魔術少女と呪われた魔獣 ~愛なんて曖昧なモノより、信頼できる魔術で王子様の呪いを解こうと思います!!~

朝霧 陽月

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第4話 嵐は突然に-別視点- 1

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 嵐の夜のことだった。もう長らく玄関を叩く者のいなかった城にノックの音が響いた。
 ずいぶんと酷い嵐だし気のせいかと思ったが、一応確認しに行ってみると玄関扉の前には確かに人が立っていた。

 暗くて容姿は分かりづらいが、雨をしのぐためであろうローブを頭まですっぽり被っており、手には杖を握っていた。そして線が細く、どうやら女性らしいと分かった。

(おそらく魔術師だろうな……見掛けるのは珍しいが……)

 きっとこんな獣が出てくると思っていなかったのだろう。私と目が合うと、女性が身を固くする気配を感じた。

 ああ、この反応は知っている。きっとこの後、彼女は悲鳴を上げて逃げ出すのだろう……。
 または罵倒してくるのかもしれない。

「こんばんは、素敵なお城ですね……!!」

 しかしその女性の発言は予想の斜め上をいった。

「……は?」

 だから、私のこの言葉も自然と零れたものだった。
 もしかして気が動転しておかしくなっているのだろうか…。それとも、もしかすると普通に会話できる相手なのだろうか。

「一体、なんのようだ?」

 だから試しに問いかけてみた。少し強い言い方になってしまったかも知れないが、そんなことは気にしたことがない風に彼女は答えた。

「私の名はリア、旅の者です。森を抜けようとしたところ、嵐に遭って道に迷ってしまいココへ辿り着きました。不躾ぶしつけとは思いますが夜道とこの天候では街まで辿り着くのは難しいため、どうか嵐が収まるまでココで雨宿りをさせて頂けないでしょうか?」

 淀みのない回答、おおよそ私に対する悪意のカケラもない普通のものだった。
 この嵐の中で女性が道に迷ってしまい、たまたま雨風をしのぐのに都合の良さそうな建物を見つけて雨宿りを頼む……内容も普通だ。だが、この建物からたった今、私が…危険な化け物が出てきた。

「雨宿り……つまり泊めて欲しいということか?」

 それでもリアと名乗った彼女はわざわざ、ココで夜を明かしたいと思っているのか?

「建物の中に入れて頂いて休めれば床でも結構ですので!!」

「いや若い娘が、それはどうかと思うぞ……」

 彼女の答えはまた予想外だった。そのせいで、つられてツッコミを入れてしまう。
 年齢については、話しているうちに何となくリアが少女に近い年齢ではないかというのを察していた。

「そうですかね、私は旅をしているので多少は平気ですよ」

 そういうものだろうか……私にはよく分からない世界だ。

「そもそも私の姿を見た反応が……いや、とりあえず上がって貰おうか」

 実際にどう思っているかは計り知れないが、あまり気にした様子の無い彼女をいつまでも外に立たせているのも悪いと思い城の中に招き入れたのだった。



 エントランスに立った彼女はしきりに辺りを見渡しながら口を開いた。

「それで、何処の床を使えばよろしいでしょうか?」

「そんなに床で寝たいのかキミは!?」

 彼女は床の方が寝やすいとか、そういう体質でもあるのだろうか。

「別にそうじゃありませんが……」

 違うようだった。

「それなら部屋を貸すのでそこで寝てくれ」

「まぁ、なんてお優しい」

 彼女がやけに大げさに褒めるので、なんだか居心地が悪くなり顔を背けてしまった。

「……それくらい当然だろう。それより濡れた上着も脱いで乾かしたらどうだ、向こうの部屋に暖炉があるからそこで乾かせるはずだ」

「そうですね、お言葉に甘えてそうさせて頂きます」

 そこで彼女が初めて、頭にかぶったローブを脱いだため、ようやく彼女の顔をハッキリ見ることが出来た。


 ローブの中から出てきた腰ほどの長さの髪は、キラキラと輝く水面の色に似た青色がかった銀髪。その髪と同じ色の長いまつ毛に縁どられた、澄んだ海のような青い瞳。透けるような白い肌。
 やや薄暗い城の明かりにボンヤリと映し出された彼女の素顔は、可憐で美しい容姿と相まってどこか幻想的だった。

 まるで海の妖精のようだ……。

 彼女の姿を見た後は何故だか夢見心地で、暖炉まで案内してすることがなくなった後は飽きることなく彼女を見つめていた。

「お待たせして申し訳ありませんでした」

 一通りの作業を終えた彼女は、私の視線に気付くとすぐさま謝ってきた。もしかしたら、私の視線を催促か何かと勘違いしたのかもしれない。

「いや、そんなことはない……」

 じっと見てしまったことと、勘違いさせてしまったことで気まずくなりながらも首を振った。

 あとは部屋に案内するだけだ。だがそれが何となく惜しく、もう少しだけ一緒に居たいと思ってしまった。だからこんなことを口走ってしまったのだろう。

「リアと言ったか、良ければ少し話をしないか……?」

 断られる恐れから声は小さくなってしまった。
 一見普通に接してくれているものの、本心では傍に居たくなくて断られるかもしれない。
 返答以前に声が聞こえてないかもしれない。

「それは別に構いませんが、どのような話をすればいいでしょうか?」

 しかし不安を一切吹き飛ばすように、何でもない様子で彼女は頷いた。
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