魔術少女と呪われた魔獣 ~愛なんて曖昧なモノより、信頼できる魔術で王子様の呪いを解こうと思います!!~

朝霧 陽月

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第39話 出かける前に2

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「しかし本当に特別な準備は必要ないのか?」

 外出用の荷物などが準備された部屋に到着したところで、アルフォンス様がそんなことを問いかけてきた。

「ええ、魔術は私が掛けるのでそれ以外のことは普通で大丈夫ですよー」

「そうなのか……」

「もしそれ以外に質問や問題がなさそうであれば、さっそく魔術を掛けてしまいますがよろしいでしょうか?」

「ああ、大丈夫だ」

 私の問いかけにアルフォンス様はやや緊張気味にうなずく。
 まぁ魔術自体に馴染なじみがない分、余計に緊張もするか……ということで、ここは一つ私の力は安心出来るということを見せないとね!

 さて、今回使用する魔術は正体隠しの魔術だ。こちらは毎回使用用途によって結構効果を変えたりしてるんだけど、今回は……他者から一般的な人間の成人男性と認識出来る容姿として捉えられるようにすること。具体的な容姿指定はナシで、後々の印象には残らないような感じの効果にしておこうかな?

「それでは行きますよ」

 私はパチンと指を鳴らして、アルフォンス様に術を掛ける。

「おおっ!!」

 感嘆の声を上げたアルフォンス様は、自分の手を見つめて握ったり開いたりを繰り返してる。術の力でちゃんと人の手に見えているのだろう。

「どうだ、ちゃんと人間に見えるか!?」

 よほど興奮しているのだろう、術を掛けた私に直接聞いてくるなんてねー。それはちょっと微笑ましく思えるんだけど……しかし術者である私には彼と同じものは見えない。幻術では他人をだませても、術者は自分自身を騙せない。
 目の前にあるのは術が掛かっていると分かる魔力の流れと、経験と感覚によって裏打ちされた術が掛かっているという確証だけだ。

「はい、大丈夫ですちゃんと術は掛かっておりますので」

 だから私は見えると肯定することは出来ずそう答えた。

「そうか!!」

 それでもアルフォンス様は私の答えに満足してくれたようで嬉しそうにしていた。
嬉しそうにされる分、嘘をついているようで少し申し訳なかった。

「まだ時間があるのであれば、他の方にもお見せしたり鏡で確認されるのもよろしいかと思いますよー」

「そうか、そうだな」

 アルフォンス様はいそいそと嬉しそうに部屋を出て行った。

 確か今、他の皆さんがいる部屋もすぐ近くだったはずだったけど……そう言えばなんでわざわざ別室なのかな。
 まっいいかー、そういう気分だったんだろうね。


 さて、取り残されてしまったしアルフォンス様が戻って来るまでの間に、今後の予定を軽く考えておこうかな


 街に行ってすることは……そう第一にダンスの教本探し、だから書店!! 書店に直行!!
 あとついでに1000年前の出来事について書いてありそうな本とクリスハルト様関連の本探しかな……でもそれはあまり期待出来そうにないかもね。
だってここの図書室の蔵書数はそれだけでかなりのものだ、しかも専門的な内容もかなり揃っているように思える。だから普通の街の書店でそれ以上の収穫を得ようと思うのは難しいと思うんだよね……。
 だからその辺りは、あくまで軽く見るだけと考えて置くのが良さそうかなー。

 うーん、あと他にはそうだな……。

「失礼いたします」

 考え込んでいたところ唐突にそんな声が聞こえたため、私は声の方を振り向いた。

 そこにあった……いや、いたのはコートなんかを掛けるあれと巻きじゃくに裁縫ばさみだった。
 あーいたいた、知ってる昨日みた……いや、でも宙に浮いてるのは何!?
 そんな情報聞いてないんだけど……!!
 え、凄い!?

「ドレスのサイズを合わせるために採寸をさせて頂きたいのですが……」

声で判断するに女性かな? そんな彼女たちはおずおずとそんなことを言った。

 ああー、確かにドレスって物があったとしても丈が合うとは限らないから、調節をするために事前の採寸は必要かも知れないけど……正直そんなこと、どうでもよくないですか? だって浮いてる方が重要じゃない? なんか普通の魔術とちょっと仕組みが違いそうな感じだし……。

「今晩必要になるとお聞きしましたが、これからお出かけだそうで今しか採寸する時間がないと思いまして伺った次第です」

 いや、私的にはそんなに必要ないのですが……でもここで私が渋ったりすると、この人達が困るだけだよね?
 しょうがないな……。

「分かりました、お願いします」

ロクでもない胸のうちは一切表に出さず私は笑顔で答えた。

「では少々お召し物を脱いで頂きたく……」

 あれ、最近こんな台詞どこかで……うーん、まぁいいかー。




 ―――――――――――――――――――――――――――……




「おーい、リア今見せてき…………っ!?」

 意気揚々と部屋に入ってきたアルフォンス様が、その言葉を途中で止め固まってしまった。

「あら、アルフォンス様おかえりなさいませ」

 私が声を掛けると固まっていたアルフォンス様が、我を取り戻したようにハッとして声を上げた。

「な、何をしているんだ君は!?」

「何って採寸ですけど……?」

「服はどうした!?」

「どうしたって、今までの上着なら一旦脱ぎましたけど……だってあれ採寸に適してませんし」

 実は今まで着ていた服はローブ以外もゆったりとした作りで、とても採寸には適していなかった。だから今の服装はその下に着ていたやたらピッタリとした薄手のシャツと、下もピッタリとしたショートパンツである。
 もちろん両方とも下着ではないので、他人に見られても問題はない。

「…………私は外で待ってるので終わったら声を掛けてくれ」

「え、わざわざ外で待つんですか?」

「この状況で中で待てるわけないだろうが……!?」

 うーん、そうだろうか?
 そうは思わないけどな…… 。

「まぁそう仰られるのであれば、どうぞご随意になさって下さい」

「キミはもう少し気にしてくれないか……」

 そんなことをボヤきつつ、アルフォンス様は部屋の外へ出ていった。

 気にする……気にするって?
 もしかして普段は上着で見えないとはいえ、このシャツとショートパンツの組み合わせは無いということだろうか……?
 いや、でもそこまで気を使うのは面倒なんだよなー。そもそも基本的には見えないし。

「今のは殿下なのですか……?」

 先程まで淡々と採寸をしていたお三方の一人巻き尺さんが急にそんなことを聞いてきた。
 確かに魔術で見え方が変わっているのは、この方達にも適応されるからぱっと見で誰だか分からなかったかも知れないね。

「そうですよ、私の魔術で人間に見えるようにしてみたのですけど如何ですかねー?」

「そうなのですか!? ええ、それはもう確かに普通の人間のお姿に見えました。あっでも……」

「何か問題でもありましたか?」

 彼女の引っ掛かりのある物言いに私は少し不安になる。
 さ、流石にミスはしてないはず……はず!!

「元々の殿下のお姿とは違う気がして……そもそも人間だったことは分かるのですが、何故かぼんやりとした印象で容姿が記憶に残りませんでしたし……」

 その言葉を聞いて私はほっとした。
 なーんだ、やっぱり私の魔術に間違いはなかったねー! 知ってたけどっ!!

「それなら問題ありません、そういう魔術ですから。それに私はアルフォンス様の元々のお姿を知りませんからね、そちらが分かっていればそう見せることも可能なのですが……」

 そもそもアルフォンス様の元々の容姿って話しを聞く限り良すぎて物凄く人目を引く感じになるんじゃないの? 余計なところで目立っても仕方ないし絶対に避けた方がいいと思うんだけど……。

「ああ、確かにリア様は殿下の元のお姿を知りませんからね……肖像画などをお見せ出来ればよかったのですが」

 さも残念そうな様子で彼女はそう言った。

「お気持ちは有り難いのですが、たぶん現状は必要ありませんよ?」

 しかし私はそれをやんわりと不要だと言う。
 だって絶対必要ないもの。わざわざ元々の姿に合わせて得する場面なんて今のところ思い付かないし……。

「いえ、絶対にご覧になった方がよいですよ……!?」

 すると私の言葉に彼女は強く反論してきた。
 え? なんでそんなに強めの語気ですすめるの……?

「是非是非ご覧頂きたいです!!」

「見ておいて損はしませんよ!?」

 今まで会話に参加していなかった方々まで何故か加勢に入ってきたぞ……!?
 ど、どういう展開ですか?

「それでは機会があれば……」

 お三方に強くそう言われてしまった私は、もう必要ないということも出来ず仕方なく曖昧な返事をしたのだった。

「はい、では探しておきますね!!」

 だからなんでそんなに強く言うんですかね!?
 仮に見せられたとして私にはそこまで気の利いたこと言えないと思いますよ……? 絶対面白くないですよー?

「無理はなさらないで下さいね……?」

 何故かやる気満々になってしまったお三方に、私はぎこちなくそう声を掛けた。

 なんとなく出来れば見つからないままの方が嬉しいなー。
 いや、だってなんか怖いんだもん……!!


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