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番外編 まだ魔術師ではなかった頃の幼い少女と幻影魔術
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「幻影魔術……思いのままの幻や偽り、虚像、存在しないものを見せる魔術……」
それは今から数十年前、少女がまだ魔術を勉強し始めてまだ間もない頃のこと
予習のため一人で魔術書を読み込んでいる時に彼女は幻影魔術ページを見つけた。
幻影魔術とは、正体隠し魔術や気配遮断の術などのように実態を隠したり、また実態のない虚像を作るような魔術全般の大元に当たるような魔術だった。
「これを使えるようになったら、またお母様に会えるかな……?」
そして折しもそれは彼女が慕っていた母親を亡くしてから歳月が経過していない頃。
幼くして母親を亡くしてしまった少女は当然寂しさを感じていた。
しかし当時の彼女は本心では寂しいと思っていたとしても、周囲に心配を掛けまいと一切そのことを口にしなかった。
そんな中で募りに募った寂しさもあり、彼女はこっそりと幻影魔術の練習を始めたのだった。
例え魔術の幻でもいい、また母親の姿をみたい。
少女の中にある仄かな淡い願い……その一心だけが彼女を突き動かした。
そうして彼女は誰にも見つからないように練習を重ね、ついに幻影魔術を習得したのだった。
しかし……。
「なんで……上手く発動しているはずなのになんで何も見えないの?」
魔術を発動させても、彼女が望んでいた母親の姿を見ることは叶わなかった。
そう、まだ魔術の知識に乏しい彼女は知らなかったのだ。
幻影魔術の幻影は術者自身には目視が出来ないということを。
もし他の人に術を使って貰えれば幻影をみることも出来るが、一切弱音を吐かないようにしていた彼女にとってそれはどうしようもなく難しいことだった。
そして彼女の知らない重要な事実は他にもあった。それは術者自身に効果がある幻影魔術は禁術にあたるということだ……。
禁術というのは使用はもちろん、それに関わる術の研究自体が禁止されている魔術のことである。
なぜ禁術されているのかというと、まず一つ目の理由が術者自身まで自らの術に掛かれば、全ての感覚が狂ってしまい術の制御もままならなくなることが予測でき、周囲への影響を考えると大変危険だということが一つ。
そして禁術である二つ目の理由が、術者自身が自分の作り出した心地よい幻影に溺れてしまうことを防ぐためであった。現実ではありえない自分にとって都合のよい嘘は、とても危険だ。一度依存するようになってしまえば後戻りは出来ない。
少なくとも禁術を定めた人々はそう考えた。
「お母様……会いたいよ……」
ついに堪えきれなくなった少女は、たった一人の部屋の中でボロボロと涙をこぼし始めた。誰かが側にいてあげればと思うが、これは彼女が一人でいるからこそで他人がいればどんなに悲しくても絶対に泣いたりなどはしない。そういう子供だった。
奇しくもその二つ目の理由は、少女の『幻でもいいから母に会いたい』という幻影魔術を勉強し始めた動機を根本から否定するものであった。
だからこそ、その事実を初めて知った彼女の衝撃は大きかったという。
【魔術はヒトを助け発展させるためにあるものであり、精神を蝕み堕落させるような使い方は決して許されない。】
幻影魔術の禁術について説明した後に、締めくくりで書いてあったその一文。
それを初めて読んだ少女は、深い絶望に苛まれながらも自分の考えを悔いいるかのように、何度もその一文を噛みしめながら読み返して、溢れそうになる涙を必死に堪えた。
これは彼女が自ら魔術師を名乗れるほど自負も知識もなかった頃の苦い記憶の話し。
それは今から数十年前、少女がまだ魔術を勉強し始めてまだ間もない頃のこと
予習のため一人で魔術書を読み込んでいる時に彼女は幻影魔術ページを見つけた。
幻影魔術とは、正体隠し魔術や気配遮断の術などのように実態を隠したり、また実態のない虚像を作るような魔術全般の大元に当たるような魔術だった。
「これを使えるようになったら、またお母様に会えるかな……?」
そして折しもそれは彼女が慕っていた母親を亡くしてから歳月が経過していない頃。
幼くして母親を亡くしてしまった少女は当然寂しさを感じていた。
しかし当時の彼女は本心では寂しいと思っていたとしても、周囲に心配を掛けまいと一切そのことを口にしなかった。
そんな中で募りに募った寂しさもあり、彼女はこっそりと幻影魔術の練習を始めたのだった。
例え魔術の幻でもいい、また母親の姿をみたい。
少女の中にある仄かな淡い願い……その一心だけが彼女を突き動かした。
そうして彼女は誰にも見つからないように練習を重ね、ついに幻影魔術を習得したのだった。
しかし……。
「なんで……上手く発動しているはずなのになんで何も見えないの?」
魔術を発動させても、彼女が望んでいた母親の姿を見ることは叶わなかった。
そう、まだ魔術の知識に乏しい彼女は知らなかったのだ。
幻影魔術の幻影は術者自身には目視が出来ないということを。
もし他の人に術を使って貰えれば幻影をみることも出来るが、一切弱音を吐かないようにしていた彼女にとってそれはどうしようもなく難しいことだった。
そして彼女の知らない重要な事実は他にもあった。それは術者自身に効果がある幻影魔術は禁術にあたるということだ……。
禁術というのは使用はもちろん、それに関わる術の研究自体が禁止されている魔術のことである。
なぜ禁術されているのかというと、まず一つ目の理由が術者自身まで自らの術に掛かれば、全ての感覚が狂ってしまい術の制御もままならなくなることが予測でき、周囲への影響を考えると大変危険だということが一つ。
そして禁術である二つ目の理由が、術者自身が自分の作り出した心地よい幻影に溺れてしまうことを防ぐためであった。現実ではありえない自分にとって都合のよい嘘は、とても危険だ。一度依存するようになってしまえば後戻りは出来ない。
少なくとも禁術を定めた人々はそう考えた。
「お母様……会いたいよ……」
ついに堪えきれなくなった少女は、たった一人の部屋の中でボロボロと涙をこぼし始めた。誰かが側にいてあげればと思うが、これは彼女が一人でいるからこそで他人がいればどんなに悲しくても絶対に泣いたりなどはしない。そういう子供だった。
奇しくもその二つ目の理由は、少女の『幻でもいいから母に会いたい』という幻影魔術を勉強し始めた動機を根本から否定するものであった。
だからこそ、その事実を初めて知った彼女の衝撃は大きかったという。
【魔術はヒトを助け発展させるためにあるものであり、精神を蝕み堕落させるような使い方は決して許されない。】
幻影魔術の禁術について説明した後に、締めくくりで書いてあったその一文。
それを初めて読んだ少女は、深い絶望に苛まれながらも自分の考えを悔いいるかのように、何度もその一文を噛みしめながら読み返して、溢れそうになる涙を必死に堪えた。
これは彼女が自ら魔術師を名乗れるほど自負も知識もなかった頃の苦い記憶の話し。
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