大地魔法使いの産業革命~S級クラス魔法使いの俺だが、彼女が強すぎる上にカリスマすぎる!

倉紙たかみ

文字の大きさ
上 下
22 / 55

第22話 隠居生活も悪くないけどさ

しおりを挟む
「助かった、ククル」

 礼を言いながら、俺は白紙の手紙をくしゃりと握り潰す。

「リーク様に結婚の話は早いかと。おそらく、バシーク様も同じでしょう」

「いや、親父なら案外乗り気だと思うよ」

「それなら、なおのことこの手の話はお受けできませんね。私の方でも、なるべく根回しはしておきます。特にコラットル家」

 さすがは頼りになるスーパーメイドだ。俺のことをいちばんに考えてくれている。うん? 俺のためだよな? 俺のためだよね?

「それにしても、……リーク様の次のお仕事は建築ですか」

 聞き耳を立ててくれたのは感心しないが、おかげで話が早い。

「条件はこの紙に書いてあるらしい。おまえもあとで目を通しといてくれ。力を借りることになると思うから」

 そう言って、プロジェクトの書類をククルに渡す。

「かしこまりました。……………………ん? あの、リーク様。ここの数字、間違っていませんか?」

 ククルが示す部分を「ん?」と、覗き込む俺。

「え? あれ? は? はあぁあぁあぁぁぁッ?」

          ☆

 俺は竜巻の如く回れ右。ちょっと数秒前まで、結婚だのなんだのと揉めていたボスのもとへと戻ってくる。

「テスラ様ぁッ! これはどういうことですかぁッ?」

「なんだ、リーク。バシーク卿から、急ぎの手紙があったのではないのか?」

「それは、急ぎではないとわかりました!」

 急ぎの手紙は、くしゃくしゃに丸めてククルに捨てといてもらったわ。っていうか、手紙自体が偽物だけどな!

「そんなことより、この普請の予算が『5億ルク』ってなんすか! あの規模だと、全然足りないでしょう! 大きな会社をひとつつくったらお仕舞いですよ! 国を挙げた一大プロジェクトじゃないんですか!」

 正確には初年度の予算が5億ルクだ。全然足りない。ラーズイッド家も、その昔、城郭都市化しようとしたことがあるから、見積もりに関してはそこそこ相場を知っていた。実家のある小さな町でさえ初年度の費用が10億ぐらいかかるというから、断念した。

 とにもかくにも5億じゃ話にならない。特に、初年度というのはもっとも金がかかる。なぜなら道具や人材を揃えるための初期投資がハンパないから!

 そんな俺の熱く濁った想いをテスラにぶつける。が、彼女は「ふむ」と、偉そうにふんぞり返って、威圧的に足と腕を組んだ。

「さっきも言ったが、どこかの誰かさんのおかげで、予定が狂ってしまったのだ。急に予算を割けと言われても対応ができん」

「うぐ……ッ!」

 それを言われると弱い。

「異議あり! で、ございます。テスラ様」

 俺の背後から颯爽と登場したのは、我が相棒ククル。書類を提出し、弁護士の如く追求していく。

「町のど真ん中に建築予定だった図書館の土地が丸々残っていますね? リーク様が郊外にイシュフォルト図書館を移転したおかげで、この土地は不要です。売却なされば4億ルクにはなるかと」

 ニタリと笑みを浮かべるククル。だが、テスラもあざ笑うように反論する。

「残念ながら、そこにはデパートと商店街になることが決まった。着工してくれる業者も決まっている。今朝の話だ」

 さすがはスーパーメイドと思ったが、テスラも相当な手腕だ。俺やククルが突っ込んでくることを見越して、すでに抑えていたのか。っていうか、行動力あり過ぎだろ、この侯爵。もう少し、貴族らしくゆったりまったりと動けや。

「運送料も、だいぶ削減できたのでは? 本来なら、蔵書をクザンガ山からこちらは運ぶ予定だったのでしょう? 1億冊……でしたか?」

「その資金は、そのままイシュフォルト図書館の管理費に回すことにしている」

「観光名所になります。入場料を取られるといいのでは?」

「ほう、平和の象徴とのたまう建築物としょかんで金を取ると?」

「寄付と名目すればよろしいのでは」

「それなら払う側も抵抗がなくなるな。しかし、図書館の所有権は国王陛下にある。私に決定権はない」

 先手先手を打つテスラ。ククルがツッコミを入れることを見越していたかの如く、捌いていく。

「かしこまりました。それでは、デパートの計画と図書館の管理費について、のちのち書類を見せてくださいませんか? 必ずや、経費を削減して見せます。もちろんクオリティを落とさずに」

「よかろう。――まあ、躍起になるのもわかるが、こっちもぎりぎりの施策でな。さほど予算を割いてやれる余裕はない」

 シルバリオル家は、意外と借金領主らしい。これは悪いことではない。借金ができるということは、信用があるということ。常に限界まで金を動かし、事業を成功させては利益を得ている。テスラは上手く回しているのだ。

「しかし、これではあまりに無謀かと。リーク様を虐めているのですか?」

「そういうわけではない。リークなら、なんとかやってくれるだろうと期待しているだけだ。それに、金には不自由させているが、人材に関しては特筆すべき部分があるはずだ」

「特筆すべきこと……ですか?」

 ククルが書類に視線を落とす。

「うむ、無償の労働力を用意する」

 先日のイシュフォルト図書館立てこもり事件に関与したファンサ及び43名の生徒が、俺の仕事を無償で手伝ってくれるらしい。

 なんでも、あの件を罪に問わない代わりに1日6時間程度の奉仕活動を命じてあるそうだ。期限は1年。投獄されることを思えば、かなりの温情処置である。図書館存続派なのでモチベーションも高い。心強い労働力だ。

「それでも全然足りないっすよ。そもそも、魔法での建築は禁止でしょう? 魔法産業禁止法に抵触してしまいます。連中がどれだけ役に立つか……」

「魔法がなければ腕力を使えばいいじゃないか」

「テスラ様と一緒にしないでください。学院の連中はヒョロガリばかりです」

 基本、頭脳と魔法の得意なエリートなのである。肉体労働に関しては期待できない。魔法で身体を強化するのもダメだろうし。

「おまえはそうでもなさそうだがな」

「純粋な腕力なら、テスラ様の方が上ですよ」

「ほう? それは、腕力じゃなければ自分の方が上だと?」

「あ、揚げ足を取らないでください! ――とにかく、5億ルクは少ないかと――」

 俺が、そう言ったところで、テスラは制するように言葉をかぶせる。

「いいか、リーク」

「はい?」

「この世で、もっとも偉大なスキルが何かわかるか?」

「まさか『腕力』とか言いませんよね? 力で従わせろとか?」

「違う。――この世でもっとも偉大なのは『知恵』だ。物事を『できない』で終わらせるな。『どうしたらできるのか』を考えろ」

「どうしたらできるか……? じゃあ、テスラ様なら可能だっていうんですか?」

「できるかどうかはわからんが、やるしかあるまい」

 自信満々に告げるテスラ様。ああ、この人だったら自分で石材を採掘して、手刀で叩き割って積み上げていくんだろうな。こんちくしょうが。

「奉公人とは、お客様ではないぞ。リークは修行に来たのだろう? あと、おまえが領主に相応しいか――シルバリオル家の婿に相応しいかを見定めるという意味もある」

 婿になる気はないですが。そもそも結婚話なんて降って湧いた話だろうが。

「まあ。不可能だというのなら仕方あるまい。それだけの男だったというわけだ。代わりの仕事は……そうだな、牛の乳搾りでもやるか? 屋敷のガーデニングでもやるか? まあ、当面仕事はないし、遊んで暮らすのもいいんじゃないか? ――観光気分のぼっちゃんには荷が重すぎたようだな。はっはっは」

 ぶちっと血管が切れるかと思った。んで、隣のメイドはぶちっと血管が切れていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。 次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。 時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く―― ――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。 ※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。 ※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

異世界の片隅で引き篭りたい少女。

月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!  見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに 初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、 さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。 生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。 世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。 なのに世界が私を放っておいてくれない。 自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。 それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ! 己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。 ※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。 ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。  

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

処理中です...