15 / 55
第15話 天才教授は本がお好き
しおりを挟む
「うふっ、ふふっ、あはははっ、素晴らしいです、太古の英知! 偉大すぎるのです、太古の賢人! ここには知のすべてがありまぁす! イシュフォルト図書館こそ、賢者の聖地です! 楽園! 欲望を満たしてくれる桃源郷! ああ、幸せ! 私は――私たちは、なんて幸せなんでしょう!」
イシュフォルト図書館中央書庫。巨大な吹き抜けのフロアには、壁一面の本棚。本という本に囲まれた壮大な空間。
サファイアのように輝く長い青髪。大人びたお姉さん顔にはすらりとした鼻と麗しい唇。瞳は髪を反映しているかのように蒼く透き通っていた。たわわな胸は服に収まりきれず豊満に実っている。羽織るかのようにローブを纏う彼女は、シルバリオル学園教授のファンサ。
ただ、その顔は狂気に彩られていた。こみあげてくる喜びに歪み、同時に楽園を破壊しようとする権力者への怒りが込められている。
フロアの中央で大量の書物に埋もれながら、彼女は嬉々として本を読むふけっていた。ページをめくり、まためくる。瞳の水晶体から、とめどなく情報が流れ込んでくる。それはさながら高級なワインを飲んでいるような感覚。知識という名の栄養分が、脳細胞へたっぷり行き渡り、アルコールの如き陶酔感を演出してくれる。
『知ること』こそ、生物の最高の贅沢である。
あらゆる生物の中で、人間だけが許された嗜好。それが好奇心、探究心。知がいらぬというのは、人間としての意味を失ったも同じ。ならばと、知の結晶であるイシュフォルト図書館は守らなければなるまい。
神という曖昧な存在など慕うに足らず。これからの宗教は『知』だ。この図書館こそ我らが人間の神殿――。
「なぁのにぃ? テスラは壊そうとしている――ううん、国王陛下も同罪ぃぃぃなのです!」
打ち上げるように、ファンサは叫ぶ。
「そもそも、この図書館は! この建築は! この場所にあってこそなのです! なぜ、このような場所にあると思います? すべては意味があるのですよぉ。刻んできた歴史があるのです。なのに、本をすべてバルティアへ運ぶだなんて……うふふふ、頭の悪い子ちゃんなのです。不便だからとか、ほざいてんじゃねえでぇす。知識が欲しいのなら、ここまで足を運べばいいだけなのでぇす。そうしないと、歴史は味わえませぇん。――そう、思いませんかぁ? 招かれざるお客さぁん?」
ファンサは、高い位置にある窓を見上げる。すると、そこには少年が腰掛けていた。
「なんだ、気づいていたのか」
彼は、ひょいと窓から降りる。結構な高さでありながら、余裕綽々と着地。
「テスラの使いですかぁ? 騒ぎの原因は、あなたみたいですねぇ」
「俺はリーク・ラーズイッド。悪いが、生徒たちには眠ってもらってるよ。このままじゃ大事《おおごと》になっちまうからな」
リークの瞳を見る。怯えもなく、動揺もない。相当な使い手らしい。まさか、我が校の生徒がやられるとは思わなかった。戦闘に関しては素人とはいえ、未来の大魔法使いばかりである。
「ファンサ教授だな。この国で見つかった遺跡は、すべてラシュフォール国王陛下に所有権がある。管理者は領主であるテスラ様だ。――あんたに権利はないんだよ。このままじゃ大罪人になっちまう。だがテスラ様は、あんたに感謝している。民に知識を与え、この図書館の研究にも携わってくれた。ゆえに、ここで引き下がるなら罪は不問にすると言っている」
「うふふ、そんなことは承知してますよ。その上で、先生たちは行動を起こしているのでぇす」
「そうなると、おまえたちは罪――」
ファンサは人差し指を向ける。指先が光る。次の瞬間、リークの頬に一本の赤い線が引かれた。タラリと赤い液体が滴った。
お互い交渉の余地なし。妥協がないなら戦う。それがシンプルな結末である。それはリークとやらも望んでいることだろう。でなければ、生徒たちを倒したりはしまい。
「ふーん。相当強いな。さすがは学院の教授様。――いまのは水魔法か?」
「へえ……見えたのですか?」
「アクアブラスターって奴だろ? 水を超高速で撃ち放つと、石でも真っ二つにできるってアレだ」
リークの言ったとおりである。だが、ファンサのアクアブラスターは、並の魔法使いの比ではない。いや、アクアブラスター自体、かなりの上位魔法である。魔法の『器用さ』がないと成立しない。
「ふふ、いいですよ。ちょっとだけ遊んであげます。けど、殺しちゃったらごめんなさいでぇす。人としての本懐を邪魔する奴は人にあらず。愚者は地獄にて悔い改めよ。バカは転生しなくちゃ治らないのです――」
イシュフォルト図書館中央書庫。巨大な吹き抜けのフロアには、壁一面の本棚。本という本に囲まれた壮大な空間。
サファイアのように輝く長い青髪。大人びたお姉さん顔にはすらりとした鼻と麗しい唇。瞳は髪を反映しているかのように蒼く透き通っていた。たわわな胸は服に収まりきれず豊満に実っている。羽織るかのようにローブを纏う彼女は、シルバリオル学園教授のファンサ。
ただ、その顔は狂気に彩られていた。こみあげてくる喜びに歪み、同時に楽園を破壊しようとする権力者への怒りが込められている。
フロアの中央で大量の書物に埋もれながら、彼女は嬉々として本を読むふけっていた。ページをめくり、まためくる。瞳の水晶体から、とめどなく情報が流れ込んでくる。それはさながら高級なワインを飲んでいるような感覚。知識という名の栄養分が、脳細胞へたっぷり行き渡り、アルコールの如き陶酔感を演出してくれる。
『知ること』こそ、生物の最高の贅沢である。
あらゆる生物の中で、人間だけが許された嗜好。それが好奇心、探究心。知がいらぬというのは、人間としての意味を失ったも同じ。ならばと、知の結晶であるイシュフォルト図書館は守らなければなるまい。
神という曖昧な存在など慕うに足らず。これからの宗教は『知』だ。この図書館こそ我らが人間の神殿――。
「なぁのにぃ? テスラは壊そうとしている――ううん、国王陛下も同罪ぃぃぃなのです!」
打ち上げるように、ファンサは叫ぶ。
「そもそも、この図書館は! この建築は! この場所にあってこそなのです! なぜ、このような場所にあると思います? すべては意味があるのですよぉ。刻んできた歴史があるのです。なのに、本をすべてバルティアへ運ぶだなんて……うふふふ、頭の悪い子ちゃんなのです。不便だからとか、ほざいてんじゃねえでぇす。知識が欲しいのなら、ここまで足を運べばいいだけなのでぇす。そうしないと、歴史は味わえませぇん。――そう、思いませんかぁ? 招かれざるお客さぁん?」
ファンサは、高い位置にある窓を見上げる。すると、そこには少年が腰掛けていた。
「なんだ、気づいていたのか」
彼は、ひょいと窓から降りる。結構な高さでありながら、余裕綽々と着地。
「テスラの使いですかぁ? 騒ぎの原因は、あなたみたいですねぇ」
「俺はリーク・ラーズイッド。悪いが、生徒たちには眠ってもらってるよ。このままじゃ大事《おおごと》になっちまうからな」
リークの瞳を見る。怯えもなく、動揺もない。相当な使い手らしい。まさか、我が校の生徒がやられるとは思わなかった。戦闘に関しては素人とはいえ、未来の大魔法使いばかりである。
「ファンサ教授だな。この国で見つかった遺跡は、すべてラシュフォール国王陛下に所有権がある。管理者は領主であるテスラ様だ。――あんたに権利はないんだよ。このままじゃ大罪人になっちまう。だがテスラ様は、あんたに感謝している。民に知識を与え、この図書館の研究にも携わってくれた。ゆえに、ここで引き下がるなら罪は不問にすると言っている」
「うふふ、そんなことは承知してますよ。その上で、先生たちは行動を起こしているのでぇす」
「そうなると、おまえたちは罪――」
ファンサは人差し指を向ける。指先が光る。次の瞬間、リークの頬に一本の赤い線が引かれた。タラリと赤い液体が滴った。
お互い交渉の余地なし。妥協がないなら戦う。それがシンプルな結末である。それはリークとやらも望んでいることだろう。でなければ、生徒たちを倒したりはしまい。
「ふーん。相当強いな。さすがは学院の教授様。――いまのは水魔法か?」
「へえ……見えたのですか?」
「アクアブラスターって奴だろ? 水を超高速で撃ち放つと、石でも真っ二つにできるってアレだ」
リークの言ったとおりである。だが、ファンサのアクアブラスターは、並の魔法使いの比ではない。いや、アクアブラスター自体、かなりの上位魔法である。魔法の『器用さ』がないと成立しない。
「ふふ、いいですよ。ちょっとだけ遊んであげます。けど、殺しちゃったらごめんなさいでぇす。人としての本懐を邪魔する奴は人にあらず。愚者は地獄にて悔い改めよ。バカは転生しなくちゃ治らないのです――」
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?
カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。
次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。
時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く――
――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。
※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。
※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。
神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜
シュガーコクーン
ファンタジー
女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。
その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!
「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。
素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯
旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」
現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。

3521回目の異世界転生 〜無双人生にも飽き飽きしてきたので目立たぬように生きていきます〜
I.G
ファンタジー
神様と名乗るおじいさんに転生させられること3521回。
レベル、ステータス、その他もろもろ
最強の力を身につけてきた服部隼人いう名の転生者がいた。
彼の役目は異世界の危機を救うこと。
異世界の危機を救っては、また別の異世界へと転生を繰り返す日々を送っていた。
彼はそんな人生で何よりも
人との別れの連続が辛かった。
だから彼は誰とも仲良くならないように、目立たない回復職で、ほそぼそと異世界を救おうと決意する。
しかし、彼は自分の強さを強すぎる
が故に、隠しきることができない。
そしてまた、この異世界でも、
服部隼人の強さが人々にばれていく
のだった。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

最凶と呼ばれる音声使いに転生したけど、戦いとか面倒だから厨房馬車(キッチンカー)で生計をたてます
わたなべ ゆたか
ファンタジー
高校一年の音無厚使は、夏休みに叔父の手伝いでキッチンカーのバイトをしていた。バイトで隠岐へと渡る途中、同級生の板林精香と出会う。隠岐まで同じ船に乗り合わせた二人だったが、突然に船が沈没し、暗い海の底へと沈んでしまう。
一七年後。異世界への転生を果たした厚使は、クラネス・カーターという名の青年として生きていた。《音声使い》の《力》を得ていたが、危険な仕事から遠ざかるように、ラオンという国で隊商を率いていた。自身も厨房馬車(キッチンカー)で屋台染みた商売をしていたが、とある村でアリオナという少女と出会う。クラネスは家族から蔑まれていたアリオナが、妙に気になってしまい――。異世界転生チート物、ボーイミーツガール風味でお届けします。よろしくお願い致します!
大賞が終わるまでは、後書きなしでアップします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる