魔術少女と呪われた魔獣 ~愛なんて曖昧なモノより、信頼できる魔術で王子様の呪いを解こうと思います!!~

朝霧 陽月

文字の大きさ
上 下
45 / 94

第44話 お目見え城郭都市2

しおりを挟む
「ごほん、まぁつまり1000年前のこの辺りは軍事上の要地で、だからあの古城と城壁都市が作られたというわけだ……まぁ1000年前はあくまでただの軍事拠点で都市ではないがな」

 あっ、なんかアルフォンス様が綺麗にまとめてくれましたね。
 なるほど、なるほど……。

「もしよろしければ他にもお聞きしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」

「ああ、別に構わないが……」

「では、それらの軍事拠点設営までの経緯と、具体的にどのような役割でどの程度の期間運用されたのかなどを分かる範囲でお願いします」

「…………は?」

 間抜けな声を上げて、こちらを凝視するアルフォンス様。
 うーん、これは質問の仕方を失敗したかな……。

「もしかして質問が分かりづらかったですか? ではもう少し詳細にしますね。素人質問で申し訳ありませんが、経緯については設営を誰が発案してどのようにして承認を……」

「いや、違うそうじゃなくてだな!! あー……キミはもしかしてこういう物に詳しいのか?」

 私が喋っている途中だったが、アルフォンス様が強い口調で遮りそう言った。

「いえ、だから素人ですよー? 現に詳しくないから質問してるわけですし」

「まず質問の内容が、詳しくない者のそれではない気がするのだが……」

「でも私は歴史や軍事の専門家ではありませんし、やはりそうなると素人というしか」

「キミの中の素人のくくりがおかしい気がしてならない……」

「ちょっとだけ知識のある素人です」

「やっぱり詳しい者に限ってそういうやつではないか……!!」

 アルフォンス様はどうしても専門家認定したいらしい……知識が足りてない部分も多いし、そんなことないのにな。
 というか過去にどんな経験をしたのだろうか彼は……素人を名乗る専門家に詰められたとか?

「あの、アルフォンス様……」

「そう、そんなことよりもそれだっっ!!」

 どうしたものかと考えながら彼を呼んだら、唐突に力いっぱいそれだと言われて困惑した。

「はい……?」

 えっそれ……? どれ?

「キミは私のことをそう呼んでいるが……」

「えーと、アルフォンス様……?」

「そう、それ……!!」

 あ、それって、もしかして『アルフォンス様』って呼び方のことですか……!?
 流石に分からないですよ!!

「まず街で様付けは目立つし、名前も長いだろうからアルと呼ぶのはどうだろうかと思うがっ!?」

 やけに早口かつりきんだ口調でまくし立てるようにアルフォンス様はそう言った。
 ああ、なんだそういうことですかー? なるほどー、納得です。
 ただ早口でやけに力んでいるのが、どうしてだか気になるけど……。

「それについてはご心配に及びません」

「……え」

「私の術で周囲には会話を聞こえなくできますので、どんな呼び方をしててもどんな内容を話してようと目立つようなことはないようにいたします」

 実はその手の術は私の得意分野である、目立たないように行動することを強いられているうちに鍛えられたともいう……。
 本当は先程の彼らとのやり取りも全て術を使って、一切直接の会話をせず誤魔化すことも出来たのだけど……個人的に好きじゃないからやらなかったわけですよ。
 ほら、必要性もないのにそういうことまで術に頼ってしまうとさ、良心とか人の心的な部分がり減ってしまうから……ようするに私の価値観的に許せないというだけなんだけどねー。

「そ、そうなのか?」

「ええ、それはもちろん。完璧に周囲の人々へ違和感を与えない形で隠すことが可能です」

 いつも使いまくってるので、もう自信しかありませんとも!!

「うむ、それは凄いな…………」

 アルフォンス様はそう頷きながらも、何かに迷うような様子を見せた。
 うん? 一体なんなのだろうか……。

「だ、だが……!!」

 なぜか急に立ち止まったアルフォンス様に合わせて私も立ち止まる。

「はい?」

 彼の行動の意図が分からず私はわずかに首を傾げた。

「それでも私はアルと呼んで欲しいんだっ!!」

 そうしてアルフォンス様が、力いっぱい口にしたのはそんな言葉だった。そんな彼の声は、気のせいか少しうわずっているように感じた。

「…………はい?」

 しかし私は全く意味が分からず、そんな返事を返すことしか出来なかった。

 えっ……えっ? 一体どういう意味だろうか……?

「も、もしよければだが……」

 更に彼は歯切れが悪い感じでそう付け足した。一方、私の頭の中は彼の意図の読めない言動に対する疑問符で埋め尽くされていた。

 うーん……これは仮説で正しいかは分からないが、彼はもしかして私と仲良くなりたいのでは……?
 いや、やっぱり一瞬で違う気がしてきた。理由としては私と仲良くなることのメリットがまったく分からないからである。自分で考えてて悲しい……。

「だ、ダメだろうか……」

「……いえ、そんなことありませんよ。それではアルさんと呼ばせて頂きますねー」

 私が何も言わないでいたらアルフォンス様は目に見えて落ち込んできてしまったので、とりあえず了承りょうしょうの返事をする。

 そんな中の私の頭がひねり出した考えは、彼はきっと人恋しくてそういうことを言い出したのだというものだ。私個人に対して理由があると考えたら不自然だけど、それなら納得だ。
いやー、一番最初に考える理由を自分に寄せようとするなんて自意識過剰じいしきかじょうで恥ずかしいなー。

「いや、出来ればただのアルで……」

「………………」

 アレで終わりだと思っていた私に対して彼は、先程より控え目な声で遠慮えんりょぎみにそう言った。

 ………………なんで? 本気? 

 いや、なんで!? 私にそんなことを!?
 だいぶ踏み込んでいるけど…………こ、これは試されている!?
 よく分からないけど、私の何かを試されているのではっ!?

 ど、どっちだ!? 私をふるいかけているのと、それとも普通に愛称で呼んでくれるお友達が欲しいのどっちが正解なんだ……!!

 し、しかし私がここで選べる選択肢は一つだけである……その判断が根本的に間違ってないといいけど。

「あ、アル……?」

 意を決して恐る恐るそう呼んでみる。するとアルフォンス様はその瞬間、物凄い勢いで顔をそらした。

 ………………。

 いやいやー!! 自分から言っといて、その反応は流石に酷くありません!?
 ショックです、傷つきました……やはりこちらは罠だったのか、そうなのか。
 ふふっ、私としたことがやられましたね……。

「やっぱりアルさんと呼ばせて頂きますねー」

 私がそう口にすると、アルフォンス様はそらした顔を再びこちらに向けてきた。

「えっ、あ…………そうだな」

 そして僅かな間を開けたのちに、ぎこちなく頷いたのだった。

 いやー、やはりこれが正解の選択肢だったわけですねー。
 まったくもうっ!! 以後、私のもてあそぶのは止めていただきたいものです。実は結構、繊細な性格なのでね……!

 しかし、なんだかんだしてる内に軍事拠点の詳細については聞きそびれてしまった。
 それだけは残念だ……。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。 お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。 ただ、愛されたいと願った。 そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。

小型オンリーテイマーの辺境開拓スローライフ 小さいからって何もできないわけじゃない!

渡琉兎
ファンタジー
◆『第4回次世代ファンタジーカップ』にて優秀賞受賞! ◇2025年02月18日に1巻発売! ◆05/22 18:00 ~ 05/28 09:00 HOTランキングで1位になりました!5日間と15時間の維持、皆様の応援のおかげです!ありがとうございます!! 誰もが神から授かったスキルを活かして生活する世界。 スキルを尊重する、という教えなのだが、年々その教えは損なわれていき、いつしかスキルの強弱でその人を判断する者が多くなってきた。 テイマー一家のリドル・ブリードに転生した元日本人の六井吾郎(むついごろう)は、領主として名を馳せているブリード家の嫡男だった。 リドルもブリード家の例に漏れることなくテイマーのスキルを授かったのだが、その特性に問題があった。 小型オンリーテイム。 大型の魔獣が強い、役に立つと言われる時代となり、小型魔獣しかテイムできないリドルは、家族からも、領民からも、侮られる存在になってしまう。 嫡男でありながら次期当主にはなれないと宣言されたリドルは、それだけではなくブリード家の領地の中でも開拓が進んでいない辺境の地を開拓するよう言い渡されてしまう。 しかしリドルに不安はなかった。 「いこうか。レオ、ルナ」 「ガウ!」 「ミー!」 アイスフェンリルの赤ちゃん、レオ。 フレイムパンサーの赤ちゃん、ルナ。 実は伝説級の存在である二匹の赤ちゃん魔獣と共に、リドルは様々な小型魔獣と、前世で得た知識を駆使して、辺境の地を開拓していく!

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

離縁してくださいと言ったら、大騒ぎになったのですが?

ネコ
恋愛
子爵令嬢レイラは北の領主グレアムと政略結婚をするも、彼が愛しているのは幼い頃から世話してきた従姉妹らしい。夫婦生活らしい交流すらなく、仕事と家事を押し付けられるばかり。ある日、従姉妹とグレアムの微妙な関係を目撃し、全てを諦める。

裏切られた令嬢と裏切った令息の、その後の人生

柚木ゆず
ファンタジー
 子爵令嬢アンジェリーヌの幼馴染であり婚約者である、子爵令息ジェラルド。彼はある日大怪我を負って昏睡状態となってしまい、そんなジェラルドを救うためアンジェリーヌは神に祈りを捧げ始めました。  その結果アンジェリーヌの声が届き願いが叶うのですが、その代償として彼女は醜悪な姿になってしまいます。  自らを犠牲にしてまでジェラルドを助けたアンジェリーヌでしたが、その後彼女を待っていたのは婚約解消。ジェラルドは変わり果てたアンジェリーヌを気持ち悪いと感じ、自分勝手に縁を切ってしまったのでした。  そんなジェラルドは、無事に縁を切れて喜んでいましたが――  

貧乏育ちの私が転生したらお姫様になっていましたが、貧乏王国だったのでスローライフをしながらお金を稼ぐべく姫が自らキリキリ働きます!

Levi
ファンタジー
前世は日本で超絶貧乏家庭に育った美樹は、ひょんなことから異世界で覚醒。そして姫として生まれ変わっているのを知ったけど、その国は超絶貧乏王国。 美樹は貧乏生活でのノウハウで王国を救おうと心に決めた! ※エブリスタさん版をベースに、一部少し文字を足したり引いたり直したりしています

処理中です...