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第17話 クレイジーサイコレズ
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「あー終わった終わった」
肩をぐるぐる回しながら、帰路を進む和奏。本日の訓練――もといレッスンは終了。エミル先生にしっかりとしごかれた。普段から身体を動かすことに余念のない和奏ではあるが、いつもとは違う筋肉を使うとなると、疲労も一入である。
「楽しかったなぁ。へへっ。みんなとリズムに合わせると一体感っていうのかな、ああいうのいいよなぁ」
にやける和奏。
そんな彼女が「あん?」と、足を止める。
進行方向に、いかにもチーマーといった感じの男が五人。和奏を見ていた。関わりたくないので回れ右。喧嘩は強くても好きではない。避けられるなら避けるのだ。
「にゃ?」
だが、そんな和奏の逃げ道を塞ぐように、背後からも複数人のチーマーが現れる。
「この女か?」「だべ? 胸のあるイケメン。そのまんまじゃねえか」「拉致ったあとは好きにしていいんだよな?」「これで金がもらえるなら、美味しいねぇ」
物騒な言葉が並べられる。
うーん。ちょっと面倒くさいな。
「はぁい、和奏ちゃんだよね? 悪いけど、お兄さんたちと一緒に来てもらえるかな?」
「京史郎の関係っすか?」
「京史郎? んー。そうでーす。京史郎のトモダチでーす」
――この態度で、トモダチってことはないよな。
「あたしを人質にしたところで、あいつは気にしないっすよ」
「あ、そう? ま、いいよどうでも。素直に言うこと聞かないと、しばらく学校行けなくなっちゃうぞぉ。っていうか、一生学校行けなくなっちゃうぞぉ」
「参ったなぁ……」
「じゃ、あっちに車があるから――」
「いや、ゴメンだけど、京史郎へのクレームは本人に直接頼むわ。――じゃ」
和奏は、二メートル以上ある塀に向かって跳躍する。指をかけると、身体を引き寄せるようにして、一気に飛び越えるのだった。
「待て!」「嘘だろ! こんな壁、どうやって――」「回り込め! あの人に殺されんぞ!」
☆
塀を飛び越せる者はおらず。追跡は不可能。チーマー連中も半ばあきらめ気味なのか、追いかけるフリはすれど、早々に足を止めて野次を飛ばしているだけ――。
その一部始終を眺めていたのは唯坂心音。
路地の見える喫茶店。ビルの二階にあるそれの窓際の席で、溜息をこぼす。
「うーん……厄介だなぁ」
和奏を『恋のライバル』と認識しているのだと、心音も自覚していた。心音にとって、自分以外の人間はNPCと変わらない。システム的に、こうすればこうなるというパターンがシンプルに当てはまる。それが人間。
――だが、和奏は違う。
「――お待たせいたしました。メロンパフェになります」
注文していたスイーツが運ばれてくる。心音は機嫌よく言葉を飛ばす。
「ありがとう、店員さん。ふふっ。私、メロンが大好物なんですよ。昔は苺がいちばんだったんですけどね。やっぱ、色がいいですよね」
「そうなのですね。味の方も気に入っていただけたら幸いです」
そんな他愛のない会話を交わし、再びチーマー連中の方を観察する。
恐怖を与えれば逃げ出す。心がへし折れるまで肉体を痛めつければ、逆らわなくなる。それがテンプレだ。和奏はその外にいる。それが鬱陶しくもあり、嬉しくもある。これ以上ない恋のイベントだ。
彼女を壊すことによって、京史郎への愛もステップアップする。そんな期待を抱いているのだと思う。ただ、いかにライバルといえど、これはゲーム。クリアできなければクソゲーである。どんな魔王でも裏ボスでも、時間と努力を重ねれば倒せなければならない。
その上で、討伐までのプロセスを楽しむのがゲームだ。だから、心音はチンピラを雇い、和奏を襲わせてみたのだが、どうやら一筋縄ではいかないらしい。
「喧嘩? 空手? 極道? 正義? ふふっ、この世で最強なのは『悪意』なんですよねぇ。殺人犯は殺人をするからこそ罰せられる。けど、殺人をする前にはどうすることもできない。悪意は、常に先手を取れるんです。その先手こそが必殺ならば、即ち最強なワケです」
正義の味方は、悪の組織が悪事をする前には懲らしめられない。さらに言えば、優しいヒーローは悪を始末しない。アンパンを擬人化したヒーローだって、バイキンにトドメを刺さないから、悪事は繰り返されるのだ。
「悪意が最強ですか……。理屈は間違ってないと思いますが、モラル的にはいけませんね」
心音の独り言を聞いていたのか、先程の店員が苦言を呈してきた。
「んー? だめですよぅ、店員さんが盗み聞きなんかしちゃ。お説教もいけないんですからね。パフェがまずくなっちゃいます」
「――店員さんならね」
ウェイトレスは、後頭部で纏めてあった髪を解き、眼鏡を外した。すると、心音のよく知る顔が現れたではないか。
「穂織……せん、ぱい……?」
「気がついてなかったみたいだね。サイトのプロフィール読んでないのかな? 私の『特技』はコスプレだよ?」
穂織は、心音の正面の席へと勝手に腰掛ける。気がつかなかったのは事実だ。これはもはやコスプレというよりも、変装と言った方がいい。
衣装だけでなく髪や眼鏡などの小道具。さらにはメイクなども、普段とは若干ハズしており、雰囲気から変えている。
「……どうやって先回りしたんですか? 偶然バイトしてたとは思えませんけど」
「客として入っただけだよ」
穂織のあとをつけ、普通にお客として入店。店員の制服をチェックすると、鞄の中から似た衣装チョイスし着替えるだけ。
コックがパフェをつくり終えたのを見計らって、店員のフリをして受け取り、心音のもとへと運んだ。あまりに堂々と振る舞うので、誰ひとりとして彼女が店員であるコトに疑いを持たなかったのだろう。
「全部見てたよ。ちょっと悪戯がすぎるね。悪いけど、ゲームはこれっきりにしようか――」
肩をぐるぐる回しながら、帰路を進む和奏。本日の訓練――もといレッスンは終了。エミル先生にしっかりとしごかれた。普段から身体を動かすことに余念のない和奏ではあるが、いつもとは違う筋肉を使うとなると、疲労も一入である。
「楽しかったなぁ。へへっ。みんなとリズムに合わせると一体感っていうのかな、ああいうのいいよなぁ」
にやける和奏。
そんな彼女が「あん?」と、足を止める。
進行方向に、いかにもチーマーといった感じの男が五人。和奏を見ていた。関わりたくないので回れ右。喧嘩は強くても好きではない。避けられるなら避けるのだ。
「にゃ?」
だが、そんな和奏の逃げ道を塞ぐように、背後からも複数人のチーマーが現れる。
「この女か?」「だべ? 胸のあるイケメン。そのまんまじゃねえか」「拉致ったあとは好きにしていいんだよな?」「これで金がもらえるなら、美味しいねぇ」
物騒な言葉が並べられる。
うーん。ちょっと面倒くさいな。
「はぁい、和奏ちゃんだよね? 悪いけど、お兄さんたちと一緒に来てもらえるかな?」
「京史郎の関係っすか?」
「京史郎? んー。そうでーす。京史郎のトモダチでーす」
――この態度で、トモダチってことはないよな。
「あたしを人質にしたところで、あいつは気にしないっすよ」
「あ、そう? ま、いいよどうでも。素直に言うこと聞かないと、しばらく学校行けなくなっちゃうぞぉ。っていうか、一生学校行けなくなっちゃうぞぉ」
「参ったなぁ……」
「じゃ、あっちに車があるから――」
「いや、ゴメンだけど、京史郎へのクレームは本人に直接頼むわ。――じゃ」
和奏は、二メートル以上ある塀に向かって跳躍する。指をかけると、身体を引き寄せるようにして、一気に飛び越えるのだった。
「待て!」「嘘だろ! こんな壁、どうやって――」「回り込め! あの人に殺されんぞ!」
☆
塀を飛び越せる者はおらず。追跡は不可能。チーマー連中も半ばあきらめ気味なのか、追いかけるフリはすれど、早々に足を止めて野次を飛ばしているだけ――。
その一部始終を眺めていたのは唯坂心音。
路地の見える喫茶店。ビルの二階にあるそれの窓際の席で、溜息をこぼす。
「うーん……厄介だなぁ」
和奏を『恋のライバル』と認識しているのだと、心音も自覚していた。心音にとって、自分以外の人間はNPCと変わらない。システム的に、こうすればこうなるというパターンがシンプルに当てはまる。それが人間。
――だが、和奏は違う。
「――お待たせいたしました。メロンパフェになります」
注文していたスイーツが運ばれてくる。心音は機嫌よく言葉を飛ばす。
「ありがとう、店員さん。ふふっ。私、メロンが大好物なんですよ。昔は苺がいちばんだったんですけどね。やっぱ、色がいいですよね」
「そうなのですね。味の方も気に入っていただけたら幸いです」
そんな他愛のない会話を交わし、再びチーマー連中の方を観察する。
恐怖を与えれば逃げ出す。心がへし折れるまで肉体を痛めつければ、逆らわなくなる。それがテンプレだ。和奏はその外にいる。それが鬱陶しくもあり、嬉しくもある。これ以上ない恋のイベントだ。
彼女を壊すことによって、京史郎への愛もステップアップする。そんな期待を抱いているのだと思う。ただ、いかにライバルといえど、これはゲーム。クリアできなければクソゲーである。どんな魔王でも裏ボスでも、時間と努力を重ねれば倒せなければならない。
その上で、討伐までのプロセスを楽しむのがゲームだ。だから、心音はチンピラを雇い、和奏を襲わせてみたのだが、どうやら一筋縄ではいかないらしい。
「喧嘩? 空手? 極道? 正義? ふふっ、この世で最強なのは『悪意』なんですよねぇ。殺人犯は殺人をするからこそ罰せられる。けど、殺人をする前にはどうすることもできない。悪意は、常に先手を取れるんです。その先手こそが必殺ならば、即ち最強なワケです」
正義の味方は、悪の組織が悪事をする前には懲らしめられない。さらに言えば、優しいヒーローは悪を始末しない。アンパンを擬人化したヒーローだって、バイキンにトドメを刺さないから、悪事は繰り返されるのだ。
「悪意が最強ですか……。理屈は間違ってないと思いますが、モラル的にはいけませんね」
心音の独り言を聞いていたのか、先程の店員が苦言を呈してきた。
「んー? だめですよぅ、店員さんが盗み聞きなんかしちゃ。お説教もいけないんですからね。パフェがまずくなっちゃいます」
「――店員さんならね」
ウェイトレスは、後頭部で纏めてあった髪を解き、眼鏡を外した。すると、心音のよく知る顔が現れたではないか。
「穂織……せん、ぱい……?」
「気がついてなかったみたいだね。サイトのプロフィール読んでないのかな? 私の『特技』はコスプレだよ?」
穂織は、心音の正面の席へと勝手に腰掛ける。気がつかなかったのは事実だ。これはもはやコスプレというよりも、変装と言った方がいい。
衣装だけでなく髪や眼鏡などの小道具。さらにはメイクなども、普段とは若干ハズしており、雰囲気から変えている。
「……どうやって先回りしたんですか? 偶然バイトしてたとは思えませんけど」
「客として入っただけだよ」
穂織のあとをつけ、普通にお客として入店。店員の制服をチェックすると、鞄の中から似た衣装チョイスし着替えるだけ。
コックがパフェをつくり終えたのを見計らって、店員のフリをして受け取り、心音のもとへと運んだ。あまりに堂々と振る舞うので、誰ひとりとして彼女が店員であるコトに疑いを持たなかったのだろう。
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