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第52話 昼食とその後に-別視点-
しおりを挟む先程料理を注文する際に、リアの提案する『分け合いっこ』とやらを承諾したわけだが……。
なぜかその成り行きで、彼女から料理を食べさせてもらうに流れに至った。
いや、本当になぜだ!?
しかし、でも物凄く嬉しい…… 恥ずかしいけど、とても幸せを感じる。
笑顔で料理を差し出して食べさせてくれるリアはとても可愛いし……こ、これはもはや恋人と言ってもいいのではっ!?
「あっ……」
急にリアがそんな声を漏らし動きを止めた。
「どうかしたか?」
「あの、いつの間にかが私の料理がほとんど無くなってしまっていて……」
しゅんとした彼女の視線の先にあるのは、切り分けられた肉が僅かに2切れだけ乗るほぼ空っぽの皿だった。
………………。
これは私が食べ過ぎたせいだよな……?
彼女に食べさせてもらうのが嬉しくて、つい食べ過ぎてしまったからな……。
とても申し訳ない……。
「……では代わりにキミはこちらを食べるといい」
あまりに悲しげに自分の皿を見つめるリアを見兼ねて、私は自分の料理を差し出した。
「えっ」
「それだけでは流石に足らないだろう? 私はもう十分食べたからキミが食べるといい」
するとリアの顔がぱっと明るくなった。
ああ、可愛い……。
「いいんですか?」
「ああ」
「あっ……でも分け合いっこは私から言い出したものですし……」
「む、別に遠慮することはないぞ……?」
私がそう言ったもののリアは納得出来ないらしく、しばらく考えた後にこのようなことを言い出した。
「ではせめて一口だけ、こちらの料理も召し上がって下さい」
「なら一口だけもらおう……」
私がそう頷くとリアは満足げににっこり微笑んで、羊肉の赤ワイン煮をフォークに刺して差し出してきた。
「はいっ」
「ああ、ありがとう……」
御礼を言いつつ私はそれにパクリと食いつき、もぐもぐと食べながらそっとリアの様子を伺う。
すると今まで一切料理を食べていなかったらしい彼女は、嬉しそうにパクパクと食事を口に運んでいる。そのようすがいかにも楽しげで可愛らしくて、見ているだけで心がふわふわドキドキしてきた。
ああ、可愛い……。
ふとっ私と目が合えば、そこでまたニコッと笑いかけてきた。
「美味しいですねっ」
ふんわり柔らかい暖かくて嬉しそうな笑み。
その笑顔を目にした瞬間、先程のドキドキとは比べ物にならない胸の高鳴りを感じた。
ああ、今日はこれだけで胸もお腹もいっぱいだ……。
その後も落ち着かない気持ちを和らげるために果実水を口にしつつ、時折リアと言葉を交わしながら飲食店での時間を過ごした。
いや、リアとは確かに会話をしたはずなのだが……彼女があまりに嬉しそうな笑顔で食事をするものだから、完全にそちらに気を取られて内容はさっぱり頭に残らなかったんだ……。
ああっ、いや、可愛すぎるだろ!? 食事よりよほど満たされるぞ……。
確かに食べさせてもらったのも物凄く良かったが、あれは食べ物がどこに行ったのか分からない感じだったし……。
いっそもう幸せの過剰摂取で死ぬんじゃないのか……。
はぁー、幸せだ……。
そんな幸せで満たされた時間を経て、彼女と私は飲食店を後にしたのだった。
「あともう少しだけ街を見てから帰るか?」
店を出たあと、なんとなく通りを歩きながらリアにそう問いかける。
「そうですね! これまでほぼ私に付き合ってもらったので、今度こそアルさんの行きたい場所に行きましょうねー」
「い、いや、そう言われるととても困るのだが……」
正直な話、リアと居られるのならどこでもいいし……究極的にいうと一緒に過ごせる時間が終わって欲しくないので、今さっき自分から「もう少しで帰るか」と言っておきながら全く帰りたくない……。
いや、でもよく考えたら帰った後にはダ、ダンスがっ!? つまりリアのドレス姿が見れるのか……!!
ああ、彼女がキチンと着飾ればさぞかし美しいのだろうなぁ……。
そうでなくても、これだけ美しくて可愛らしいのだから大変なことになってしまうのではないか……!?
昨日のうちに似合いそうなものを見繕ったし、着た姿を見るのが楽しみで仕方がない。
ふふっっ……。
「あのーアルさーん?」
はっ、気が付くとリアが心配そうな様子でこちらを伺っている。
しまった……夢中になっていて気が付かなかったが、何回か声を掛けられたのだろうか……。
何より今の……顔に出てないよな……?
ともかく何かしら返事をしなければと慌てて口を開こうとしたが……。
「なんで母さんを診てくれないんだよ!? 医者なんだろ!!」
私が声を発する前に、そんな台詞が聞こえてきて口に出すことが出来なかった。
これは幼い子供の声か……。
つられて声の出所に目をやると、やはり年端もゆかぬ少年がおり、一人の男と対峙しているようだった。
しかし少年のあの身なりは……。
「金の無いやつの相手をしてられるか……特に貧民なんかの面倒はな」
吐き捨てるような男の言葉には、明らかな嫌悪感も混じっている。
見るからにみすぼらしい質の良くない服に、明らかに薄汚れた身体。
ああ、やはりあの少年は貧民か……。
「でもこのままじゃ母さんが……!!」
「知るか」
必死に食い下がる少年の言葉を一言で切り捨てた男は、そのまま歩き去ってしまった。
「そんな……母さん……」
ただ一人、その場に取り残された少年は力無くそんな声をこぼす。
…………。
あまり快い光景ではないが……あれにわざわざ近づくのは得策ではないだろう。
この場を離れようとリアに声を掛けようとしたところ、先程までいた位置から彼女が消えていた。
……え?
驚いて辺りを見回すとリアはいつの間にか貧民の少年の近くにおり、目線を合わせて少年に声を掛けているところだった。
「ねぇ、ボクどうしたの? 何かあったのなら私に話してみてよ、力になれるかも知れないからさ」
り、リア……!?
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