魔術少女と呪われた魔獣 ~愛なんて曖昧なモノより、信頼できる魔術で王子様の呪いを解こうと思います!!~

朝霧 陽月

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第61話 貧民街でのこと-別視点-3

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 戻ってきたリアは再び掃除に入ったが、彼女はあの子供の方にいる。
 先程あれが近づいていった後に、そのまま連れて行かれた形になってしまったのだ。

 そしてその時、一瞬あの子供と目があうことがあったが勝ち誇ったような顔をしてたのが忘れられない……完全に悪意がにじみ出ていた。
 完全にしてやられた……子供だと思っていたら図に乗りおってからにっ!?
 ゆ、ゆるさん……さっきのことも含めてゆるさん!!

「この辺の汚れあまり落ちないなぁ」

「どれどれ見せて……ああ、なるほど」

 しかしリアは相変わらず優しいな。
 こんな生意気な子供に親切に接する必要なんてないのに……。

「これは他の汚れと違ってベトベトしてるから、濡らしただけの布だと落としづらそうだね……」

 そう言いながらリアは荷物からガサゴソと何かを取り出した。

「そういう時はね、これを使うといいよー!」

「え……なにそれ草?」

 そう、リアが取り出したのは草だった……。
 正確には茎がやたら長く、その先に丸っこい葉っぱがワサワサとついている植物で、わざわざ掘り起こして採取したのか下には根まで残っている。

 私もあの子供ではないが、リアが謎の植物を取り出したことに少し戸惑っている……いや、だって草だし……。

「そうそう、草なんだけど……ちょっと見ててみて」

 リアがその植物の茎を折ると、そこから透明なとろっとした液体が出てきた。

「で、出てきた液を水に入れて混ぜるの」

「うん」

「ロイくんこれの水面をちょっとバシャバシャしてみてよ」

「バシャバシャ? こう……わっ!!」

「ほら、泡が立ったでしょ?」

「うん、立っためっちゃ泡あわしてる」

 確かにその会話通り、桶の水面には細かい泡が立って残っている。
 まるで洗剤のようだな……。

「この泡が汚れを綺麗にしてくれるんだよ、だからこの水に布を付けてからもう一度同じ所を掃除してみようね~」

「うん、分かった!!」

 例の子供はリアの言葉に頷いて、泡の立った桶の水で布を濡らしてから改めて汚れた壁を拭いた。

「凄い!! 汚れが落ちたよ!?」

「ふふ、そうでしょ~」

 ……やっぱり洗剤だな。
 しかしこんな植物があるとは……リアはよく知ってるな。前々から思っていたが彼女はなかなか博識はくしきだ。
 そして何より『ふふ』って笑ってるところが可愛いのもいい……。

「ちなみにこの草はシャポン草というんだ。実はこの辺でも生えているのを見掛けたから、使いたくなったらまた取ってきて使うといいよ~ 取るときのポイントは、茎を折らないように根ごと掘り起こすってところだね」

「へぇー、そうなんだ!! あ……でも忘れちゃいそうだ……」

 は? リアが丁寧に説明してくれてるのだから、一度でしっかり覚えるべきでは…… ? むしろ覚えて当然ではっ?

「それじゃあ、メモを書いてあげるよ!! 紙もペンも持ってるし」

「メモ……」

 はぁ、リアは本当に優しいな……それなのに、この子供はなんで引っ掛かりがありそうな言い草なんだ……?
 そこは素直にうなずくべきでは? 感謝が足りないぞ?

「それってさ、文字を使うの?」

「ん? まぁ、基本はそうだね」

「じゃあダメだ……おれは字が読めないから」

「あ……そっか……」

 悩ましそうに視線を落としたリアを見ながら、私もそこで納得がいった。

 ああ、そうか……。
 食うのもやっとであるのが、貧民の暮らしだ。読み書きが出来ないのは、よく考えれば当然だったな。

 しかしそうすると、彼女の反応は……。
 やや不安を感じつつリアの様子を伺っていると、彼女は何か思い付いたのかパッと顔をあげて微笑んだ。
 あ、可愛い……。

「それなら特徴が分かるように絵を描いてあげるよ。ほら、絵なら字が読めなくても分かるでしょ」

 リアはにこにこしながら身振りを交えてそういう。
 うん、可愛いな……って、ん? 絵だと?

「……いいの?」

「もちろん、これにそうした方がロイくんの役にも立つでしょ?」

「うん……!!」

 ……え、絵を描く!?
 仮に出来るとしても、それは流石に優しすぎないか!?

 こちらが戸惑ってる間に、リアは荷物から紙とペンを取り出してサラサラと絵を描き始めた。
 本当に何か書いてるようだが、ここからではよく見えないな……。

「…………はい、描けたよ~」

 どうにか見えないものかと位置を動いたりしていたところ、リアのそんな声が聞こえてきた。

 は、早いな……!?
 そんなすぐに出来るものなのか……?

「草の特徴と生えやすい場所に、あと採取の時の注意も入れてみたんだけど、これで分かるかな?」

 しかもこの短時間で、そんなに描き込んだのか!?

「すごいー!! ちゃんと分かるよ!!」

 き、気になる!?
 よし、もう少しこっちに行けば……おお、ここならば上手く見える。

 紙に描かれていたのは、確かにさっきリアが取り出した草と同じモノだ。
 長い茎を持ちながら、特徴的な丸っこい小さな葉っぱが生えてる先端。
 その隣には、特徴的を抑えてデフォルメされたその草が、木陰に生える様子が描かれ矢印で示されてる。おそらく生えやすい場所を表しているのだろう……。
 そしてその下には、同じデフォルメされた草が根まで掘り起こされた状態のものにマルが付いてる絵と、対照的に茎が折れた状態の草にバツが付いている絵があった……。
 いや、これは絵というより図というものか……?

 で、でもこの僅かな間にこれを描けるって凄過ぎないか!? もしかして私が知らないだけで魔術師だと、これが普通なのだろうか……?

 ……まぁリアが優秀なのはいいとして、この失礼で生意気な子供にそこまでする必要があるのだろうか?
 何よりもそこが釈然としないのだが……。

 モヤモヤしつつリアの様子をみると、彼女は何故かあの子供へ微妙な表情を向けていたような気がした。
 気がしたと言うのも、それはあまりに一瞬のことで確証を持てるようなものではなかったからだ。
 このタイミングで、あの子供の本性に気付いたというわけでもなさそうだが……。

「さぁ、残りはもう少しだから掃除の続きも頑張ろうね」

 そういう、彼女はいたって今まで通りだ。
 なんだろうか、リアは一体何を……。

「うん、頑張る!!」

 丁度私が色々と考えようとしたその瞬間、あの子供がリアに抱きついたため、あらゆることがどうでもよくなった 。

 な、な、なんてことをっ!?

「こら、そうされると動けないからやめようね~」

「はーい」

 そうしてその子供は抱きつくのはやめたものの、代わりにリアへベタベタし始めた……。

 はぁぁ!?
 こ、この子供、子供だからと調子に乗り過ぎではないか!?

「ほらほら、続きをやるよー」

「うん」

 そしてリアはもっと言うべきことがあるのでは!? なぜ、そのまま掃除を再開しようとする……!?

 でも、しかし本人が文句を言わない以上、今から間に入るのも…………ぬ、ぬぐぐぐっ!!
 ぐっ……これもツケということにしておいてやろう、今はな? 今はなっ!?
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