37 / 55
第36話 魔物経済特区
しおりを挟む
というわけで、テスラはファンサたちと一緒に繁華街へ。適当なレストランに足を運び、四人でテーブルを囲むことにする。
「なんというか、静かな町だな」
食事をしている人たちは楽しんでいるようなのだが、コックやウェイトレスは、あまり楽しそうではなかった。
「クレルハラートの町は公営事業で成り立っています。ゆえに、民のモチベーションが低いのです」
ファンサが説明してくれる。
「というと、このレストランも、スピネイルが経営しているのか?」
「スピネイル卿か、あるいはその親族でしょう。領主がすべてを掌握することで、効率の良い経済成長を推進しておられるのです。貧富の差が少なく、安定した生活を送ることができます」
「要するに、食いっぱぐれる心配がないということか」
「はい、働けなくなっても保証があります。結婚すれば、世帯あたりの収入が倍になりますので、生活は非常に豊かです。子供が生まれたら、収入はさらに増えます」
結婚すれば暮らしが楽になる。子をつくればさらに楽になる。ゆえに、家族を成すのがこの町では普通のようだ。なるほど少子化対策の参考になるとテスラは思った。
問題は『生活』に優れていても『仕事』の価値が低いことか。好きな仕事を思い切りやっても評価は一緒。賃金も変わらない。出世したところで『役目』が変わるだけ。どうしてもモチベーションが下がる。
「魔物による産業には、どういうものがある?」
「有名なのは『魔物園』ですね。他国では飼育できなかったはずの魔物が、クレルハラートでは日常的に鑑賞することができます。学院でも興味のある生徒が多くて、ね?」
生徒たちに尋ねるファンサ。すると、トニークが答えてくれる。
「魔物ショップも多く展開しているんですよ。この前、友人がこの町でフレイムホウホウの雛を買って、自慢していましたよ」
この町だと、魔物をペットにしている人たちは多いらしい。飼育ノウハウも確立できているし、それに関する書籍なども大量に出版されている。勤勉な学者にとっては興味深い町でもあるようだ。
「あとは、料理ですね」
ちょうどそのタイミングで、ウェイターが巨大な皿に丸々一羽を唐揚げにした、料理を持ってくる。
「ウイングバードの丸ごとフライになります」
風魔法を使える珍しい鳥――というか魔物だ。
ちなみに、動物と魔物の違いは、構造自体にあまり違いはない。太古の昔、魔王という存在がいた時、魔王に従って人間に敵意を持った生物が魔物である。要するに、魔王に従う習性を持っていると、魔物と認定される。
テスラは、ウイングバードのモモ肉を引きちぎり、むしゃりとかぶりつく。
「うむ、悪くはない」
忖度のない感想である。だが、やはり鶏の方が美味い。まあ、牛豚鶏に勝る畜産物はないだろう。たまにダチョウや鹿肉、猪肉などを商人がたまに仕入れたりするが、本当にそちらの方が美味なら、それらをメインに世界は飼育している。飼育しやすく美味いからこそ牛豚鶏を中心に飼育しているのだ。
「コストを考えなければ、美味な食材も多くあります。さらにいえば、クランバルジュはそれらの食材に調理法にもすぐれております。これも、公的機関が一括して情報を共有している賜でもあります」
「なるほど……見習うべきところはあるのかもしれんな」
さすがは300年も続く一流貴族といったところか。権力を振りかざしているだけではなく、しっかりと町を運営している。強大な魔力も秘めているというし、領主としての器は大きいのだろう。
「……あの、テスラ様」
「なんだ?」
神妙な表情でファンサがつぶやく。そういえば、先程から食が進んでいない。
「……明日、イシュフォルト図書館の移転に関して、舌鋒鋭い揶揄が飛び交うのでは? そうなれば、テスラ様の進退は――」
「心配か? 元凶であるおまえが言うか?」
バツが悪そうにうつむいてしまうファンサ。付き人の生徒も気まずそうだ。少し意地悪だったかとテスラは反省する。
「冗談だ。これは、私の責任である。おまえたちが気に病む必要はない」
このラシュフォール大陸は、国王陛下の御威光のもと、近隣諸国の貴族たちがそれぞれの土地を治めている。ゆえに、戦争になることは希だ。だが、ならばと統治や経済で競争するしかない。
ゆえに、大勢の集まる場では貴族同士の絆や義理が重要になってくる。テスラの場合、そういった味方は少ないだろう。女領主というだけで軽んじられていたし、それが猛威を振るって他貴族を出し抜いているのだから。
「ファンサは図書館移転を悔いているのか」
「い、いえ、その……それは……たしかに、あの建造物がそのまま、しかも町の一部として残るのは嬉しいのですが……リーくんの働きを見ていると、その……自分が小さく思えてしまいました」
「反省しているのならば良し。ファンサは胸を張って、自分が正しいと信じるのだ。絶対に引くな。もし、おまえに迷いあらば、それは私やリークに対する冒涜である」
「肝に銘じておきます」
社交の場で、なじられるのは慣れている。気分を害することをテスラは気にしていないが、外交に影響が出るのであれば話は別だ。
「なんというか、静かな町だな」
食事をしている人たちは楽しんでいるようなのだが、コックやウェイトレスは、あまり楽しそうではなかった。
「クレルハラートの町は公営事業で成り立っています。ゆえに、民のモチベーションが低いのです」
ファンサが説明してくれる。
「というと、このレストランも、スピネイルが経営しているのか?」
「スピネイル卿か、あるいはその親族でしょう。領主がすべてを掌握することで、効率の良い経済成長を推進しておられるのです。貧富の差が少なく、安定した生活を送ることができます」
「要するに、食いっぱぐれる心配がないということか」
「はい、働けなくなっても保証があります。結婚すれば、世帯あたりの収入が倍になりますので、生活は非常に豊かです。子供が生まれたら、収入はさらに増えます」
結婚すれば暮らしが楽になる。子をつくればさらに楽になる。ゆえに、家族を成すのがこの町では普通のようだ。なるほど少子化対策の参考になるとテスラは思った。
問題は『生活』に優れていても『仕事』の価値が低いことか。好きな仕事を思い切りやっても評価は一緒。賃金も変わらない。出世したところで『役目』が変わるだけ。どうしてもモチベーションが下がる。
「魔物による産業には、どういうものがある?」
「有名なのは『魔物園』ですね。他国では飼育できなかったはずの魔物が、クレルハラートでは日常的に鑑賞することができます。学院でも興味のある生徒が多くて、ね?」
生徒たちに尋ねるファンサ。すると、トニークが答えてくれる。
「魔物ショップも多く展開しているんですよ。この前、友人がこの町でフレイムホウホウの雛を買って、自慢していましたよ」
この町だと、魔物をペットにしている人たちは多いらしい。飼育ノウハウも確立できているし、それに関する書籍なども大量に出版されている。勤勉な学者にとっては興味深い町でもあるようだ。
「あとは、料理ですね」
ちょうどそのタイミングで、ウェイターが巨大な皿に丸々一羽を唐揚げにした、料理を持ってくる。
「ウイングバードの丸ごとフライになります」
風魔法を使える珍しい鳥――というか魔物だ。
ちなみに、動物と魔物の違いは、構造自体にあまり違いはない。太古の昔、魔王という存在がいた時、魔王に従って人間に敵意を持った生物が魔物である。要するに、魔王に従う習性を持っていると、魔物と認定される。
テスラは、ウイングバードのモモ肉を引きちぎり、むしゃりとかぶりつく。
「うむ、悪くはない」
忖度のない感想である。だが、やはり鶏の方が美味い。まあ、牛豚鶏に勝る畜産物はないだろう。たまにダチョウや鹿肉、猪肉などを商人がたまに仕入れたりするが、本当にそちらの方が美味なら、それらをメインに世界は飼育している。飼育しやすく美味いからこそ牛豚鶏を中心に飼育しているのだ。
「コストを考えなければ、美味な食材も多くあります。さらにいえば、クランバルジュはそれらの食材に調理法にもすぐれております。これも、公的機関が一括して情報を共有している賜でもあります」
「なるほど……見習うべきところはあるのかもしれんな」
さすがは300年も続く一流貴族といったところか。権力を振りかざしているだけではなく、しっかりと町を運営している。強大な魔力も秘めているというし、領主としての器は大きいのだろう。
「……あの、テスラ様」
「なんだ?」
神妙な表情でファンサがつぶやく。そういえば、先程から食が進んでいない。
「……明日、イシュフォルト図書館の移転に関して、舌鋒鋭い揶揄が飛び交うのでは? そうなれば、テスラ様の進退は――」
「心配か? 元凶であるおまえが言うか?」
バツが悪そうにうつむいてしまうファンサ。付き人の生徒も気まずそうだ。少し意地悪だったかとテスラは反省する。
「冗談だ。これは、私の責任である。おまえたちが気に病む必要はない」
このラシュフォール大陸は、国王陛下の御威光のもと、近隣諸国の貴族たちがそれぞれの土地を治めている。ゆえに、戦争になることは希だ。だが、ならばと統治や経済で競争するしかない。
ゆえに、大勢の集まる場では貴族同士の絆や義理が重要になってくる。テスラの場合、そういった味方は少ないだろう。女領主というだけで軽んじられていたし、それが猛威を振るって他貴族を出し抜いているのだから。
「ファンサは図書館移転を悔いているのか」
「い、いえ、その……それは……たしかに、あの建造物がそのまま、しかも町の一部として残るのは嬉しいのですが……リーくんの働きを見ていると、その……自分が小さく思えてしまいました」
「反省しているのならば良し。ファンサは胸を張って、自分が正しいと信じるのだ。絶対に引くな。もし、おまえに迷いあらば、それは私やリークに対する冒涜である」
「肝に銘じておきます」
社交の場で、なじられるのは慣れている。気分を害することをテスラは気にしていないが、外交に影響が出るのであれば話は別だ。
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?
カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。
次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。
時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く――
――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。
※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。
※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。
神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜
シュガーコクーン
ファンタジー
女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。
その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!
「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。
素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯
旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」
現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる