突した場所ではないし、病院でもなさそうだ。

 少しずつ動悸が静まり、胸元から手を離す。
「・・・・・・・は?」
 どこ、ここ。
 変な夢にプラスしてトラックに轢かれる夢のダブルパンチで寝ていたのにへとへとだ。夢見が悪かったせいか頭痛までしてくる始末なのに見たことのない部屋で起きるとか勘弁して欲しい。
 見上げると黒に近いグレーのシャンデリア。
 自分の狭い1Kなど2~3個は入ってしまうんじゃないか?と思える位には広い、と見知らぬ部屋で現実逃避しそうになっていると扉の向こうが少し騒がしくなり、段々とその音が大きくなっていき、三回大きめなノックをされる。
「無礼を承知で開けさせてもらいます!」
 返事をするべきなのか迷っているうちにはっきりとした声色で扉が開かれる。
「アルカ様、どうされましたか!?先ほど悲鳴が聞こえてきましたが」
 早歩きで自分に近付いてくる青年は、眉をハの字にして心配してきてくれる。
 深海のような紺色の髪は項辺りできっちり短く切り揃えられ、肌も健康的で晴天のような青色の瞳が返答しない自分に些か困惑の色を出す。
「・・・アルカ様?」
 青年を見てあんぐりと口を開けて固まってしまった。はたから見たらきっと間抜け顔を晒しているのだろう。
「アルカ様。どこか痛みますか?ああ、それとも水をご所望でしょうか?」
「んっ・・・んんん、うん」
 なんといえばいいのかわからず、唸るような返答に青年の困惑の色味が濃くなった気がする。首を傾げてくる青年に数秒見詰められ、絞るように水を・・・と呟くだけで精一杯だった。それでも返答があった事が良かったのか畏まりました、と部屋を今度は静かに出ていく。
 特段喉が渇いていたわけではない。しいて言うならば頭痛がする程度だがそれよりも先程までいた青年のことだ。
 自分が好きな乙女ゲームの攻略対象であるリュグナー・ホーカスそのものであった。
 彼は攻略対象ながら敵側とされるアルカの従者である。立場からか、バットエンドの高い彼の唯一のハッピーエンドは駆け落ちである。大まかなストーリーが読めて、敵側サイドの心情や私生活が垣間見る事が出来る為、初見かもしくは二手位に彼のエンドをお勧めしたい位ではあるが、その他の物語やバットエンドは高確率で死んでしまうので、人によっては辛いのか幸せ系ほのぼのした薄い本が多い。
「・・・・・・」
 頭を枕へと沈める。柔らかいだけではなく、弾力があり頭の沈み方が丁度がいい。
 シーツも今まで味わったことがない程すべすべとしていて、掛布団だって軽いのにきちんと体を暖めてくれる。
「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・アルカって言ってたな」
 リュグナーが。
 自分が知るリュグナーがリュグナーであるならば。
 彼が言うアルカとはたった一人を指す。
 瞳を閉じて一旦自分の思考を止める。夢にしてはリアル過ぎる感触が解せないが春樹の現実は1kの狭いアパートで安い弁当を食べ、薄い引き布団と掛布団に包まって寝ている筈なのだ。こんな豪華で高級なホテルのような一室で寝ているなど万が一起きるはずがない。自分で思いながら少し悲しくなってきた。
 そんな事を考えている間にノックの音が部屋に広がる。きっとリュグナーだろうと予測が出来るがどう返答していいかわからず、そのまま狸寝入りを決め込んでいると遠慮がちに「失礼します」と予想通りの声だ。
「・・・・アルカ様」
 側に来たのだろう小声で呼ばれる。だが、これで反応してはいけないのだ。
 暫しの沈黙の後、ため息が聞こえ「水を置いておきます。後ほど伺います」とだけリュグナーが言うと部屋を出ていったのか扉の音と共に足音も消えていった。
 パチッと瞳を開き、体を起こす。ズキっと頭が痛むが我慢できないほどではないので、この際無視し、確認する為部屋の中を歩く。何故かわからないが上手く力が入らず、フラフラする為壁に手を付けないと歩けない。

 少し歩いただけで息を上がって、苦しい。
 衣類が仕舞っているであろうクローゼットの隣にあった姿見に自身を映す。
 肩を越した位の透き通る銀に毛先がほんのりと青みが掛かる髪。頭に巻かれてる包帯が目立つ。細身の身体は、あまり筋肉がついてないのか薄い。ほんのりピンクの小さな唇、黒の瞳は吊り上がっていて、きつい印象を与える。
 少し自分が知っているアルカより顔の線や体付きが丸く幼い印象ではある。
「・・・・・アルカ スパイトフル」
 苦虫を大量に噛み潰したような表情で、くいっと首を傾げてみると当たり前であるが姿見の自分も同じ動きをする。
 数秒自分自身を見つめ続けても何も変化しない。姿見に背を向けて、俯いてため息を吐き出す。
 両手でグーパーを繰り返し、頬を軽く抓ってみる。手の感覚も頬が引っ張られる感覚が嫌に鮮明で。
「コラボ喫茶に行って、牛丼買って···そしたら」
「アルカさんに襲われたんですよねぇ」
 後ろから高めの、子供のような声に振り返ると。
 真っ白な髪。大きな瞳は真っ赤。白の肩出しのワンピースのような服。手にはあの杖を持っている、そう自分をトラックに投げた少女がそこにいたのだ。

「········!!!!!!!!」
 驚き過ぎて声にならず、足からカクンっと力が抜けてしまいその場に座り込んでしまった。
「ごめんなさい。あの時はああするしかなくて・・・・春樹さん」
 ニコッと笑う少女。
 そっと手を差し伸べてくる姿は可愛らしいそのものなのに。
 姿見の中にいて、そこから白く小さな手が出てきて自分を掴むのだ。
「えっ、えええ、えっなにぃぃこれ」
 掴む力が子供とは思えないほど強く、姿見の中へと引きずられていく。恐怖で半泣き状態で叫びながらばたばたと手足を動かしても勢いが消える事はなく、瞳を力いっぱい閉じて衝突に備え食い縛っていると何故かふわっと浮き上がる感覚がしたと思った次は落下する感覚にまた叫んだ。
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