大地魔法使いの産業革命~S級クラス魔法使いの俺だが、彼女が強すぎる上にカリスマすぎる!

倉紙たかみ

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第21話 ラシュフォール大陸始まって以来最大の大規模プロジェクト

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 ククルたちと一緒にバルティアへ帰還した俺。翌日、テスラに呼び出されたので、執務室へと足を運んでいた。

「――さて、イシュフォルト図書館の件に関しては御苦労だった。文句を言いたいところもあるが……実を言うと、そう悪い気はしていない。独断で動いてくれて助かった部分もある。大勢の手前、褒めることができなかったのだ」

「いえ、こちらこそもうしわけございません」

 勝手に図書館を運んでごめんなさい。シルバリオル家に迷惑をかけてごめんなさい。パジャマをかわいいとか言ってごめんなさい。

「報酬として200万ルクを用意した。あとで、部屋に届けさせる」

「報酬? いりませんよ。欲しいものとかありませんし」

「欲のない奴だな。だが、これは命令だ。おまえは、それだけ価値のある仕事をしてくれたのだからな。そうでないと、次の仕事を頼みにくいだろう」

「もう、次の仕事ですか?」

「急ぎではない。それに、無理なら断ってくれていい。かなり難しい仕事になる」

「聞きましょう」

 うむ、と、テスラは小さく頷いて話を始める。

「今回は内政だ。おまえには、普請ふしんをやってもらいたい」

「普請……? やったことないですよ?」

 普請とは建築の仕事だ。現場監督というか、それを指揮すること。設計の依頼から、材料を揃えることから、人員を雇ったりなど。まとめ役をするのである。

「どこかの田舎領主の馬の骨が、町の近くに図書館を移転してくれたおかげで、予定がいろいろと狂ったのだ。引き受けてくれそうな奴を探したのだが、どいつもこいつも尻込みしてな。適任者がおらん」

 テスラの皮肉に「ごめんなさい」と、適当に返しておく。

「気にしなくていい。内政はスピードが重要だ。この計画が前倒しになるのは悪いことではない」

 テスラは、指をピッと弾くようにして紙を飛ばした。受け取って、視線を落とす俺。

「これは?」

「おまえにやってもらうのは、バルティアの城郭都市化だ。町を囲むようにして城壁をつくってもらう」

 ――ありえない。と、思った。

 素人の俺に任せるのもありえないが、それ以上に驚いたのは城壁の規模だ。町を完全に包み込む、そびえ立つ城壁。ドラゴンの侵攻も跳ね返せるだろう。しかも、郊外に移転したイシュフォルト図書館をもカバーするため、さらに広域へと城壁が伸びている。いや、建物のない場所も包んでいる。理由はわかる。今後の発展を見据えれば、とにもかくにも広大な方がいい。

「町が豊かになれば、安心して子を産み、人口は増える。他国からの民の受け入れも推進する。建物は増え、農地も必要になってくる。おまえも領主ならば覚えておくといい、町を豊かにするには『人』だ。シンプルに人を増やせば経済は豊かになる」

「そうなんですか? 食料や経済状況とかの兼ね合いもあるのでは?」

「100人の村と10000人の町。どちらの方が、文明や学問、品物の生産量の発達が見込める?」

「たしかに、人口が多いと発展が見込めますね。ごもっとも」

「人口を増やした上で、民を安心して生活させるのが領主の仕事だ。食料や土地、物資の兼ね合いは領主《わたし》の腕の見せ所である。人口増加を恐れていては領主失格だ。覚えておくといい。領地を増やすよりも、民を増やした方が豊かになるのだ」

 勉強になる。たしかに、とある東洋の島国では、土地面積は凄まじく小さいものの、人口が多く豊かだ。ただひたすら土地を広げればいいというわけではないらしい。

「引き受けるのは構いませんが、自分はド素人ですよ? さすがに、この規模のプロジェクトとなると、役者不足では? それに、完成予定は10年後とあります。俺は国に帰っているでしょう」

 俺はあくまで奉公人。2年後にはラーズイッド領へと帰る。

「ド素人で構わん。どうせ、おまえがやらねば他に引き受ける者もおらんのだからな。学びながらやっていけばいい。まあ、期間に関しては、いざとなったらおまえがうちに嫁げばいい」

「と、とつッ――は、はあ? ちょ、ちょっと待ってください! な、なんでそんなことに――」

 そもそも、嫁ぐという言葉も間違っているだろう。俺は嫁に行くのではない。旦那になる性別と境遇なのですが? 跡継ぎなのですが?

「奉公先で政略結婚など珍しくないだろう。これは私とバシーク卿の問題だ。おまえに拒否権はない」

 そうですね。親同士が結婚を決めるとか普通ですもんね。そういえば、こいつはもの凄い権力者じゃねえか。俺の人生を握ってる人間のひとりだった。パジャマを笑っている場合じゃなかった。こんなことなら、アホを演じながら暮らしていけば良かったかもしれない。

「そうだ、参考までに聞かせてもらおうか。私とミトリ、結婚するならどっちがいい?」

 しれっとした顔で尋ねてくださるテスラ様。これ、なんて答えるのが正解なの? なんで二択なの? 結婚とか、まだしたくないんだけど。いや、したくないどころか、考えたくもないのだけど。っていうか、俺がいなくなったら、ラーズイッド家の跡取り問題はどうなるの? シルバリオル家と合併するの?

「結婚とか、まだそういうのは早いかと……」

「はは、気負うな。あくまで世間話だ」

「は、はは、そうですよね! 世間話ですよね!」

「――で、どっちだ?」

 微笑んでいるけど、瞳の奥底はマジな感じじゃないですか?

 うん、あのですね。誰か僕の思考を聞いてくれませんか? もしここで『テスラ様』と答えるじゃないですか。するとですよ? スーパー行動力のある彼女のことですから『はははは! 言質は取ったぞ! 三日後に祝言だ!』とか言い始めるような気がしてならないんですよ。自分や民のためになることなら躊躇いのない方なんですから。

 で、じゃあ『ミトリ』って答えればいいと思うじゃないですか? けど、そっちもそっちで『はははは! 聞いたぞ! ミトリー! ミトリー! リークがおまえと結婚するって言ってるぞー』とか告げ口しかねないわけですよ。そんなことになったら、ミトリの脳内はお花畑。非常に厄介。

 あと他にも問題があって、貴族とか権力者って『選ばれないこと』に、酷く劣等感があるのです。要するに『リークの奴、テスラ様をふって、ミトリ様を選んだんだぜ』なんて噂が流れたら、それはもう一生の恥。もちろん、他言はしませんが、その『事実』自体はテスラ様の心に残るわけで、めっちゃ傷つくわけです。助けて。

「え、ええと……」

「うむ。どちらだ?」

 にこにこと笑みを浮かべているテスラ。からかっているの? それとも自信があるの? この状況地獄なんですけど。

「――失礼します」

 不意にドアが開いた。ククルが遠慮もなく入ってくる。

「リーク様、ここにおられましたか」

「む? ククル。部屋に入る時にはノックぐらいしろ」

 テスラに叱られるククル。

「失礼いたしました。……ラーズイッド伯爵から、リーク様への急ぎの手紙が届いておりましたので」

 そう言って、手紙をピッと取り出す。

「え? 親父から?」

 あ、助かったって思った。というか、ククルがノックを忘れるわけがない。急ぎの手紙は嘘だろう。大方、話を盗み聞きしていたに違いない。んで、俺を助けるために割り込んできたわけだ。

「急ぎか。――テスラ様。すいません。とりあえず普請の件は了解しました。ぜひ、やらさせていただきます。それでは!」

 俺は、いそいそと退室してしまうことにする。

「あ、おい!」


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