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第48話 ダークエルフとの共存

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 それから一週間が経過した。

 緊急事態宣言とロックダウン。このおかげで、町からは観光客が消えた。

 結果、ウルフィは、労働者の賃金を払えなくなるという危機に陥った。設備費の支払いもできなくなった。ローンも家賃も払えなくなった。

 ウルフィの屋敷の外には、大勢の労働者や借金取りが詰め寄っている。ダークエルフたちが、それらを必死に抑えようと奮闘してくれていた。

「私は……負けたのですね……」

 窓の外を眺めながら、ウルフィはポツリとこぼす。
 ――ああ、卑しく儲けようとしたのは事実だ。金のためにホーリーヘッド温泉を襲ったのもウルフィだ。これは、人間を追い詰めた罰なのだろう。すべて自業自得。

 そして、ベイルの知略に負けた。
 ただ、それだけ。

 窓から、眼下の景色を眺めていると、ふと、押し寄せる労働者をかき分けるベイルの姿があった。彼は、兵士たちと話をして屋敷へと入ってくるのであった。

     ☆

 社長室。
 真剣な顔して、ベイルがやってくる。

「ウルフィ。酷い有様だな」

「……嫌味を言いにきましたか?」

 諦めの混じりの笑みを浮かべながら、ウルフィは応対する。

「もう、終わりにしようぜ。労働者に給料払って、会社をたたもうぜ」

「払うお金がありません」

 すると、ベイルは扉の向こうに声をかける。

「アスティナ」

「はいよ」

 軽い返事をして、熱波師のアスティナが巨大な鞄を抱えて入ってくる。そして、彼女は、ウルフィの前にバッグを広げて見せた。中には、紙幣が大量に敷き詰められていた。

「これは……?」

「あんたから受け取った契約金の5億ゴールド。手を付けずに、そっくりそのまま返すわ。これで従業員の給料を払ってあげなさい」

 アスティナは、金欲しさに寝返ったわけではないらしい。あくまで、ウルフィの資金を枯渇させるために雇われたとのこと。

「ということは、ベイル側の仕向けたスパイだったわけですね」

「まあ、そんなとこよ。人間を裏切るとでも思った?」

 ウルフィは、鞄に視線をやった。正直なところ、この程度の額をいただいたところで意味はなかった。ラングリードの経済戦争は終幕。敗北したウルフィには行くところがない。

 今頃、土を食って飢えを凌いでいる魔王は、怒りに怒っているだろう。戻れば殺されるに違いない。

「ウルフィ。おまえの負けだ。店は、すべて一時的に国が買い上げる。その金で借金を清算しろ。払いきれないぶんは、コツコツ返していけばいい。おまえほどの商才があれば、難しいことじゃないはずだ」

 ――コイツ、なにを言っているの?

「ここまでやらかして、魔王軍にゃ戻れないだろ。見限って、この町に引っ越せよ」

「……私たちを受け入れるというのですか?」

「そういうつもりで言ってる。本気なら、好きなだけこの町で暮らせばいい。プリメーラだって上手くやってるぜ? 平和に暮らしたいだけなら、ラングリードはうってつけだ」

「そ、そんなことが可能だと……?」

 ――もう、魔王軍とは関係のないところで生活できる? ダークエルフが、迫害されずに暮らしていける? 普通の生活ができる? 

 いや、まさかそんなと一瞬は疑った。疑ってけど、事実ベイルはこうして手を差し伸べてくれている。

 再度、鞄の5億ゴールドを見やった。

「私たちを受け入れるというのですか?」

「最初からそのつもりだ。平和に暮らしたいだけなら、この町に好きなだけいれば良い。居場所は俺がつくってやるからよ」

「なんという……」

 ――懐の深い御方なのだろう。

 翌日、ウルフィは城へと赴き、事業の撤退を告げる。洗いざらいすべてを説明し、これまでの行いを詫びた。

 フランシェが国と話をしてくれて、すべての店を王家が買い取ることになった。事業を縮小し、これまで働いていてくれた人の雇用も守った。

 さらには、ダークエルフにも仕事を与えてくれた。ウルフィも、雇われ社長としていくつかの店を管理させてもらうことになった。町を危険にさらした彼女に対し、過分な配慮であった。

 同時にサウナ無料時代も終焉を告げた。民はガッカリしたが、これが普通なのだと理解してくれた。やっぱりサウナは金を払うだけの価値があるのだと思っていたようだ。

 こうして、ウルフィとの経済戦争は終焉を告げる。

 世界は大きく揺れ動いていた。
 貧困を極める魔王軍に対し、人間たちは連戦連勝を重ねる。魔王軍の領地は凄まじく縮小していく。

 だが、魔王の力は偉大だ。

 特化戦力である魔王を倒すのには、生半可な戦力では太刀打ちできない。

 よって、ラングリードから討伐軍が編成される。当然、中核を成すのは伝説のサウナー・勇者ベイルだった。

 魔物の抵抗が一切ない状況で、彼らラングリード騎士団は、魔王を倒すためにデスマゾン山岳へと向かうのであった。
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