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第60話 貧民街でのこと-別視点-2
しおりを挟む「あっ」
しばらくリアから掃除の方法を教えて貰ったところで、彼女は何かを思い出したように声を上げた。
「どうしたんだ?」
「そういえば、奥の部屋も結構汚れていたことを思い出しましてねー! ちょっとさっきの要領でサッとあちらも片付けてきてしまいますね!!」
「ああ、分かった」
「ロイくんもそのまま掃除よろしくねー」
「うん」
そのように例の少年にも軽く声を掛けたリアは、一人で奥の部屋に入っていった。
まぁ、先程の様子を見る限りすぐに終わらせて帰ってくるはずだから、そんなに待たないだろう……。
「なぁ、あんた」
なんとなくリアの入っていた扉を見つめていると、そんな声が聞こえてきた。
今この部屋にいるのは私以外にはアレしかいないが……。
声をした方を向くと、当然だがあのロイという少年がこちらをじっと見つめていた。
その表情からはなんとも感情が読み取りづらいが……わざわざ声を掛けてくるとは一体どういうつもりだろうか。
確か、先程リアが診察のために奥の部屋へ入った時には、リアが戻ってくるまで黙りこくってたはずだが……。
「私か……?」
念の為、本当に私に声を掛けたのか聞き返す。
正直な話、出来ればこの子供と会話なんてしたくないというのもあるが……。
「は? いま、この部屋にはあんたしかいないだろ」
ロイとかいう少年は馬鹿にしたような目をこちらに向けてくる。
…………可愛くない子供だ。
「あのリオンの……魔術師の仲間なんだろ。あんたもさっきみたいなやつを、なにかできないのか?」
まずリオンはこの子に名乗ったリアの仕事名らしいから、放っておくとして『さっきみたいなやつ』というのは、たぶんリアが使った魔術のことを言ってるんだよな……。
え、まさか知らぬ間に期待されてしまっていたのか?
「いや、私はそういうことは出来なくて……」
「なにも?」
「ああ、何も……」
「ふーん、つかえないヤツだな……」
ロイはぼそっとそう呟いた。
……イラッとする子供だ。
「ま、薄々そんな気はしてたけど」
イラっとするうえに心底可愛げのない子供だ。
「そういえば、さっきもわざわざ掃除の方法を教わってたし……一体なにならできるの?」
そ、そういわれると…………。
「ただ一緒にいるだけなの?」
ぐっ!?
「むしろ足を引っ張ってるんじゃない?」
あしをひっぱっっ…………も、物凄く失礼で腹の立つ子供だなっ!?
流石にこれには何か言い返さねば気がすまん……!!
「いいか、貴様っ……」
私が言葉を言いかけたところで奥の部屋への扉が開いた。
「はーい、戻りましたよ!! 何も問題はありませんかねー?」
そんな言葉と共に部屋に入ってきたリアに私は内心で冷や汗をかいた。
い、今のまさか聞かれて……!?
「なーんて、まっこの短時間で問題なんて起こりませんよね」
よかった、これはバレてなさそうだ……。
「……そうだな」
私がどうにかぎこちなく返事をしたところで、スッととリアの方に近付いていく人影があった。
「おかえりー!」
そう、それはあのロイとかいう子供だ。それは今までの私への態度とは打って変わって、愛想良くリアに駆け寄ったのだった。
は……はぁっ!?
「ロイくんただいまいい子にしてたかな?」
リアのそんな問いかけに、そやつは迷いなく笑顔で頷いた。
「うん!!」
嘘つけぇぇ!?
貴様は先程まで私に喧嘩売っていただろうがっ!!
ああ、思い出しただけで本当に腹が立つ……!!
イラつ私を他所にリアは、例のそれへ優しく声を掛ける。
「そうそう、ついでにお母さんのことも見て来たんだけど苦しそうな様子もなくよく眠ってたよ」
そう言って笑いかけるリアの表情は、とても柔らかく優しくて見てるだけで癒やされるものだった……。
これがあの生意気な子供に向けられてるものじゃなければ、もっとよかったがなっ!?
「起こすのも悪いからそっとしておいたけど、体調も安定してそうだったから安心してね」
ああ、本当に気遣いと思いやりに関しては流石リアだ……。
それに比べて本当にこのロイとかいう子供はどうしようもない、親切にする必要があるのか甚だ疑問である。
態度が悪いし、何より態度が悪い……!!
「さーて、それじゃあもうちょっとだけお掃除頑張ろうね!!」
「うん!!」
リアの言葉に調子よく頷くそやつの姿に内心イラッとする。
出来れば、さっきまでのこやつの行動をリアに話してしまいたいところだが……。
「ふふ、いいお返事だね~」
しかし今のニコニコしたリアの様子をみると、わざわざそういうことをするのは躊躇われるし……ぐっ。
い、今のところは見逃してやる……。
今のところは、な……!?
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