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第20話 図書室にて 1
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「内容がおかしいよね……!?」
今しがた読み終えた『大精霊と四大英雄』という本の内容に思わずツッコミをいれる。
視界の端では突然声を上げた私に驚いたらしいアルフォンス様がビクッと肩を振るわせており、それにはわずかな申し訳なさを感じた。
現在、私がいるのは古城の一角にある図書室。
どうしてココにいるかというと……。
先刻、一連の説明を終えた私は「それでは今必要な説明は済んだため、私は一旦失礼いたします」とお辞儀をして皆さんのいた部屋を後にした。
なぜそうしたかというと、説明が済んだ後もダラダラとそこにいるより颯爽と立ち去った方がカッコイイだろうと思ったからである。
だってほら、切り替えが早いほうがスマートに見えるでしょ?
そして部屋を立ち去った後に何をするかあまり考えてなかった私は、曲がり角まで歩いて行ったところで立ち止まった。
あまり無計画に歩き回ると迷いそうな広さだし、目的地を決めてから移動した方がいいよね……などと悩んでいたところに、後を追いかけてきたアルフォンス様が「図書室があるのだが、よければ見てみないか?」と言われたため、丁度良いとそれに頷いて図書室までやってきたのだった。
……以上、図書室に至るまでのいきさつでした。
「突然大きな声を出して、どうかしたのか……?」
少し離れた椅子に大きな体でちょこんと腰をかけているアルフォンス様がこちらを見て問いかけてくる。
あらためて考えると私となぞの距離があるのが気になるな、本も持たずに座ってるようだし……。
「いきなり申し訳ありませんでした。実は今、読んでいたこの本の内容にちょっと思うところがありまして」
とにかく距離が遠いので表紙を掲げながらアルフォンス様にぐいぐいと近づいた。
若干身を引かれたような気もしたが、気にしないことにした。
「……えー、それは児童書に見えるが?」
「紛れもなく児童書ですね」
そう私が読んでいたのは児童書、いわゆる子供向けに発行されている本であった。
私はアルフォンス様の目の前の席まで移動すると手ごろな椅子に腰を掛けた。
「……なぜ児童書を読んでいるんだ?」
「以前も言いましたが、私の出身地は物凄い田舎なんですよ。それなので他との知識の差異がある可能性も考慮して大精霊の関わる基礎的な本を読んでおこうと思ったところ手頃な児童書を見つけましね。子供向けの本の方がきちんと要点を抑えて書かれているだろうと思い読んでみたのです」
「……そうだったのか」
アルフォンス様は頷きつつもなんだか微妙な顔をしている。
まぁそんなことは、別に構わないのだけれど。
「それにしても、この本の内容などうなんですかね『大精霊と四大英雄』という題名なのにまともに名前が出てくる四大英雄が一人だけってどういうことですか……? 話も冒頭はいいとしても、最終的にその人物が話の中心になったうえに極めて不自然な終わり方をしましたし!?」
大精霊と四大英雄の逸話は大抵誰でも知っている世界で一番有名な物語だ。
大精霊のことを語るのであればまずはここからというところで当然私も知っている、だけどさっき言った通り私の出身地は少々特殊なため他の地域と認識が同じとは言えない。多少自分の認識と違う部分があっても驚かないつもりで本を手に取ったんだけど、さすがに無理だったわ。
だって締めくくりで特定人物への感謝を読者に強要をする子供向けの本なんてはじめてみたよ!?
「ああ、なるほどな……その人物というのはクリスハルトだろう?」
私の言葉を聞いた途端アルフォンス様は納得したように頷いた、何か心当たりがあるようだ。
「そうです」
「その本は我が国、カストリヤで発行されたものなのだが、そのせいで自国出身の英雄について過剰に書きか立てている部分があるのだろうな……」
「それを差し引いたとしても、この内容は酷いですよ……今すぐ題名だけでも改名して頂きたいレベルです」
四大英雄の名を冠する本としてはもはや冒涜的だ。この内容ならせめて『大精霊と四大英雄』よりも『大精霊とクリスハルト殿下』にでもして欲しかった。それならかろうじて許せたから。
「もしかして他の本も全部この調子だったりするんですか……?」
「流石に子供向けを除いた歴史書だと他の四大英雄の名前もちゃんと出てくるが、我が国で発行されたものだとどうしてもクリスハルトの扱いと差が出てくるだろうな……」
「その話だと子供向けの本には他の四大英雄の名前すら登場しないように聞こえますけど?」
「カストリヤの児童書だと間違いなく出ないな……」
「…………そうですか」
大丈夫だろうか、この国(カストリヤ)は。
子供の歴史教育とか価値観とか……いや、そんなことを心配している場合じゃないか。
「あてが外れたので、大精霊関連の書籍の総当たりで必要な情報を調べることにします」
席を立って手近な本棚から該当書籍を抜き出していく。
大体の要点を抑えてから必要そうな情報の本だけ選ぼうと思っていたのだけど、こうなったら仕方ない。パラパラ中身を確認しつつ重要な部分だけちゃんと読むことにしよう。
「それなら私も本を探すのを手伝おう……大精霊関連だな?」
「ありがとうございます。はい、そして見つけた本は今座っていた机にまとめて置いておいて下さると助かります」
「分かった」
時間にしておよそ1時間弱ほど図書室中の大精霊関連の本を集めた結果、机の上にはいくつもの本の山が築かれることとなった。
今しがた読み終えた『大精霊と四大英雄』という本の内容に思わずツッコミをいれる。
視界の端では突然声を上げた私に驚いたらしいアルフォンス様がビクッと肩を振るわせており、それにはわずかな申し訳なさを感じた。
現在、私がいるのは古城の一角にある図書室。
どうしてココにいるかというと……。
先刻、一連の説明を終えた私は「それでは今必要な説明は済んだため、私は一旦失礼いたします」とお辞儀をして皆さんのいた部屋を後にした。
なぜそうしたかというと、説明が済んだ後もダラダラとそこにいるより颯爽と立ち去った方がカッコイイだろうと思ったからである。
だってほら、切り替えが早いほうがスマートに見えるでしょ?
そして部屋を立ち去った後に何をするかあまり考えてなかった私は、曲がり角まで歩いて行ったところで立ち止まった。
あまり無計画に歩き回ると迷いそうな広さだし、目的地を決めてから移動した方がいいよね……などと悩んでいたところに、後を追いかけてきたアルフォンス様が「図書室があるのだが、よければ見てみないか?」と言われたため、丁度良いとそれに頷いて図書室までやってきたのだった。
……以上、図書室に至るまでのいきさつでした。
「突然大きな声を出して、どうかしたのか……?」
少し離れた椅子に大きな体でちょこんと腰をかけているアルフォンス様がこちらを見て問いかけてくる。
あらためて考えると私となぞの距離があるのが気になるな、本も持たずに座ってるようだし……。
「いきなり申し訳ありませんでした。実は今、読んでいたこの本の内容にちょっと思うところがありまして」
とにかく距離が遠いので表紙を掲げながらアルフォンス様にぐいぐいと近づいた。
若干身を引かれたような気もしたが、気にしないことにした。
「……えー、それは児童書に見えるが?」
「紛れもなく児童書ですね」
そう私が読んでいたのは児童書、いわゆる子供向けに発行されている本であった。
私はアルフォンス様の目の前の席まで移動すると手ごろな椅子に腰を掛けた。
「……なぜ児童書を読んでいるんだ?」
「以前も言いましたが、私の出身地は物凄い田舎なんですよ。それなので他との知識の差異がある可能性も考慮して大精霊の関わる基礎的な本を読んでおこうと思ったところ手頃な児童書を見つけましね。子供向けの本の方がきちんと要点を抑えて書かれているだろうと思い読んでみたのです」
「……そうだったのか」
アルフォンス様は頷きつつもなんだか微妙な顔をしている。
まぁそんなことは、別に構わないのだけれど。
「それにしても、この本の内容などうなんですかね『大精霊と四大英雄』という題名なのにまともに名前が出てくる四大英雄が一人だけってどういうことですか……? 話も冒頭はいいとしても、最終的にその人物が話の中心になったうえに極めて不自然な終わり方をしましたし!?」
大精霊と四大英雄の逸話は大抵誰でも知っている世界で一番有名な物語だ。
大精霊のことを語るのであればまずはここからというところで当然私も知っている、だけどさっき言った通り私の出身地は少々特殊なため他の地域と認識が同じとは言えない。多少自分の認識と違う部分があっても驚かないつもりで本を手に取ったんだけど、さすがに無理だったわ。
だって締めくくりで特定人物への感謝を読者に強要をする子供向けの本なんてはじめてみたよ!?
「ああ、なるほどな……その人物というのはクリスハルトだろう?」
私の言葉を聞いた途端アルフォンス様は納得したように頷いた、何か心当たりがあるようだ。
「そうです」
「その本は我が国、カストリヤで発行されたものなのだが、そのせいで自国出身の英雄について過剰に書きか立てている部分があるのだろうな……」
「それを差し引いたとしても、この内容は酷いですよ……今すぐ題名だけでも改名して頂きたいレベルです」
四大英雄の名を冠する本としてはもはや冒涜的だ。この内容ならせめて『大精霊と四大英雄』よりも『大精霊とクリスハルト殿下』にでもして欲しかった。それならかろうじて許せたから。
「もしかして他の本も全部この調子だったりするんですか……?」
「流石に子供向けを除いた歴史書だと他の四大英雄の名前もちゃんと出てくるが、我が国で発行されたものだとどうしてもクリスハルトの扱いと差が出てくるだろうな……」
「その話だと子供向けの本には他の四大英雄の名前すら登場しないように聞こえますけど?」
「カストリヤの児童書だと間違いなく出ないな……」
「…………そうですか」
大丈夫だろうか、この国(カストリヤ)は。
子供の歴史教育とか価値観とか……いや、そんなことを心配している場合じゃないか。
「あてが外れたので、大精霊関連の書籍の総当たりで必要な情報を調べることにします」
席を立って手近な本棚から該当書籍を抜き出していく。
大体の要点を抑えてから必要そうな情報の本だけ選ぼうと思っていたのだけど、こうなったら仕方ない。パラパラ中身を確認しつつ重要な部分だけちゃんと読むことにしよう。
「それなら私も本を探すのを手伝おう……大精霊関連だな?」
「ありがとうございます。はい、そして見つけた本は今座っていた机にまとめて置いておいて下さると助かります」
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