パーティからリストラされた俺が愛されすぎている件。心配だからと戻ってくるけど、このままだと魔王を倒しに行かないので全力で追い返そうと思います

倉紙たかみ

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第1話 これはリストラと言えるのでしょうか

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 ――これは夢だ。

「お姉ちゃんは悲しいです……。カルマくんなら、いつかきっと成長して、お姉ちゃんたちの力になってくれると信じていました。けど、これ以上は面倒を見れません……心苦しいのですが、本日をもって、カルマくんをパーティからリストラします」

 ――こんなの嘘だ。

「ふん。最初からわかっていたことじゃない。カルマの実力じゃ、旅についてこられるわけがないって」

 ――彼女たちが、こんなことを言うわけがない。

「そもそも、女所帯のパーティに男がいること自体、おかしかったのだ。……まあ、食事は美味かった。それだけは褒めてやろう」

 ――おかしい。こんなことあるはずがない!

 突然の戦力外通告。

 俺の姉――勇者フェミルが率いるパーティは、世界最高の特化戦力。魔王を倒すために世界各国から集められた精鋭。

 俺だって、そこそこ剣の腕は立つし、魔法だって十分に使える。ハンターギルドでの格付けはSクラス。だが、さすがに彼女たちの前では霞む。それでも雑用係として役に立てると思い、一緒に旅をしてきた。なのに――。

「ごめんなさい、カルマくん。もう、足手纏いを守る余裕がないのです。なので、ここでお別れです――」

 申し訳なさそうに頭を下げるのは、桃色長髪の女性。瞳は穏やかで慈愛を孕んでいる。かわいらしい小顔は、まるで劇場のアイドルである。

 されど彼女は勇者フェミル・グレンバート。俺の姉にして、世界の希望。世界の英雄。最高最強の人物。そんな彼女が俺に対して『リストラ』を宣告した。

 つまり、俺の旅は、この交易都市クレアドールにて終焉を迎える。
 
 ここから先は別の物語だ。勇者フェミル。姫騎士イシュタリオン。賢者リーシェ。英雄三人の魔王討伐の旅……そこに、俺は存在しない。

 そう、俺は置いていかれたのだ。

 いらないって。

 …………いらない。
 
 ――うん、あいつら、たしかに俺のことを『いらない』って言ってたけどさ。

 彼女たちを見送った俺は、手切れ金として渡された布袋をじゃらりと持ち上げる。

「これ、多すぎだろ……」

 たぶん100万ゴールドぐらいある。これだけで、宿屋に200回ぐらい宿泊できると思う。いや、たしかにフェミル姉ちゃんは言ってたけどさ――。

『カルマくんの働きはこの程度です。これぐらいの価値しかないのです。惨めかもしれないけど、これが現実です』

 この布袋だけでも100万ゴールド……さらに、俺の周囲には大量の宝箱がある。これまでの冒険で手に入れた金銀財宝だ。これらも含めたら3000万ゴールドはあるんじゃないかな……。

「あいつら、俺のこと好きすぎるだろ……」

 昔からそうだ。フェミル姉ちゃんは優しかった。苦楽をともにしてきた俺を絶対に見捨てるわけがない。

 賢者リーシェも、俺が風邪を引いた時に、森の中に単身突入して、ヌシ(ドラゴン)を討伐。その牙を加工して薬をつくってくれた。

 姫騎士イシュタリオンさんは、魔物が現れると、俺を守るために側を離れない(別に守られるほど弱くないけど)。

 で、俺が役に立っていないかというとそうでもなく、これでも立派に雑用係をやっていた。俺のつくる料理を、三人は喜んで食べてくれていた。町に入れば、宿屋の手配も道具の調達もすべて俺が引き受けていた。ダンジョン攻略だって、俺のひらめきが役に立ったこともある。

 要するに、彼女たちは『俺を気遣ってリストラした』のだ。これからの旅は厳しくなるから、危険が及ばないように、戦力外通告という建前で、俺をこの豊かな町に置いていったのである。

 ――たぶん、断腸の思いじゃないかなぁ……。

 姫騎士イシュタリオンさんも言っていた。

『まあ、のたれ死んでも後味が悪いのでな。この町の住人にすがってなんとか生き延びるがいい――』

 ――そうして用意してくださったのが、背後にいる方々だ。

 俺が振り返ると、そこには100人ぐらい『人』がいる。

「あの……あなたたちは?」

 問いかけると、金髪ショートカットの少女が答えてくれる。小悪魔的なツリ目の、かわいらしいメイドさん。胸の辺りに幼さが残っている。

「我々はイシュタリオン様に雇われた召使いです。カルマ様のお世話をするよう仰せつかっています。ふふっ、よろしくお願いしますね」

 彼女は嬉しそうに、にっこりと微笑んだ。

 メイドが20人ぐらい。執事も20人ぐらい。騎士みたいな人は30人ぐらい。庭師も20人ぐらいいる。うん、ローブを深々と被ったあの人たちはなんだろう。暗殺でもしそうな雰囲気を持ってるんだけど。それらが10人ぐらい。

「あ、申し遅れました。私はメイド長のルリといいます」

 歳は俺と同じぐらいの十代後半かな。歳が近い方がいいだろうということで、金髪少女さんがメイド長として任命されたらしい。

 うん。ちょっとやりすぎ。俺の世話係は100人もいらない。イシュタリオンさんもなにを考えているんだろう。まあ、あの人は王家の血筋を引いているから、これぐらいの手配は容易いのだろうけど。

「ありがたい話だけど、しばらくは宿屋暮らしになるから、ついてきてもらっても困るんだけど……」

「うふふ、ご安心ください。お住まいは、リーシェ様がご用意くださっています」

「リーシェが?」

 なんだか嫌な予感がする……。

 ――俺は、ルリに言われるまま、クレアドールの町の中央区へと足を運ぶ。

 クレアドールは大都会だ。海が近いので貿易が盛ん。海産物もたくさんとれる。鉱山も近くにあるので、職人たちも大勢集まっていた。気候も温暖で、農作物もよく育つ。

 最近まで、海に出没したドラゴンに悩まされていたのだが、姉ちゃんたちが討伐してやった。そんなわけで、俺を含めて英雄扱いされていたりする。

「ここが、カルマ様のお屋敷になります」

「屋敷……っていうか、宮殿じゃねえか!」

「他でもないカルマ様のために、町の職人を総動員してつくらせていただきました」

 宮殿を見上げる俺。あまりに巨大。俺どころか、召使い全員を住まわせても、部屋が余るだろう。庭も広い。バザーとか祭りとか、普通に開催できそうだ。立地も凄い。町の中心街。

「……これ、近隣住民の人はどう思ってるんだ?」

「カルマ様は英雄ですもの、クレアドールの民はみんな快く思っていますよ。それに、これら建築に使われた資金のおかげで、町も潤っています」

「「「「カルマ様万歳! カルマ様万歳!」」」」

「うおッ!」

 気がつけば、宮殿の近くに大勢の市民が集まってきていた。それらが、一斉に俺を称えている。うん、たしかに勇者パーティのひとりだけどさ。『元』だし。リストラされた立場だし、本当に良いいのかよ。

「さあ、こちらへどうぞ」

 今度は部屋に案内された。俺の部屋。天蓋付きのベッドに、国王たちがサミットでもするのかと言わんばかりの長机。ソレとは別に執務用のデスク(大理石)。ふかふかのソファにテーブル――。

「あ、これって……」

 テーブルに置かれた菓子鉢。俺は、そこにあるクッキーを手に取った。

「……もしかして、姉ちゃんが?」

「はい。フェミル様がおつくりになられました」

 俺の好きなホワイトチョコクッキー。旅に出る前は、姉ちゃんがよくつくってくれた。

「冷凍保管庫にも大量に保管してますよ。おそらく、毎日食べても一年は持つかと」

「つくりすぎだろ……」

「というわけで、ここがカルマ様のご住居になります。勇者様たちが世界を救うその日まで……いえ、ご希望ならば未来永劫、お世話させていただきますね! カルマ様は、安心して楽しい日々をお過ごしください」

 最高の居住環境。パーティを追放された俺にとっては過分な境遇だ。

 姉ちゃんたちは、俺のことが好きすぎる。この規格外の甘やかしを見れば、疑うべきもない。たぶん、いまごろ寂しがっているのではなかろうか。

 うーん、心配だ……。

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