パーティからリストラされた俺が愛されすぎている件。心配だからと戻ってくるけど、このままだと魔王を倒しに行かないので全力で追い返そうと思います

倉紙たかみ

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第29話 創造の力

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 ――やっぱり、人間って面白い生き物だなぁ。

 森の中。ヘルデウスはロッキングチェアにゆられながら本を眺めていた。

 ページに映るのは『動画』だ。各ページに、人間界の映像が流れるようになっている。ページを捲ると別の場所の動画を見ることができる。

 ゲート付近の映像を見ていたら、ダークドラゴンが人間の一団に討伐されてしまったではないか。ダークドラゴンは、魔界でもS級クラスの魔物である。少なくともヘルデウス互角かそれ以上。だが、相手にもならなかった。

「はは、あの子たちもこっちにくるのかな? 楽しみだなぁ。もう、ぼくの方から行っちゃおうかな」

 ツェルギスは、パラパラとページを捲っていく。すると、人間界はさらに面白いことになっていた。

「ふーん……人間ってバカなんだ」

 魔王ヘルデウス討伐の報せが、各国に届いたようだ。どこも歓喜に包まれている。だが、その裏で欲望が渦巻いていた。

 ――人間たちが戦争を始めようとしている。

 脅威がなくなったところで、疲弊した国を潰していくという計画なのだろう。これを機に世界統一を目指そうとしている国がある。すでに軍が動き出しており、カルトナという国が標的にされているようだ。

「争いが好きなんだね。人間ってのは。ぼくが手を出さなくても滅びそうだね」

「――滅びないわよ」

 突如聞こえてきた女性の声。ツェルギスは「へ?」と、困惑の一文字を落とした。他人の接近を感じ取れないほど、彼は間抜けではない。木々の隙間。獣道から、ゆっくりとリーシェが現れる。

「おまえは……おもちゃ」

「リーシェよ。名前ぐらい覚えときなさい」

 まさか、壊したと思ったはずのおもちゃが、再び目の前に現れるなど、ツェルギスは思わなかった。

「なんで生きてるの?」

「あんたを殺すために決まってんでしょうが」

 ツェルギスは笑みを浮かべる。少しだけ心が躍る。壊れたおもちゃが、さらに面白いおもちゃとなって戻ってきてくれたのだから。

「パワーアップしているようだね。静かで穏やかだけど、鋭い魔力を感じるよ。以前、住んでた世界には『能ある鷹は爪を隠す』という言葉があるのだけど、まさにそれだね。いや、きみの場合は、鷹であることですら隠している。このぼくが、接近に気づけないほどに――」

「なにを上からモノを言っているのかしら」

「今のきみは実に良い。お嫁さんにしてあげようか?」

 手を差し伸べるツェルギス。リーシェが、軽く空間を薙ぎ払う。すると、そのツェルギスの腕が軽く消し飛んだ。赤い血がブシュリと噴出する。

「へえ……」

 空間魔法か、はたまた風魔法か。どちらにしろ凄まじい魔力だ。ツェルギスは、すぐさま腕を再生させる。

「要求その1、いますぐゲートを閉じること。……わかってんのよ。こっちの魔物を送りこんでるんでしょ?」

「ははっ、やだよ。これからが面白くなるのに」

 再生した腕を確かめるようにグルグルと動かしてみる。

「要求その2、二度とあたしたちの世界に関わらないこと。要求その3、いますぐ死ね。要求その4、滅びろ。要求その5、消えろ。要求その6、くたばれ。要求その7、地獄に落ちろ」

「あはは、どの要求も意味は同じじゃないか」

「もし、あたしの要求に応えられないのなら――殺す」

「どっちにしろ殺されるんだぁ――」

 リーシェが、指を『ピストル』のカタチにする。指先が光った。すると、数多の光線が撃ち放たれ、ツェルギスを蜂の巣にする。

「がはッ……くッ――!」

 損傷を回復させるツェルギス。――見えなかった。指先が光っただけのように見えた。魔力を高速――いや、光速で打ち出したというのか。

「やるじゃないか……」

 ほのかな笑みを浮かべ、リーシェを睨みつける。

「けど、この程度じゃ死なないよ。それにさぁ、きみの魔法ぐらい、簡単に真似できるんだよッ!」

 ツェルギスも、指をピストルのカタチにして、光線を乱れ撃つ。だが、それらすべてはリーシェに触れた瞬間、吸い込まれるようにして消えてしまった。

「え……?」

「エナジードレイン。生命力も魔力も吸収する。あんたの半端な魔法なんか、通用しないわ」

「いいねぇ! じゃあ、物理ならどうかな?」

 大地に手を突く。魔方陣が出現。そこから、禍々しい大剣をぬらりと引き抜く。漆黒のオーラを纏い、刃の中央にはぎょろりと目玉が覗いていた。

「魔神剣ブラッドワークス。滅びを与える最強の剣だ! これを――」

 リーシェが魔神剣を睨む。すると、魔神剣の目玉が見開くよう驚いた。次の瞬間、粉々になって魔方陣へと還っていく。

「へ……? 魔神剣が、に、逃げた……?」

「あたしのことが怖かったようね」

 何事もなかったかのように、リーシェは一歩、また一歩とツェルギスに近づいていく。

「まあいい! こうなったら、直接バラバラにしてやるッ!」

 ニィと笑みを浮かべ、殴りかかるツェルギス。だが、リーシェはいとも簡単に腕を掴み魔力を流し込んで破裂させる。

「ぐッ! こ、この程度のダメージッ!」

 ――なんだこいつは! なぜ、これほどまでに強いッ?

「くっ! うおぁああぁあぁぁぁッ!」

 ツェルギスは魔力を解き放つ。身体を『変身』させる。ツェルギスのチート能力は『創造の力』だ。思い描いたことを、物理的にであれば魔力の限り実現できる。

 ツェルギスの肉体が緑色に変化し、下半身から根っこが伸びていく。大地を鷲掴みにし、周囲一帯へと蛇の群れの如く根が張る。肉体から蔓が伸び、肥大し、ツェルギス自身も巨大化していく。葉が生え、漆黒の花が毒の花粉をまき散らしながら乱れ咲く。

「それが、あんたの本当の姿ってわけね」

 リーシェが見上げるようにして言った。

 森を埋め尽くすような巨大植物のバケモノ。裸のツェルギスの下腹部からは蔓や根が大地を鷲掴みにしていた。大地から魔力を吸い上げ、力がみなぎる。

「ぼくの発想力はすべてを実現する。想像しよう、創造しよう、実現して見せよう。きみは惨たらしい最後を迎えるだろう。時間をかけて一滴残らず養分に変えてやる。最後は醜いミイラとなる」

「はっ、賢者様に発想力で勝てると思ってんの? エナジードレインは、こっちも得意なのよ。あんたこそミイラにして大地に還してあげるわ」
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