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第10話 全裸徘徊
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「――そんなわけで、生徒たちの説得が俺の初仕事になりそうだ」
「シルバリオル学院……ですか」
その日の夜。俺は大浴場で、ククルに頭を洗ってもらいながら、任務のことを話す。しゃこしゃこと髪が泡に包まれていく。
「名門だけあって、優秀な生徒たちばかりです。未来の大魔法使いも多く在籍しているでしょう。――リーク様の敵ではないでしょうが」
「どうなんだろう。いまいち、自分の強さがわからないんだよな」
いや、強い自覚はあるけど、それが大海に出た場合、どのぐらいの位置づけなのか実感がない。テスラとか、めちゃくちゃ強かったし。俺みたいな突然変異のチート野郎が他にいてもおかしくないと思う。
「自信を持っても大丈夫です。それに、もちろんククルも同行しますので、なにがあろうと御守りしますから」
「うん。それは助かる」
ククルもそこそこ強い。まあ、守ってもらうことはないだろうけど、一緒にいてくれると心強いし、旅がとても楽になる――。
「はーい、それじゃあ、頭の泡を流しますよー」
☆
「ククク……」
ここに、企みを持つ人間ひとり。暗澹たる未来を払拭すべく、己が欲望のために行動する――。
――ターゲットは、リーク・ラーズイッド。
ラーズイッド家の嫡男。未来の伯爵だ。ネームバリューは当然、財力も権力も持ち合わせている。領民からの評価は上々。なによりも強い。態度にも余裕があり、常に冷静。かのテスラ・シルバリオルが認めた人物でもある。
――やってやるです!
豊満な胸に決意を込め、ミトリ・コラットルが動き出す。
屋敷の者の情報で、彼が大浴場に向かったことはわかっている。ならばと、ミトリは勇気を出してリークのもとへ。思春期の男の子なら、女の子とのえっちな状況に弱いはず。ならばと、一緒にお風呂に入って、背中を洗ってあげる作戦を敢行することにした。
脱衣所。扉を一枚隔てて、ちゃぷんという水の音が聞こえる。さすがに裸だと恥ずかしいのでタオルは巻こう。気取られないようにお風呂スタイルへと着替え、いざ!
ガララララと扉をスライドさせる。
「りーくさぁん、お背中を流しま――っきゃぁああぁぁぁぁぁッ!」
「え?」「あら?」
ぴしゃりと扉を閉めるミトリ。
――おかしい! なんかおかしい? なんかいなかった? え? リークさんがいるのはおかしくないよね? 大浴場だから、彼ひとりだけじゃなくてもおかしくないよね? あれ? なにがあったの? 私は、なんで悲鳴を上げたの?
たぶん幻覚。もう一度、仕切り直しだ。
「りーくさぁんっ、お背中を流しま――っきゃああぁぁぁぁぁッ! やっぱりなんかいるぅぅッ!?」
なんで女がいるの? 法律違反じゃないの?
「ななななな、なんでククルさんがここにいるんですか?」
「はあ……いけませんでしょうか?」
心底訳がわからないといった感じで聞き返してくる。っていうか、肌白い! おっぱい大きい! スタイル凄い! メロンがふたつだ!
「い、い、いけないというか、そういうのはいけないと思います!」
「な、なにがでしょうか?」
「お、男の子と一緒にお風呂とかです!」
「あの、じゃあ、ミトリさんはいったい……?」
「そ、それは、偶然背中を流しにきたというか……」
「ぐ、偶然……? 背中を偶然、流しにくるものなのですか?」
「ぬおぁ、え、えっと、わわわ私はお姉ちゃんの背中を流しにきましてというか――」
「入ってくる時、リーク様を名指ししていませんでしたか?」
「そそそそそうでしたっけ? 聞き間違いじゃないですか?」
「しかも、二回も」
「は、ははは、そんなこともありましたかナ? ――っていうか! なんでおふたりは一緒の湯船に入ってるんですか! 夫婦でもないのに、男女が一緒にお風呂入っちゃ駄目なんですよ!」
しれっと顔を見合わせるリークとククル。
「んー……ククルとはガキの頃から一緒だったもんで、あんまし気にしないよなぁ」
「そうですね。普通だと思いますが」
「あ、はは……そ、そうでしたかぁ……じゃ、私はこれで失礼しまーす!」
ぴしゃりと扉を閉めるミトリ。そうだ。住む土地が違えば、常識も違うのだ。きっとそうだ。相手の価値観を否定しちゃ駄目だ。けど、なんという、えっちな状況。さすがに、困惑する。心がぐらつく。
――うう、仕切り直すのです!
さすがに、あのまま強引に割って入ったら、変態だと思われる。いや、子供っぽくてむしろいいかも? ダメだ、メンタルが整っていない。作戦を練り直そう。そう思いながら、ミトリは部屋へと戻ることにする――。
部屋へと戻る途中、テスラとすれ違った。なにかをつぶやいていたようだが、ミトリの耳には入ってこなかった。
☆
――ん? いま、すれ違ったのミトリだよな?
なんで全裸? どういう状況?
心底困惑するテスラ。二度見ならぬ三度身をする。
「……お、おい、ミトリ。裸でうろついていると風邪引くぞ。……おい、聞いているか? ミトリ! ミトリーッ!」
「シルバリオル学院……ですか」
その日の夜。俺は大浴場で、ククルに頭を洗ってもらいながら、任務のことを話す。しゃこしゃこと髪が泡に包まれていく。
「名門だけあって、優秀な生徒たちばかりです。未来の大魔法使いも多く在籍しているでしょう。――リーク様の敵ではないでしょうが」
「どうなんだろう。いまいち、自分の強さがわからないんだよな」
いや、強い自覚はあるけど、それが大海に出た場合、どのぐらいの位置づけなのか実感がない。テスラとか、めちゃくちゃ強かったし。俺みたいな突然変異のチート野郎が他にいてもおかしくないと思う。
「自信を持っても大丈夫です。それに、もちろんククルも同行しますので、なにがあろうと御守りしますから」
「うん。それは助かる」
ククルもそこそこ強い。まあ、守ってもらうことはないだろうけど、一緒にいてくれると心強いし、旅がとても楽になる――。
「はーい、それじゃあ、頭の泡を流しますよー」
☆
「ククク……」
ここに、企みを持つ人間ひとり。暗澹たる未来を払拭すべく、己が欲望のために行動する――。
――ターゲットは、リーク・ラーズイッド。
ラーズイッド家の嫡男。未来の伯爵だ。ネームバリューは当然、財力も権力も持ち合わせている。領民からの評価は上々。なによりも強い。態度にも余裕があり、常に冷静。かのテスラ・シルバリオルが認めた人物でもある。
――やってやるです!
豊満な胸に決意を込め、ミトリ・コラットルが動き出す。
屋敷の者の情報で、彼が大浴場に向かったことはわかっている。ならばと、ミトリは勇気を出してリークのもとへ。思春期の男の子なら、女の子とのえっちな状況に弱いはず。ならばと、一緒にお風呂に入って、背中を洗ってあげる作戦を敢行することにした。
脱衣所。扉を一枚隔てて、ちゃぷんという水の音が聞こえる。さすがに裸だと恥ずかしいのでタオルは巻こう。気取られないようにお風呂スタイルへと着替え、いざ!
ガララララと扉をスライドさせる。
「りーくさぁん、お背中を流しま――っきゃぁああぁぁぁぁぁッ!」
「え?」「あら?」
ぴしゃりと扉を閉めるミトリ。
――おかしい! なんかおかしい? なんかいなかった? え? リークさんがいるのはおかしくないよね? 大浴場だから、彼ひとりだけじゃなくてもおかしくないよね? あれ? なにがあったの? 私は、なんで悲鳴を上げたの?
たぶん幻覚。もう一度、仕切り直しだ。
「りーくさぁんっ、お背中を流しま――っきゃああぁぁぁぁぁッ! やっぱりなんかいるぅぅッ!?」
なんで女がいるの? 法律違反じゃないの?
「ななななな、なんでククルさんがここにいるんですか?」
「はあ……いけませんでしょうか?」
心底訳がわからないといった感じで聞き返してくる。っていうか、肌白い! おっぱい大きい! スタイル凄い! メロンがふたつだ!
「い、い、いけないというか、そういうのはいけないと思います!」
「な、なにがでしょうか?」
「お、男の子と一緒にお風呂とかです!」
「あの、じゃあ、ミトリさんはいったい……?」
「そ、それは、偶然背中を流しにきたというか……」
「ぐ、偶然……? 背中を偶然、流しにくるものなのですか?」
「ぬおぁ、え、えっと、わわわ私はお姉ちゃんの背中を流しにきましてというか――」
「入ってくる時、リーク様を名指ししていませんでしたか?」
「そそそそそうでしたっけ? 聞き間違いじゃないですか?」
「しかも、二回も」
「は、ははは、そんなこともありましたかナ? ――っていうか! なんでおふたりは一緒の湯船に入ってるんですか! 夫婦でもないのに、男女が一緒にお風呂入っちゃ駄目なんですよ!」
しれっと顔を見合わせるリークとククル。
「んー……ククルとはガキの頃から一緒だったもんで、あんまし気にしないよなぁ」
「そうですね。普通だと思いますが」
「あ、はは……そ、そうでしたかぁ……じゃ、私はこれで失礼しまーす!」
ぴしゃりと扉を閉めるミトリ。そうだ。住む土地が違えば、常識も違うのだ。きっとそうだ。相手の価値観を否定しちゃ駄目だ。けど、なんという、えっちな状況。さすがに、困惑する。心がぐらつく。
――うう、仕切り直すのです!
さすがに、あのまま強引に割って入ったら、変態だと思われる。いや、子供っぽくてむしろいいかも? ダメだ、メンタルが整っていない。作戦を練り直そう。そう思いながら、ミトリは部屋へと戻ることにする――。
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