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第69話 説明というか詭弁というか嘘
しおりを挟む何はともあれ、この状況で何も言わないわけにはいかない。私は機能低下中の頭を無理矢理動かして言い訳を始める。
「あの、ですね……この方はカストリヤの王子様でして……」
「それは私の把握する情報と異なる」
うわー、凄いバッサリ……頑張って説明してるのに酷くないですか……?
私、まだ最後まで言えてませんよ?
「あの、一度最後まで話を聞いて下さい……」
「……」
む、無表情で無言……!! こ、これは肯定と受け取りますね?
だってそうしないと話が進まないので……。
「実はこちらのアルフォンス様は、十年ほど前から呪いがかけられているらしくてですね…………それで、あの、色々と情報が違うのかなぁと……」
あぁ……自分で話を聞いて欲しいと言った割に説明が酷い。
なんかもう色々ダメな気がする。何より体がしんどい、立ってるより地面に倒れ込んだ方がラクな気さえしてきた……。
いや、それでももうちょっと頑張らないとまずいし……。
「アルフォンスだと……?」
私がどうにか言い訳をひねりだそうとしていたところ、お兄様のそんな声が聞こえてきた。
「ええ、はい……そうです」
「それなら確かに知っている、古い情報であるため重視はしていなかったが……そして呪いか」
お兄様はなにやら納得した様子で一人頷いている。
うん……今回ばかりはお兄様の察しがよくて助かった、もう説明するのもしんどかったから。
「身元がハッキリしたところで殺すか」
安堵しかけたのもつかの間、なんだかおかしな台詞が私の耳に届いた。
あ、あれ……なにかの聞き間違えかな?
「殺す」
…………今度は短いけどバッチリ聞こえましたね。
いや、殺すってどういうことですか!?
「あの、それはどうして……」
「その王子なら公式には十年ほど前に消息不明扱いとされている。そしてその代わりに弟の王子が第一王位継承者となった」
あ、そうなんですね……初めて知りました。
へー弟君が……。
「そこにどんな事情があるかは不明だが、その王子が重視されてないのだけは間違いない。よってこの場で殺しても問題はない」
…………うん、この人なぜか殺すことを中心に話を進めようとしてない……?
普通ならその前に殺す理由を持ってきますよね!?
「その……まず、殺すのはよくないと思います……」
「問題ない、苦しませずラクに殺す」
そういう話をしてるんじゃないんですけども……!?
えっ、もう殺すことがお兄様の中では前提なの? それは流石に殺意が高過ぎでは……!?
そもそも仮にも一国の王子に対してその扱いはどうなの!!
あれれ……この人は優しいわけでもないけど、こんなに他人を殺したがる性格でもなかった気が……。
いや、やっぱり分からないわ、お兄様の思考回路は全体的に謎なので……。
っと、うかうかしている内に、お兄様は腰に差していた剣に手を掛けている。
まずい!! 完全に殺る気だ!!
「ダメです、やめて下さい……!!」
私は尽きかけている気力を振り絞って叫ぶ。
なんかもう限界が近くて頭がぐわんぐわんしてきたけど、これだけは阻止しなくては……!!
「なぜだ」
お兄様の言葉は恐ろしいほど短く冷たい。
そしてそこに含まれているのは、純粋な疑問と苛立ち……。
い、いや、ダメだからダメなんですけど……!! むしろなんで殺すことにこだわってるのかなぁ!?
うぅ、これはこちらでもそれっぽいイイ感じの言い訳をしなきゃならないパターンのようですね……。
ああもう、いつの間にかアルフォンス様の命まで危なくなるなんて……お兄様が出てくると本当にロクなことがないっ!!
でも頑張れ私、負けるな私……!! とりあえず、自分が巻き込んだせいで他人が死にましたという、最悪の事態だけは避けるんだ……。
「このアルフォンス様は必要なお方なのです」
「一体何に」
ひぇ、言葉の鋭利さがドンドン上がってる気が……!!
怖くて仕方ないけど、どうにか話を続ける。
「実は先程お話しした、大精霊様の異変に関係している可能性が高いのです」
正直なところ、この話は掘り返したくはない。だって嘘だし……!!
けれどお兄様を納得させるには、この話に絡めるのが最適だろうと判断した。
はぁ、どうしてこう何度も危ない橋を渡らなければならないのだろうか……。
「先程、アルフォンス様には呪いが掛けられていると言いましたよね? その呪いの魔力がどうなっているのか確認して下さいませ、お兄様ならそれでお分かりになるはずです」
お兄様は特に返事もせず、倒れたアルフォンス様にすっと視線を落とした。
「…………確かに不自然ではある」
「そうでしょう」
よし、いけたね……!?
そしてここで私の持つ切り札をっ!!
「……そしてそれは、他でもない大精霊様自身が掛けた呪いなのです」
「っ……それは確かなのか」
私の言葉にお兄様は目を見開く。普段、無表情なお兄様がそこまで表情を変えることはそれだけ意味があることだ。
やはり大精霊様の知識があるお兄様にとって、それがどれほど異常事態なのかが分かるからだろう。うん、計画通り……!!
そして私は神妙な表情を作って、更に言葉を続けた。
「はい……だから彼は異常を調べるうえで、どうしても必要な存在というわけなのです」
……自分で言い出しといてなんだけど、嘘に事実を混ぜたら信じられないくらい本当の話っぽくなったな。
あとはお兄様持ち前の勘の良ささえ発動しなければいけるはず……お願いだから気付かないで!!
祈るように待ったその時間は、自らの不調や心労も相まってとても長い時間に思えた。
そしてその末に、お兄様が出した結論は……。
「……ふむ、了承した」
っっっ!! よかった……ごまかせた……。
これでアルフォンス様の命は救われた……。
「分かって頂けて嬉しいです」
「しかし……」
んん……え、なんだろう、この嫌な感じは。
「本件については一度、持ち帰り確認を取らせて貰う」
「…………」
は、はは…………まぁ冷静に考えれば、そうなりますよね!?
でも確認を取られると私は終わるんですよ!! やめて……!!
「あの……そ、それは……」
あ、ダメだ上手く言葉が出てこない。
さっきまでで色々使い切ったから、疲れて頭が回らなくなって……。
「本日中にでも速やかに確認する」
ひぃぃぃぃ!?
今日確認されると、明日中には確実に私の命運が尽きる!!
「あ、あの他の用もあるでしょうし、無理せずゆっくり……」
「問題無い、その程度すぐに済む」
私がようやく絞り出した言葉は、無情にも軽々と切り捨てられたのだった。
やめて……本当にやめて……。
お願いだから何か別件で思い切り時間を取られて、なんなら連絡とか私の存在も忘れてくれませんかね!?
「そうだ…………それとは別に必要なことがあった」
「は、はい……?」
お兄様のその言葉を聞いた瞬間、今までも散々だったのに今日一番の嫌な予感がした。
「だから悪いが少し寝てくれ」
「寝て……」
あ、やばい……これはいつものアレだ!!
お兄様の手の中には、既に強力な魔力が形を作りつつあった。
一応、ここは未だに魔力や魔術を制限する結界の中で、それは今でも有効ではある。しかし当然ながら術者であるお兄様はその影響を受けない。
つまり現在、ここではお兄様だけ強力な魔術をぶっ放し放題なのである……!! そしてあの魔力は寝かせると言ったとおり、私の意識を奪うためのそれだ。
しかし普通に相手を昏倒させたり眠らせる術を使うだけならば、あんな量の魔力はいらない。……実は私には、その手の術を含めた状態異常を引き起こす魔術への耐性があるのだ。だから意識を奪うことを直接の目的にしている魔術では私を気絶させられない。
それだけ聞くと凄そう聞こえるけど、ぶっちゃけ魔術を使って気絶させる方法は存在するので私には無意味に思える。だって抜け穴がある時点で欠陥ですよ!?
まぁ面倒くさいのでその方法を簡単に言うと、なんでもいいから高火力の攻撃魔術を使用して全力で殴るのだ。
ほら、人間って物理でもそれ以外でも、一定以上のダメージが蓄積すると意識を失うでしょ?
実にシンプルで単純な話だねー!! まぁ、どれほどの人が実際にそれをやってるかは知らないけど……。
そしてそれを長年私に実践し続けているのが、私の兄なのである。
と、いうわけで私の意識は殴られてそろそろフェイドアウトします!!
ふふ…………いや、やっぱり怖いので待ってっ!?
「……おやすみ」
受けた攻撃の衝撃とともに、私の意識はプツリとそこで途切れた。
―――――――――――――――――――――――――――……
どれくらい時間が経ったのだろうか。
まぁ、まだ陽も全然落ちてないしそこまで遅い時間ではなさそうだけど……。
私の意識が戻った時には、お兄様の姿もあのドラゴンも結界もなくなっており、すぐ側には几帳面に折りたたまれた手紙が置かれていた。
気が進まないものの、私はそっと中身を開いて確認する。そこには見覚えのある筆跡で短くこう書かれていた。
『こちらより再度連絡する』
…………再度連絡。
いや、連絡とかいらないんで本当にもう放っておいて頂けると嬉しいなーって……まぁダメですよね!?
ああ、ツラい憂鬱だ、どうしよう……。
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