大地魔法使いの産業革命~S級クラス魔法使いの俺だが、彼女が強すぎる上にカリスマすぎる!

倉紙たかみ

文字の大きさ
上 下
31 / 55

第30話 下からくるぞ気をつけろ!

しおりを挟む
 夕暮れ時の広場前で、盛大にバトルが繰り広げられる。篝火が用意され、ふたつの長テーブルに、それぞれふたりが並ぶ。椅子に腰掛け、闘志を燃やすククルとミトリ。とりあえず、ククルが勝てばしばらく結婚話をしなくて済むので、心の中で応援しておこう。

「ククル!」「ククル!」「ククルさーん! シルバリオル家のメイド長の意地を見せてくださーい」「リークさんを守ってあげてくれぇ!」

 大衆たちは、ことの顛末に興味津々。ククルの応援が飛び交う。っていうか、あいつシルバリオル家のメイド長にまで昇格していたの? 俺の専属メイドをしながら? 

 お、ミトリの応援をする大衆もいらっしゃる。

「ミトリさーん! 結婚は目前ですよ!」「よっ! チャンプ!」「手加減してやれよ!」「ガロンスペシャルを見せてやってください!」

 こっちも凄い人気だ。さすがは、飲み比べ大会のジュニアチャンプである。ガロンスペシャルって何?

「さあ! 始まりました第二回リークさん争奪戦! 勝利するのはラシュフォール始まって以来の万能メイド、ククル・ティスタニーア。対するのは、夢見るウェディング少女ミトリ・コラットル!」

 大歓声が打ち上がった。ちなみに、司会進行はファンサ教授である。いつのまにか、ブロッコリーをマイク代わりにして壇上に立っている。

「30分一本勝負。よりたくさんの酒を飲んだ方の勝利となりまぁす。――今回、おふたりに飲んでいただくのは、ククルさんの提案により、ラージニアの伝統酒『ブラックアルコン』となります!」

「な――ッ」

 ミトリが意表を突かれたかのような表情を見せる。だが、すぐさま奥歯を噛みしめ、感情を殺した。無理もない。ククルの作戦に驚いたのだろう。

 ブラックアルコンとは、俺の実家の名産品だ。おそらく、世話になるということで、親父からテスラへ大量に送られていたのだろう。ミトリの反応を見るからに、この酒がどういうものかを知っているようだ。

 ブラックアルコンは、アルコール度1%未満。酒でありながら超低アルコール。この国の法律では『酒』に分類されるのだが、ほぼほぼジュースのようなものである。酒が飲めない人に超人気。ちなみに、原料はコーヒー豆と麦芽。

 要するに、酒の飲み比べと謳いながらも、ただのジュースの飲み比べ対決に引きずり下ろしたのである。

 にやり、と、悪魔的な笑みを浮かべるククル。さすがに勝算のない勝負は挑まないか。だが、ミトリも「ふん」と、勝ち誇っているかのような笑みを浮かべる。酒の強さというアドバンテージを失っても、なお自信があるのだろう。

 両者のテーブルの上にはジョッキが並べられる。一杯800ccほど。俺なら、一杯も飲めば腹がパンパンになるだろう。

「それでは、いってみましょう! 勝つのは結婚への欲望か! それとも主への想いか! 麗しき戦乙女たちよ! 死ぬまで煽れ! ――バトル開始でぇす!」

 いつのまにかテンションマックスモードになってらっしゃるファンサ先生。決戦の火蓋が切って落とされる。バトルスタートだ。

 先に動き出したのはミトリ。んぐんぐとかわいらしくジョッキを傾け、早速一杯飲み干してしまう。凄い。十数秒ほどだ。苦みのきつい酒だから、一気はきついんだよな。

「おやぁ? ククルさん、全然手が動いていないみたいですが?」

 ふふんとしたり顔のミトリ。ククルはしれっと言い返す。

「手を動かすもなにも、あまりに遅いので……目を疑っておりました」

「強がりですか? ハッタリは見苦し――」

 その時だった。ククルがジョッキを傾ける。すると、まるで魔法のようにスルリと流し込まれてしまった。数秒。いや、もっと早いかもしれない。口に含むどころか、そのままダイレクトに胃へとぶち込んだといった感じだ。

「な……」

 ナプキンで口を拭うククル。豪快にして可憐。まさにメイドに相応しい飲みっぷりである。

「我々メイドは、忙しい時にもサッと食事を採ることを常としています。食べるのも飲むのも早くて当然。――ですよね?」

 観客に問いかける。すると、シルバリオル家で働いている方々が歓声を上げていた。え? そうなの? 早食いとか早飲みってメイドの必須スキルなの?

「くッ!」

 素早く二杯目に口を付けるミトリ。こっちだって決して遅くない。っていうか、800ccも飲んだら、もうそれで十分じゃない?

「おやおや、ミトリ様は、随分と味わってお飲みになるのですね?」

「ふはっ――。まだまだです!」

 三杯目に手を付けるミトリ。見事に挑発に乗ってしまっている。その三杯目を飲み干そうとした頃だろうか。ようやく、ククルがジョッキを持ち上げる。

「どうやら、リーク様を想う気持ちは私の方が強いようですね――」

 ククルが、ほんのわずかにジョッキを唇へと触れさせる。そして、傾けてはテーブルへドンと置く。そして、さらにもう一杯ジョッキを口に付ける。そしてテーブルへと置く。

 ――あ。と、俺は思った。

 いや、俺以外の観客も気づいている。ククルが『仕掛けている』ことに。正直、その行為にどういった意味があるのかはわからない。だが、策士である彼女のことだ。きっと何か考えているのだろう。

 ――ジョッキの酒が減っていない。

 彼女は、唇にジョッキを触れさせ、傾けるだけ。飲まずにそのままテーブルへと置いている。次のジョッキも、飲むフリをしてテーブルに置いている。

 違和感のある行為だが、最初の一杯が早すぎたので、それぐらいの早飲みが可能なのだろうと先入観で思い込んでしまった。事実、ミトリは、焦って酒を煽り始めているではないか。

 ククルが飲んだのは最初の一杯だけ。ミトリは、もう五杯も飲んでしまっている。

「一気に追いつきますよ」

 そう言いながらも、ククルはジョッキに唇を付けるだけ。飲むフリだけをする。

「ううっ! 絶対に負けないのです!」

 ミトリは六杯目を飲み干す。すげえ、これで5リットル近い。

「おおーっと、これはどういうことでしょう! ククル選手、飲むフリだけをして、まだ一杯しか飲んでいないです! ここから追いつけるのでしょーか!?」

 ファンサが、状況解説でバラしてしまう。7杯目を飲み干したミトリの手が止まる。

「い、一杯だけ?」

 その現実に、困惑するミトリ。たしかに、意味不明の行為だ。このままなら、ミトリが圧勝するのは間違いない。飲むフリという行為に、どんな意味があるというのか。

「……どういうことですか?」

 さすがに警戒するミトリ。彼女とて、ククルのしたたかさはわかっている。何か理由があると踏んでいるのだろう。

「余裕なだけですよ。私は、5秒もあれば一杯を飲み干します。そうですねえ……この程度の差なら1分もあれば十分かと」

 まあ、ククルの早飲みからすれば、追いつける差だ。っていうか、これって30分勝負だったな。長いな――。

 ――ん? 長い?

 俺は、ククルを見やる。悪魔的な微笑みを浮かべている。――この時、俺は気づく。彼女の壮大な企みを。たしかに不利な飲み比べ対決。だが、ククルは着々と価値へのロジックを積み重ねていた。

 ククルの狙いは――。

「ふふん。なるほど……もしかしてリバース狙いですか? たしかに、リバースは即敗北のルール。しかし、甘いのです。私の胃袋はダルコニア石よりも丈夫! どれだけ飲んだとしても、リバースなどしないのです!」

 まだまだ余裕のミトリ。違う、違うんだ。ククルの狙いは、もっと邪悪なのだ。このままでは死人が出るぞ。

「ミトリ様が『鉱石の胃を持つ女王(ダルコニアン・ストマック・ザ・ミトリ)』と呼ばれているのは調査済みですよ。そもそも、貴族であらせられるミトリ様が、そんなはしたないことをするわけがございません。……ふふ、それよりも、いいのですか? 手が止まっていますよ? その程度の差で、この『電光石火で平らげる者(ライトニング・フードイーター)』から逃げ切れると思っているのですか?」

 煽るククル。鬼だ。ちなみに、そんな異名を俺は聞いたことがない。

「くっ――」

 焦るミトリ。さらにもう一杯。これで6リットルを越えた。よくもまあ、あの細い身体に、蓄積できているものだ。しかし、そろそろ勝負が動き出す頃。ククルが、邪悪な笑みを浮かべて、言葉を滑らせる。

「ところで……ミトリ様。――そんなに飲んだら『おトイレ』に行きたくなるんじゃあ、ありませんか?」

「へ……? え……?」

 その時だった。ミトリの御足が、モジっと動いたのだった。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。 次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。 時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く―― ――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。 ※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。 ※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜

シュガーコクーン
ファンタジー
 女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。  その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!  「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。  素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯ 旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」  現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

3521回目の異世界転生 〜無双人生にも飽き飽きしてきたので目立たぬように生きていきます〜

I.G
ファンタジー
神様と名乗るおじいさんに転生させられること3521回。 レベル、ステータス、その他もろもろ 最強の力を身につけてきた服部隼人いう名の転生者がいた。 彼の役目は異世界の危機を救うこと。 異世界の危機を救っては、また別の異世界へと転生を繰り返す日々を送っていた。 彼はそんな人生で何よりも 人との別れの連続が辛かった。 だから彼は誰とも仲良くならないように、目立たない回復職で、ほそぼそと異世界を救おうと決意する。 しかし、彼は自分の強さを強すぎる が故に、隠しきることができない。 そしてまた、この異世界でも、 服部隼人の強さが人々にばれていく のだった。

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

処理中です...