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第14話 トマホーク京史郎
しおりを挟む「冗談じゃねえぞ! おまえには酷い目に遭わされたんだ! ぜってえ貸さねえ!」
「悪いな、ヤクザが関わると、店の評判が落ちるんだ」
「堅気になられたのはわかりますが、うちはチェーン店ですし、その……そういう系統の方々はお断りしてるんです」
「本日で廃業なんです! ごめんなさい! 殺さないでください!」
「ここであったが百年目! おい! 店の奥に斧があったろ斧! 持ってこい! こいつをぶっ殺すぞ」
「……あー、くそっ。ここも駄目か。これで十件目だぞ」
ライブハウス『マークメイカー』。そのカウンター席に腰掛けるのは榊原京史郎。
斧を担いだまま、気怠そうにスマホを弄る。彼の周囲には、半壊したテーブル、椅子。砕けた酒瓶。さらには、横たわる数多のゴロツキという、まるで銃撃戦でもあったかのような西部劇の酒場さながらの惨状。
断っておくが、京史郎は正当防衛である。麻思馬市にあるライブハウスを訪問して、デビューライブに店を使わせてもらえないかと交渉に回っているのだが、結果は散々。
断られるだけならマシ。罵詈雑言を浴びせられるのも、まあいいだろう。最悪なのは、この店のように斧で襲いかかってくるパターン。極道時代の恨みは根深いようだ。
「この……野郎……」
と、呻くのは、この店の荒くれ店主。床へと突っ伏している彼に、京史郎は飄々とした態度で尋ねる。
「なんで俺のこと恨んでんの?」
「以前、てめえが店で暴れて、どんだけのモノを壊したと思ってんだ!」
「そんなこともあったっけか? ……ああ、あったかも」
極道時代、この店から金をもらう代わりに、トラブルを解決していた。警察が関わると評判の落ちる店は、こういった用心棒代を払った方が、上手く行くこともある。
なので、たぶんだけどこの店で争いごとがあった時に、京史郎が関わったのだろう。酔っ払った客を暴力で抑えつけたような気がする。その時に、いろいろ壊したのだと思われる。争いごとなど日常茶飯事な前職だったので、いちいち覚えていなかった。
「弁償しなかったっけ?」
「してねえよ!」
それぐらい払うのが城島組だが、きっと兄貴分の誰かが着服したのだろう。ゆえに、暴れていた京史郎が恨まれているのだと思う。別にいいけど。
「ったく、次はどうすっかなぁ……。げ、この店がラストか」
京史郎は、荒くれ店主を足で軽くつつく。
「なあ、この辺りにライブハウスって他にないか? ネットに掲載されてるようなのは全部回ったんだが、不景気のせいか、どいつもこいつも機嫌が悪くてな。この際、アングラでもかまわねえから教えてくれよ」
「ねえよ! 知ってても教えるか――ひがッ!!」
ズガン。と、斧が床へと振り下ろされる。店長の顔スレスレにだ。
「斧。返しとくぜ。それとも返す場所、間違えたかな? あぁん?」
呑気に冗談を言っていると、窓の向こうに巡回中のおまわりさんが見えた。京史郎は軽く手を振ったが、斧を持った抹茶色の悪魔に、単身で突入する勇気はなかったのだろう。目が合ったにもかかわらず、見て見ぬフリをしてくれた。
「なあ、ライブハウス紹介してくれよ」
「ひ、あ……そ、そうだ! へへっ、茶縞通りに『バランタイナ』ってのがあった!」
「バランタイナ? ――バランタイナ、バランタイナ……んぁ~……サイトが見当たらねえぞ?」
検索してみたが、ネット上にそのような店はなかった。疑うように店長を見やると、彼は怯むように言い訳をする。
「ま、まだオープンしてねえからな」
「……適当なこと言ってねえだろうな?」
「噂にゃなってんだよ。し、信じられねえなら自分で確かめてみろ!」
「そっか。ま、そうだよな。……うっし、ありがとな。邪魔した。店をめちゃくちゃにしたのは悪かったよ。けど、そっちが喧嘩ふっかけてきたんだからな。俺ぁもう堅気だ。今後、こういうのは御免被りたいね」
京史郎は、スマホをポケットに戻して店を出る。
「あーあ。喧嘩が絶えねえなぁ。極道の時よりも身体動かしてんじゃねえか、ったく」
軽く伸びをする京史郎。毎日が喧嘩だ。せっかく、争いごととは無縁の世界に入ったのに、なぜこうも荒っぽい連中ばかりと関わってしまうのだろう。
すると、その時だった。道の向こうから、武装した警官隊が凄まじい勢いで迫ってきていた。
「いたぞ! 京史郎だ!」
「斧持ってましたよ、斧!」
「どさくさに紛れて殺してしまえッ!」
「撃てッ!」
「さすがに銃はマズいですって!」
ギョッとする京史郎。どうやら、さっきの警察が応援を連れてきたらしい。
「やっべ!」
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