魔術少女と呪われた魔獣 ~愛なんて曖昧なモノより、信頼できる魔術で王子様の呪いを解こうと思います!!~

朝霧 陽月

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第85話 偉い人と面倒な人物のお話タイム

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 私の祖国は、その成り立ちゆえに特殊な部分があるものの、一応は王政の国である。
 だから我が国で陛下というのは、すなわち国の為政者いせいしゃで君主たる国王を指す。

 広大な国土と長い歴史を誇るカストリヤとは比べるべくもないが、実は一応は同じ王国だったりする。
 王国というとつまり、まぁ王様がとっても偉いわけですが……。

 そんなとっても偉い国王陛下の呼び出しを、私はここ最近までブチブチと無視しまくっていた。具体的には呼び出しの手紙を見たとしても、見なかったことにしてポイポイしておりましたね。
 お陰で実家に帰るのもなんとなく避けるようになり『そろそろ本気でマズイし、顔を出しておこうかな?』と思っていたところだったんだけど、何か手を打つ前にこの状況になってしまったわけで……。

 だから今、メチャクチャ気まずいわけです!! 完全に私が悪いんだけどね!?
 もうね、必要もない自国の情報をわざわざ思い返して、現実逃避する程度には気まずい。
 そんな状況じゃなければ、別に話すのも全然構わないんだけどなぁ……。
 なんかいい感じに、そのこと忘れてないかなぁ……?
 まぁ忘れてるはずないか……。
 あっ、でも今の状況が状況なだけに、そっちについて言及されない可能性もあるんじゃない? あったらいいなぁ……。

 そうこうしてる間にカイくんが、通信用の魔術道具の準備を終えていたようで「行くぞ」と声を掛けられた。

 その時にはさすがに、カイくんも私を拘束するのをやめて距離を取っていたため一瞬『今なら逃げられるのでは?』という考えがよぎったが、それすらカイくんに読まれたのか『余計なことはするな』とでも言いたげに睨まれたので、あえなく諦めたのだった。
 ちぇ……。


「遅かったな……」

 通信用の魔術道具で投影されたのは、一人の男性の姿。
 私にとって馴染なじみ深い蒼銀髪を持ち。その切れ長の目と深い青色の瞳で、睨むように私を見た。
 うん、分かりやすく不機嫌だね。
 その容姿はもう50近いというのに、若く見えると評判で実際私も30代くらいに見えると思う。

 しかし、まぁ機嫌が悪い……。
 よほどイライラしてるのか、手前に映っている机をコツコツと指で叩いている。
 いや、こういう時に人と話すのはやめた方がいいと思うんですよ……ねぇ?
 当然口には出さないけども!!

「まぁ、いい……言いたいことがあれば先に聞こう」

「はい、ご機嫌麗ごきげんうるわしゅう国王陛下……」

「全然麗しくない、主にお前のせいで」

 あれれ、そっちが喋っていいって言ったのに私の言葉を途中でさえぎってきたぞ~!
 その上にいわれのない中傷まで……うーん、暴君かな?

 ちなみにカイくんはというと、この人が通信機に投影された辺りから、ひざまずいて頭を下げたままで微動だにしない。当然会話にも参加していない。

 これは形式に従ってる部分もあるだろうけど、機嫌が悪いのが分かってて面倒くさいから、とりあえず巻き込まれないようにするためという部分もあるだろう。
 私に丸投げしようという魂胆こんたんが腹立たしいので、できることなら肩を掴んで激しく揺さぶりたい。
 いや、だってカイくんが通信繋いだんじゃん!! なのになんで喋らずに済んでるの、ズルくない……!?
 ああもう、やっぱり腹が立つので揺さぶって……。

「……もっと他に何かないのか?」

 そうこう考えているうちに、通信機越しの不機嫌そうな声が聞こえてきて私は我に返った。
 ああ、そう言えばうちの王サマと話してましたね……ええ、もちろん覚えてますよ?

 いや、でもしかしさぁ『何か』ってなに……? えっ、無茶振りですか?
 やれやれ、これだから権力者は……。

 はぁー、分かりましたよ……そこまで言うのであれば、私が一つ見せて差し上げましょう。

 そこで私は一旦、通信の投影範囲外まで移動してから、両手を広げながらバッと画面の目の前に改めて登場し直した。


「はーい、お久しぶりですー、お父様!! アナタの可愛い娘リリアーナでございますぅ!!」

 ほら、どうですかっ!? お望みの何かですよっっ!! うん、頑張った、私エライ!!
 そうして私が渾身こんしんの笑顔と仕草しぐさ愛想あいそを振りまいたというのに、お父様は深々と溜息を付いた後に目を伏せてボソッと呟いた。

「ダメだ、うちの娘の頭が本格的におかしい……」

 あれれ、極めて失礼な単語が聞こえてきたぞ?
 気のせいかな?

「以前から結構アレだとは思っていたが、確実に悪化している、やはり再教育も視野にいれるべきか……」

 いや、気のせいじゃない上に相当危ないことを仰ってません!?
 えっ、今の可愛らしく小粋こいきな冗談で、そこまで考えるってどうなんですかね……?
 やはり、あのお兄様の親なだけあって思考も似ているのでしょうか……。
 ああ、身内にまともな人間が一人もいないなんて、なんたる悲劇、可哀相な私……。

 …………ん、待てよ、よく考えると今は好機なのでは?
 お父様がコチラを見ていない、この瞬間なら不具合をよそおって通信を切っても言い訳が立つ。
 実はこの魔術道具を使ったことはないけれど、カイくんがさっきアノ辺りをああしてたから、そこに上手く魔術を当てれば……。

 よし、いけそう……!! ではこのまま術を……。

「っっ!?」

 しかし術を発動させるため、僅かに手首を動かそうとしたところ、それを突然掴まれてしまった。

「おい、今何をしようとした……?」

 そうして自分の耳元で、そんな台詞を囁かれて心臓が飛び出しそうなほどドキッとする。

「か、カイくん……」

 そう、私の背後には先程まで少し離れた場所でひざまずいていたはずの、カイくんが立っていたのだ。
 い、いつの間に背後に!?
 まさか私のかすかな動きを察知して、一瞬で距離を詰めたというのだろうか……くっ、これが若手の中では随一と謳われる騎士の実力なのかっ!! 油断していたとは言え、腕を掴まれるまで気付かないとはなんたる不覚……。

 …………それはそうと、ちょっと腕を掴む力が強めだからゆるめない? そういうとこ、よくないと思うな?


「ふむ……仲が良いのは結構だが、そういうことは二人っきりの時だけにして置きなさい」

 カイくんと若干の腕の痛みに気を取られてると、そんな声が聞こえてきて私は思わず正面を向く。するとそこには、どこか楽しげな様子でこちらを見るお父様の姿があった。
 な、何か知らないけど機嫌が若干良くなってる!? え、この状況のどこに面白ポイントがあったの……?
 そもそも二人っきりの状況で、背後から手首を掴まれるって私は普通に嫌なのですが……。

「陛下、これはそういうものではありません」

 私がお父様の機嫌の変化に困惑していると、カイくんはややムッとしたような口調でそう言いながら私の手を離した。
 あ、やった、私の手首が解放された……!! 大丈夫かな、ちゃんと動くかな……?

「それと許可なく立ち上がり、その上お二人の会話を遮ってしまったことも申し訳ありません」

「いや、聞いてのとおり大した話はしてないから構わない。そもそも俺たちしかいないのだから、そこまで堅苦しくする必要もないぞ?」

「いえ、そういうわけにはいきません」

 手首の調子を確認する私をよそに会話をする二人。
 私の時より格段にマシな雰囲気になっているので『これならやっぱり、私がいなくてもいいのでは?』と思わないでもない。
 よし、とりあえず私が入らなくて良さそうな会話が続く限りはずっと放っておこう。

「ふむ、変な部分で頑固なのは父親似か?」

「いえ、そんなことは……」

「あ、やっぱり違うわ、アイツは表面上だけ丁寧に見せかけて、色々と容赦なくて失礼だし……」

 そこからは何故かしばらく経っても、カイくんの返事がない。それが気になってそっと様子をみると、カイくんが否定も肯定もできないせいか曖昧あいまいな笑みを浮かべていた。
 ああ……そこはまぁ、そうなるよね。

 カイくんのお父上であるヴァル様は、基本紳士的な人格者で、騎士のかがみとまで言われているお方なのだけど。
 お父様と昔馴染みなのもあって、プライベートだと容赦ない物言いで、お父様をグサグサと刺してる姿が見られるのだ。それも基本丁寧な口調のままで……。
 個人的にはそれが物凄く面白いので、もっとやってくれないかなぁと思っているんだけど、これで色々と背負い込んでしまう真面目な性格のカイくんには地味にキツそうなんだよね。それでもやっぱり私は、もっとやれと思うけども。

 ちなみに以前私が、うっかり似たようなことを言った時には、お父様から笑顔で関節技を決められたりもした。
 うん、あれは痛かったなぁ……。

「そうそう、リリアーナ」

 私が懐かしい関節の痛みに思いを馳せていると、お父様の私を呼ぶ声が聞こえた。
 あれ、わざわざリリアーナと呼んでくるって嫌な予感が……。

「言っておくが、次はないからな?」

 お父様は、いつか私に関節技を決めた時と似た笑顔を浮べてそう言った。
 あ、これはさっきの行動の意図が完全にバレてるやつだ……。

「一体なんの話だか分かりかねます」

 でも認めるような返事をするわけには、いかないので私は素知そしらぬ顔でシラを切る。

「そういうことにして置いてやる……今回はな」

 依然として嫌な笑顔を浮かべたまま、お父様はそう答えた。

 ああ、これでは残念ながら『どさくさに紛れて通信切断作戦』は諦めざるおえないな……無念だ。
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