18 / 35
第18話 生と死を司るもの
しおりを挟む
「ここです……」
村長たちに連れてこられたのは教会だった。礼拝堂を素通りして奥へ。管理人の部屋と思しき寝室へと案内されるリーシェ。
――さて、この結界を張っている奴は何者か。
とりあえず、クレアドールに戻るルートを知っているとありがたい。フェミルもイシュタリオンもどこでなにをしているかわからない。こうなったら、迷子になったとかなんとか適当な理由を付けて、カルマに会いに行こう。誰も文句は言わないはずだ。っていうか言わせない。
「シスター・ルルカ。勇者様をお連れしました――」
「勇者じゃないっつーの」
紹介されたのは、痩せ細ったおばあさんだった。ベッドへ横になり、かすかな呼吸を繰り返している。リーシェを見るや、ほんのわずかに微笑み――瞳に涙を浮かべた。
「お……おぉ……ま、間に合いました……か……」
ルルカと呼ばれたおばあさんは、咳をしながら身体を起こす。村長が「無理をしないでくだされ」と、身体を支えていた。老々介護の現場を見せつけられた気分だ。
「アークルードを倒してくださった、勇者様ですね」
「リーシェ・ラインフォルトよ。あなたね、村の結界を張っているのは」
ルルカは、小さく相槌を打った。
「相当の魔力を持っているのはわかるわ。ただ者じゃない気配も感じる」
「しかし、それも以前までのこと。私の魔力は魔王軍には通用しませんでした……見つからぬよう結界を張るのが精一杯なのです……」
「――あんたに聞きたいことがあるわ」
「なんでしょう」
「あたしは、バングランド大陸に戻りたいの。具体的にいうと、クレアドールって町に行きたい。もし、方法があるなら教えてくれないかしら」
尋ねると、ルルカは首を左右に振った。
「それは……できません……」
「なぜ?」
「私はもうすぐ死にます……そうなると結界は消え、この村に残された人々は、魔王軍に皆殺しにされるでしょう」
なんとも残酷なことを言う。先刻から、村長だけでなく村の人たちはずっとリーシェのあとを付いてきていた。暇なのだろう。いや、村の行く末が気になっているに違いない。
「なので、お願いです……どうか、私が死んだあと、この村の者たちを守ってくださいませんでしょうか」
「……は? ……それって……要するに、あんたの跡を継いで、結界を張り続けろってコト?」
「……察しの良い方で助かります。……私の最後の頼みです……どうか、村人たちをお助けください……」
「冗談じゃないわよ! 私には、魔王を倒す役目があるの! あんたみたいに未来永劫田舎に引きこもっていられるほど、暇じゃないんだからね!」
「勇者リーシェ。あなたに、魔王ヘルデウスは倒せません……」
「コレでもアークルードを倒したのよ」
ふん、と、不機嫌そうに鼻を鳴らすリーシェ。
「たしかにアークルードは魔王に匹敵するだけの力を持っていると言われています。――しかし、それはあくまで噂――」
「どういうこと?」
アークルードは魔王の分離した一人格。善の部分を切り取った存在。その時点ではたしかに互角。だが、切り離されたあとは違う。魔王はその悪意を増幅させ、独自の進化を遂げていった。
「アークルードに苦戦しているようでは、魔王には勝てません――」
「……苦戦なんかしていないわ」
「嘘でしょう? 丸一日以上、世界が鳴動していましたよ。ずっと、戦っていたのではないのですか?」
エヴァンスとも戦っていたもん。成長だってしてるもん。
「……なんとでも言いなさいよ。とにかく、私はこんなところで油を売っているわけにはいかないの」
「つまり……この村の人たちを見殺しにするわけですか?」
「見殺し……?」
ふと気づく。村人たちの、すがるような視線に。
「もうお仕舞いじゃ……」「ここまでの命か……」「ぼくたち死んじゃうの?」「えーんえーん」「薄情だ……酷すぎる……」「死にたくないよぉ」
絶望の嘆きを奏でる村人たち。ニィと、薄い笑みを浮かべるルルカ。
「……このババア」
「魔王には勝てません。……しかし、あなたの魔力であれば、この村の者たちだけなら救うことができます」
ルルカが言うと、続くようにして村長が言葉を荒げる。
「勇者様! お助けくだされ! わしは死にたくないんじゃ! 死ぬには、まだ早すぎる!」
「いったいあと何年生きるつもりよ」
あまりの身勝手な要求に、軽蔑の言葉を浴びせるリーシェ。また、別の男が言う。
「お願いします! 来年になったら結婚しようって誓い合った恋人がいるんです!」
「いま結婚しなさいよ。なんで来年まで待つのよ」
奇抜な服装の女性も気を落とすようにつぶやく。
「画家になるのが夢だったのに……」
「この暗い世界でなんの絵を描くのよ。世界を平和にさせろよ。救世主を引きこもらせて描くほどのものかよ」
「……というわけで、リーシェ様が残ってくださらなければ、この村の人たちは死にます……。凶暴な魔物の餌になって、生きたまま内臓を引きちぎられたりもするでしょう……なにとぞ、この者たちのためにも、村をお救いください」
ニチャァと笑うルルカ。
「なにが『というわけで』よ! ただの責任転嫁じゃない!」
「かもしれません……。しかし、この者たちを生かすも殺すもリーシェ様次第……。どうか、役目を引き継いで――」
「うるせえ、ババア!」
リーシェは、持っていたライフバーンをルルカの腹部へと突き刺した。
「ぐぎゃぁあああぁぁぁぁッ!」
「ひ、ひぃい! 勇者様がご乱心じゃ! 一大事じゃ! ルルルルルルカ様ぁッ!」
「安心しなさい。殺してないから」
「へ?」と、素っ頓狂な一文字を落とす村長。
「ライフバーンは生命を司る聖剣。私の魔力を命の力に変えて、このババアに分け与えただけ。――見なさい」
ルルカという名のばあさんが、ベッドから跳ね起きる。
「こ、これは……」
ルルカが、拳を握って魔力を練る。すると、身体からオーラが迸り、天井を焦がさんばかりの柱となった。
「それだけ元気になれば、あと数年は村を守れるでしょ? ――これからも、あなたが村を守るの。その間に、私は必ず世界を平和にする。約束するわ」
「なんという力……なんという生命力……この私の本来の力が戻りつつある! ほ……ははははははッ!」
これで村を守ってくれなど言わないだろう。ようやく、元の大陸に戻れる。
「さ、方法を教えてちょうだい」
「ありがとうございます! これでッ――これでッ――!」
ルルカの溢れた魔力が黒くなっていく。漆黒のそれが彼女を包み、肉体を溶かしていくのであった。
「なッ――」
そして、骨と化す。漆黒の魔力をローブのように纏い、手には大鎌が出現する。その姿はまるで死神であった。
死神ルルカが魔力を解放する。瞬間、教会が消し飛んだ。リーシェはすかさず、自分と村の人たちをバリアで守る。
「はははははははッ! すばらしいぞこの力ッ!」
瓦礫と化した教会。そこに屹立するリーシェ。これはいったいどうしたことかと思う。うん、全然焦らない。いや、こういう展開を予想していたわけではないけど、これまでの困難に比べたら、ババアの反乱のひとつやふたつどうでもいい。とりあえず、状況把握はしておきたいので、村長を問い詰める。
「どゆこと?」
「ひ、ひぃぃぃッ! 悪くない! わしは悪くないんじゃあ!」
恐怖で言葉が出てこないようなので、上空に漂うルルカに聞く。
「どゆこと?」
「私の本当の名は魔王軍の元参謀バスタールッ! 貴様を倒し、私は再度魔王様にお仕えしてみせるッ」
という、かっこいい名乗りを挙げたあとに、ルルカ――バスタールは説明してくれる。彼女は、元魔王軍の参謀だったのだが、ロットやレッドベリル、フォルカスなどの新進気鋭の若者が優秀だったので、立場を追いやられてしまっていた。
彼女に昔ほどの魔力はない。ならばと、この村を守る老婆のフリをして、勇者パーティをこの地へと釘付けにする。そうすることで時間を稼ぎ、魔王の野望の手助けをするつもりだったとのこと。
「魔王の野望? 人間を滅ぼすだけじゃないの?」
「魔王様は人間界だけではない。いずれ魔界をも支配しようとしている。そのためにゲートを開こうとしているのだ!」
「魔界……? ゲート?」
「そうだ! 間もなく、人間界と魔界を繋ぐゲートが完成する。その時こそ、混沌の時代の幕開けなのだ!」
「そういうこと……ね」
「感謝するぞリーシェ。貴様が生命力を与えてくれたおかげで、もはや老人のフリをする必要もなくなった。若き頃――最盛期の魔力で、貴様ら勇者一行(お一人様)を葬り去ってくれる!」
「ひぃぃぃッ! わしらは、バスタールに脅されただけなんじゃぁッ!」
――で、町の人たちは保身のためにバスタールの策に乗ったわけか。
「死ね、リーシェッ! 不可避の死アンデッドリミデッドッ!」
バスタールの指先が光る。そこから放たれた閃光がリーシェを貫いた。ダメージはない。だが、正面に半透明の数字が羅列する。それは、一秒ごとにカウントを減らしていくのだった。
「なにこれ?」
「それは貴様の寿命だ! 0を迎えた時、貴様は死を迎えるッ!」
「ふーん」
「誰も死には抗えない! 死を司る我こそ最強ッ! さあ、己の無力さを噛みしめながら死ぬがいいッ! ――って、ええぇええぇええぇぇッ!」
吃驚仰天するルルカ。まあ、無理もないだろう。カウントしていたはずの数字が、天文学的な寿命を指し示していた上に、むしろ逆流して増えていっているのだから。
「な……なんで……」
「いや、この魔剣も死を司っているわけだし、聖剣は生命を司っているわけだし……この程度の操作は、ちょろいかなと……これでも賢者だし」
危機感なく言い放つリーシェ。
「な、な……」
リーシェは死の宣告の数字を素手で掴んでみる。たぶん、普通は掴めないのだろうけど、ちょいと魔力を波長をシンクロさせてみたら触れることができた。クッキーみたいにバリバリとかじってみる。無味。
とりあえず、プッ! と、バスタールめがけて吹き付けてみる。すると、彼女の正面にも余命へのカウントが出現した。
「わわわ、私に余命がッ? そそそそ、そんなッ! こ、これでも死神族の末裔ッ」
「いや、死神族とか言っておきながら、老いとか全盛期とかがそもそもおかしいでしょ。まあいいわ。どっちにしろ、生命魔法も即死系魔法も、あたしの方が上ってコトで――」
「や、やめッ――」
凄まじい早さで、バスタールのカウントが減っていく。リーシェは、そういえば抜いたままだった聖剣ライフバーンを鞘へと戻す。そしてパチンと完全に納めたところで、バスタールの生命のカウントが0を迎えるのだった。
「ぐぎゃぁあああぁぁあぁぁッ!」
村長たちに連れてこられたのは教会だった。礼拝堂を素通りして奥へ。管理人の部屋と思しき寝室へと案内されるリーシェ。
――さて、この結界を張っている奴は何者か。
とりあえず、クレアドールに戻るルートを知っているとありがたい。フェミルもイシュタリオンもどこでなにをしているかわからない。こうなったら、迷子になったとかなんとか適当な理由を付けて、カルマに会いに行こう。誰も文句は言わないはずだ。っていうか言わせない。
「シスター・ルルカ。勇者様をお連れしました――」
「勇者じゃないっつーの」
紹介されたのは、痩せ細ったおばあさんだった。ベッドへ横になり、かすかな呼吸を繰り返している。リーシェを見るや、ほんのわずかに微笑み――瞳に涙を浮かべた。
「お……おぉ……ま、間に合いました……か……」
ルルカと呼ばれたおばあさんは、咳をしながら身体を起こす。村長が「無理をしないでくだされ」と、身体を支えていた。老々介護の現場を見せつけられた気分だ。
「アークルードを倒してくださった、勇者様ですね」
「リーシェ・ラインフォルトよ。あなたね、村の結界を張っているのは」
ルルカは、小さく相槌を打った。
「相当の魔力を持っているのはわかるわ。ただ者じゃない気配も感じる」
「しかし、それも以前までのこと。私の魔力は魔王軍には通用しませんでした……見つからぬよう結界を張るのが精一杯なのです……」
「――あんたに聞きたいことがあるわ」
「なんでしょう」
「あたしは、バングランド大陸に戻りたいの。具体的にいうと、クレアドールって町に行きたい。もし、方法があるなら教えてくれないかしら」
尋ねると、ルルカは首を左右に振った。
「それは……できません……」
「なぜ?」
「私はもうすぐ死にます……そうなると結界は消え、この村に残された人々は、魔王軍に皆殺しにされるでしょう」
なんとも残酷なことを言う。先刻から、村長だけでなく村の人たちはずっとリーシェのあとを付いてきていた。暇なのだろう。いや、村の行く末が気になっているに違いない。
「なので、お願いです……どうか、私が死んだあと、この村の者たちを守ってくださいませんでしょうか」
「……は? ……それって……要するに、あんたの跡を継いで、結界を張り続けろってコト?」
「……察しの良い方で助かります。……私の最後の頼みです……どうか、村人たちをお助けください……」
「冗談じゃないわよ! 私には、魔王を倒す役目があるの! あんたみたいに未来永劫田舎に引きこもっていられるほど、暇じゃないんだからね!」
「勇者リーシェ。あなたに、魔王ヘルデウスは倒せません……」
「コレでもアークルードを倒したのよ」
ふん、と、不機嫌そうに鼻を鳴らすリーシェ。
「たしかにアークルードは魔王に匹敵するだけの力を持っていると言われています。――しかし、それはあくまで噂――」
「どういうこと?」
アークルードは魔王の分離した一人格。善の部分を切り取った存在。その時点ではたしかに互角。だが、切り離されたあとは違う。魔王はその悪意を増幅させ、独自の進化を遂げていった。
「アークルードに苦戦しているようでは、魔王には勝てません――」
「……苦戦なんかしていないわ」
「嘘でしょう? 丸一日以上、世界が鳴動していましたよ。ずっと、戦っていたのではないのですか?」
エヴァンスとも戦っていたもん。成長だってしてるもん。
「……なんとでも言いなさいよ。とにかく、私はこんなところで油を売っているわけにはいかないの」
「つまり……この村の人たちを見殺しにするわけですか?」
「見殺し……?」
ふと気づく。村人たちの、すがるような視線に。
「もうお仕舞いじゃ……」「ここまでの命か……」「ぼくたち死んじゃうの?」「えーんえーん」「薄情だ……酷すぎる……」「死にたくないよぉ」
絶望の嘆きを奏でる村人たち。ニィと、薄い笑みを浮かべるルルカ。
「……このババア」
「魔王には勝てません。……しかし、あなたの魔力であれば、この村の者たちだけなら救うことができます」
ルルカが言うと、続くようにして村長が言葉を荒げる。
「勇者様! お助けくだされ! わしは死にたくないんじゃ! 死ぬには、まだ早すぎる!」
「いったいあと何年生きるつもりよ」
あまりの身勝手な要求に、軽蔑の言葉を浴びせるリーシェ。また、別の男が言う。
「お願いします! 来年になったら結婚しようって誓い合った恋人がいるんです!」
「いま結婚しなさいよ。なんで来年まで待つのよ」
奇抜な服装の女性も気を落とすようにつぶやく。
「画家になるのが夢だったのに……」
「この暗い世界でなんの絵を描くのよ。世界を平和にさせろよ。救世主を引きこもらせて描くほどのものかよ」
「……というわけで、リーシェ様が残ってくださらなければ、この村の人たちは死にます……。凶暴な魔物の餌になって、生きたまま内臓を引きちぎられたりもするでしょう……なにとぞ、この者たちのためにも、村をお救いください」
ニチャァと笑うルルカ。
「なにが『というわけで』よ! ただの責任転嫁じゃない!」
「かもしれません……。しかし、この者たちを生かすも殺すもリーシェ様次第……。どうか、役目を引き継いで――」
「うるせえ、ババア!」
リーシェは、持っていたライフバーンをルルカの腹部へと突き刺した。
「ぐぎゃぁあああぁぁぁぁッ!」
「ひ、ひぃい! 勇者様がご乱心じゃ! 一大事じゃ! ルルルルルルカ様ぁッ!」
「安心しなさい。殺してないから」
「へ?」と、素っ頓狂な一文字を落とす村長。
「ライフバーンは生命を司る聖剣。私の魔力を命の力に変えて、このババアに分け与えただけ。――見なさい」
ルルカという名のばあさんが、ベッドから跳ね起きる。
「こ、これは……」
ルルカが、拳を握って魔力を練る。すると、身体からオーラが迸り、天井を焦がさんばかりの柱となった。
「それだけ元気になれば、あと数年は村を守れるでしょ? ――これからも、あなたが村を守るの。その間に、私は必ず世界を平和にする。約束するわ」
「なんという力……なんという生命力……この私の本来の力が戻りつつある! ほ……ははははははッ!」
これで村を守ってくれなど言わないだろう。ようやく、元の大陸に戻れる。
「さ、方法を教えてちょうだい」
「ありがとうございます! これでッ――これでッ――!」
ルルカの溢れた魔力が黒くなっていく。漆黒のそれが彼女を包み、肉体を溶かしていくのであった。
「なッ――」
そして、骨と化す。漆黒の魔力をローブのように纏い、手には大鎌が出現する。その姿はまるで死神であった。
死神ルルカが魔力を解放する。瞬間、教会が消し飛んだ。リーシェはすかさず、自分と村の人たちをバリアで守る。
「はははははははッ! すばらしいぞこの力ッ!」
瓦礫と化した教会。そこに屹立するリーシェ。これはいったいどうしたことかと思う。うん、全然焦らない。いや、こういう展開を予想していたわけではないけど、これまでの困難に比べたら、ババアの反乱のひとつやふたつどうでもいい。とりあえず、状況把握はしておきたいので、村長を問い詰める。
「どゆこと?」
「ひ、ひぃぃぃッ! 悪くない! わしは悪くないんじゃあ!」
恐怖で言葉が出てこないようなので、上空に漂うルルカに聞く。
「どゆこと?」
「私の本当の名は魔王軍の元参謀バスタールッ! 貴様を倒し、私は再度魔王様にお仕えしてみせるッ」
という、かっこいい名乗りを挙げたあとに、ルルカ――バスタールは説明してくれる。彼女は、元魔王軍の参謀だったのだが、ロットやレッドベリル、フォルカスなどの新進気鋭の若者が優秀だったので、立場を追いやられてしまっていた。
彼女に昔ほどの魔力はない。ならばと、この村を守る老婆のフリをして、勇者パーティをこの地へと釘付けにする。そうすることで時間を稼ぎ、魔王の野望の手助けをするつもりだったとのこと。
「魔王の野望? 人間を滅ぼすだけじゃないの?」
「魔王様は人間界だけではない。いずれ魔界をも支配しようとしている。そのためにゲートを開こうとしているのだ!」
「魔界……? ゲート?」
「そうだ! 間もなく、人間界と魔界を繋ぐゲートが完成する。その時こそ、混沌の時代の幕開けなのだ!」
「そういうこと……ね」
「感謝するぞリーシェ。貴様が生命力を与えてくれたおかげで、もはや老人のフリをする必要もなくなった。若き頃――最盛期の魔力で、貴様ら勇者一行(お一人様)を葬り去ってくれる!」
「ひぃぃぃッ! わしらは、バスタールに脅されただけなんじゃぁッ!」
――で、町の人たちは保身のためにバスタールの策に乗ったわけか。
「死ね、リーシェッ! 不可避の死アンデッドリミデッドッ!」
バスタールの指先が光る。そこから放たれた閃光がリーシェを貫いた。ダメージはない。だが、正面に半透明の数字が羅列する。それは、一秒ごとにカウントを減らしていくのだった。
「なにこれ?」
「それは貴様の寿命だ! 0を迎えた時、貴様は死を迎えるッ!」
「ふーん」
「誰も死には抗えない! 死を司る我こそ最強ッ! さあ、己の無力さを噛みしめながら死ぬがいいッ! ――って、ええぇええぇええぇぇッ!」
吃驚仰天するルルカ。まあ、無理もないだろう。カウントしていたはずの数字が、天文学的な寿命を指し示していた上に、むしろ逆流して増えていっているのだから。
「な……なんで……」
「いや、この魔剣も死を司っているわけだし、聖剣は生命を司っているわけだし……この程度の操作は、ちょろいかなと……これでも賢者だし」
危機感なく言い放つリーシェ。
「な、な……」
リーシェは死の宣告の数字を素手で掴んでみる。たぶん、普通は掴めないのだろうけど、ちょいと魔力を波長をシンクロさせてみたら触れることができた。クッキーみたいにバリバリとかじってみる。無味。
とりあえず、プッ! と、バスタールめがけて吹き付けてみる。すると、彼女の正面にも余命へのカウントが出現した。
「わわわ、私に余命がッ? そそそそ、そんなッ! こ、これでも死神族の末裔ッ」
「いや、死神族とか言っておきながら、老いとか全盛期とかがそもそもおかしいでしょ。まあいいわ。どっちにしろ、生命魔法も即死系魔法も、あたしの方が上ってコトで――」
「や、やめッ――」
凄まじい早さで、バスタールのカウントが減っていく。リーシェは、そういえば抜いたままだった聖剣ライフバーンを鞘へと戻す。そしてパチンと完全に納めたところで、バスタールの生命のカウントが0を迎えるのだった。
「ぐぎゃぁあああぁぁあぁぁッ!」
0
お気に入りに追加
326
あなたにおすすめの小説

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

【後日談完結】10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~
ばいむ
ファンタジー
剣と魔法の世界であるライハンドリア・・・。魔獣と言われるモンスターがおり、剣と魔法でそれを倒す冒険者と言われる人達がいる世界。
高校の休み時間に突然その世界に行くことになってしまった。この世界での生活は10日間と言われ、混乱しながらも楽しむことにしたが、なぜか戻ることができなかった。
特殊な能力を授かるわけでもなく、生きるための力をつけるには自ら鍛錬しなければならなかった。魔獣を狩り、いろいろな遺跡を訪ね、いろいろな人と出会った。何度か死にそうになったこともあったが、多くの人に助けられながらも少しずつ成長していった。
冒険をともにするのは同じく異世界に転移してきた女性・ジェニファー。彼女と出会い、そして・・・。
初投稿というか、初作品というか、まともな初執筆品です。
今までこういうものをまともに書いたこともなかったのでいろいろと変なところがあるかもしれませんがご了承ください。
誤字脱字等あれば連絡をお願いします。
感想やレビューをいただけるととてもうれしいです。書くときの参考にさせていただきます。
おもしろかっただけでも励みになります。
2021/6/27 無事に完結しました。
2021/9/10 後日談の追加開始
2022/2/18 後日談完結

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

魔喰のゴブリン~最弱から始まる復讐譚~
岡本剛也
ファンタジー
駆け出しの冒険者であるシルヴァ・ベルハイスは、ダンジョン都市フェルミでダンジョン攻略を生業としていた。
順風満帆とはいかないものの、着実に力をつけてシルバーランク昇格。
そしてついに一つの壁とも言われる十階層の突破を成し遂げた。
仲間との絆も深まり、ここから冒険者としての明るい未来が待っていると確信した矢先——とある依頼が舞い込んできた。
その依頼とは勇者パーティの荷物持ちの依頼。
勇者の戦闘を近くで見られることができ、高い報酬ということもあって引き受けたのだが、この一回の依頼がシルヴァを地獄の底に叩き落されることとなった。
ダンジョン内で勇者達からゴミのような扱いを受け、信頼していた仲間にからも見放され……ダンジョンの奥地に放置されたシルヴァは、匂いに釣られてやってきた魔物に襲われた。
魔物に食われながら、シルヴァが心の底から願ったのは勇者への復讐。
そんな願いが叶ったのか、それとも叶わなかったのか。
事実のほどは神のみぞ知るが、シルヴァは記憶を持ったままとある魔物に転生した。
その魔物とは、最弱と名高いゴブリン。
追い打ちをかけるような最悪な状況に常人なら心が折れてもおかしくない中、シルヴァは折れることなく勇者への復讐を掲げた。
これは最弱のゴブリンに転生したシルヴァが、最強である勇者への復讐を果たす物語。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる