44 / 94
第43話 お目見え城郭都市1
しおりを挟む
森を抜けて見通しのいい街道まで出た所で、一緒に歩いていた運搬者の彼らからワーと歓声が上がった。
「本当に全く襲われなかったぞ凄いなー!」
「こちらに気付かずに獣が横を素通りしていってたぞー!?」
「お役に立てたのであれば何よりです」
興奮気味の彼らに私はサラッとそう言う。
「こんなに早く森を抜けられるなんて今日はツイてるなー!!」
「魔術師様々だぜ!!」
「いえいえ、それほどでもー」
それでも興奮冷めやらない様子の皆さんが口々に褒めてくれるものだから、私もついつい気分が良くなってしまう。
いやー、こんなに褒められちゃうなんて困っちゃうなー!!
私の魔術的な才能が凄いばっかりにまいったなー!!
そんな感じで散々褒めちぎってもらったところで、一緒に歩いてきた彼らのうちの一人が「街が見えてきた」と指し示して教えてくれた。
街……? いや、あれはまるで……。
ううん、今は一旦いいとしてそれよりも……。
「すみませんー。もう街も見えてきて迷う心配も無さそうなので、私達はもう少しゆっくりと歩いて街まで行きたいと思います」
「ゆっくり歩いてくって……もしかして疲れたのか?」
「ええ、歩き慣れていないもので少し……ですが私達に合わせて早さを落とすのはご迷惑でしょうし、皆さんは先に行って下さいませ」
「せっかくなら最後まで付き合いたいが……」
「そのお気持ちだけ頂戴いたしますね」
「分かった、ありがとうなリオン。機会があれば今回の礼もするからなー」
私の仕事名である『リオン』と私を呼んだ彼は、義理堅い性格なのかそんなことを言い残していった。
「私が勝手にしたことなので、お気になさらなくて結構ですよー。こちらこそありがとうございましたー」
そうして私は歩き去る皆さんを見送りつつ、十分距離もあいて声も届かなくなったと判断したところでアルフォンス様を振り返った。
「と、いうことでここからは二人でゆっくり歩いて行きましょうか?」
「……なぜわざわざここで彼らと別れたんだ?」
さも不思議そうに彼は私に問う。
「それはもちろん、その方がアルフォンス様にとってもいいと思いまして」
「っ!? もしかして気付いて……!!」
「もちろん、複数人がいる状況は苦手なのではないかと途中で気付いたため気を回したんですよー」
「あっああ、そうか……」
アルフォンス様は頷きながら顔を背け、すーっと遠くを見るような目をした。
……えー、それは一体どういう感情なのでしょうか?
やった……? 私が何かやらかしました?
こ、ここはとりあえず無かったことにしよう……!!
「まぁ、それで……っ!?」
私がテキトーに話題を変えようと考えながら口を開いたところ、突如背中にぞぞっと悪寒が走った。
そう、それはよく知っている感覚……例のあの人に気取られた時のっ!!
「っっっ!?」
まっ、まさか近くに!?
慌てて四方八方辺りを見回し、魔力的な気配も探るが何も特に無い……。
そこには今まで見てきたのと同じ、なんの変哲もない平野に森に道があるだけ。
確かにあの人なら姿を消し完全に気配を遮断することも出来るだろうけど、いつもなら最初の悪寒から時間を置かずに攻撃されてるはず……。
そうそう、いつもなら今頃はボッコボコ……。
………………。
気のせいだったのかな……?
うん、よく考えるとそもそもこんな所にあの人がいるはず無いよね……!! 無いないっ!!
いやー、警戒して損した……。
「リア、なんでそう妙な動きをしてるんだ?」
無我夢中だったせいで気付かなかったけど、いつの間にかアルフォンス様が不審そうな目付きでこちらを見ていた。
うん、思い返すまでもなく私の一連の行動は客観的にどう見ても不自然だったねっ!! 分かりますよ!!
「いえ、なんでもありませんよー。さっ、行きましょ?」
しかし事情を正直に話すわけにもいかないので私はテキトーに誤魔化す。
「……ああ」
彼はなんでもないわけないだろうみたいな顔はしていたものの、実際にそれを口に出すことはしなかった。
有り難い、とても有り難い……。
そうして私は僅かに残る不安を振り払うように、アルフォンス様と街へ向かって歩き出したのだった。
「…………見つけた」
―――――――――――――――――――――――――――……
「実は知らなかったのですが、ここの街ってとても立派な城壁に囲まれていたんですねー」
そう、さきほど街が見えてきたと教えてもらった時にまず驚いたのが、それが街というよりも巨大な壁にしか見えなかったからだ。
すぐにそれが街を取り囲む城壁だと思い当たったわけだけど……私の持ってる地図は簡易なものだから地名と大まかな場所しかなくて全然見当もつかなかったんだよねー。
そう、この街はいわゆる城郭都市というやつだ。
しかもその城壁は遠目からでもかなりしっかりとした高く堅牢なものだと分かる造りで……失礼な考えだけど、それはただの地方都市には似つかわしく無いようにも感じた。
「ああ、確か1000年前の大戦の際に作られたものらしいが……」
「ええ!? そうなんですかー!」
何気ない口調でそう言ったアルフォンス様に、私はグッと距離を詰めた。
だって、1000年前の遺物をそのまま使ってるって凄くありません!?
物凄い気になっちゃうじゃないですか!!
「そ、そうだ……元々古城と合わせて防衛の拠点として作られたもので……」
「えっ!? あの古城もそうだったんですか!!」
興奮した私は更にグッとアルフォンス様の方に踏み込んだ。
くっ全然気付かなかった!! なんたる見落とし……!!
「ち、近い!! そんなに前のめりにならなくてもいいだろう……!?」
「あ、申し訳ありません」
無我夢中で近付いて前のめりになってしまっていた私は、アルフォンス様の言葉を受けてスッと距離を取った。
いや、テンションが上がるとついねー?
「……だからと言って、別にそこまで離れなくても」
何かぼそっと言ったアルフォンス様だったが、私がそれを聞こうとする前に彼は再び口を開いた。
「本当に全く襲われなかったぞ凄いなー!」
「こちらに気付かずに獣が横を素通りしていってたぞー!?」
「お役に立てたのであれば何よりです」
興奮気味の彼らに私はサラッとそう言う。
「こんなに早く森を抜けられるなんて今日はツイてるなー!!」
「魔術師様々だぜ!!」
「いえいえ、それほどでもー」
それでも興奮冷めやらない様子の皆さんが口々に褒めてくれるものだから、私もついつい気分が良くなってしまう。
いやー、こんなに褒められちゃうなんて困っちゃうなー!!
私の魔術的な才能が凄いばっかりにまいったなー!!
そんな感じで散々褒めちぎってもらったところで、一緒に歩いてきた彼らのうちの一人が「街が見えてきた」と指し示して教えてくれた。
街……? いや、あれはまるで……。
ううん、今は一旦いいとしてそれよりも……。
「すみませんー。もう街も見えてきて迷う心配も無さそうなので、私達はもう少しゆっくりと歩いて街まで行きたいと思います」
「ゆっくり歩いてくって……もしかして疲れたのか?」
「ええ、歩き慣れていないもので少し……ですが私達に合わせて早さを落とすのはご迷惑でしょうし、皆さんは先に行って下さいませ」
「せっかくなら最後まで付き合いたいが……」
「そのお気持ちだけ頂戴いたしますね」
「分かった、ありがとうなリオン。機会があれば今回の礼もするからなー」
私の仕事名である『リオン』と私を呼んだ彼は、義理堅い性格なのかそんなことを言い残していった。
「私が勝手にしたことなので、お気になさらなくて結構ですよー。こちらこそありがとうございましたー」
そうして私は歩き去る皆さんを見送りつつ、十分距離もあいて声も届かなくなったと判断したところでアルフォンス様を振り返った。
「と、いうことでここからは二人でゆっくり歩いて行きましょうか?」
「……なぜわざわざここで彼らと別れたんだ?」
さも不思議そうに彼は私に問う。
「それはもちろん、その方がアルフォンス様にとってもいいと思いまして」
「っ!? もしかして気付いて……!!」
「もちろん、複数人がいる状況は苦手なのではないかと途中で気付いたため気を回したんですよー」
「あっああ、そうか……」
アルフォンス様は頷きながら顔を背け、すーっと遠くを見るような目をした。
……えー、それは一体どういう感情なのでしょうか?
やった……? 私が何かやらかしました?
こ、ここはとりあえず無かったことにしよう……!!
「まぁ、それで……っ!?」
私がテキトーに話題を変えようと考えながら口を開いたところ、突如背中にぞぞっと悪寒が走った。
そう、それはよく知っている感覚……例のあの人に気取られた時のっ!!
「っっっ!?」
まっ、まさか近くに!?
慌てて四方八方辺りを見回し、魔力的な気配も探るが何も特に無い……。
そこには今まで見てきたのと同じ、なんの変哲もない平野に森に道があるだけ。
確かにあの人なら姿を消し完全に気配を遮断することも出来るだろうけど、いつもなら最初の悪寒から時間を置かずに攻撃されてるはず……。
そうそう、いつもなら今頃はボッコボコ……。
………………。
気のせいだったのかな……?
うん、よく考えるとそもそもこんな所にあの人がいるはず無いよね……!! 無いないっ!!
いやー、警戒して損した……。
「リア、なんでそう妙な動きをしてるんだ?」
無我夢中だったせいで気付かなかったけど、いつの間にかアルフォンス様が不審そうな目付きでこちらを見ていた。
うん、思い返すまでもなく私の一連の行動は客観的にどう見ても不自然だったねっ!! 分かりますよ!!
「いえ、なんでもありませんよー。さっ、行きましょ?」
しかし事情を正直に話すわけにもいかないので私はテキトーに誤魔化す。
「……ああ」
彼はなんでもないわけないだろうみたいな顔はしていたものの、実際にそれを口に出すことはしなかった。
有り難い、とても有り難い……。
そうして私は僅かに残る不安を振り払うように、アルフォンス様と街へ向かって歩き出したのだった。
「…………見つけた」
―――――――――――――――――――――――――――……
「実は知らなかったのですが、ここの街ってとても立派な城壁に囲まれていたんですねー」
そう、さきほど街が見えてきたと教えてもらった時にまず驚いたのが、それが街というよりも巨大な壁にしか見えなかったからだ。
すぐにそれが街を取り囲む城壁だと思い当たったわけだけど……私の持ってる地図は簡易なものだから地名と大まかな場所しかなくて全然見当もつかなかったんだよねー。
そう、この街はいわゆる城郭都市というやつだ。
しかもその城壁は遠目からでもかなりしっかりとした高く堅牢なものだと分かる造りで……失礼な考えだけど、それはただの地方都市には似つかわしく無いようにも感じた。
「ああ、確か1000年前の大戦の際に作られたものらしいが……」
「ええ!? そうなんですかー!」
何気ない口調でそう言ったアルフォンス様に、私はグッと距離を詰めた。
だって、1000年前の遺物をそのまま使ってるって凄くありません!?
物凄い気になっちゃうじゃないですか!!
「そ、そうだ……元々古城と合わせて防衛の拠点として作られたもので……」
「えっ!? あの古城もそうだったんですか!!」
興奮した私は更にグッとアルフォンス様の方に踏み込んだ。
くっ全然気付かなかった!! なんたる見落とし……!!
「ち、近い!! そんなに前のめりにならなくてもいいだろう……!?」
「あ、申し訳ありません」
無我夢中で近付いて前のめりになってしまっていた私は、アルフォンス様の言葉を受けてスッと距離を取った。
いや、テンションが上がるとついねー?
「……だからと言って、別にそこまで離れなくても」
何かぼそっと言ったアルフォンス様だったが、私がそれを聞こうとする前に彼は再び口を開いた。
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説

セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。
ただ、愛されたいと願った。
そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。

30代主婦死んでもないけど神の使徒してます
ひさまま
ファンタジー
ハローワークのパート求人
時給:歩合制(一回:1000円)
時間:手の空いた時に
詳細:買い物補助
買い物バック貸与
タブレット貸与
交通費支給
【書籍化進行中、完結】私だけが知らない
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい
戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。
人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください!
チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!!
※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。
番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」
「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824

エリアスとドラゴンともふもふは、今日も元気に遊んでいます!?
ありぽん
ファンタジー
アルフォート家の3男、エリアス・アルフォート3歳は、毎日楽しく屋敷の広い広い庭を、お友達のぷるちゃん(スライム)とウルちゃん(ホワイトウルフ)と一緒に走り回っておりました。
そして4歳の誕生日の日。この日は庭でエリアスの誕生日パーティーが開かれていました。その時何処からかエリアスの事を呼ぶ声が。その声を前に聞いた事があるエリアスは、声のする庭の奥へ、ぷるちゃんとウルちゃんと3人進んで行きます。そこでエリアス達を待っていたものは?
剣と魔法そしてもふもふの溢れる世界で、繰り広げられるエリアスの大冒険。周りを巻き込みながら、今日もエリアスはやらかします!
*エリアス本人登場は2話からとなります。

追放幼女の領地開拓記~シナリオ開始前に追放された悪役令嬢が民のためにやりたい放題した結果がこちらです~
一色孝太郎
ファンタジー
【小説家になろう日間1位!】
悪役令嬢オリヴィア。それはスマホ向け乙女ゲーム「魔法学園のイケメン王子様」のラスボスにして冥界の神をその身に降臨させ、アンデッドを操って世界を滅ぼそうとした屍(かばね)の女王。そんなオリヴィアに転生したのは生まれついての重い病気でずっと入院生活を送り、必死に生きたものの天国へと旅立った高校生の少女だった。念願の「健康で丈夫な体」に生まれ変わった彼女だったが、黒目黒髪という自分自身ではどうしようもないことで父親に疎まれ、八歳のときに魔の森の中にある見放された開拓村へと追放されてしまう。だが彼女はへこたれず、領民たちのために闇の神聖魔法を駆使してスケルトンを作り、領地を発展させていく。そんな彼女のスケルトンは産業革命とも称されるようになり、その評判は内外に轟いていく。だが、一方で彼女を追放した実家は徐々にその評判を落とし……?
小説家になろう様にて日間ハイファンタジーランキング1位!
※本作品は他サイトでも連載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる