異世界サウナ。ととのえばととのうほど強くなる勇者がサウナの力で無双する。~能力を恐れた魔王軍が全裸の時に攻めてくるので、全力でもてなします~

倉紙たかみ

文字の大きさ
上 下
35 / 66

第35話 ひさしぶりのヴァルディスさん

しおりを挟む
 ――魔人ヴァルディス。

 ベイルに敗北してから、彼は魔王軍から姿を消した。その後、誰にも報せず、誰にも知られず、辺境のキルマウンテンの中腹に小屋を建て、仙人の如き暮らしをしていたのだが――。

 この日、彼のもとに招かれざる客が現れることになる。


「アレから、二ヶ月か……」

 小屋の外。切り株の椅子に腰掛け、焚き火に薪をくべながらポツリとつぶやいた。

 ヴァルディスは、未だ敗北の味を忘れられないでいた。圧倒的な実力差というものは、かくも心を虚無に陥れるものなのか。

 努力してどうにかなるレベルであれば、むしろ力への渇望も増すというもの。埋められぬ実力は、あまりにも残酷。

 魔王軍で、雑魚を相手に訓練していても、意味はないと思った。だから、こうして自分を見つめ直すため、ひとりになったのだが――。

 ――未だ道はわからず。

 瞑想を続けるヴァルディス。
 隠居するには早い。

 思いふけっていると、ふと、地鳴りのような声が聞こえた。

「――ヴァルディスよ……このようなところで、なにをやっている……」

「この声は……」

 声が咆哮へと変わる。

「グルアァァアァァァァァァッ!」

 周囲の岩肌を砕くようにして、地面より竜の顔が出現する。威嚇するかのように口を開いた。巨漢のヴァルディスでさえ、ひと飲みできてしまいそうなほど巨大だった。

 顔面が、ぐわりと持ち上がり、大地から這い出るようにして全身を明らかにする。

 サイクロプスすらも貧弱に思わせる、強烈な筋肉の肉体があった。全身から、凄まじいトゲが剥き出しになっている。背中にはドラゴンの翼。

 魔物を超越した存在――。

「魔王……様……?」

 巨大な主君を、見上げるように眺めるヴァルディス。

「ヴァルディスよ! 貴様の使命は勇者を始末することだろう。こんな辺境でくつろいでいる場合ではないハズだ!」

 魔王の来訪――なのにも関わらず、ヴァルディスは落ち着きを払って答えた。

「俺は……ベイルに手も足も出なかった。いまのままでは奴に勝てん」

「ならば、知略を巡らすなど、方法はあるだろうッ!」

 ガルァァァァと吠える魔王。
 だが、ヴァルディスは動じなかった。

「――茶番はやめろ。トーレス」

「ぬぅッ?」

 名前を呼ぶと、魔王だった存在が黒い液体へと変貌し、大地へ溶けていく。あとに残ったのは黒髪の少年だった。

 特徴のない顔と体型。
 村人の如きシンプルな服装を纏っている。

「さすがヴァルディスさん。気づいてました?」

 魔王に扮していたのは、魔王軍五大魔将のひとり、変幻のトーレス。姿を変えることができる特殊能力を持っている。

「魔王様が、わざわざ足を運ぶわけがないだろう」

「あはは、たしかに」

 まあ、トーレスもバレるのをわかって変化したのだろう。

「探したよ、ヴァルディスさん。まさか、こんな辺境で暮らしてるなんて思わなかったからさ」

「……なんの用だ?」

「魔王様が怒ってますよ。あなたが、軍を見限ったと思ってる」

「見限ったわけではない。ひとりになりたかっただけだ」

「そういうわがままが、誤解を招くんですよ。それに、プリメーラさんがやられたんでご機嫌もナナメなんです」

「ほう、プリメーラが?」

「ええ、勇者ベイルに」

 さすがはベイルだ。我が宿敵ならば、他の五大魔将如きに負けてもらっては困る。

「嬉しそうですね」

「そんなことはない」

「そうかなぁ? ……まあいいや。そろそろ、仕事を再開してくれませんか? 悔しいけど、純粋な戦闘力なら五大魔将の中でもトップクラス……あなたの代わりはいません」

「俺は、しばらく戻らん」

「いま、ウルフィさんが勇者討伐に向かってます。あの人のやり方は陰湿で悪質だ。さすがのベイルも、今回ばかりは厳しいでしょ」

「ベイルを倒したいのなら、好都合だろう」

「そしたら、ダークエルフが魔王軍の中枢に据えられちゃいますよ。あの人なら、魔王軍そのものを乗っ取りかねない。それぐらいの内政力はあります。ぼくたちの居場所がなくなっちゃいます」

「俺には関係ない」

「関係なくはないでしょ。このままじゃ、ヴァルディスさんの立場もなくなっちゃうじゃないですか」

 トーレスは呆れたように肩をすくめた。

「関係ないと言っているだろう。それともなにか――?」

 ヴァルディスは筋肉を隆起させ、魔力をわずかに放出させる。

「おまえは、魔王様の命令で、俺を始末しにきたのか?」

 並の魔物なら一目散に逃げ出すようなヴァルディスの闘気。トーレスは数歩さがって、両掌をわたわたと振る。

「そそそ、そんなんじゃないよ! ぼくなんかヴァルディスさんに勝てるわけないじゃないですか!」

 謙遜しているが、トーレスとて五大魔将のひとりなのだ。容易くは勝てないことを、ヴァルディスも知っている。

「魔王様に伝えておけ。俺は、しばらく戻らん。五大魔将から外すというのであれば、それも構わんとな」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

強奪系触手おじさん

兎屋亀吉
ファンタジー
【肉棒術】という卑猥なスキルを授かってしまったゆえに皆の笑い者として40年間生きてきたおじさんは、ある日ダンジョンで気持ち悪い触手を拾う。後に【神の触腕】という寄生型の神器だと判明するそれは、その気持ち悪い見た目に反してとんでもない力を秘めていた。

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】 事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。 神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。 作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。 「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。 ※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

処理中です...