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第34話 黒い蜂

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 ベイルから報告を受けたフランシェ。

 後日、ウルフィとの邂逅を果たすことになる。

 高級料亭『割烹おりはるこん』を予約。広々とした畳の空間で、ウルフィとの一席を設ける。相手がタダの移民ならともかく、魔王軍五大魔将というのなら慎重を期す必要がある。だろう

 連中が、本気で移民を考えているのかどうかはともかく、そもそも魔王軍にいたということは『人間を滅ぼす気はあった』ということである。要するに、人間という種族の命を安く見積もっている。

 今日の会合はお互いの意思のすり合わせになるのだろうが、フランシェは毅然とした態度を取る気でいた。民のためにも決して油断はしない。

 現状、ふすまの向こうにはメリアが待機している。同時に、ベイルとアスティナも近くの大浴場で待機。会合が始まり次第、サウナに入る算段となっている。

「ウルフィ様が、ご到着されました」

 女将が報告してくれる。やや時間があってから、ウルフィがやってきた。着物を纏っていた。随分と町に馴染んでいるようだ。

「お待たせいたしましたぁ」

 甘々しい声を奏でるウルフィ。それに続くように、数多のダークエルフがゾロゾロと入ってくる。それらを睨みながら、フランシェは厳しい言葉を向ける。

「……ひとりで来られる約束では?」

「うふふ、ごめんなさぁい。この子たち、ついてくるって聞かなかったんです」

「お引き取り願えるとありがたいのですが」

 10人はいるだろうか。ウルフィが座布団に腰掛けると、彼女の背後へと控えるように座る。

「この子たちも家族なので、どうか御一緒させてくれませんか?」

「約束が違いませんか?」

「でも、そっちも大勢用意しているのでしょ?」

 ウルフィは意味ありげに微笑みながら、視線をふすまに向ける。

 カマをかけているのか、それとも知っているのか。まあ、こんなことで中断するのも煩わしいので、フランシェは「いいでしょう」と、仕方なく承諾する。

 こうして、国を担う騎士団総帥とダークエルフのボスとの対話が始まる。

「ベイルから聞きました。あなたは五大魔将、天計ウルフィだそうですね」

「正確には『元』五大魔将ですね」

「魔王軍とは袂を分かったのですか?」

「どうなんでしょう? そこのところ曖昧なんですよねぇ。水害があった時、魔王様に援助をお願いしたんですけど、ほっとかれちゃったもので」

 顎に指を当てて、思案顔をするウルフィ。

「敵対関係にあるはずですが?」

「ダークエルフが、人間を直接攻撃したことはありませんわ。あくまで、魔王軍が勝手にやっていることですわよ?」

 感情はさておき理屈はわかる。もし、ラングリードがダークエルフに攻撃を仕掛けたても、それはラングリードの責任。人類全体の総意ではない。いろんな立場の人間がいるように、魔物にも同様のことが言える。

「明言しておきますが、人間であろうとダークエルフであろうと、この町を脅かす存在であれば、相容れぬことはできません。場合によっては、災害によって移住を余儀なくされているとしても、町から出ていただくことになるでしょう」

 すると、ウルフィは神妙な面持ちになった。

「――私たちは蜂です」

「蜂?」

「我々は集団で生活しています。危険にさらされた時、守るべきは個ではなく集団です。ダークエルフが他種族に忠誠を誓うことはありません。魔王様に従うのは、あくまで集団を守るため。それができないのであれば、魔王様に尽くすこともありません」

「ゆえに、今度は人間に尽くすと?」

「尽くすのではありません。集団のために、より良い選択をするだけです」

 なるほど。魔王による世界の支配に共感しているというわけではなく、ただ種族の保身のためだけに、魔王軍で働いていたというわけか。

「ならば、これから人間とはどういう関係を築いていきたいのですか?」

「お互いの文化を尊重し、ちょうど良い距離の関係を築いていきたいと思っております」

 ちょうど良い距離という言葉に、含みがあると思った。同じ町に住んでいても、相容れない部分はあるとわかっているのだろう。

「しかし、このラングリードは人間が築き上げた世界最大の観光都市です。好き勝手されるわけにはまいりません」

「どうしたらよいでしょうか?」

「人間の文化に馴染んでいただきます。税金も払っていただくことになります。魔王軍が攻めてきた時には、こちらに味方してもらうことになります」

「税金は払います。魔王軍と戦えというのなら、戦いましょう。魔王軍の情報もお教えいたします。ただ、文化に関しては、そう簡単に変えることはできません。ご理解ください」

「いえ、努力してもらうことになります」

「この国の法律が、許しますか? 他種族や多国籍の人間の、文化、宗教、風習は尊重すべきと、法律全書に書かれていましたが?」

「勉強熱心ですね」

「うふふ。馴染む努力は、すでにしているのですよ。私共としては、なかよくなかよーく人間の方々と暮らしていきたいですからね――」


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