最強物理の治癒魔法師〜ザコ【ヒール】しか使えず無能と呼ばれた少年が筋トレで鍛えたら物理的に無双できるようになりました〜

月夜美かぐや

文字の大きさ
上 下
4 / 4
修行の刻

第4話 師匠との出会い

しおりを挟む
 ――フェニックス家を追い出されてから5日後。

 僕は王都の下町で逃げ回って過ごしていた。

 どうして逃げているかって?
 ……それは、父上が追放することに飽き足らず、ごろつきの傭兵を3人も差し向けてきたからだ。

 どうやら僕のことを完全に始末することにしたらしい。

 今更ながら、フェニックス家の矜持というものが、如何に父上の偏った思想を体現したものであったのかを思い知らされた。

「ハァ……ハァ……。実の息子に普通はここまでしないだろぉぉぉぉぉぉ」

 運動もほとんどしてこなかったため、足が速い訳でもなくスタミナもない。
 ましてや幼い子供の身体で、ろくに飲み食いも出来ていなかったので、意識が朦朧とし歩くことすら苦しい状態に陥っていた。

 やっとの思いで下町の裏通りに逃げ込んだが最後、そこから一歩も動くことが出来なくなってしまった。

「へへ、アニキ! こいつちょこまかとウザかったけど、やっと追い詰めやしたね」
「ガキ1人相手に前払いで金貨1000枚。成功報酬で更に金貨2000枚なんてチョロすぎてヤバいっすよね。こんな仕事を受けれるなんて、さすがはアニキっす」


 僕1人を始末するのに、そこまでお金を掛けてたのか。
 ちょっとした贅沢をしても、金貨1枚で1ヶ月は暮らせるぞ?


「へへ、オマエら褒めすぎだよ。ってことで悪いなガキ。キサマに恨みはないがこれも俺たちの仕事なんだ。観念しなッ!」

 アニキと呼ばれた男からそう告げられると、手下の2人を含め、手にした曲刀をギラつかせる。

 そして距離が詰められ、僕の頭上に鋼の刃が振り下ろされた。


 クソッ、クソッ!!
 本当にここで終わってしまうのか?!
 僕の人生はこんなところで――。


 両眼を瞑り、死を覚悟した――その時。

「ギャッ……」
「グェッ……」
「グホォ……」

 ごろつき3人組がほぼ同時に悲鳴を上げたのが聞こえてきた。


 え?
 一体何が起こって……?!


 開けた瞳に映し出されたのは、遠方にぶっ飛ばされたごろつき3人組の姿。

 そして目の前には漆黒のドレスを身に纏い、見慣れない独特の羽織が風に揺らめく黒髪の女性の姿があった。

 そしてその羽織の背中には大きく――『みかど』の文字が刻まれていた。


 ***


みかど』……ってまさか?!

 魔法師の中でも、属性ごとにその魔法を極めし最強の魔法師が存在すると言われ、英雄視されている。

 その星に導かれし九属性の頂点に君臨する魔法師たちを、総称で『星帝九大魔法師』と言い、個々には『みかど』の名で呼ばれていたのだ。

 説明は出来ないが、佇まいに雰囲気……そして羽織に書かれた『帝』の文字から僕の心の中で、このお姉さんは『星帝九大魔法師』の一人であると感じた。

「ねぇ怪我はない? 大丈夫?」
「大丈夫……です」

 アメジストのような綺麗な紫色の瞳に目を奪われてしまい、相槌を打つような返答しかできなかった。

「あなた、リオン・フェニックスくんでしょ? いえ、家を追い出されたなら、もうただのリオンなのかしら?」

 どうやら漆黒のお姉さんは、僕の身の回りに起こった出来事について既に把握しているらしい。

 僕が返事に困っていると、彼女はそのまま話を続けた。

「私はクロカ・クローディア。『神星アステル魔法学園』の先生よ」
「え、でもだって……背中の文字が……」

 消え入りそうな声で話すと、クロカは驚いた表情をみせた。

「そう。幼いのに随分と賢いのね。先生なのは表向きの顔だけよ。これは私とあなただけの秘密にしてほしいのだけれど――私は『星帝九大魔法師』の一人『闇之帝』よ」


 やっぱり僕の思った通り、この人は『帝』なんだ。
『闇之帝』――闇属性の頂点に立つ魔法師。
 こんなにすごい人なら、僕みたいな無能でもマシになるためのアドバイスがもらえるかもしれない……!
 ずっと弱いままの自分は嫌だ……。


 そう考えた僕は質問してみることにした。

「あの……。クロカ先生、お尋ねしてもいいですか?」
「いいわよ。何かしら?」
「僕は――強くなりたいです……。今みたいに虐げられて、誰かに守られる存在より、誰かを守る存在になりたい。どうすれば、先生みたいに強くなれますか?!」


 クロカ先生は少し考えた後、静かに応えかけてくれる。

「本当は自分で考えなさいと言うべきなんでしょうけど、あなたは特殊すぎるものね。――これから不満を言うことなく私の言う通りにできると誓えるかしら?」
「ちか……誓います。僕は本気なんです!」

 クロカ先生は、そう答える僕の目をジッと見つめ……そして頷いてくれた。

「もし、死ぬ気で這い上がる気力があるなら、私の言う通りにしなさい。今日から睡眠時間は3時間。毎日腕立て、腹筋、スクワット、そして全力で走り続けること。あなたの気絶する【ヒール】を使いながらね」


 なっ!
 そんなのできる訳ない……。
 いやでも不満を言っちゃダメだ。
 ……やってやる!
『帝』であるこの人がそう言うなら、信じるしかない。
 絶対にやり遂げてみせる!


 僕は決意を固め、真剣な表情で首を縦に振る。


「ふふっ、なら決まりね。……でもその前に、今日はゆっくり休みなさい。家を追い出されてから、随分辛かったでしょう」

 そう話すクロカ先生は、僕を引き寄せるとギュッと抱きしめてくれた。

 シャンプーの良い香りと人肌の温もりを感じ、急に安心感を覚えた僕の瞳からは自然と涙が溢れていた。

「う、ううぅぅぅぁぁぁ………。うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 無能と蔑まれ、家族に切り捨てられ、命を狙われ続けた5日間。
 その5日間は、まさしく数ヶ月とも感じるほどの長い地獄の日々だった。

 ――その地獄からようやく解放された瞬間だった。




 その日から僕はクロカ師匠の家に住まわせてもらうことになる。

 5日ぶりのホカホカご飯に、温かいお風呂。改めて生きることの有り難さを実感し、身に染み渡るような至福の時間を過ごした。
 そしてふかふかのベッドを堪能するかのように、あっという間に眠りについてしまった。


「ゆっくりおやすみなさい。リオン」

 そう呟くクロカ師匠の優しい声と手の温もりを額に感じながら……。




しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

転生しても山あり谷あり!

tukisirokou
ファンタジー
「転生前も山あり谷ありの人生だったのに転生しても山あり谷ありの人生なんて!!」 兎にも角にも今世は “おばあちゃんになったら縁側で日向ぼっこしながら猫とたわむる!” を最終目標に主人公が行く先々の困難を負けずに頑張る物語・・・?

処理中です...