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第78話 幼馴染属性という運命づけられた不憫

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「えっ、えぇー!! カイくん、どうしてここにいるの!?」

 私と目があったカイくんは、険しかった表情をゆるめ、代わりに大きなため息をついたと思ったら、つかつかとコチラに歩いてきた。

「いや、お前こそ何やってんだよ……」

「え、私?」

 そう口にするカイくんは、完全に呆れたような目でこちらを見ている。
 え……そんな反応をされるようなことなんて、別に……。

「さっきまで大声で変なことを叫んでただろ、なんなんだよアレ……」

 あ、してましたね……!!
 確かに、あれを聞かれたのならば、この反応も仕方ないね。うん。

「えーっと、あれは一応人探しのためだったんだけどね……カイくんも一緒にやる?」

「絶対にやらねぇよ……」

 ですよねー。私も他の人から誘われたら断るもの。
 まぁ、そんなことは分かりきってるので、別にどうでもいいんですけどね?

「で、話は戻るけど、カイくんはどうしてここにいるの、休暇中の旅行とか?」

「……お前は本気でそう思ってるのか? 俺が休暇を取ったうえで、異国の辛気臭しんきくさい森にわざわざ一人で来るような趣味があると?」

「いやー、長年付き合いがあっても、人の趣味って分からないものだねー」

「ふ、ざ、け、る、な」

 なんだかカイくんとのこういうやり取りが久しぶりで、段々楽しくなってきた私はつい「えへへ」と笑ってしまった。
 あ……きっとそれに対しても、何かチクリと言われるだろうなぁ。

 しかしそんな予想に反して、カイくんは「はぁ」と小さくため息をつきながらも、ふっと表情をやわらげた。
 ん、あれ? いつもなら、もうちょっと色々言ってくるはずなんだけど……?

「しかし、お前がいつも通りの様子で安心したよ……」

 そうして言葉通りに安堵したような笑みを浮かべ、私を優しく見つめてくるカイくん。
 その普段とは、随分と違う様子に私は……。

「えっえ、何か悪いものでも食べたの……?」

 本気で彼のことが心配になった。

 いや、だっていつものカイくんなら心配するにしても、こんなそぶりはみせないし……どちらかというと『お前、ホントどうしようもないな』って目を向けてくる性格だし……。
 ほら、オマケに今、ガクってうなだれたよ……!! やっぱり調子が悪いんじゃ……!?

「ああ、お前はそういう奴だったな……本当に変わりがなくて心底安心したわ」

「ねぇ、体調不良に効く薬でもあげようか?」

「いらねぇよ!!」

 あ、でも反応を見るに、思ったより大丈夫そうかもしれない。
 よかったよかった……。

 でも喜ぶ私とは対照的に、カイくん自身はちょっと不機嫌そうだ。
 そんな彼は大きなため息をつきながら、私から顔をそらすとぶっきらぼうにこう言った。

「でも誰かさんのアホっぷりなら治したいので、それに効く薬があればくれ」

 ん……私を遠回しにアホだと言ってること自体は分かるんだけど、これは一体どういうつもりなんだろうか?
 まぁ、そんな薬はないし、そもそも私のどこにも治す必要性がないので、諦めてもらうしかないけどね!!

「流石にそれはないので、その人には残念だけど諦めてもらって?」

 ここのその人とははもちろん、カイくんのことね。

「……まぁ、そうだよな」

 うーん? あれ、もっともっと言い返してくると思ってたんだけど……やっぱり調子が悪いのかな?

 そんなことを思っていると、カイくんは気を取り直すように頭を振ってから、改めて私のことを見ていった。

「とりあえず、このままじゃらちが明かないから話を戻すぞ」

「うん、まったく誰のせいだろうねー」

「…………それで、俺がここに来た理由だったな」

 微妙に長い間は、私の発言に対して何か言うのをグッとこらえたからだろう。
 この辺は、割と普段通りなので問題ない。

「俺がここに来たのはな、アーク様の代理だ」

 ん、んん……?
 あれれ、よく分からなかったぞ?

「もう一度聞きたいんだけど、なんだって?」

「お前の実の兄、アークスティード様の代わりだ」

 え、カイくんがお兄様の代わり……?

 えーっと、それじゃあお兄様からカイくんに私の情報が伝わって、彼が代わりにここに来た……。
 そこまでは、いいんだけど、それじゃあ私のついた嘘って一体どうなってるのかな?

 私の嘘がバレてたら、すぐさまお兄様本人が飛んで来て私をボコボコ……じゃなくて状況を聞こうとしそうなものだから、代わりにカイくんが来るっていうのが、そもそも変なんだよね。

 ……ダメだ、やっぱりどういう状況か、まったく分からない。
 いや、でも、カイくんが本当にお兄様の代わりだとしたら、今一番重要な情報は……。

「……じゃあ、お兄様は今どこにいるのかな?」

 そう、それはお兄様本人の居場所だ。それ以上に重要な情報などない。
 少なくとも今の私にとっては……。

「ああ、アーク様なら、俺と入れ替わりで国に残っているぞ」

 国に残っている……つまり、カストリヤ国内にはいない!?
 やったっっっ!! 少なくとも、これでしばらくは心安らかでいられる!!

「ありがとう……!! 私、カイくんのことが大好きだよっっ!!」

「それって、アーク様と顔を合わせなくて済むという、安心感から出てるだけの言葉だよな」

 喜びにあふれる私は、自分の言葉に力いっぱい感謝の気持ちを込めたのだが、それに対するカイくんの返事は冷ややかだった。
 な、なんと……人がせっかく御礼を言っているというのに、その態度。

「そもそもお前の、好きだの大好きだのってちょっと安くないか? 正直、誰にでも言って回ってそうで心配なんだが……」

「えー、別に安くないし、誰にでも言ってるわけじゃないけどー?」

 完全に馬鹿にしたような口調でそう言ってくるものだから、私はきっぱりと言い返す。
 そもそも安いって言ってくること自体、かなり失礼では? これには私もちょっと怒るところだ、ぷんぷん。

「まぁ確かに、お前の素を出せる相手自体が限られてるからな……」

「あ、ごめん。今のは、ちょっと声が小さくて聞こえなかったんだけど……」

「……そう言えば、お前ってまともな友達がほぼ居ないからそうだろうなって言った」

「酷い……!!」

 さっきの言葉といい、今の台詞といい、まったく口の悪い幼馴染だ……。
 でも最初の様子のおかしさを考えると、むしろこっちがいつも通りなので、こうしてくれた方が安心できるまである。

 いやー、カイくんはやっぱりこうじゃないとね!!  けっして悪口とかキツイことを言われたいわけじゃないけど、変に優しくされると不安になってしまうので……。

 さて、カイくんへの心配や、お兄様への不安も当面なくなったし、随分と気も楽になったね!!
 やっふー!! よかったー!!

 ……でも、あれ? しかしそうすると最初にもチラッと思った『私のついた嘘ってどうなってるの?』問題が丸々残ってしまっているぞ……。
 お兄様が帰国したことで、むしろどういう事態かますます分からなくなってません? そもそも、お兄様の代理ってカイくんは、何をしに来たの?

 うーん……ダメだ、分からない……。
 でもカイくんなら全然普通に会話ができるし、どういう状況なのかそのまま聞いちゃえばいっか!!

「ねぇねぇ、カイくんはどういう風に話を聞いて、どういう経緯でここまで来たのー?」

「……さて、どういう風だと思う?」

 私がそう問いかけると、カイくんはそう口にしながら意味ありげにニヤリと笑ってみせた。

 え、なに、この返し……ちょっと不穏ふおんさを感じるのだけど。
 というか、質問に質問で返すのは良くないと思うよ!?

 まぁ私は優しいので許すけど!! 優しいのでね……!!
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