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修行の刻
第4話 師匠との出会い
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――フェニックス家を追い出されてから5日後。
僕は王都の下町で逃げ回って過ごしていた。
どうして逃げているかって?
……それは、父上が追放することに飽き足らず、ごろつきの傭兵を3人も差し向けてきたからだ。
どうやら僕のことを完全に始末することにしたらしい。
今更ながら、フェニックス家の矜持というものが、如何に父上の偏った思想を体現したものであったのかを思い知らされた。
「ハァ……ハァ……。実の息子に普通はここまでしないだろぉぉぉぉぉぉ」
運動もほとんどしてこなかったため、足が速い訳でもなくスタミナもない。
ましてや幼い子供の身体で、ろくに飲み食いも出来ていなかったので、意識が朦朧とし歩くことすら苦しい状態に陥っていた。
やっとの思いで下町の裏通りに逃げ込んだが最後、そこから一歩も動くことが出来なくなってしまった。
「へへ、アニキ! こいつちょこまかとウザかったけど、やっと追い詰めやしたね」
「ガキ1人相手に前払いで金貨1000枚。成功報酬で更に金貨2000枚なんてチョロすぎてヤバいっすよね。こんな仕事を受けれるなんて、さすがはアニキっす」
僕1人を始末するのに、そこまでお金を掛けてたのか。
ちょっとした贅沢をしても、金貨1枚で1ヶ月は暮らせるぞ?
「へへ、オマエら褒めすぎだよ。ってことで悪いなガキ。キサマに恨みはないがこれも俺たちの仕事なんだ。観念しなッ!」
アニキと呼ばれた男からそう告げられると、手下の2人を含め、手にした曲刀をギラつかせる。
そして距離が詰められ、僕の頭上に鋼の刃が振り下ろされた。
クソッ、クソッ!!
本当にここで終わってしまうのか?!
僕の人生はこんなところで――。
両眼を瞑り、死を覚悟した――その時。
「ギャッ……」
「グェッ……」
「グホォ……」
ごろつき3人組がほぼ同時に悲鳴を上げたのが聞こえてきた。
え?
一体何が起こって……?!
開けた瞳に映し出されたのは、遠方にぶっ飛ばされたごろつき3人組の姿。
そして目の前には漆黒のドレスを身に纏い、見慣れない独特の羽織が風に揺らめく黒髪の女性の姿があった。
そしてその羽織の背中には大きく――『帝』の文字が刻まれていた。
***
『帝』……ってまさか?!
魔法師の中でも、属性ごとにその魔法を極めし最強の魔法師が存在すると言われ、英雄視されている。
その星に導かれし九属性の頂点に君臨する魔法師たちを、総称で『星帝九大魔法師』と言い、個々には『帝』の名で呼ばれていたのだ。
説明は出来ないが、佇まいに雰囲気……そして羽織に書かれた『帝』の文字から僕の心の中で、このお姉さんは『星帝九大魔法師』の一人であると感じた。
「ねぇ怪我はない? 大丈夫?」
「大丈夫……です」
アメジストのような綺麗な紫色の瞳に目を奪われてしまい、相槌を打つような返答しかできなかった。
「あなた、リオン・フェニックスくんでしょ? いえ、家を追い出されたなら、もうただのリオンなのかしら?」
どうやら漆黒のお姉さんは、僕の身の回りに起こった出来事について既に把握しているらしい。
僕が返事に困っていると、彼女はそのまま話を続けた。
「私はクロカ・クローディア。『神星アステル魔法学園』の先生よ」
「え、でもだって……背中の文字が……」
消え入りそうな声で話すと、クロカは驚いた表情をみせた。
「そう。幼いのに随分と賢いのね。先生なのは表向きの顔だけよ。これは私とあなただけの秘密にしてほしいのだけれど――私は『星帝九大魔法師』の一人『闇之帝』よ」
やっぱり僕の思った通り、この人は『帝』なんだ。
『闇之帝』――闇属性の頂点に立つ魔法師。
こんなにすごい人なら、僕みたいな無能でもマシになるためのアドバイスがもらえるかもしれない……!
ずっと弱いままの自分は嫌だ……。
そう考えた僕は質問してみることにした。
「あの……。クロカ先生、お尋ねしてもいいですか?」
「いいわよ。何かしら?」
「僕は――強くなりたいです……。今みたいに虐げられて、誰かに守られる存在より、誰かを守る存在になりたい。どうすれば、先生みたいに強くなれますか?!」
クロカ先生は少し考えた後、静かに応えかけてくれる。
「本当は自分で考えなさいと言うべきなんでしょうけど、あなたは特殊すぎるものね。――これから不満を言うことなく私の言う通りにできると誓えるかしら?」
「ちか……誓います。僕は本気なんです!」
クロカ先生は、そう答える僕の目をジッと見つめ……そして頷いてくれた。
「もし、死ぬ気で這い上がる気力があるなら、私の言う通りにしなさい。今日から睡眠時間は3時間。毎日腕立て、腹筋、スクワット、そして全力で走り続けること。あなたの気絶する【ヒール】を使いながらね」
なっ!
そんなのできる訳ない……。
いやでも不満を言っちゃダメだ。
……やってやる!
『帝』であるこの人がそう言うなら、信じるしかない。
絶対にやり遂げてみせる!
僕は決意を固め、真剣な表情で首を縦に振る。
「ふふっ、なら決まりね。……でもその前に、今日はゆっくり休みなさい。家を追い出されてから、随分辛かったでしょう」
そう話すクロカ先生は、僕を引き寄せるとギュッと抱きしめてくれた。
シャンプーの良い香りと人肌の温もりを感じ、急に安心感を覚えた僕の瞳からは自然と涙が溢れていた。
「う、ううぅぅぅぁぁぁ………。うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
無能と蔑まれ、家族に切り捨てられ、命を狙われ続けた5日間。
その5日間は、まさしく数ヶ月とも感じるほどの長い地獄の日々だった。
――その地獄からようやく解放された瞬間だった。
その日から僕はクロカ師匠の家に住まわせてもらうことになる。
5日ぶりのホカホカご飯に、温かいお風呂。改めて生きることの有り難さを実感し、身に染み渡るような至福の時間を過ごした。
そしてふかふかのベッドを堪能するかのように、あっという間に眠りについてしまった。
「ゆっくりおやすみなさい。リオン」
そう呟くクロカ師匠の優しい声と手の温もりを額に感じながら……。
僕は王都の下町で逃げ回って過ごしていた。
どうして逃げているかって?
……それは、父上が追放することに飽き足らず、ごろつきの傭兵を3人も差し向けてきたからだ。
どうやら僕のことを完全に始末することにしたらしい。
今更ながら、フェニックス家の矜持というものが、如何に父上の偏った思想を体現したものであったのかを思い知らされた。
「ハァ……ハァ……。実の息子に普通はここまでしないだろぉぉぉぉぉぉ」
運動もほとんどしてこなかったため、足が速い訳でもなくスタミナもない。
ましてや幼い子供の身体で、ろくに飲み食いも出来ていなかったので、意識が朦朧とし歩くことすら苦しい状態に陥っていた。
やっとの思いで下町の裏通りに逃げ込んだが最後、そこから一歩も動くことが出来なくなってしまった。
「へへ、アニキ! こいつちょこまかとウザかったけど、やっと追い詰めやしたね」
「ガキ1人相手に前払いで金貨1000枚。成功報酬で更に金貨2000枚なんてチョロすぎてヤバいっすよね。こんな仕事を受けれるなんて、さすがはアニキっす」
僕1人を始末するのに、そこまでお金を掛けてたのか。
ちょっとした贅沢をしても、金貨1枚で1ヶ月は暮らせるぞ?
「へへ、オマエら褒めすぎだよ。ってことで悪いなガキ。キサマに恨みはないがこれも俺たちの仕事なんだ。観念しなッ!」
アニキと呼ばれた男からそう告げられると、手下の2人を含め、手にした曲刀をギラつかせる。
そして距離が詰められ、僕の頭上に鋼の刃が振り下ろされた。
クソッ、クソッ!!
本当にここで終わってしまうのか?!
僕の人生はこんなところで――。
両眼を瞑り、死を覚悟した――その時。
「ギャッ……」
「グェッ……」
「グホォ……」
ごろつき3人組がほぼ同時に悲鳴を上げたのが聞こえてきた。
え?
一体何が起こって……?!
開けた瞳に映し出されたのは、遠方にぶっ飛ばされたごろつき3人組の姿。
そして目の前には漆黒のドレスを身に纏い、見慣れない独特の羽織が風に揺らめく黒髪の女性の姿があった。
そしてその羽織の背中には大きく――『帝』の文字が刻まれていた。
***
『帝』……ってまさか?!
魔法師の中でも、属性ごとにその魔法を極めし最強の魔法師が存在すると言われ、英雄視されている。
その星に導かれし九属性の頂点に君臨する魔法師たちを、総称で『星帝九大魔法師』と言い、個々には『帝』の名で呼ばれていたのだ。
説明は出来ないが、佇まいに雰囲気……そして羽織に書かれた『帝』の文字から僕の心の中で、このお姉さんは『星帝九大魔法師』の一人であると感じた。
「ねぇ怪我はない? 大丈夫?」
「大丈夫……です」
アメジストのような綺麗な紫色の瞳に目を奪われてしまい、相槌を打つような返答しかできなかった。
「あなた、リオン・フェニックスくんでしょ? いえ、家を追い出されたなら、もうただのリオンなのかしら?」
どうやら漆黒のお姉さんは、僕の身の回りに起こった出来事について既に把握しているらしい。
僕が返事に困っていると、彼女はそのまま話を続けた。
「私はクロカ・クローディア。『神星アステル魔法学園』の先生よ」
「え、でもだって……背中の文字が……」
消え入りそうな声で話すと、クロカは驚いた表情をみせた。
「そう。幼いのに随分と賢いのね。先生なのは表向きの顔だけよ。これは私とあなただけの秘密にしてほしいのだけれど――私は『星帝九大魔法師』の一人『闇之帝』よ」
やっぱり僕の思った通り、この人は『帝』なんだ。
『闇之帝』――闇属性の頂点に立つ魔法師。
こんなにすごい人なら、僕みたいな無能でもマシになるためのアドバイスがもらえるかもしれない……!
ずっと弱いままの自分は嫌だ……。
そう考えた僕は質問してみることにした。
「あの……。クロカ先生、お尋ねしてもいいですか?」
「いいわよ。何かしら?」
「僕は――強くなりたいです……。今みたいに虐げられて、誰かに守られる存在より、誰かを守る存在になりたい。どうすれば、先生みたいに強くなれますか?!」
クロカ先生は少し考えた後、静かに応えかけてくれる。
「本当は自分で考えなさいと言うべきなんでしょうけど、あなたは特殊すぎるものね。――これから不満を言うことなく私の言う通りにできると誓えるかしら?」
「ちか……誓います。僕は本気なんです!」
クロカ先生は、そう答える僕の目をジッと見つめ……そして頷いてくれた。
「もし、死ぬ気で這い上がる気力があるなら、私の言う通りにしなさい。今日から睡眠時間は3時間。毎日腕立て、腹筋、スクワット、そして全力で走り続けること。あなたの気絶する【ヒール】を使いながらね」
なっ!
そんなのできる訳ない……。
いやでも不満を言っちゃダメだ。
……やってやる!
『帝』であるこの人がそう言うなら、信じるしかない。
絶対にやり遂げてみせる!
僕は決意を固め、真剣な表情で首を縦に振る。
「ふふっ、なら決まりね。……でもその前に、今日はゆっくり休みなさい。家を追い出されてから、随分辛かったでしょう」
そう話すクロカ先生は、僕を引き寄せるとギュッと抱きしめてくれた。
シャンプーの良い香りと人肌の温もりを感じ、急に安心感を覚えた僕の瞳からは自然と涙が溢れていた。
「う、ううぅぅぅぁぁぁ………。うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
無能と蔑まれ、家族に切り捨てられ、命を狙われ続けた5日間。
その5日間は、まさしく数ヶ月とも感じるほどの長い地獄の日々だった。
――その地獄からようやく解放された瞬間だった。
その日から僕はクロカ師匠の家に住まわせてもらうことになる。
5日ぶりのホカホカご飯に、温かいお風呂。改めて生きることの有り難さを実感し、身に染み渡るような至福の時間を過ごした。
そしてふかふかのベッドを堪能するかのように、あっという間に眠りについてしまった。
「ゆっくりおやすみなさい。リオン」
そう呟くクロカ師匠の優しい声と手の温もりを額に感じながら……。
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