4 / 94
第4話 嵐は突然に-別視点- 1
しおりを挟む
嵐の夜のことだった。もう長らく玄関を叩く者のいなかった城にノックの音が響いた。
ずいぶんと酷い嵐だし気のせいかと思ったが、一応確認しに行ってみると玄関扉の前には確かに人が立っていた。
暗くて容姿は分かりづらいが、雨をしのぐためであろうローブを頭まですっぽり被っており、手には杖を握っていた。そして線が細く、どうやら女性らしいと分かった。
(おそらく魔術師だろうな……見掛けるのは珍しいが……)
きっとこんな獣が出てくると思っていなかったのだろう。私と目が合うと、女性が身を固くする気配を感じた。
ああ、この反応は知っている。きっとこの後、彼女は悲鳴を上げて逃げ出すのだろう……。
または罵倒してくるのかもしれない。
「こんばんは、素敵なお城ですね……!!」
しかしその女性の発言は予想の斜め上をいった。
「……は?」
だから、私のこの言葉も自然と零れたものだった。
もしかして気が動転しておかしくなっているのだろうか…。それとも、もしかすると普通に会話できる相手なのだろうか。
「一体、なんのようだ?」
だから試しに問いかけてみた。少し強い言い方になってしまったかも知れないが、そんなことは気にしたことがない風に彼女は答えた。
「私の名はリア、旅の者です。森を抜けようとしたところ、嵐に遭って道に迷ってしまいココへ辿り着きました。不躾とは思いますが夜道とこの天候では街まで辿り着くのは難しいため、どうか嵐が収まるまでココで雨宿りをさせて頂けないでしょうか?」
淀みのない回答、おおよそ私に対する悪意のカケラもない普通のものだった。
この嵐の中で女性が道に迷ってしまい、たまたま雨風をしのぐのに都合の良さそうな建物を見つけて雨宿りを頼む……内容も普通だ。だが、この建物からたった今、私が…危険な化け物が出てきた。
「雨宿り……つまり泊めて欲しいということか?」
それでもリアと名乗った彼女はわざわざ、ココで夜を明かしたいと思っているのか?
「建物の中に入れて頂いて休めれば床でも結構ですので!!」
「いや若い娘が、それはどうかと思うぞ……」
彼女の答えはまた予想外だった。そのせいで、つられてツッコミを入れてしまう。
年齢については、話しているうちに何となくリアが少女に近い年齢ではないかというのを察していた。
「そうですかね、私は旅をしているので多少は平気ですよ」
そういうものだろうか……私にはよく分からない世界だ。
「そもそも私の姿を見た反応が……いや、とりあえず上がって貰おうか」
実際にどう思っているかは計り知れないが、あまり気にした様子の無い彼女をいつまでも外に立たせているのも悪いと思い城の中に招き入れたのだった。
エントランスに立った彼女はしきりに辺りを見渡しながら口を開いた。
「それで、何処の床を使えばよろしいでしょうか?」
「そんなに床で寝たいのかキミは!?」
彼女は床の方が寝やすいとか、そういう体質でもあるのだろうか。
「別にそうじゃありませんが……」
違うようだった。
「それなら部屋を貸すのでそこで寝てくれ」
「まぁ、なんてお優しい」
彼女がやけに大げさに褒めるので、なんだか居心地が悪くなり顔を背けてしまった。
「……それくらい当然だろう。それより濡れた上着も脱いで乾かしたらどうだ、向こうの部屋に暖炉があるからそこで乾かせるはずだ」
「そうですね、お言葉に甘えてそうさせて頂きます」
そこで彼女が初めて、頭にかぶったローブを脱いだため、ようやく彼女の顔をハッキリ見ることが出来た。
ローブの中から出てきた腰ほどの長さの髪は、キラキラと輝く水面の色に似た青色がかった銀髪。その髪と同じ色の長いまつ毛に縁どられた、澄んだ海のような青い瞳。透けるような白い肌。
やや薄暗い城の明かりにボンヤリと映し出された彼女の素顔は、可憐で美しい容姿と相まってどこか幻想的だった。
まるで海の妖精のようだ……。
彼女の姿を見た後は何故だか夢見心地で、暖炉まで案内してすることがなくなった後は飽きることなく彼女を見つめていた。
「お待たせして申し訳ありませんでした」
一通りの作業を終えた彼女は、私の視線に気付くとすぐさま謝ってきた。もしかしたら、私の視線を催促か何かと勘違いしたのかもしれない。
「いや、そんなことはない……」
じっと見てしまったことと、勘違いさせてしまったことで気まずくなりながらも首を振った。
あとは部屋に案内するだけだ。だがそれが何となく惜しく、もう少しだけ一緒に居たいと思ってしまった。だからこんなことを口走ってしまったのだろう。
「リアと言ったか、良ければ少し話をしないか……?」
断られる恐れから声は小さくなってしまった。
一見普通に接してくれているものの、本心では傍に居たくなくて断られるかもしれない。
返答以前に声が聞こえてないかもしれない。
「それは別に構いませんが、どのような話をすればいいでしょうか?」
しかし不安を一切吹き飛ばすように、何でもない様子で彼女は頷いた。
ずいぶんと酷い嵐だし気のせいかと思ったが、一応確認しに行ってみると玄関扉の前には確かに人が立っていた。
暗くて容姿は分かりづらいが、雨をしのぐためであろうローブを頭まですっぽり被っており、手には杖を握っていた。そして線が細く、どうやら女性らしいと分かった。
(おそらく魔術師だろうな……見掛けるのは珍しいが……)
きっとこんな獣が出てくると思っていなかったのだろう。私と目が合うと、女性が身を固くする気配を感じた。
ああ、この反応は知っている。きっとこの後、彼女は悲鳴を上げて逃げ出すのだろう……。
または罵倒してくるのかもしれない。
「こんばんは、素敵なお城ですね……!!」
しかしその女性の発言は予想の斜め上をいった。
「……は?」
だから、私のこの言葉も自然と零れたものだった。
もしかして気が動転しておかしくなっているのだろうか…。それとも、もしかすると普通に会話できる相手なのだろうか。
「一体、なんのようだ?」
だから試しに問いかけてみた。少し強い言い方になってしまったかも知れないが、そんなことは気にしたことがない風に彼女は答えた。
「私の名はリア、旅の者です。森を抜けようとしたところ、嵐に遭って道に迷ってしまいココへ辿り着きました。不躾とは思いますが夜道とこの天候では街まで辿り着くのは難しいため、どうか嵐が収まるまでココで雨宿りをさせて頂けないでしょうか?」
淀みのない回答、おおよそ私に対する悪意のカケラもない普通のものだった。
この嵐の中で女性が道に迷ってしまい、たまたま雨風をしのぐのに都合の良さそうな建物を見つけて雨宿りを頼む……内容も普通だ。だが、この建物からたった今、私が…危険な化け物が出てきた。
「雨宿り……つまり泊めて欲しいということか?」
それでもリアと名乗った彼女はわざわざ、ココで夜を明かしたいと思っているのか?
「建物の中に入れて頂いて休めれば床でも結構ですので!!」
「いや若い娘が、それはどうかと思うぞ……」
彼女の答えはまた予想外だった。そのせいで、つられてツッコミを入れてしまう。
年齢については、話しているうちに何となくリアが少女に近い年齢ではないかというのを察していた。
「そうですかね、私は旅をしているので多少は平気ですよ」
そういうものだろうか……私にはよく分からない世界だ。
「そもそも私の姿を見た反応が……いや、とりあえず上がって貰おうか」
実際にどう思っているかは計り知れないが、あまり気にした様子の無い彼女をいつまでも外に立たせているのも悪いと思い城の中に招き入れたのだった。
エントランスに立った彼女はしきりに辺りを見渡しながら口を開いた。
「それで、何処の床を使えばよろしいでしょうか?」
「そんなに床で寝たいのかキミは!?」
彼女は床の方が寝やすいとか、そういう体質でもあるのだろうか。
「別にそうじゃありませんが……」
違うようだった。
「それなら部屋を貸すのでそこで寝てくれ」
「まぁ、なんてお優しい」
彼女がやけに大げさに褒めるので、なんだか居心地が悪くなり顔を背けてしまった。
「……それくらい当然だろう。それより濡れた上着も脱いで乾かしたらどうだ、向こうの部屋に暖炉があるからそこで乾かせるはずだ」
「そうですね、お言葉に甘えてそうさせて頂きます」
そこで彼女が初めて、頭にかぶったローブを脱いだため、ようやく彼女の顔をハッキリ見ることが出来た。
ローブの中から出てきた腰ほどの長さの髪は、キラキラと輝く水面の色に似た青色がかった銀髪。その髪と同じ色の長いまつ毛に縁どられた、澄んだ海のような青い瞳。透けるような白い肌。
やや薄暗い城の明かりにボンヤリと映し出された彼女の素顔は、可憐で美しい容姿と相まってどこか幻想的だった。
まるで海の妖精のようだ……。
彼女の姿を見た後は何故だか夢見心地で、暖炉まで案内してすることがなくなった後は飽きることなく彼女を見つめていた。
「お待たせして申し訳ありませんでした」
一通りの作業を終えた彼女は、私の視線に気付くとすぐさま謝ってきた。もしかしたら、私の視線を催促か何かと勘違いしたのかもしれない。
「いや、そんなことはない……」
じっと見てしまったことと、勘違いさせてしまったことで気まずくなりながらも首を振った。
あとは部屋に案内するだけだ。だがそれが何となく惜しく、もう少しだけ一緒に居たいと思ってしまった。だからこんなことを口走ってしまったのだろう。
「リアと言ったか、良ければ少し話をしないか……?」
断られる恐れから声は小さくなってしまった。
一見普通に接してくれているものの、本心では傍に居たくなくて断られるかもしれない。
返答以前に声が聞こえてないかもしれない。
「それは別に構いませんが、どのような話をすればいいでしょうか?」
しかし不安を一切吹き飛ばすように、何でもない様子で彼女は頷いた。
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説

セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

【異世界大量転生1】乙女ゲームの世界に来たようなので、MMO気分で満喫することにした
とうや
ファンタジー
異世界転生したら王子でした。
如月一眞は通り魔に襲われ、あれやこれやで異世界転生する。だが婚約者は姪っ子で、前世のネトゲ仲間の親友。しかも乙女ゲームの世界だと!?
そんなの攻略法さえ知ってりゃ問題ない!どうせならMMO気分で楽しもうか!
書いてる人間がお腐れなので微妙に臭います。
『公爵令嬢は奪われる』シリーズにリンクしていますが、読んでなくても何とかなります。
本編終了しました。

裏切られた令嬢と裏切った令息の、その後の人生
柚木ゆず
ファンタジー
子爵令嬢アンジェリーヌの幼馴染であり婚約者である、子爵令息ジェラルド。彼はある日大怪我を負って昏睡状態となってしまい、そんなジェラルドを救うためアンジェリーヌは神に祈りを捧げ始めました。
その結果アンジェリーヌの声が届き願いが叶うのですが、その代償として彼女は醜悪な姿になってしまいます。
自らを犠牲にしてまでジェラルドを助けたアンジェリーヌでしたが、その後彼女を待っていたのは婚約解消。ジェラルドは変わり果てたアンジェリーヌを気持ち悪いと感じ、自分勝手に縁を切ってしまったのでした。
そんなジェラルドは、無事に縁を切れて喜んでいましたが――
小型オンリーテイマーの辺境開拓スローライフ 小さいからって何もできないわけじゃない!
渡琉兎
ファンタジー
◆『第4回次世代ファンタジーカップ』にて優秀賞受賞!
◇2025年02月18日に1巻発売!
◆05/22 18:00 ~ 05/28 09:00 HOTランキングで1位になりました!5日間と15時間の維持、皆様の応援のおかげです!ありがとうございます!!
誰もが神から授かったスキルを活かして生活する世界。
スキルを尊重する、という教えなのだが、年々その教えは損なわれていき、いつしかスキルの強弱でその人を判断する者が多くなってきた。
テイマー一家のリドル・ブリードに転生した元日本人の六井吾郎(むついごろう)は、領主として名を馳せているブリード家の嫡男だった。
リドルもブリード家の例に漏れることなくテイマーのスキルを授かったのだが、その特性に問題があった。
小型オンリーテイム。
大型の魔獣が強い、役に立つと言われる時代となり、小型魔獣しかテイムできないリドルは、家族からも、領民からも、侮られる存在になってしまう。
嫡男でありながら次期当主にはなれないと宣言されたリドルは、それだけではなくブリード家の領地の中でも開拓が進んでいない辺境の地を開拓するよう言い渡されてしまう。
しかしリドルに不安はなかった。
「いこうか。レオ、ルナ」
「ガウ!」
「ミー!」
アイスフェンリルの赤ちゃん、レオ。
フレイムパンサーの赤ちゃん、ルナ。
実は伝説級の存在である二匹の赤ちゃん魔獣と共に、リドルは様々な小型魔獣と、前世で得た知識を駆使して、辺境の地を開拓していく!

離縁してくださいと言ったら、大騒ぎになったのですが?
ネコ
恋愛
子爵令嬢レイラは北の領主グレアムと政略結婚をするも、彼が愛しているのは幼い頃から世話してきた従姉妹らしい。夫婦生活らしい交流すらなく、仕事と家事を押し付けられるばかり。ある日、従姉妹とグレアムの微妙な関係を目撃し、全てを諦める。
貧乏育ちの私が転生したらお姫様になっていましたが、貧乏王国だったのでスローライフをしながらお金を稼ぐべく姫が自らキリキリ働きます!
Levi
ファンタジー
前世は日本で超絶貧乏家庭に育った美樹は、ひょんなことから異世界で覚醒。そして姫として生まれ変わっているのを知ったけど、その国は超絶貧乏王国。 美樹は貧乏生活でのノウハウで王国を救おうと心に決めた!
※エブリスタさん版をベースに、一部少し文字を足したり引いたり直したりしています

転生して何故か聖女なった私は、婚約破棄されたうえに、聖女を解任される。「え?」 婚約者様。勝手に聖女を解任して大丈夫? 後は知りませんよ
幸之丞
ファンタジー
聖女のお仕事は、精霊のみなさまに助けてもらって国を守る結界を展開することです。
この世界に転生した聖女のエリーゼは、公爵家の子息と婚約しています。
精霊から愛されているエリーゼは、聖女としての能力も高く、国と結界を維持する組織にとって重要な立場にいます。
しかし、ある夜。エリーゼは、婚約破棄されます。
しかも婚約者様が、勝手に聖女の任を解いてしまうのです。
聖女の任を解かれたエリーゼは「ラッキー」と喜ぶのですが……
この国『ガイスト王国』は、どの様なことになるのでしょう。
――――――――――――――――
この物語を見つけていただきありがとうございます。
少しでも楽しんでいただければ、嬉しいです。

誰も知らない勇者のおとぎ話
まあや
ファンタジー
平凡な日常を送っていたものの、とある事情で人生に行き詰まりかけた成瀬勇士(なるせゆうし)。叔父を名乗る不審者の申し出から、とある高校に入学する。そこは『おとぎ話』の生まれ変わりたちが通う、全く普通ではない学校だった! 前世で彼らを助けた『勇者』だったと告げられた勇士は、喋る剣や相棒の狼、そしてかわいいが癖の強いお姫様たちと共に、運命に立ち向かう――。
これは、平凡な少年が勇者となり、呪いと戦うおとぎ話。
※小説家になろう様でも投稿しております。題名『誰も知らない勇者のお伽話』。そちらとは設定も変え、主要キャラも追加するという大幅リメイクを行っています。
感想などいただけると嬉しいです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる