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1.日本で巻き込れる
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地味で取り柄のない男・日高 春樹は、背中を丸めて居心地が悪くそわそわしてしまう。綺麗な店内、流れるBGMと女性達の声。キョロキョロと周りを見渡すと男性客はどうやら自分だけらしい。
ああ、やっぱり諦めてしまえばよかったかも。と心の中で愚痴る。
頼んだものを待つ間、気を紛らわすためにスマホを適当に弄っていると店員が「お待たせしました」と笑顔でテーブルの上に置いていく。
軽く頭を下げて会釈し、運ばれた品々と特典に口を緩ませて写真を撮っていく。
皿に綺麗に並べられた肉とサラダと真っ赤な色のカクテルジュース。渡された目当ての特典とランダムのコースターが入った銀紙。
そう、ここは春樹が好きな乙女ゲームのコラボカフェである。特典目当ては一番の推しであるアフェクの書下ろしポスターカードであり、ランダムにキャラが入っているコースターでアフェクを引き当てる事だ。
もちろんメニューも最推しである「アフェクの豪快肉焼きプレート』である。ゲームと違って綺麗にサラダと少しの肉が盛り付けられ、小ぶりの丸いパンが添えられている。
ま、ゲームと現実は違うものだし、女性中心のゲームコラボ飯に本格的ガッツリ系は流石に出さないのだろうと心の中で納得させる。
右側に置かれた銀色の袋を裂いて、中身を拝見すると銀髪に毛先にほんのりと青みが掛かった吊り目の二頭身で描かれたキャラが腕組をしてるイラスト。
(・・・えええ、アルカかよ・・・)
主人公で最推しのアフェクの邪魔をしてくるいわゆる悪役子息だ。人気が出てきたせいなのかPCゲームから家庭用機に移植された際に攻略出来るようになったとか聞いた。聞いたというよりネットで読んだだけで、家庭用機はまだ未プレイで積んでるからだ。
アフェクのポスターカードとアルカのコースター。
(ある意味すごいのかな・・・?)
主人公と主人公の邪魔をする悪役で二人は従弟で仲が悪い。
ぼんやりと考えながら運ばれた料理が冷めぬうちに食べてしまおう、と箸を手に取り進めていく。
全て完食して店を後にし、ふらふらとゲームショップやアニメグッズを見て回ると明るかった空が暗くなっていた。
(日が沈むのが遅くなったとはいえもう19時か)
晩御飯に弁当でも買って帰るか、と赤い看板で目立つ牛丼屋へと足を進めていく。店内はちらほらと人がいるものの頼んだ品物は待たされる事もなく、受け取り勘定を済ませてさっさと帰路につく。
俯いて交差点の赤信号を待つ。音楽が鳴る。青信号の知らせに歩き始める。
この交差点は人が多く、ぶつからないように潜り抜けたところで肩がぶつかったりするのだ。いつもなら。今日はそんなに人が少なかっただろうか?と渡り切ったところで顔を上げると小さな何かが空から降ってきた。
綺麗な煌びやかな小さな何かが。
思わず手をそっと出すと何かがふわっと降りてくる。
薄い青と銀の光が混じった小さな金平糖のような星が。
(・・・・・なにこれ)
手に乗った瞬間に銀色と青の光が消え、曇った灰色の色に変わってしまった。
よく分からない物体を凝視していたが周りの人も目撃しているはずだ、と周りを見渡すと誰もいなかった。
(・・・・え・・・・はぁ????)
誰もいないのだ。大きな交差点。歩道。車道。見渡し限り人がいない。発見出来ない。
そんなはずない。人が一人もいないなんてことあるはずがないのだ。
「・・・・・見つけた」
後ろから聞こえた声に驚いて、振り返ろうとして両耳を抑えるように阻止される。強引にその手を剥がそうと身を引いたり、腕を掴もうとするのに上手く力が入らない。
「っんだよっ・・・!だれ・・・だっ!!」
なんでだ。体が強張って動き辛い。
後ろの奴の手が耳から自分の手へと伸びる。視界のみで確認すると細く不健康的に白い肌。手首に数珠のようなものをはめている。
「・・・っ・・く・・早くしないと・・・・」
春樹の手にまだある金平糖らしき何を手ごと強く握られる。少し尖っているせいか掌に痛みが走る。
息が少し荒くなっていく後ろの奴をどうにか振り払えないか全身に力を入れようとするが全く言うことを聞いてくれない。自分の体のはずなのに。
何が起こっているのか、さっぱりわからない状態で耳元でぼそぼそと何かに耐えているように途切れ途切れの何かを言っている。聞いたことが無い言葉で。
「・・・・はっなせ・・・!!」
一言放すだけで腹が痛くなり、胃の中から這い上がってきそうになる。
奴が何かを言ってる時にまた金平糖が光輝いてくる、先ほどとは違う青色に金色の光が。光れば光るほど何故か春樹の体から力が抜け、先ほどの強張りが嘘のようだ。
立っている事も困難になり、膝から崩れ落ちる。奴の手は春樹の体から離れ、自由の身になる。力の抜けた掌から光り輝く金平糖が小さくカランっと地面に落ちる。
カツン、と靴音が耳に届く。後ろにいた奴は、春樹の隣に移動し落ちた金平糖を拾う。
一体誰なんだ、と歯を食いしばり何とか見上げると線の細く白さを越して青白い肌。肩を越した位の透き通る銀色が毛先に掛けて淡い青のグラーデーション。黒蜜のような瞳を細め、小さな唇を歪めて笑う人物に目を見開いてしまった。
「これで・・・・」
「・・・・っ!!」
驚きで声が出ない。あんぐりと開けた口を閉じる事もせず、その人物を凝視してしまう。だって自分のよく知る人物にそっくりで。
周りの景色がぐりゃりと歪んで亀裂が入る。
(次は一体なに)
次から次へと可笑しな事ばかりが始まる。
その何も映さない闇から一人の小柄な少女が現れる。
(・・・・・夢・・・)
そう夢でなければこんな事起きるはずがない。
体の強張り、肺の痛みは本物のように感じるが。
「これは契約違反です!アームをその方にお返し下さい」
「はっ・・・・何を言っている?契約違反?戯けた事を言う・・・管理者とあろう者が呆れる。お前らが作った手段だろう。これが」
段々力が抜けていく。何やら言っているが意識が遠のくせいで良く聞き取れない。
(これは、どこから夢だったんだろう・・・・か)
そうだ。東京の交差点で人が全くいないなんてあるはずがない。しかも祝日に。
何か言い合ってる二人。春樹の好きな乙女ゲームのキャラにそっくりだとか。
「・・・・でしたら叶えて差し上げますわ。貴方の意思は組みませんが」
少女が杖らしき何を振り回すと虹色の光を発し、春樹の体を取り囲むとふわっと浮き立ち上がらせる。足をギリギリ地面についてる程度だ。
「・・・・・?なにを」
銀髪が怪訝そうに眉を顰め、少女は微笑む。杖の先端を地面に強く叩くと先ほどまでいなかった人々が現れ、日常になった風景が戻ってくる。
突っ立って状態の春樹を邪魔そうに避けていく通行人は居ても銀髪の男や少女は見えていないのか素通りしていく。誰も気に留めもせず。
少女が虹色の光を纏う杖を左へと振った。
「・・・・・え・・・・?」
間抜けな声が出た。だって、杖を左に振ったと同時に春樹の体も左に吹っ飛んだのだ。ゆっくりと流れる景色の中で驚く通行人と慌てる銀髪の・春樹がよく知るキャラであるアルカ・スパイトフル。あとは光眩しく照らすトラックだけだった。
ああ、やっぱり諦めてしまえばよかったかも。と心の中で愚痴る。
頼んだものを待つ間、気を紛らわすためにスマホを適当に弄っていると店員が「お待たせしました」と笑顔でテーブルの上に置いていく。
軽く頭を下げて会釈し、運ばれた品々と特典に口を緩ませて写真を撮っていく。
皿に綺麗に並べられた肉とサラダと真っ赤な色のカクテルジュース。渡された目当ての特典とランダムのコースターが入った銀紙。
そう、ここは春樹が好きな乙女ゲームのコラボカフェである。特典目当ては一番の推しであるアフェクの書下ろしポスターカードであり、ランダムにキャラが入っているコースターでアフェクを引き当てる事だ。
もちろんメニューも最推しである「アフェクの豪快肉焼きプレート』である。ゲームと違って綺麗にサラダと少しの肉が盛り付けられ、小ぶりの丸いパンが添えられている。
ま、ゲームと現実は違うものだし、女性中心のゲームコラボ飯に本格的ガッツリ系は流石に出さないのだろうと心の中で納得させる。
右側に置かれた銀色の袋を裂いて、中身を拝見すると銀髪に毛先にほんのりと青みが掛かった吊り目の二頭身で描かれたキャラが腕組をしてるイラスト。
(・・・えええ、アルカかよ・・・)
主人公で最推しのアフェクの邪魔をしてくるいわゆる悪役子息だ。人気が出てきたせいなのかPCゲームから家庭用機に移植された際に攻略出来るようになったとか聞いた。聞いたというよりネットで読んだだけで、家庭用機はまだ未プレイで積んでるからだ。
アフェクのポスターカードとアルカのコースター。
(ある意味すごいのかな・・・?)
主人公と主人公の邪魔をする悪役で二人は従弟で仲が悪い。
ぼんやりと考えながら運ばれた料理が冷めぬうちに食べてしまおう、と箸を手に取り進めていく。
全て完食して店を後にし、ふらふらとゲームショップやアニメグッズを見て回ると明るかった空が暗くなっていた。
(日が沈むのが遅くなったとはいえもう19時か)
晩御飯に弁当でも買って帰るか、と赤い看板で目立つ牛丼屋へと足を進めていく。店内はちらほらと人がいるものの頼んだ品物は待たされる事もなく、受け取り勘定を済ませてさっさと帰路につく。
俯いて交差点の赤信号を待つ。音楽が鳴る。青信号の知らせに歩き始める。
この交差点は人が多く、ぶつからないように潜り抜けたところで肩がぶつかったりするのだ。いつもなら。今日はそんなに人が少なかっただろうか?と渡り切ったところで顔を上げると小さな何かが空から降ってきた。
綺麗な煌びやかな小さな何かが。
思わず手をそっと出すと何かがふわっと降りてくる。
薄い青と銀の光が混じった小さな金平糖のような星が。
(・・・・・なにこれ)
手に乗った瞬間に銀色と青の光が消え、曇った灰色の色に変わってしまった。
よく分からない物体を凝視していたが周りの人も目撃しているはずだ、と周りを見渡すと誰もいなかった。
(・・・・え・・・・はぁ????)
誰もいないのだ。大きな交差点。歩道。車道。見渡し限り人がいない。発見出来ない。
そんなはずない。人が一人もいないなんてことあるはずがないのだ。
「・・・・・見つけた」
後ろから聞こえた声に驚いて、振り返ろうとして両耳を抑えるように阻止される。強引にその手を剥がそうと身を引いたり、腕を掴もうとするのに上手く力が入らない。
「っんだよっ・・・!だれ・・・だっ!!」
なんでだ。体が強張って動き辛い。
後ろの奴の手が耳から自分の手へと伸びる。視界のみで確認すると細く不健康的に白い肌。手首に数珠のようなものをはめている。
「・・・っ・・く・・早くしないと・・・・」
春樹の手にまだある金平糖らしき何を手ごと強く握られる。少し尖っているせいか掌に痛みが走る。
息が少し荒くなっていく後ろの奴をどうにか振り払えないか全身に力を入れようとするが全く言うことを聞いてくれない。自分の体のはずなのに。
何が起こっているのか、さっぱりわからない状態で耳元でぼそぼそと何かに耐えているように途切れ途切れの何かを言っている。聞いたことが無い言葉で。
「・・・・はっなせ・・・!!」
一言放すだけで腹が痛くなり、胃の中から這い上がってきそうになる。
奴が何かを言ってる時にまた金平糖が光輝いてくる、先ほどとは違う青色に金色の光が。光れば光るほど何故か春樹の体から力が抜け、先ほどの強張りが嘘のようだ。
立っている事も困難になり、膝から崩れ落ちる。奴の手は春樹の体から離れ、自由の身になる。力の抜けた掌から光り輝く金平糖が小さくカランっと地面に落ちる。
カツン、と靴音が耳に届く。後ろにいた奴は、春樹の隣に移動し落ちた金平糖を拾う。
一体誰なんだ、と歯を食いしばり何とか見上げると線の細く白さを越して青白い肌。肩を越した位の透き通る銀色が毛先に掛けて淡い青のグラーデーション。黒蜜のような瞳を細め、小さな唇を歪めて笑う人物に目を見開いてしまった。
「これで・・・・」
「・・・・っ!!」
驚きで声が出ない。あんぐりと開けた口を閉じる事もせず、その人物を凝視してしまう。だって自分のよく知る人物にそっくりで。
周りの景色がぐりゃりと歪んで亀裂が入る。
(次は一体なに)
次から次へと可笑しな事ばかりが始まる。
その何も映さない闇から一人の小柄な少女が現れる。
(・・・・・夢・・・)
そう夢でなければこんな事起きるはずがない。
体の強張り、肺の痛みは本物のように感じるが。
「これは契約違反です!アームをその方にお返し下さい」
「はっ・・・・何を言っている?契約違反?戯けた事を言う・・・管理者とあろう者が呆れる。お前らが作った手段だろう。これが」
段々力が抜けていく。何やら言っているが意識が遠のくせいで良く聞き取れない。
(これは、どこから夢だったんだろう・・・・か)
そうだ。東京の交差点で人が全くいないなんてあるはずがない。しかも祝日に。
何か言い合ってる二人。春樹の好きな乙女ゲームのキャラにそっくりだとか。
「・・・・でしたら叶えて差し上げますわ。貴方の意思は組みませんが」
少女が杖らしき何を振り回すと虹色の光を発し、春樹の体を取り囲むとふわっと浮き立ち上がらせる。足をギリギリ地面についてる程度だ。
「・・・・・?なにを」
銀髪が怪訝そうに眉を顰め、少女は微笑む。杖の先端を地面に強く叩くと先ほどまでいなかった人々が現れ、日常になった風景が戻ってくる。
突っ立って状態の春樹を邪魔そうに避けていく通行人は居ても銀髪の男や少女は見えていないのか素通りしていく。誰も気に留めもせず。
少女が虹色の光を纏う杖を左へと振った。
「・・・・・え・・・・?」
間抜けな声が出た。だって、杖を左に振ったと同時に春樹の体も左に吹っ飛んだのだ。ゆっくりと流れる景色の中で驚く通行人と慌てる銀髪の・春樹がよく知るキャラであるアルカ・スパイトフル。あとは光眩しく照らすトラックだけだった。
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