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第24話 図書室にて-別視点- 3
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さて、本の片付けを始めたわけだがそれがまたラクでなかった……。
どうやらリアは一度集中し出せば黙々と作業をするタチだったようで、それに
伴い片づける本がいくらでも増えていった。なかなかのハイスピードで増えていく本を追いかけて本棚と本の山を往復していれば、いつの間にか窓から差す日が傾きかけていたのだった。
確か、図書室に入ったのは昼前だったからはず……そんなに時間が経っても気付かないほど集中していたのか。
私の驚きをよそに視界に映るリアは変わらず本のページをめくり続けていた。見れば残りの本も僅かになっている……なんというか、この子の作業量も集中力もどうなっているのか不思議で仕方が無い。
時間経過に気付くと一気に疲れたような気がしたので一旦休もう……と思ってはたと気付いた。
……まてよ。よく考えると、ずっとここにいたわけだがら昼食を食べていないじゃないか。
もはや昼食と言うより、日も暮れかけて夕食時だから急いで支度をした方が良さそうだな……。
そう判断した私は「悪いが少し席を外す」リアに一言声を掛けて図書室を出たのだった。
―――――――――――――――――――――――――――……
私が料理をするのは元々毎日ではない。だからと言うわけではないが、きっと彼女が誉めてくれることに見合うほど上手くもないだろう。
だがそれでも出会ったばかりの我々の呪いを、わざわざ解くと言ってくれた彼女に……何か少しでも出来たらと考えたところ、リアがここに居てくれるうちは私がなるべく料理を作ろうと思ったのだった。
もちろん完全に一人で全部準備出来ているワケじゃないが……かなり頑張ってはいると思う。
準備し終えた食事を手に図書館まで戻り、扉を開けて部屋に入るとリアがこちらを向いた。
出て行く前からだが、相変わらずローブで顔が見えなくなっているな……。
「お帰りなさいませ、お陰様で作業はほぼ片付きましたよ」
「ああ……」
リアの横には仕分け作業を終えて綺麗に積み直された本だけが置かれている。
部屋を出ている間に終わったのか……やはり早いな。
「食事を用意して来たのだが、良ければ食べないか?」
「あら、なんの用事かと思ったら食事の準備をして下さっていたのですね……気が付かなくて申し訳ありません」
「気にするな、こちらが勝手にやっていることだ」
あいてる手近な、机に食事を乗せたトレイを置いた。
「そうですか……でも、ありがとうございます」
心地の良い柔らかな声音、顔には同じ類いの笑顔が浮かんでいる……ような気がするが、ローブに覆われていて全く顔が見えなかった。
そのローブ、いい加減邪魔だな……。
「ところで、いつまでローブを被ってるつもりなのか……?」
「あっ、そう言えばまだ被ったままでしたね」
そう言ってひょいとローブを外すと、ようやくリアの顔が見えるようになった。
彼女の顔も多少見慣れてきたような気がしていたが、さっきまで隠れていた時との落差があるせいで色々と眩しかった……!!
彼女のどこか浮き世離れした幻想的な美しさは明るい場所で突然見ると目の毒になるくらいの威力があった。特に青色っぽい銀髪とかがよく晴れた日の水面の如く目に突き刺さって来る。
先程までのローブとおかしな言動のせいで忘れかけていたが、リアはこんな感じだったか……!?
「申し訳ありませんね、ローブを被っている方が落ち着くのでつい……」
「何故かぶっているが落ち着くんだ?」
私は眩しさに目を細め、脱がせずに浅くかぶらすくらいにして貰えばよかったと思いつつもリアの言葉に対応する。
「この通り、私の髪色って結構目立つじゃないですか?」
「ああ、確かにな……」
今まさに身にしみてそれを感じているところだ。
「そこを目掛けて襲い掛かってくる天敵がいるんですよね……それが原因で顔をローブで隠すのが習慣になってしまいまして、今では逆にローブが無いと落ち着かないんですよねー」
話しを聞いている内に段々と目が慣れて来たぞ、急に暗い所から明るい所に出た時と同じだな……。
「……その天敵とはなんだ……光り物が好きなカラスか?」
「大体似たようなものですけど、それはカラスなんかよりずっとタチの悪い存在ですね……」
リアは天敵とやらでも思い出したのか、身震いをして少し自分の身体を撫でた。まさか彼女がこんな反応を見せるとはな……天敵とは一体なんなのだろうか……。
「そんなことより、そろそろ食事にしませんか? せっかくの用意して頂いたご飯が冷めてしまいますので……!!」
「ああ、そうだな……あ……」
天敵のことは気になるものの、とりあえずリアの言葉に頷いた。そして食事をするならばと銀製の水差しを持ち上げたところで、それがずいぶんと軽いのに気付いた。
「どうかしましたか?」
「それが水差しに水を入れ忘れてしまったようでな……」
「それなら私に任せて下さい!」
私が返事をするより早く彼女は私から水差しを奪い、そして片手で持った水差しを指で軽く弾いたのだった。
「はい、一杯になりましたよ」
ただそうしただけで彼女は自信いっぱいに手に持った水差しを差し出してきた。思わず受け取った水差しは確かに先程までと違ってずっしりと重い。
「本当に水が入ったのか……?」
「ええ、水系統の魔術は得意なので水程度ならいくらでも出せますよ」
リアが私に見せるように手を出すと、その手の上にパッと水の玉が現れた。それは拳くらいの大きさで、ふよふよと手の上で浮いている。
「……凄いな」
「いえいえ、これなんて全然大したことはありませんよ。野外なんかの広い場所であれば、本当に凄いものもお見せ出来るんですけどね」
「だが今のは呪文を唱えてなかっただろう……それは凄いことではないのか?」
「慣れさえあればある程度のものは詠唱なしで扱えますよ、ほら火だってこの通り」
リアの手の上で浮かんでいた水の球がパッと消えて、代わりに同じ大きさの火の玉が現れた。同じようにふよふよ浮かびながら燃えている。
「キミは本当に魔術師なんだな……」
「あれ、もしかして信じていませんでしたか……?」
少し心外そうなリアの言葉と同時に火の玉がシュっと消える。
「そうではないのだが、そういう不思議な力を見て改めてそう実感しただけだ……」
「確かに不思議ですよね。もとは同じ魔力なのに水にも火にも風にも土にもなる、しかも個々の適性によって使える属性も違う……なんででしょうね」
意外にも私の不思議という言葉に同意した、リアはどこか楽しげにそんなことを言った。
「キミは詳しくのではないのか?」
「ええ、どちらかと言えばそうでしょうね」
やや困惑した私は思わずリアに問いかけたが、そちらにもあっさりと頷いたのだった。
「私が手に出来る限りでですが書籍などにまとまっている知識は全て勉強するようにしました。それでもまだ調べても調べても分からないことなんて存在する、それが魔術の世界なんですよ。その最たるものが大精霊さまの扱う魔術だったりするわけですが……」
彼女は語った。なぜそんなに楽しそうなのかと思うほど楽しげに嬉しげに、それは見ているだけで少しドキドキするほどのものだった。
そんな言葉をリアがわざわざ区切ったことに、どうしてか開く直前の花の蕾を連想させた。そしてそれは間違いではないとすぐに分かった。
「でも、そういう分からない部分を知ることこそが面白いんですよねっ!」
その顔に浮かんでいたのは溌剌と輝くような笑顔、きらめく瞳に僅かに赤く染まった頬が更に彼女を魅力的に見せた。それはリアが今まで見せてきた笑顔の中でもっとも魅力的であったと言っても過言ではないだろう。その証拠にその笑顔を見た瞬間、私の意識が遠のいたのだった。
「あのアルフォンスさま?」
「…………」
「……もしかして面白いって言ったことが気に障りましたか?」
「…………」
「違いますよ、この状況のことじゃなくて未知の知識への知的探求心的なことを指して言っていたのであって断じてそうではありませんよ」
「…………」
「……ということで、この話は止めて本格的に食事にしましょう!!」
「…………」
「ハイハイー、水差しは私が持ってお水を注ぎますね~ アルフォンスさまはお席へどうぞ」
「…………はっ」
なんだろう少しの間の意識がはっきりしてなかった気がする……しかも、その間にリアが話していた気はするのだが全く内容が思い出せない。
「お水をどうぞ」
「ああ、ありがとう……」
いつの間にか私は椅子に座っており、リアは水差しを片手に持ちながらコップに入った水を差し出してくるというこの状況……おそらく、知らぬ間に食事をするという話になったのだろうな。というか、それ以外ないだろう。
「あっあとずっと言おうと思っていた本の感想のことなんですが……スグにお聞きするのは難しいと思いまして後ほど感想文にまとめてお持ち頂ければ結構ですので」
「は……?」
この状況について考えていたところだったのに、なにやら変な発言が割り込んで来たぞ
いや、流石に気のせいかも知れない……。
「ですから、読んでいただいた本のことは感想文にまとめて頂ければ結構ですので」
彼女はにこにこ笑いながら、先程の内容をより簡潔に繰り返した。
ああ、これは確かに間違いなく言ったな……!! この子、自分が勧めた本の感想文を要求してきたぞ!?
少し感想を聞くだけならまだしも、感想文はおかしくないか……!?
しかも全く悪気なさそうな笑顔を浮かべてるのだが……。いや、でもゆっくり考えられる時間が出来たと考えれば…………しかしかなり複雑だ……。
「そうだ、あとこれは食事が終わってからでいいのですが……」
「な、なんだ?」
唐突に感想文を要求されたせいもあり、これ以上彼女が何を言うつもりかと私は思わず身構えた。
「この辺りの地図、特に地形や河川が詳細に記されているものが欲しいのですがありますかね?」
また思いもしなかった言葉に少し驚いたものの、リアが何を欲しているかスグに考えを巡らせた。
彼女が言っているのは普通の旅人が持っているような地図よりも精密な地図が欲しいと言うことだろう。一般的な旅人用の地図は主要な道や川や目印などの最低限の内容のみが記されており、その他の情報は省かれることも多い。
しかし情報が省かれているといっても普通ならばそれで事足りるからこそ、そのような形式を取っているのわけだ。わざわざそれ以上の情報なんて知って彼女はどうするつもりなのだろう。
「それは恐らくあると思うが……何に使うつもりだ」
私の疑問にリアは少し悪戯っぽい笑みで答えた。
「それはもちろん調査に使うんですよ」
どうやらリアは一度集中し出せば黙々と作業をするタチだったようで、それに
伴い片づける本がいくらでも増えていった。なかなかのハイスピードで増えていく本を追いかけて本棚と本の山を往復していれば、いつの間にか窓から差す日が傾きかけていたのだった。
確か、図書室に入ったのは昼前だったからはず……そんなに時間が経っても気付かないほど集中していたのか。
私の驚きをよそに視界に映るリアは変わらず本のページをめくり続けていた。見れば残りの本も僅かになっている……なんというか、この子の作業量も集中力もどうなっているのか不思議で仕方が無い。
時間経過に気付くと一気に疲れたような気がしたので一旦休もう……と思ってはたと気付いた。
……まてよ。よく考えると、ずっとここにいたわけだがら昼食を食べていないじゃないか。
もはや昼食と言うより、日も暮れかけて夕食時だから急いで支度をした方が良さそうだな……。
そう判断した私は「悪いが少し席を外す」リアに一言声を掛けて図書室を出たのだった。
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私が料理をするのは元々毎日ではない。だからと言うわけではないが、きっと彼女が誉めてくれることに見合うほど上手くもないだろう。
だがそれでも出会ったばかりの我々の呪いを、わざわざ解くと言ってくれた彼女に……何か少しでも出来たらと考えたところ、リアがここに居てくれるうちは私がなるべく料理を作ろうと思ったのだった。
もちろん完全に一人で全部準備出来ているワケじゃないが……かなり頑張ってはいると思う。
準備し終えた食事を手に図書館まで戻り、扉を開けて部屋に入るとリアがこちらを向いた。
出て行く前からだが、相変わらずローブで顔が見えなくなっているな……。
「お帰りなさいませ、お陰様で作業はほぼ片付きましたよ」
「ああ……」
リアの横には仕分け作業を終えて綺麗に積み直された本だけが置かれている。
部屋を出ている間に終わったのか……やはり早いな。
「食事を用意して来たのだが、良ければ食べないか?」
「あら、なんの用事かと思ったら食事の準備をして下さっていたのですね……気が付かなくて申し訳ありません」
「気にするな、こちらが勝手にやっていることだ」
あいてる手近な、机に食事を乗せたトレイを置いた。
「そうですか……でも、ありがとうございます」
心地の良い柔らかな声音、顔には同じ類いの笑顔が浮かんでいる……ような気がするが、ローブに覆われていて全く顔が見えなかった。
そのローブ、いい加減邪魔だな……。
「ところで、いつまでローブを被ってるつもりなのか……?」
「あっ、そう言えばまだ被ったままでしたね」
そう言ってひょいとローブを外すと、ようやくリアの顔が見えるようになった。
彼女の顔も多少見慣れてきたような気がしていたが、さっきまで隠れていた時との落差があるせいで色々と眩しかった……!!
彼女のどこか浮き世離れした幻想的な美しさは明るい場所で突然見ると目の毒になるくらいの威力があった。特に青色っぽい銀髪とかがよく晴れた日の水面の如く目に突き刺さって来る。
先程までのローブとおかしな言動のせいで忘れかけていたが、リアはこんな感じだったか……!?
「申し訳ありませんね、ローブを被っている方が落ち着くのでつい……」
「何故かぶっているが落ち着くんだ?」
私は眩しさに目を細め、脱がせずに浅くかぶらすくらいにして貰えばよかったと思いつつもリアの言葉に対応する。
「この通り、私の髪色って結構目立つじゃないですか?」
「ああ、確かにな……」
今まさに身にしみてそれを感じているところだ。
「そこを目掛けて襲い掛かってくる天敵がいるんですよね……それが原因で顔をローブで隠すのが習慣になってしまいまして、今では逆にローブが無いと落ち着かないんですよねー」
話しを聞いている内に段々と目が慣れて来たぞ、急に暗い所から明るい所に出た時と同じだな……。
「……その天敵とはなんだ……光り物が好きなカラスか?」
「大体似たようなものですけど、それはカラスなんかよりずっとタチの悪い存在ですね……」
リアは天敵とやらでも思い出したのか、身震いをして少し自分の身体を撫でた。まさか彼女がこんな反応を見せるとはな……天敵とは一体なんなのだろうか……。
「そんなことより、そろそろ食事にしませんか? せっかくの用意して頂いたご飯が冷めてしまいますので……!!」
「ああ、そうだな……あ……」
天敵のことは気になるものの、とりあえずリアの言葉に頷いた。そして食事をするならばと銀製の水差しを持ち上げたところで、それがずいぶんと軽いのに気付いた。
「どうかしましたか?」
「それが水差しに水を入れ忘れてしまったようでな……」
「それなら私に任せて下さい!」
私が返事をするより早く彼女は私から水差しを奪い、そして片手で持った水差しを指で軽く弾いたのだった。
「はい、一杯になりましたよ」
ただそうしただけで彼女は自信いっぱいに手に持った水差しを差し出してきた。思わず受け取った水差しは確かに先程までと違ってずっしりと重い。
「本当に水が入ったのか……?」
「ええ、水系統の魔術は得意なので水程度ならいくらでも出せますよ」
リアが私に見せるように手を出すと、その手の上にパッと水の玉が現れた。それは拳くらいの大きさで、ふよふよと手の上で浮いている。
「……凄いな」
「いえいえ、これなんて全然大したことはありませんよ。野外なんかの広い場所であれば、本当に凄いものもお見せ出来るんですけどね」
「だが今のは呪文を唱えてなかっただろう……それは凄いことではないのか?」
「慣れさえあればある程度のものは詠唱なしで扱えますよ、ほら火だってこの通り」
リアの手の上で浮かんでいた水の球がパッと消えて、代わりに同じ大きさの火の玉が現れた。同じようにふよふよ浮かびながら燃えている。
「キミは本当に魔術師なんだな……」
「あれ、もしかして信じていませんでしたか……?」
少し心外そうなリアの言葉と同時に火の玉がシュっと消える。
「そうではないのだが、そういう不思議な力を見て改めてそう実感しただけだ……」
「確かに不思議ですよね。もとは同じ魔力なのに水にも火にも風にも土にもなる、しかも個々の適性によって使える属性も違う……なんででしょうね」
意外にも私の不思議という言葉に同意した、リアはどこか楽しげにそんなことを言った。
「キミは詳しくのではないのか?」
「ええ、どちらかと言えばそうでしょうね」
やや困惑した私は思わずリアに問いかけたが、そちらにもあっさりと頷いたのだった。
「私が手に出来る限りでですが書籍などにまとまっている知識は全て勉強するようにしました。それでもまだ調べても調べても分からないことなんて存在する、それが魔術の世界なんですよ。その最たるものが大精霊さまの扱う魔術だったりするわけですが……」
彼女は語った。なぜそんなに楽しそうなのかと思うほど楽しげに嬉しげに、それは見ているだけで少しドキドキするほどのものだった。
そんな言葉をリアがわざわざ区切ったことに、どうしてか開く直前の花の蕾を連想させた。そしてそれは間違いではないとすぐに分かった。
「でも、そういう分からない部分を知ることこそが面白いんですよねっ!」
その顔に浮かんでいたのは溌剌と輝くような笑顔、きらめく瞳に僅かに赤く染まった頬が更に彼女を魅力的に見せた。それはリアが今まで見せてきた笑顔の中でもっとも魅力的であったと言っても過言ではないだろう。その証拠にその笑顔を見た瞬間、私の意識が遠のいたのだった。
「あのアルフォンスさま?」
「…………」
「……もしかして面白いって言ったことが気に障りましたか?」
「…………」
「違いますよ、この状況のことじゃなくて未知の知識への知的探求心的なことを指して言っていたのであって断じてそうではありませんよ」
「…………」
「……ということで、この話は止めて本格的に食事にしましょう!!」
「…………」
「ハイハイー、水差しは私が持ってお水を注ぎますね~ アルフォンスさまはお席へどうぞ」
「…………はっ」
なんだろう少しの間の意識がはっきりしてなかった気がする……しかも、その間にリアが話していた気はするのだが全く内容が思い出せない。
「お水をどうぞ」
「ああ、ありがとう……」
いつの間にか私は椅子に座っており、リアは水差しを片手に持ちながらコップに入った水を差し出してくるというこの状況……おそらく、知らぬ間に食事をするという話になったのだろうな。というか、それ以外ないだろう。
「あっあとずっと言おうと思っていた本の感想のことなんですが……スグにお聞きするのは難しいと思いまして後ほど感想文にまとめてお持ち頂ければ結構ですので」
「は……?」
この状況について考えていたところだったのに、なにやら変な発言が割り込んで来たぞ
いや、流石に気のせいかも知れない……。
「ですから、読んでいただいた本のことは感想文にまとめて頂ければ結構ですので」
彼女はにこにこ笑いながら、先程の内容をより簡潔に繰り返した。
ああ、これは確かに間違いなく言ったな……!! この子、自分が勧めた本の感想文を要求してきたぞ!?
少し感想を聞くだけならまだしも、感想文はおかしくないか……!?
しかも全く悪気なさそうな笑顔を浮かべてるのだが……。いや、でもゆっくり考えられる時間が出来たと考えれば…………しかしかなり複雑だ……。
「そうだ、あとこれは食事が終わってからでいいのですが……」
「な、なんだ?」
唐突に感想文を要求されたせいもあり、これ以上彼女が何を言うつもりかと私は思わず身構えた。
「この辺りの地図、特に地形や河川が詳細に記されているものが欲しいのですがありますかね?」
また思いもしなかった言葉に少し驚いたものの、リアが何を欲しているかスグに考えを巡らせた。
彼女が言っているのは普通の旅人が持っているような地図よりも精密な地図が欲しいと言うことだろう。一般的な旅人用の地図は主要な道や川や目印などの最低限の内容のみが記されており、その他の情報は省かれることも多い。
しかし情報が省かれているといっても普通ならばそれで事足りるからこそ、そのような形式を取っているのわけだ。わざわざそれ以上の情報なんて知って彼女はどうするつもりなのだろう。
「それは恐らくあると思うが……何に使うつもりだ」
私の疑問にリアは少し悪戯っぽい笑みで答えた。
「それはもちろん調査に使うんですよ」
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