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第53話 貧民の少年と魔術師1
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「ねぇ、ボクどうしたの? 何かあったのなら私に話してみてよ、力になれるかも知れないからさ」
目の前で医者に冷たくあしらわれたその少年を、放って置けずに私は気付いたら彼に声をかけていた。
「…………本当に?」
少年は不安げに瞳を揺らしてこちらを見つめる。
「うん、だから聞かせてみてよ」
「でも、あんたは誰なの?」
「私は魔術師のリオン、薬の研究もしてるから医療の知識も多少ならあるんだ」
私は医者ではないけど、魔術の中には医療に絡むような分野もある。だからそれを扱うために医療に関する知識もある程度頭に入れてあった。
自分でいうのも何だけど、下手な医者より使えるとすら思っている。
「本当に……!?」
「うん、きっと役に立てると思うなー」
私が笑顔で頷くと少年の表情が一転して明るくなった。
「お、おれの名前はロンっていうんだ……こっち、着いてきて!!」
少年に後をついて行こうとしたところ、私の後ろからアルフォンス様が出てきて行く手を阻んだ。
「おい、リア……本気か?」
そう私に声を掛ける彼の声は厳しい。
……うーん、これは私が勝手なことを言い出したから怒ってるのかな?
「何がですか?」
そうは思ってもはっきりとした意図は汲み取れないため、私は分からないフリをして聞き返した。
「何がって、あの子供は……」
言葉を途中で区切り、なんとも言えない表情をするアルフォンス様。その様子で私は彼の言いたいことを察した。
ああ、なるほどね……そっちか……。
「ええ、貧民でしょうね」
薄汚れててボロボロの服……あの少年の身なりからはどう見ても生活水準が低いことが分かる。おそらく下級階級の貧しい身分、いわゆる貧民というやつだ。
「では……分かるだろう」
「はい、そうですね」
アルフォンス様の必死に訴えかけるような視線に私は静かに頷いた。
貧民は好ましく思われる存在ではない。比較的近しい身分である中流階級の民も彼らを嫌悪しており、上流階級になればそれは更に顕著だ。
王族である彼ならなおさらだろうね……。
「確かに貴方様が行くべき場所ではありませんね……私が浅慮でした。申し訳ありませんが私一人で行きますので、どうぞ待っていて下さいませ」
それが分かるから私はきっぱりそう告げた。
私個人の勝手な行動に、わざわざアルフォンス様を付き合わせるわけにもいかないからね……。
「なっ」
目を見開いてこちらを見つめるアルフォンス様。
彼はきっと私が行くこと自体を止めたかったのだろう……。
「待ち合わせ場所は、先程の書店でお願いいたします」
だけどそれはできないので、私はアルフォンス様の反応を無視してこう言った。
「待て、一人で貧民街に行くというのは危険だ……!!」
「一人じゃありませんよ? ロイくんもいますからねー」
「そういうことを言っているのではないっ!!」
私がちょっとでも空気を和らげようと口にした発言は、逆効果だったようでアルフォンス様は声を荒げた。
これは失敗したかな……。しかし私一人で行くことくらい、放っておいてくれればいいのになぁ……。
「まず病に罹ってる者の所に、わざわざ行くなんて止めるべきだ……!!」
「確かに仰ることはごもっともです」
そうやって必死に食い下がるアルフォンス様の言葉に、私は仕方なく同意した。
まぁ私自身も理由がなければ絶対に足を踏み入れようとは思わないし、強く止めようとする彼の気持ちも十分に分かる。
「なら……」
私の返答受けて、彼は期待したような視線を向けてくる。
「ですが、それでも私はあの子を助けたいんです……」
それでもやっぱり私は首を振った。
「どうしてだ……!?」
明らかに納得できないとでも言いたげに叫ぶアルフォンス様。
…………。
…………いや、長いなこのやり取り。
下手を打つともっと長引くよね、これ……ロイくんが先に行ってるし、なるべく早く話を早く切り上げたいのだけれど……。
はぁ、気は進まないけどアレを使うか……。
目の前で医者に冷たくあしらわれたその少年を、放って置けずに私は気付いたら彼に声をかけていた。
「…………本当に?」
少年は不安げに瞳を揺らしてこちらを見つめる。
「うん、だから聞かせてみてよ」
「でも、あんたは誰なの?」
「私は魔術師のリオン、薬の研究もしてるから医療の知識も多少ならあるんだ」
私は医者ではないけど、魔術の中には医療に絡むような分野もある。だからそれを扱うために医療に関する知識もある程度頭に入れてあった。
自分でいうのも何だけど、下手な医者より使えるとすら思っている。
「本当に……!?」
「うん、きっと役に立てると思うなー」
私が笑顔で頷くと少年の表情が一転して明るくなった。
「お、おれの名前はロンっていうんだ……こっち、着いてきて!!」
少年に後をついて行こうとしたところ、私の後ろからアルフォンス様が出てきて行く手を阻んだ。
「おい、リア……本気か?」
そう私に声を掛ける彼の声は厳しい。
……うーん、これは私が勝手なことを言い出したから怒ってるのかな?
「何がですか?」
そうは思ってもはっきりとした意図は汲み取れないため、私は分からないフリをして聞き返した。
「何がって、あの子供は……」
言葉を途中で区切り、なんとも言えない表情をするアルフォンス様。その様子で私は彼の言いたいことを察した。
ああ、なるほどね……そっちか……。
「ええ、貧民でしょうね」
薄汚れててボロボロの服……あの少年の身なりからはどう見ても生活水準が低いことが分かる。おそらく下級階級の貧しい身分、いわゆる貧民というやつだ。
「では……分かるだろう」
「はい、そうですね」
アルフォンス様の必死に訴えかけるような視線に私は静かに頷いた。
貧民は好ましく思われる存在ではない。比較的近しい身分である中流階級の民も彼らを嫌悪しており、上流階級になればそれは更に顕著だ。
王族である彼ならなおさらだろうね……。
「確かに貴方様が行くべき場所ではありませんね……私が浅慮でした。申し訳ありませんが私一人で行きますので、どうぞ待っていて下さいませ」
それが分かるから私はきっぱりそう告げた。
私個人の勝手な行動に、わざわざアルフォンス様を付き合わせるわけにもいかないからね……。
「なっ」
目を見開いてこちらを見つめるアルフォンス様。
彼はきっと私が行くこと自体を止めたかったのだろう……。
「待ち合わせ場所は、先程の書店でお願いいたします」
だけどそれはできないので、私はアルフォンス様の反応を無視してこう言った。
「待て、一人で貧民街に行くというのは危険だ……!!」
「一人じゃありませんよ? ロイくんもいますからねー」
「そういうことを言っているのではないっ!!」
私がちょっとでも空気を和らげようと口にした発言は、逆効果だったようでアルフォンス様は声を荒げた。
これは失敗したかな……。しかし私一人で行くことくらい、放っておいてくれればいいのになぁ……。
「まず病に罹ってる者の所に、わざわざ行くなんて止めるべきだ……!!」
「確かに仰ることはごもっともです」
そうやって必死に食い下がるアルフォンス様の言葉に、私は仕方なく同意した。
まぁ私自身も理由がなければ絶対に足を踏み入れようとは思わないし、強く止めようとする彼の気持ちも十分に分かる。
「なら……」
私の返答受けて、彼は期待したような視線を向けてくる。
「ですが、それでも私はあの子を助けたいんです……」
それでもやっぱり私は首を振った。
「どうしてだ……!?」
明らかに納得できないとでも言いたげに叫ぶアルフォンス様。
…………。
…………いや、長いなこのやり取り。
下手を打つともっと長引くよね、これ……ロイくんが先に行ってるし、なるべく早く話を早く切り上げたいのだけれど……。
はぁ、気は進まないけどアレを使うか……。
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