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第13話 去る者追わず
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俺は、怒濤の勢いで兵舎のサウナへ飛び込んだ。こういう時、城の連中は恐ろしいまでに優秀だ。俺の登場を予想していたかのように扉を開け、ロッカーを開け、タオルを用意し待機している。
ダイブするかのようにサウナへ。スライディングするかのようにサウナマットへと腰掛けた。
壁には映像を映すことのできる『モニター』という魔法のパネルがある。普段は、娯楽的な映像が映し出されるのだが、このような有事の際は、戦況などを映し出していた。
俺は、奥歯をギリと噛みしめながら画面を見やる。
プリメーラ軍が城壁に取り付いていた。マジックサウナストーンシステムを警戒してか、どうやら熱耐性のある装備を纏っているらしい。ヴァルディスの時ほど有効な防御手段として機能していなかった。
――落ち着け、俺。
この時間が、もっとも忌々しい。こうしている間にも、騎士団の連中は魔物たちと戦っている。彼らの期待に応えるためにも、俺は最高にととのわなくてはならない。
――心の乱れは、サウナに影響する。
交感神経(こうふん)と副交感神経(きゅうそく)。この二面拮抗が、サウナの肝なのだ。もし、俺が苛立ち興奮してしまえば、仕上がりがブレる。だからこそ、平常心だけは揺るがさない。
もうすぐだ。
もうすぐ俺が助けに行く。
――待ってろよ。
7分経過。
冷水。
そして外気浴へ。
1セット目のルーティンが終わる。
しかし、事件は2セット目の途中に起こった。
「これは……どういうことだ……?」
正面のモニターを見ていると、プリメーラ軍に動きがあった。なんと、撤退を始めたのである。
「勝った……?」
――いや、おかしい。
戦況は五分だった。
しかも、プリメーラ軍は本気ではなく、後続の部隊を多く残している。戦いが始まってから30分も経過していないのに撤退するのは、いくらなんでも早計すぎる。
ラングリード軍が予想以上に強かった?
それとも俺の存在を懸念した?
――可能性はある。いや、それは当然だ。この戦争は、俺がととのうかととのわないかによって勝敗が決まると言ってもいい。
『ベイル、聞こえますか? ――プリメーラ軍が撤退を始めました』
画面が、フランシェの顔へと切り替わる。
「ああ、こっちでも確認した」
『ひとまず安心といったところですね』
俺は顎を弄るように思案する。フランシェは言葉を続ける。
『あなたがととのい次第、追撃を仕掛けましょう。第一から第四騎士団まで、出撃準備をさせます』
定石だと思った。しかし、俺はそれを拒否する。
「いや、俺を待つ必要はない。いますぐ出撃しろ」
『……なぜですか? あなたがいれば、損失を最大限減らすことができます。それに、この撤退が、罠という可能性だって残されているのですよ』
――この撤退が罠かどうか。
これは、プリメーラとの読み合いだ。奴のの知略が本物なら、ととのった俺が追撃するなんて、予想が付いているだろう。
だからこそ迅速に動く。ととのう前に追撃して、向こうの予想を覆す。
「俺もととのい次第、戦線に加わる」
『らしくありませんね。罠にかかれば、多くの犠牲を払います。それなりの根拠がなければ、それは承認できません』
「根拠はない。これは勘だ」
敵の策略が読めたわけではない。だが、相手は知将。イエンサードは、その慎重かつ長期的な策略によって、ジリジリと削られていったと聞く。二の舞にならないためには『潰せるときに確実に潰す』のがベストだと考える。
罠が仕掛けられていたら、大勢の犠牲が出る。しかし、これは戦争だ。今後のことを考えれば、少しでも被害を抑えるために、俺は提案した。
『勘などという理由で、承認はできません』
そう言われてしまうと、強く言うことはできなかった。こちらは、勘で進言しただけなのだから――。
その後、フランシェたちは俺がととのうのを待ってから、追撃を開始した。
だが、時はすでに遅し。
プリメーラ軍は遙か遠くまで撤退。ついには奴の部隊を捉えることができなかった。
ダイブするかのようにサウナへ。スライディングするかのようにサウナマットへと腰掛けた。
壁には映像を映すことのできる『モニター』という魔法のパネルがある。普段は、娯楽的な映像が映し出されるのだが、このような有事の際は、戦況などを映し出していた。
俺は、奥歯をギリと噛みしめながら画面を見やる。
プリメーラ軍が城壁に取り付いていた。マジックサウナストーンシステムを警戒してか、どうやら熱耐性のある装備を纏っているらしい。ヴァルディスの時ほど有効な防御手段として機能していなかった。
――落ち着け、俺。
この時間が、もっとも忌々しい。こうしている間にも、騎士団の連中は魔物たちと戦っている。彼らの期待に応えるためにも、俺は最高にととのわなくてはならない。
――心の乱れは、サウナに影響する。
交感神経(こうふん)と副交感神経(きゅうそく)。この二面拮抗が、サウナの肝なのだ。もし、俺が苛立ち興奮してしまえば、仕上がりがブレる。だからこそ、平常心だけは揺るがさない。
もうすぐだ。
もうすぐ俺が助けに行く。
――待ってろよ。
7分経過。
冷水。
そして外気浴へ。
1セット目のルーティンが終わる。
しかし、事件は2セット目の途中に起こった。
「これは……どういうことだ……?」
正面のモニターを見ていると、プリメーラ軍に動きがあった。なんと、撤退を始めたのである。
「勝った……?」
――いや、おかしい。
戦況は五分だった。
しかも、プリメーラ軍は本気ではなく、後続の部隊を多く残している。戦いが始まってから30分も経過していないのに撤退するのは、いくらなんでも早計すぎる。
ラングリード軍が予想以上に強かった?
それとも俺の存在を懸念した?
――可能性はある。いや、それは当然だ。この戦争は、俺がととのうかととのわないかによって勝敗が決まると言ってもいい。
『ベイル、聞こえますか? ――プリメーラ軍が撤退を始めました』
画面が、フランシェの顔へと切り替わる。
「ああ、こっちでも確認した」
『ひとまず安心といったところですね』
俺は顎を弄るように思案する。フランシェは言葉を続ける。
『あなたがととのい次第、追撃を仕掛けましょう。第一から第四騎士団まで、出撃準備をさせます』
定石だと思った。しかし、俺はそれを拒否する。
「いや、俺を待つ必要はない。いますぐ出撃しろ」
『……なぜですか? あなたがいれば、損失を最大限減らすことができます。それに、この撤退が、罠という可能性だって残されているのですよ』
――この撤退が罠かどうか。
これは、プリメーラとの読み合いだ。奴のの知略が本物なら、ととのった俺が追撃するなんて、予想が付いているだろう。
だからこそ迅速に動く。ととのう前に追撃して、向こうの予想を覆す。
「俺もととのい次第、戦線に加わる」
『らしくありませんね。罠にかかれば、多くの犠牲を払います。それなりの根拠がなければ、それは承認できません』
「根拠はない。これは勘だ」
敵の策略が読めたわけではない。だが、相手は知将。イエンサードは、その慎重かつ長期的な策略によって、ジリジリと削られていったと聞く。二の舞にならないためには『潰せるときに確実に潰す』のがベストだと考える。
罠が仕掛けられていたら、大勢の犠牲が出る。しかし、これは戦争だ。今後のことを考えれば、少しでも被害を抑えるために、俺は提案した。
『勘などという理由で、承認はできません』
そう言われてしまうと、強く言うことはできなかった。こちらは、勘で進言しただけなのだから――。
その後、フランシェたちは俺がととのうのを待ってから、追撃を開始した。
だが、時はすでに遅し。
プリメーラ軍は遙か遠くまで撤退。ついには奴の部隊を捉えることができなかった。
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