SAINT ESCAPEー聖女逃避行ー

sori

文字の大きさ
4 / 4

4話:母

しおりを挟む
ほこりっぽく、せまくるしい刑事課第一課。
灰色の事務机が所せましと並べられている部屋に、
刑事たちは出はらっているようで人はほとんどいない。

部屋の奥には肘掛のついた椅子にどっかりと座っている大柄な男。
鬼瓦課長。煙草を吸っていて時々、灰を床に捨てている。

「ただいま戻りましたぁー」
明るく大きな声で中間は部屋に入ってくる。
中間の前にはうつむき加減の納谷がトレンチコートを脱ぎながら神妙な顔で
入ってきた。

その姿をちらりと見て鬼瓦はしゃがれた大声で声をかける。
「うぉーうぉーい!納谷ぁー。ちょっと来い、ちょっと来い!」

それを無視する納谷。中間は「はーい」と返事をして、
納谷の肘をつかんで鬼瓦の席に向かう。

「どおだった。ダム湖の件。え?どうだった?」

タバコを吸って、納谷の顔をギラギラした目で見つめる。

中間のほうがしゃべり始める。
「今、湖を捜索中なんですが…被害者の身元はまったくわからず、
自動車が湖から発見されたそうです…あと…実はですね…焦げた人の指と思われる物体…」
鬼瓦は中間をさえぎって納谷のほうを見る。
「おい!納谷に聞いてんだぞ!おい!」
そういわれると上の空だった納谷は驚いて
「ああ。そうだ。このマッチと同じ」
ポケットからいつも持っている∞マークの箱を取り出しながら
「このマッチ箱と同じマッチ箱と思われるものが落ちてたんです」
中間は納谷と鬼瓦の顔を見比べて口をはさむ。
「そうそう!そうなんですよ!」
目を見張る鬼瓦。
「ほおーう!ようやく、うごきそうか。鈴木家の神隠し」
「どうでしょう。鑑識の大崎から正式に情報は流れてくるでしょうから」

鬼瓦はタバコの吸い殻を床に捨てて靴で火を消す。
「あれから何年だ。」
「もう七年になりますな。」
「そうか…鈴木家失踪事件…そろそろ時効だな」
「ええ」

ーーーーー7年前ーーーーー
オレンジ色の夕陽が沈みそうな頃。
遺伝子治療薬の開発企業につとめる鈴木はいつものように、
定時退社して自宅に向かう。もよりの駅を降りて自宅までの道のり。

「ん?」

鼻をくんくんと空に向けて周辺をかいだ。
「最近、この辺はいいにおいがするなぁーラベンダー咲いてるのか?」
この辺にラベンダーを育てている庭も思いつかないので、
不思議に思ったが、いい香りということで軽い足取りで帰路を急いだ。

この辺りは古いマンションが立ち並んでいる。
そのマンションに囲まれるように2軒だけ、
ほとんど同じデザインの2階建の建売住宅が並んでいる。

その一軒が鈴木の自宅だ。家が見えてきたところまで来たとき、
「ゴホッゴホッ…鈴木さん…」
とせき込みながら声をかけられた。振り向くとマスク姿の隣人。
「あっ!どうも。風邪?ですか」
「ええーいま、うち、全滅なんですよぉ。息子も嫁も。風邪うつっちゃって」
「そうなんですか…気を付けて」
鈴木は自宅の門扉について軽く会釈をして別れる。

ーーーーーー

納谷はメモを読み上げて宙を見つめる。
「それでか…」鬼瓦はタバコの煙を吐く。
「ええ…」

中間はふたりの表情を見て話しを続ける。
「しかし、あれからずっと聞き込みを続けてるんですが…
近隣の住民はなにも知らないらしくて」
鬼瓦は口をはさむ。
「でも不信な点もあるんだろ。ちょうど鈴木家がいなくなった日に、
火の玉を見ただとか…地面が揺れたとか…オカルトみたいなこと」
「ええ…」
納谷は宙を見上げたまま
「それも…証拠がないんですな。消防署に連絡もないし…気象庁でも地震の記録がなかったり…」
鬼瓦は灰を落とす。
「まぁ結局、例の…∞マークのマッチだけなんだな…手掛かりは」
「はい」
「それも…マッチのメーカーや印刷所などに問いただしても…」
「まったくわからないんですよ」と中間。
「もうすぐ…だよな…時効」鬼瓦はタバコを吸う。
「はい」そう納谷は即答して天井を見つめる。


白い内装の広いキッチン。
大きなテーブルにはいくつもの皿がならべられている。
高級総菜が盛り付けられていて、ワインのボトルが2本おかれている。

テーブルでは明日香と母の泉流が向かい合って食事をしている。
55インチのテレビが壁掛けされていてニュースが流れている。

泉流はカレンダーを見つめて、思い出したかのように明日香にたずねる。
「そういえばさ。明日香ちゃん。誕生日のプレゼント…何がいい?」
そう聞くと明日香はそっけなく
「うん?なんでもいいよ」と答える。
「もうーまったく欲のない子ねー」
「あの人…パパの誕生日も…そろそろ…だよね」
「ああ。そうね。明日香ちゃん…パパ好きだったもんね…カレンダーの〇印、
毎年、書いてるよね」
「うん…好きっていうほど、覚えてないけど」

テレビのニュースキャスターは、慌てた様子で話題を変える。
「いま、入ったニュースをお伝えします。先ほどアメリカの公民党議員と思われる
議員30人ほどが集団自殺した模様…」

泉流はテレビを見つめる目に力が入り、
ワインを一気に飲みほした。

その瞬間、テーブルがガタガタと鳴って、
ワイングラスがパリーン!と大きくはじけるように割れた。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

リボーン&リライフ

廣瀬純七
SF
性別を変えて過去に戻って人生をやり直す男の話

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

月弥総合病院

御月様(旧名 僕君☽☽‪︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...