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第8話 腕か味か、はたまたマウスかカリスマか
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料理が完成。俺たちの前に、ふたりのつくったビーフシチューが並べられる。観客の皆様にも、少しずつではあるが提供されていく。
「では、いただくか。まずはミトリのから――」
テスラが一口頬張る。俺も倣ってばくり。観客たちも食べる。
うん。美味しい。かなり美味い。二十分でつくったとは思えないほどのデキだ。野菜を煮込む時間がないゆえ、バターで風味やコクをフォローしている。かなり機転の利いた仕上がりになっているのではないか。難点を挙げるとすれば肉の硬さか。フォークでほぐして工夫してあるようだが、やはり硬さが残っている。
「うむ。肉の歯ごたえがあって美味いな」
けど、テスラにとっては、そんなことどうでもいいようだ「この人の顎の力なら骨だってバリバリ食うんだろうな」。
「私を、獣かなにかと勘違いしていないか?」
「え? こ、心の声、漏れてました?」
いかんいかん。審査に集中しよう。
「うん。美味い」
俺が褒めると、ふふんとドヤ顔のミトリ。
「さて、次はククルの料理をいただくか。ん? こ、これは――これがビーフシチューだと?」
驚くテスラ。俺も、ククルのシチューに手を伸ばす。
――なるほど、こうきたか。
薄切りビーフ。そう、ククルは肩ロース肉を薄切りにし、ロール状に巻いて肉を形成している。そうすることで、煮込む時間を必要としなかったのだ。
そして、みじん切りどころかペーストになるまで細かく刻んだ野菜。赤ワインで煮込んで裏漉し。それらにロール状のビーフを入れる。もちろん、そういった手間を、非常に素早くこなすという技術が必要になってくる。
彼女のシチューを口へと運ぶ。まろやかな野菜の旨みが口の中に広がった。赤ワインとローリエの香りが鼻を抜けていく。薄切りビーフは舌へとまとわりつくかのように柔らかい。
「なんという味だ……まさに奇跡……」
と、さすがのテスラも驚きを隠せないようであった。
「嘘だろ、これがシチュー?」「薄切りビーフを使うなんて、マーベラス!」「俺たちが何時間もかけて煮込んでいたのはなんだったんだ」「いや、手際が良すぎるんだよ」「包丁さばきも完璧だった」「明日から、ククルに料理長も兼任してもらおう」
観客からの評価も凄まじい。これは勝負あったか。ミトリも悔しそうに、彼女のシチューを食べている。否定したいようだが「はむっ、はふっ」と、手が止まらないようだ。
「ふむ……」
コトリと、食べ終わった皿をテーブルに置くテスラ。立ち上がって、司会進行へと戻る。
「それでは、投票を始めようか」
審査員は、俺とテスラ。あとは屋敷の連中が20数人。美味しいと思った方を拍手で称えることによって勝者を決める。
「だが、その前に、だ――」
テスラは、ゆっくりとミトリに近づき――彼女を紹介する。
「知っていると思うが、彼女は私の従姉妹である。いや、妹といってもいいだろう。もちろん、そのことで彼女に忖度する必要はない」
おお、公正な判断を促している? ――と、思ったのも束の間。なんか雲行きが怪しくなるようなことを言い出した。
「彼女がこの決闘を挑んだのには、悲しい理由がある。このままだとミトリは親の決めた相手と結婚しなければならない。候補として挙がっているのは、ミガなんとか様とか、ケイなんとか様とか、スピなんとか様とか……さらには、あのスイートなんとか様という貴族もいる――」
さすがに他の貴族様を貶めるのは憚るのか、名前の一部をぼかしていた。だが、わかる人にはわかるのか「あの20人嫁殺しのスイートグランか?」「ミトリ様、そんなところに?」「酷い! コラットル家は何を考えているんだ」と、騒然としていた。
「ミトリのビーフシチューには想いがこめられている。――死にたくない……お嫁に行きたくない……好きな人と結婚したいというな」
それ、審査に関係ありますか?
「――料理は味だけではない。心が入ってこそ料理である。そうでなければ、世の中のコックは不要。レシピさえ存在すればいいのだからな。……だから、誰が、どのような気持ちで、誰のためにつくるか……それこそが料理の神髄だと、私は思っているし、信じている」
なんという演説。なんという詭弁。これがシルバリオル家の領主たる者のカリスマという奴か――。
「子供にとって、もっとも美味しい料理とは、母親が一生懸命つくった料理ではないか? その感想には一切の嘘がない。あるのは愛だけだ。料理というのは、一概に味だけでは語れないものがある」
テスラが、俺を見て笑みを浮かべている。なるほど、そういうことですか。テスラとしても、かわいい妹分をどこの馬の骨に嫁がせたくもないわけで、ならばと俺という手頃な奴にもらってもらおうというわけですか。そうですか。この野郎。いや、このアマ。ふざけるな、俺はまだ結婚したくないんだぞ!
「たしかに、ミトリちゃんには幸せになって欲しいしな」「まあ、美味いっちゃ美味かったし」「いや、勝負は勝負だろ」「けど、ミトリ様の一生懸命な感じが、味に出ていたなぁ」
観客の皆様にも迷いが生じ始めた。
「――もちろん、これは勝負である。配慮はいらん。だが、私はミトリに入れる。肉が硬いと思うかもしれないが、私にはちょうどいいし、それも試行錯誤の結果でかわいいと思っている。――では、投票に入ろうか――」
すっげえ、名演説。しかも、グッと引き寄せたタイミングで、速やかに投票開始ですか。
「ミトリの方が美味かったと思う者は拍手だ」
言って、テスラがパンパンパンと拍手を始める。これ、呼び水になるんだよな。会場とかで誰かが拍手をすると、それをきっかけにみんなが手を叩き始めるんだよ。タイミングも完璧だし、この領主様、強いだけでなく民を操る力も長けていやがる。。
実際、テスラの話を聞いた観客たちは、深く頷いて拍手を始める。凄い。卑怯だけど凄い。
「では、次はククルだ。彼女のシチューが美味いと思った者は拍手を」
今度は、さりげなく腕を組んで動きを少なく。うわー、拍手しにくい。睨んでいるわけじゃないんだけどさ、観客たちを窺うように見ている。まさに『諸君は、どう思っているのかね?』と、言わんばかりに。心を覗かれるような表情をされると、人間って、行動しにくくなるんですよ――。
☆
料理対決。その結果はというと――互角であった。
テスラの演説によって感情補正の入った観客は、見事にミトリへと票を入れた。だが職人気質な連中は、ちゃんと美味いモノは美味いと評価したのか、ククルに拍手をしてくれた。
「ふむ……引き分けか……」
ククルのスペックの高さを改めて認識させられる決闘だった。ミトリもよくがんばったと思うある。20分という明らかな難題をよくクリアできたと思う。ここまでできるのなら、どこへ行っても恥ずかしくないお嫁さんになれる。
だが、いちばん凄いのはテスラだ。完全敗北だったはずのミトリを、引き分けにまで持っていった演説力。こういうところは俺も見習うべきだと思った。
「うう……ひ、引き分けですからね! 今回は、これで引き下がりますが、次は絶対に勝ちますからね!」
「はい。私も負けませんからね。次の勝負も楽しみにしております」
ククルが、嬉しそうに微笑んで――手を差し出した。
「え……?」
「楽しかったですよ。こんなに気持ちのこめられたお料理は食べたことがありません。また、勝負しましょうね」
意地を張っていたのが恥ずかしくなったのか、あわわと顔を紅潮させるミトリ。俯き加減に握手を交わした。
「こ、こちらこそ楽しかったです……」
こうして、俺争奪料理勝負対決は幕を閉じるのだった――。
屋敷の者やククルたちが調理器具を片付けを始める。俺はそれらを眺めながら、テスラに問う。
「……ミトリの結婚の件、テスラ様の力でなんとかならないのですか?」
「ん? おまえも気の毒に思うか?」
「貴族だし、結婚相手を選べないのは仕方ないとは思いますけどね。相手を考えると、さすがに横暴な感じがします」
「しかし、それはコラットル家の問題だろう。他家の婚約に文句を言っていい立場ではあるまい」
「テスラ様の権力なら、どうにでもなるでしょう? 血縁者の筆頭なのですから」
このシルバンティア領内においての最高権力者はテスラなのだ。この地に住んでいる貴族は、誰もがテスラの顔色を窺って生活している。血縁者ともなれば、なおさらだ。
「まあ、な」
「気が進みませんか?」
尋ねると、テスラは「ふっ」と笑った。
「さすがに、なにもしないわけではない。ミトリの父には、悪くない縁談を紹介してやるつもりだ。私とて、ミトリには幸せになってもらいたい」
「ちゃんと考えていたんですね」
命令すれば、たしかにミトリの父の暴走を抑えることはできるだろう。だが、それをやったら、今度はテスラが領主としての職権というか立場を乱用したことになる。ゆえに、そこはかとなく良縁を紹介してあげるそうだ。それが上手くいかぬ時は、少しきつく言うかもしれないとのこと。
「ミトリも必死だからな。この前など、私に結婚を申し込んできたぐらいだ」
「男前ですもんね」
「何か言ったか?」
「いえ、なにも」
まあ、女領主だけど、めちゃくちゃ凜々しくかっこいいし、憧れるのもわかるわ。
「ちなみに、良縁って誰ですか?」
「ラーズイッド家の嫡男を推薦しようと思っている」
「ラーズイッド家の嫡男ですか。それってどんな――」
ん? ラーズイッド家? 俺の家、ラーズイッド家。そして、俺嫡男。
「お、俺ですかッ?」
「まあ、バシーク卿も文句を言わんだろうな。なんせシルバリオル家とも繋がることができるのだ。コラットル家が難色を示すようなら、おまえが出世すればいいだけだ。励め」
「まだ結婚とか考えてませんよ!」
「ははは、良いではないか。前向きに考えておくがいい。それとも私と結婚するか? 私に勝ったら、婿にもらってやってもいいぞ?」
この人に勝てる人なんているのだろうか。一生独身じゃねえの。俺なら勝てると思うけど、勝ってあげないし。
「――テスラ様」
テスラの背後に、殺気を漂わせながら佇むククル様。
「う、うむ?」
「少々、お昼休憩が長引いておりますよ? ……仕事に戻られるお時間では?」
「あ、ああ、そうだったな」
そう言って、テスラは申し訳なさそうに屋敷へと戻っていく。なに? うちのメイド、テスラの秘書も兼任してるの? いつ就任したの? どれだけシルバリオル家を掌握してるの?
「では、いただくか。まずはミトリのから――」
テスラが一口頬張る。俺も倣ってばくり。観客たちも食べる。
うん。美味しい。かなり美味い。二十分でつくったとは思えないほどのデキだ。野菜を煮込む時間がないゆえ、バターで風味やコクをフォローしている。かなり機転の利いた仕上がりになっているのではないか。難点を挙げるとすれば肉の硬さか。フォークでほぐして工夫してあるようだが、やはり硬さが残っている。
「うむ。肉の歯ごたえがあって美味いな」
けど、テスラにとっては、そんなことどうでもいいようだ「この人の顎の力なら骨だってバリバリ食うんだろうな」。
「私を、獣かなにかと勘違いしていないか?」
「え? こ、心の声、漏れてました?」
いかんいかん。審査に集中しよう。
「うん。美味い」
俺が褒めると、ふふんとドヤ顔のミトリ。
「さて、次はククルの料理をいただくか。ん? こ、これは――これがビーフシチューだと?」
驚くテスラ。俺も、ククルのシチューに手を伸ばす。
――なるほど、こうきたか。
薄切りビーフ。そう、ククルは肩ロース肉を薄切りにし、ロール状に巻いて肉を形成している。そうすることで、煮込む時間を必要としなかったのだ。
そして、みじん切りどころかペーストになるまで細かく刻んだ野菜。赤ワインで煮込んで裏漉し。それらにロール状のビーフを入れる。もちろん、そういった手間を、非常に素早くこなすという技術が必要になってくる。
彼女のシチューを口へと運ぶ。まろやかな野菜の旨みが口の中に広がった。赤ワインとローリエの香りが鼻を抜けていく。薄切りビーフは舌へとまとわりつくかのように柔らかい。
「なんという味だ……まさに奇跡……」
と、さすがのテスラも驚きを隠せないようであった。
「嘘だろ、これがシチュー?」「薄切りビーフを使うなんて、マーベラス!」「俺たちが何時間もかけて煮込んでいたのはなんだったんだ」「いや、手際が良すぎるんだよ」「包丁さばきも完璧だった」「明日から、ククルに料理長も兼任してもらおう」
観客からの評価も凄まじい。これは勝負あったか。ミトリも悔しそうに、彼女のシチューを食べている。否定したいようだが「はむっ、はふっ」と、手が止まらないようだ。
「ふむ……」
コトリと、食べ終わった皿をテーブルに置くテスラ。立ち上がって、司会進行へと戻る。
「それでは、投票を始めようか」
審査員は、俺とテスラ。あとは屋敷の連中が20数人。美味しいと思った方を拍手で称えることによって勝者を決める。
「だが、その前に、だ――」
テスラは、ゆっくりとミトリに近づき――彼女を紹介する。
「知っていると思うが、彼女は私の従姉妹である。いや、妹といってもいいだろう。もちろん、そのことで彼女に忖度する必要はない」
おお、公正な判断を促している? ――と、思ったのも束の間。なんか雲行きが怪しくなるようなことを言い出した。
「彼女がこの決闘を挑んだのには、悲しい理由がある。このままだとミトリは親の決めた相手と結婚しなければならない。候補として挙がっているのは、ミガなんとか様とか、ケイなんとか様とか、スピなんとか様とか……さらには、あのスイートなんとか様という貴族もいる――」
さすがに他の貴族様を貶めるのは憚るのか、名前の一部をぼかしていた。だが、わかる人にはわかるのか「あの20人嫁殺しのスイートグランか?」「ミトリ様、そんなところに?」「酷い! コラットル家は何を考えているんだ」と、騒然としていた。
「ミトリのビーフシチューには想いがこめられている。――死にたくない……お嫁に行きたくない……好きな人と結婚したいというな」
それ、審査に関係ありますか?
「――料理は味だけではない。心が入ってこそ料理である。そうでなければ、世の中のコックは不要。レシピさえ存在すればいいのだからな。……だから、誰が、どのような気持ちで、誰のためにつくるか……それこそが料理の神髄だと、私は思っているし、信じている」
なんという演説。なんという詭弁。これがシルバリオル家の領主たる者のカリスマという奴か――。
「子供にとって、もっとも美味しい料理とは、母親が一生懸命つくった料理ではないか? その感想には一切の嘘がない。あるのは愛だけだ。料理というのは、一概に味だけでは語れないものがある」
テスラが、俺を見て笑みを浮かべている。なるほど、そういうことですか。テスラとしても、かわいい妹分をどこの馬の骨に嫁がせたくもないわけで、ならばと俺という手頃な奴にもらってもらおうというわけですか。そうですか。この野郎。いや、このアマ。ふざけるな、俺はまだ結婚したくないんだぞ!
「たしかに、ミトリちゃんには幸せになって欲しいしな」「まあ、美味いっちゃ美味かったし」「いや、勝負は勝負だろ」「けど、ミトリ様の一生懸命な感じが、味に出ていたなぁ」
観客の皆様にも迷いが生じ始めた。
「――もちろん、これは勝負である。配慮はいらん。だが、私はミトリに入れる。肉が硬いと思うかもしれないが、私にはちょうどいいし、それも試行錯誤の結果でかわいいと思っている。――では、投票に入ろうか――」
すっげえ、名演説。しかも、グッと引き寄せたタイミングで、速やかに投票開始ですか。
「ミトリの方が美味かったと思う者は拍手だ」
言って、テスラがパンパンパンと拍手を始める。これ、呼び水になるんだよな。会場とかで誰かが拍手をすると、それをきっかけにみんなが手を叩き始めるんだよ。タイミングも完璧だし、この領主様、強いだけでなく民を操る力も長けていやがる。。
実際、テスラの話を聞いた観客たちは、深く頷いて拍手を始める。凄い。卑怯だけど凄い。
「では、次はククルだ。彼女のシチューが美味いと思った者は拍手を」
今度は、さりげなく腕を組んで動きを少なく。うわー、拍手しにくい。睨んでいるわけじゃないんだけどさ、観客たちを窺うように見ている。まさに『諸君は、どう思っているのかね?』と、言わんばかりに。心を覗かれるような表情をされると、人間って、行動しにくくなるんですよ――。
☆
料理対決。その結果はというと――互角であった。
テスラの演説によって感情補正の入った観客は、見事にミトリへと票を入れた。だが職人気質な連中は、ちゃんと美味いモノは美味いと評価したのか、ククルに拍手をしてくれた。
「ふむ……引き分けか……」
ククルのスペックの高さを改めて認識させられる決闘だった。ミトリもよくがんばったと思うある。20分という明らかな難題をよくクリアできたと思う。ここまでできるのなら、どこへ行っても恥ずかしくないお嫁さんになれる。
だが、いちばん凄いのはテスラだ。完全敗北だったはずのミトリを、引き分けにまで持っていった演説力。こういうところは俺も見習うべきだと思った。
「うう……ひ、引き分けですからね! 今回は、これで引き下がりますが、次は絶対に勝ちますからね!」
「はい。私も負けませんからね。次の勝負も楽しみにしております」
ククルが、嬉しそうに微笑んで――手を差し出した。
「え……?」
「楽しかったですよ。こんなに気持ちのこめられたお料理は食べたことがありません。また、勝負しましょうね」
意地を張っていたのが恥ずかしくなったのか、あわわと顔を紅潮させるミトリ。俯き加減に握手を交わした。
「こ、こちらこそ楽しかったです……」
こうして、俺争奪料理勝負対決は幕を閉じるのだった――。
屋敷の者やククルたちが調理器具を片付けを始める。俺はそれらを眺めながら、テスラに問う。
「……ミトリの結婚の件、テスラ様の力でなんとかならないのですか?」
「ん? おまえも気の毒に思うか?」
「貴族だし、結婚相手を選べないのは仕方ないとは思いますけどね。相手を考えると、さすがに横暴な感じがします」
「しかし、それはコラットル家の問題だろう。他家の婚約に文句を言っていい立場ではあるまい」
「テスラ様の権力なら、どうにでもなるでしょう? 血縁者の筆頭なのですから」
このシルバンティア領内においての最高権力者はテスラなのだ。この地に住んでいる貴族は、誰もがテスラの顔色を窺って生活している。血縁者ともなれば、なおさらだ。
「まあ、な」
「気が進みませんか?」
尋ねると、テスラは「ふっ」と笑った。
「さすがに、なにもしないわけではない。ミトリの父には、悪くない縁談を紹介してやるつもりだ。私とて、ミトリには幸せになってもらいたい」
「ちゃんと考えていたんですね」
命令すれば、たしかにミトリの父の暴走を抑えることはできるだろう。だが、それをやったら、今度はテスラが領主としての職権というか立場を乱用したことになる。ゆえに、そこはかとなく良縁を紹介してあげるそうだ。それが上手くいかぬ時は、少しきつく言うかもしれないとのこと。
「ミトリも必死だからな。この前など、私に結婚を申し込んできたぐらいだ」
「男前ですもんね」
「何か言ったか?」
「いえ、なにも」
まあ、女領主だけど、めちゃくちゃ凜々しくかっこいいし、憧れるのもわかるわ。
「ちなみに、良縁って誰ですか?」
「ラーズイッド家の嫡男を推薦しようと思っている」
「ラーズイッド家の嫡男ですか。それってどんな――」
ん? ラーズイッド家? 俺の家、ラーズイッド家。そして、俺嫡男。
「お、俺ですかッ?」
「まあ、バシーク卿も文句を言わんだろうな。なんせシルバリオル家とも繋がることができるのだ。コラットル家が難色を示すようなら、おまえが出世すればいいだけだ。励め」
「まだ結婚とか考えてませんよ!」
「ははは、良いではないか。前向きに考えておくがいい。それとも私と結婚するか? 私に勝ったら、婿にもらってやってもいいぞ?」
この人に勝てる人なんているのだろうか。一生独身じゃねえの。俺なら勝てると思うけど、勝ってあげないし。
「――テスラ様」
テスラの背後に、殺気を漂わせながら佇むククル様。
「う、うむ?」
「少々、お昼休憩が長引いておりますよ? ……仕事に戻られるお時間では?」
「あ、ああ、そうだったな」
そう言って、テスラは申し訳なさそうに屋敷へと戻っていく。なに? うちのメイド、テスラの秘書も兼任してるの? いつ就任したの? どれだけシルバリオル家を掌握してるの?
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