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第8話 殺さないでお姉ちゃん!
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翌日。クレアドールの町。
昼になると、近隣の町や村から腕自慢が集まってきた。理由は『英雄カルマ親衛隊の募集』である。なんだか、レッドベリルとの戦いで、俺もそこそこ活躍したところを見せてしまったせいか、村の人たちから英雄扱いを受けるようになってしまった。
「けど、ちょっと大げさじゃないかな?」
「そんなことはありません! カルマ様は、紛れもなく英雄です!」
ルリが力説すると、他の召使いもうんうんと頷いている。
「あの時……カルマ様が命を懸けて戦ってくださらなかったら、フェミル様がくる前に全滅していました。あの時の雄々しき姿ッ! このルリの目に焼き付いています!」
そう言って、彼女は俺の手を、両手で包んで見つめてくる。
「そ、そうか?」
「はい!」
ずいぶんと評価されてしまったようだ。
「あの……いつまで手を握っているつもりですか?」
じとーっと半眼を滑らせるフェミル姉ちゃん様。ルリはハッとして手を離した。
「ももも、もうしわけございません!」
「いいですけど……。そろそろ始めますか?」
「はっ――」
首肯して、ルリが募集試験の始まりを合図をする。
「それではみなさま、よくお集まりくださいました! これより、カルマ様の親衛隊を決める選考会を開始いたします!」
宮殿の庭――庭といってもかなり広い空間。乱雑に散らばっていた猛者たちが集まってくる。俺は、国王が座ってそうな簡易玉座に座らされていた。
今日の選考会は、合格基準を下げる予定だ。さすがに、単身で四天王に匹敵する逸材などいない。とっとと採用して、姉ちゃんに安心して旅に出てもらおう。
「さて、それでは一次試験の内容ですが――これから皆様には勇者フェミルと戦ってもらうことになります――」
会場が騒然となる。そりゃそうだ。勇者フェミルとは、世界最強の人類。腕自慢の連中も、さすがにビビるだろう。もっとも、血湧き肉躍る連中も何人かいるようだが――。
まあ、姉ちゃんが適当に戦って、それなりに強いと判断したら合格させることになっている。そして、二次試験で人格を見て、合否を決める感じだ。
「ご安心ください。勇者フェミルの武器は木剣です。そして魔法は使いませんのでご安心を。さらに、皆様には一斉にかかっても構いません」
「一斉に……?」「いいのか?」「こっちは何百人いると思ってるんだ?」
少なくとも三百人はいるだろう。姉ちゃんなら大丈夫だと思うけど。
「そっちは、魔法でも刃物でもなにを使っても構いませんよ。殺す気でやってください」
言いながら、木剣をひゅんと振るう姉ちゃん。自信満々だ。
「それでは、試験開始でございますッ!」
ルリが腕を振り下ろすかのように合図。召使いが巨大な鐘を鳴らし、試験が始まった。
――だが、強者たちは動こうとしない。
「どうしたんですか? かかってこないのですか?」
「う、うう……」
俺は察する。弱い奴は及び腰だ。混戦になった隙を狙っているのだろう。いちばん最初に向かっていきたくないのだ。
そして実力のある奴は、フェミルの強さを感じてしまっている。要するに、木剣を持って突っ立っているだけなのに、恐ろしいほど隙がないのを理解しているのだ。
「むぅ。このままじゃ、試験になりませんねえ……臆病者はいりませんし……全員落選ってことにしますか」
言われて、焦り出す参加者たち。すると、中からひとり歩み出てきた。ゴリラみたいな男だ。超巨大な鎖付き鉄球を持っている。
「はッ! おまえらが殺らねえのなら、俺が殺ってやるぜ! おらぁッ!」
鎖を振り回し、遠心力で鉄球を投げつける。
だが、フェミルはそれを拳で砕いてみせる。バゴギャンと一撃粉砕だ。余談だが、鉄を破壊するというのは、相当な行為である。普通なら鉄は凹むだけ。それがバラバラになるということは、かなりの威力で殴ったことになる。
「うん。まあまあですね。もうちょっとがんばったら、合格ラインですよ」
ほんのわずかな褒め言葉。けど、鉄球ゴリラの耳には届いていないようだった。得物が素手で砕かれたことに困惑しているようだ。
「な……そ、そんなッ! た、高かったのに――」
「不憫だな……。ルリ、あとで弁償しておいてあげて」
「かしこまりました。……お優しいのですね、カルマ様は」
いい感じに向かって行ってくれたのに、姉ちゃんが派手にやるから、みんな戦意喪失してしまったじゃないか。
「お、おい、みんなで一斉に仕掛けるぞ。それなら、少しぐらい隙ができるはずだ」「あ、ああ、そうだな」「一対一でなんとかなる相手じゃねえし……」「やるぞ! 俺たちで勇者フェミルを倒すんだ!」
けど、連中も腹をくくったようだ。そうこなくっちゃな。早く姉ちゃんに認められてくれ。そして、魔王討伐の旅に戻らせてやってくれ。
「うおらああぁあぁぁッ!」
怒号。まるで戦争が始まったかのようだ。数多の猛者が勇者に襲いかかる。連中も本気だ。誰もが武器――殺傷能力満載の刃物を振り回している。中には弓矢を使っている奴もいる。魔法の詠唱を始めている奴もいる。
「はぁあぁぁッ! とりゃあ! ええい! そいやぁ!」
しかし、余裕で応対する姉ちゃん。雨のように降りしきる魔法や矢を受けても、平然としている。木剣は魔法で強化してあるのか、鋼鉄の剣を次々にへし折っていく。これ、試験になるのか?
「ふむふむ……5番と10番……82番辺りがいい動きしてますね」
さすがはルリ。姉ちゃんにちゃんとした選考などできないと踏んだのか、期待できそうな連中に目星を付けてくれている。うーん、できるメイドだ。
――10分後――。
「ふぅ、こんなものですか……。えっと……良さげな人はいませんでしたね」
いたよ。ちゃんと見てろよ。ルリがチェックしてくれてたよ。途中から、俺もチェックしてたよ。っていうか、死屍累々だ。いや、生きてるけどさ。
とりあえず戦闘試験は終わって、立っているのは姉ちゃんひとりだけになった。300人ぐらいの参加者は、庭にうずくまって、瀕死の昆虫みたいになっている。
「……大丈夫かなぁ」
「ご安心ください、カルマ様。あの方たちの治療費は、こちらが負担しますから」
参加費も出るそうだ。そうだよな。遠路はるばるやってきて、勇者に打ちのめされただけで帰らされたら、さすがに泣きたくなるもんな。
「フェミル様。私の方で審査していましたが、なかなかの逸材が揃っておりました。鍛えれば、十分な戦力になるかと」
ルリが、姉ちゃんに提言する。
「そうですか……むぅ……ちょっと心配ですが……っと――まだ、根性のある方がいるみたいですね」
終わったと思ったら、ひとりの男が起き上がった。最初に向かっていった鉄球ゴリラだ。
「ウオオオアアァアァァァッ!」
最後の力を振り絞って、無策にも正面から向かっていく。
「精神だけは認めます――ッ?」
振り下ろすかのようなパンチ。姉ちゃんは、それを腕で防ぐ。すると、防御の上から吹っ飛ばされる。ずざざと靴底を滑らせながら着地する。
「ななっ?」と、さすがの姉ちゃんも驚いていた。意外だ。こんなパワーを残していたとは。
「グルァアアァァ」
駄々っ子のように拳を叩きつけまくる鉄球ゴリラ。姉ちゃんは、それらを受け流し、拳を叩き込む。派手に吹っ飛ぶゴリラ。
「こ、これは……どういうことです?」
鉄球ゴリラを皮切りに、倒れていた連中が、次々と息を吹き返す。
「なんか、様子がおかしくないか……?」
俺が疑問を飛ばすと、ルリも「そう……ですね」と、表情に真剣味を帯びさせる。
――まるで獣だ。
なにかがおかしい。立ち上がった候補者の連中は、瞳に生気がなく『ウーウー』と唸っている。派手にやられた鉄球ゴリラも、再び立ち上がっている。
――そして、一斉に襲いかかってきた。
まるで、餌に群がる虎。しかも、凄まじいパワーを秘めている。先刻とは打って変わって姉ちゃんが圧倒されている。
「くっ! まさか、敵ッ? ならば、容赦しません!」
「違う! 姉ちゃん! そいつらは人間だッ! 殺しちゃダメだ!」
参加者の中には、身元のハッキリしている者も多くいる。間違いなく人間だ。ともすれば、操られていると思った方がいい。瞳を見れば、正気ではないことがわかる。何かが起こっている。
「しかし――ッ」
姉ちゃんは、めちゃくちゃ戦いにくそうだ。相手が人間ということで手加減しなくちゃいけない。しかも、相手は叩きのめしても、起き上がってくる。鉄球ゴリラは、もう何回叩きのめされているかわからない。
俺は、加勢しようと予備の木剣を掴んだ。
「お下がりください、カルマ様!」
心配して止めるルリ。
「そんなことを言ってる場合かよ!」
俺は、制止を振り切って参戦する。ルリは「ピュイ!」と、口笛を吹いて、武装した召使いたちを呼び寄せる。宮殿の庭で、人間同士が戦いを始めてしまった。
――これはマズい。
参加者たちの消耗が激しい。瀕死なのに強制的に戦わされているようだ。
俺は周囲を見回す。どこかに術者がいるはずだ。景色に溶け込んでいるのか、あるいはめちゃくちゃちいさいとか、隠れているとか。あるいは、参加者の中に紛れ込んでいるのかもしれない。
「姉ちゃん! 術者を探すんだ!」
「わかってますよ!」
このままだと死人が出る。人間が死ぬ。もし、勇者フェミルが人間を殺したなんてことがあったら、町の人からの信頼は地に落ちる。町にはいられなくなる。俺がぬくぬくと暮らすための天下り先がなくなってしまう。姉ちゃんが安心して旅を続けられなくなる。世界が……滅びる――。
昼になると、近隣の町や村から腕自慢が集まってきた。理由は『英雄カルマ親衛隊の募集』である。なんだか、レッドベリルとの戦いで、俺もそこそこ活躍したところを見せてしまったせいか、村の人たちから英雄扱いを受けるようになってしまった。
「けど、ちょっと大げさじゃないかな?」
「そんなことはありません! カルマ様は、紛れもなく英雄です!」
ルリが力説すると、他の召使いもうんうんと頷いている。
「あの時……カルマ様が命を懸けて戦ってくださらなかったら、フェミル様がくる前に全滅していました。あの時の雄々しき姿ッ! このルリの目に焼き付いています!」
そう言って、彼女は俺の手を、両手で包んで見つめてくる。
「そ、そうか?」
「はい!」
ずいぶんと評価されてしまったようだ。
「あの……いつまで手を握っているつもりですか?」
じとーっと半眼を滑らせるフェミル姉ちゃん様。ルリはハッとして手を離した。
「ももも、もうしわけございません!」
「いいですけど……。そろそろ始めますか?」
「はっ――」
首肯して、ルリが募集試験の始まりを合図をする。
「それではみなさま、よくお集まりくださいました! これより、カルマ様の親衛隊を決める選考会を開始いたします!」
宮殿の庭――庭といってもかなり広い空間。乱雑に散らばっていた猛者たちが集まってくる。俺は、国王が座ってそうな簡易玉座に座らされていた。
今日の選考会は、合格基準を下げる予定だ。さすがに、単身で四天王に匹敵する逸材などいない。とっとと採用して、姉ちゃんに安心して旅に出てもらおう。
「さて、それでは一次試験の内容ですが――これから皆様には勇者フェミルと戦ってもらうことになります――」
会場が騒然となる。そりゃそうだ。勇者フェミルとは、世界最強の人類。腕自慢の連中も、さすがにビビるだろう。もっとも、血湧き肉躍る連中も何人かいるようだが――。
まあ、姉ちゃんが適当に戦って、それなりに強いと判断したら合格させることになっている。そして、二次試験で人格を見て、合否を決める感じだ。
「ご安心ください。勇者フェミルの武器は木剣です。そして魔法は使いませんのでご安心を。さらに、皆様には一斉にかかっても構いません」
「一斉に……?」「いいのか?」「こっちは何百人いると思ってるんだ?」
少なくとも三百人はいるだろう。姉ちゃんなら大丈夫だと思うけど。
「そっちは、魔法でも刃物でもなにを使っても構いませんよ。殺す気でやってください」
言いながら、木剣をひゅんと振るう姉ちゃん。自信満々だ。
「それでは、試験開始でございますッ!」
ルリが腕を振り下ろすかのように合図。召使いが巨大な鐘を鳴らし、試験が始まった。
――だが、強者たちは動こうとしない。
「どうしたんですか? かかってこないのですか?」
「う、うう……」
俺は察する。弱い奴は及び腰だ。混戦になった隙を狙っているのだろう。いちばん最初に向かっていきたくないのだ。
そして実力のある奴は、フェミルの強さを感じてしまっている。要するに、木剣を持って突っ立っているだけなのに、恐ろしいほど隙がないのを理解しているのだ。
「むぅ。このままじゃ、試験になりませんねえ……臆病者はいりませんし……全員落選ってことにしますか」
言われて、焦り出す参加者たち。すると、中からひとり歩み出てきた。ゴリラみたいな男だ。超巨大な鎖付き鉄球を持っている。
「はッ! おまえらが殺らねえのなら、俺が殺ってやるぜ! おらぁッ!」
鎖を振り回し、遠心力で鉄球を投げつける。
だが、フェミルはそれを拳で砕いてみせる。バゴギャンと一撃粉砕だ。余談だが、鉄を破壊するというのは、相当な行為である。普通なら鉄は凹むだけ。それがバラバラになるということは、かなりの威力で殴ったことになる。
「うん。まあまあですね。もうちょっとがんばったら、合格ラインですよ」
ほんのわずかな褒め言葉。けど、鉄球ゴリラの耳には届いていないようだった。得物が素手で砕かれたことに困惑しているようだ。
「な……そ、そんなッ! た、高かったのに――」
「不憫だな……。ルリ、あとで弁償しておいてあげて」
「かしこまりました。……お優しいのですね、カルマ様は」
いい感じに向かって行ってくれたのに、姉ちゃんが派手にやるから、みんな戦意喪失してしまったじゃないか。
「お、おい、みんなで一斉に仕掛けるぞ。それなら、少しぐらい隙ができるはずだ」「あ、ああ、そうだな」「一対一でなんとかなる相手じゃねえし……」「やるぞ! 俺たちで勇者フェミルを倒すんだ!」
けど、連中も腹をくくったようだ。そうこなくっちゃな。早く姉ちゃんに認められてくれ。そして、魔王討伐の旅に戻らせてやってくれ。
「うおらああぁあぁぁッ!」
怒号。まるで戦争が始まったかのようだ。数多の猛者が勇者に襲いかかる。連中も本気だ。誰もが武器――殺傷能力満載の刃物を振り回している。中には弓矢を使っている奴もいる。魔法の詠唱を始めている奴もいる。
「はぁあぁぁッ! とりゃあ! ええい! そいやぁ!」
しかし、余裕で応対する姉ちゃん。雨のように降りしきる魔法や矢を受けても、平然としている。木剣は魔法で強化してあるのか、鋼鉄の剣を次々にへし折っていく。これ、試験になるのか?
「ふむふむ……5番と10番……82番辺りがいい動きしてますね」
さすがはルリ。姉ちゃんにちゃんとした選考などできないと踏んだのか、期待できそうな連中に目星を付けてくれている。うーん、できるメイドだ。
――10分後――。
「ふぅ、こんなものですか……。えっと……良さげな人はいませんでしたね」
いたよ。ちゃんと見てろよ。ルリがチェックしてくれてたよ。途中から、俺もチェックしてたよ。っていうか、死屍累々だ。いや、生きてるけどさ。
とりあえず戦闘試験は終わって、立っているのは姉ちゃんひとりだけになった。300人ぐらいの参加者は、庭にうずくまって、瀕死の昆虫みたいになっている。
「……大丈夫かなぁ」
「ご安心ください、カルマ様。あの方たちの治療費は、こちらが負担しますから」
参加費も出るそうだ。そうだよな。遠路はるばるやってきて、勇者に打ちのめされただけで帰らされたら、さすがに泣きたくなるもんな。
「フェミル様。私の方で審査していましたが、なかなかの逸材が揃っておりました。鍛えれば、十分な戦力になるかと」
ルリが、姉ちゃんに提言する。
「そうですか……むぅ……ちょっと心配ですが……っと――まだ、根性のある方がいるみたいですね」
終わったと思ったら、ひとりの男が起き上がった。最初に向かっていった鉄球ゴリラだ。
「ウオオオアアァアァァァッ!」
最後の力を振り絞って、無策にも正面から向かっていく。
「精神だけは認めます――ッ?」
振り下ろすかのようなパンチ。姉ちゃんは、それを腕で防ぐ。すると、防御の上から吹っ飛ばされる。ずざざと靴底を滑らせながら着地する。
「ななっ?」と、さすがの姉ちゃんも驚いていた。意外だ。こんなパワーを残していたとは。
「グルァアアァァ」
駄々っ子のように拳を叩きつけまくる鉄球ゴリラ。姉ちゃんは、それらを受け流し、拳を叩き込む。派手に吹っ飛ぶゴリラ。
「こ、これは……どういうことです?」
鉄球ゴリラを皮切りに、倒れていた連中が、次々と息を吹き返す。
「なんか、様子がおかしくないか……?」
俺が疑問を飛ばすと、ルリも「そう……ですね」と、表情に真剣味を帯びさせる。
――まるで獣だ。
なにかがおかしい。立ち上がった候補者の連中は、瞳に生気がなく『ウーウー』と唸っている。派手にやられた鉄球ゴリラも、再び立ち上がっている。
――そして、一斉に襲いかかってきた。
まるで、餌に群がる虎。しかも、凄まじいパワーを秘めている。先刻とは打って変わって姉ちゃんが圧倒されている。
「くっ! まさか、敵ッ? ならば、容赦しません!」
「違う! 姉ちゃん! そいつらは人間だッ! 殺しちゃダメだ!」
参加者の中には、身元のハッキリしている者も多くいる。間違いなく人間だ。ともすれば、操られていると思った方がいい。瞳を見れば、正気ではないことがわかる。何かが起こっている。
「しかし――ッ」
姉ちゃんは、めちゃくちゃ戦いにくそうだ。相手が人間ということで手加減しなくちゃいけない。しかも、相手は叩きのめしても、起き上がってくる。鉄球ゴリラは、もう何回叩きのめされているかわからない。
俺は、加勢しようと予備の木剣を掴んだ。
「お下がりください、カルマ様!」
心配して止めるルリ。
「そんなことを言ってる場合かよ!」
俺は、制止を振り切って参戦する。ルリは「ピュイ!」と、口笛を吹いて、武装した召使いたちを呼び寄せる。宮殿の庭で、人間同士が戦いを始めてしまった。
――これはマズい。
参加者たちの消耗が激しい。瀕死なのに強制的に戦わされているようだ。
俺は周囲を見回す。どこかに術者がいるはずだ。景色に溶け込んでいるのか、あるいはめちゃくちゃちいさいとか、隠れているとか。あるいは、参加者の中に紛れ込んでいるのかもしれない。
「姉ちゃん! 術者を探すんだ!」
「わかってますよ!」
このままだと死人が出る。人間が死ぬ。もし、勇者フェミルが人間を殺したなんてことがあったら、町の人からの信頼は地に落ちる。町にはいられなくなる。俺がぬくぬくと暮らすための天下り先がなくなってしまう。姉ちゃんが安心して旅を続けられなくなる。世界が……滅びる――。
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