溺愛王子はシナリオクラッシャー〜愛する婚約者のためにゲーム設定を破壊し尽くす王子様と、それに巻き込まれるゲーム主人公ちゃんを添えて~

朝霧 陽月

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48話 静かな決意

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 あの方が、カネフォーラ様が立ち去ってから、どれほどの時が流れたのでしょうか……。
 去り際にカネフォーラ様は、次は容赦しないと私に告げました。しかしそこからそれなりの時間が経ったはずなのに、彼がここに訪れることはありませんでした。

 私の閉じ込められたこの場所は、小さな燭台があるのみで薄暗く、とても静かで私以外の気配もありません。
 そのため一人することもない私は、先程のやりとりから見えてきたカネフォーラ様の真意についてずっと考えていました。本人も目をそらし自覚できていない、きっとかつては優しかったはずの彼の本当の望みを。
 まるで悪人であろうと振る舞い、他者を傷つけることや犠牲を払うことすら厭わずに行動するのに、その心の底では常に亡くなった部下を悼み続けているカネフォーラ様。
 そんな彼と分かりあうためには、どうすれば……。

 何かの参考になればとゲームの知識も思い出そうとしましたが、どうにも上手くいきません。カネフォーラ様が登場人物の一人だったことは薄っすら分かっても、それ以外のことは何故か思い出せないのです。私は本当にダメですね……先程、勇敢に助けにして下さったミルフィさんにはとても及びません。

 私に出来ることは何か、もしカネフォーラ様にまたお会い出来たら何を話すべきか……一体何回目かは分からない問答を頭の中で繰り広げていたところ、遠くの方から複数人の足音が聞こえてきました。
 これはまるで走っているような……。

 そんなことを考えている内に、足音はすぐに近くまでやってきて、私のいる部屋へと入ってきました。

「カルア嬢、無事か!!」
「ど、どなたでしょうか!?」

 いきなり私のことを呼んだのは、全く見覚えのない屈強な男性で、私は非常に困惑しました。前世の知識を参照すると、なんとなくゴリラという動物に似ているような気もしますが……。

「俺は《ダンジョン攻略専攻チーム》のゴライアス・リゴーラだ!!」

 な、名前まで何故かゴリラ感がありますね……!? と、待ってください、今彼が口にした《ダンジョン攻略専攻チーム》って、最近どこかで聞いた気が……ええ、確か。

「ラテーナさん無事!?」
「あ、アナタは、ミルフィ・クリミアさん!!」

 ゴリラ感の強い大柄な男性の陰から現れたのは、本来のゲームの主人公であるはずのミルフィ・クリミアさん。
 そうでした《ダンジョン攻略専攻チーム》というのは、以前助けに来てくれた際にミルフィさんの口から聞いた言葉でした。それにしても何人も人がいらっしゃるのに、ミルフィさん以外は大体屈強な男性のようですね……これが《ダンジョン攻略専攻チーム》なのでしょうか。

 ミルフィさんは私の目の前までやってくると、座り込んでいる私の目線に合わせてわざわざ屈んで下さいました。

「あの時は助けられなくてごめんね!! 大丈夫、怪我はしてない!?」
「ええ、何もされておりません」
「そう、間に合ってよかった……」

 彼女は安心した様子でほっと胸を撫でおろしたところ、ゴリラなゴライアスさんから「少し下がっていろ」と声を掛けられたため、ミルフィさんは後ろへと下がりました。
 ??? 一体どういうことでしょうか。

 ゴライアスさんは私を拘束している鎖を手にすると、全身に魔力を魔力を纏い始めました。そして……。

「ふんっ!!」

 彼が両手で持っていた鎖を思いっきり力を入れて引っ張ると、見事に引きちぎれてしまいました。
 え、えぇーー!?

「あ、あの……それは、耐魔力の鎖では……」
「ああ、だから肉体自体を魔力で強化したうえで、腕力のみでどうにかした」
「それでも、鎖を引きちぎるレベルの強化というのは、中々難しいのでは……」
「ああ、普段から身体を鍛えてたのがよかったのだろうな。鎖自体の強度もかなりのもので、俺もこのレベルの鎖を引きちぎる経験は初めてだったよ」

 それは以前にも、鎖を引きちぎった経験があるってことでしょうか、一体どうして……いえ、これ以上はやめましょう。たぶん、私には理解しきれない世界な気がしますから。

「では、ラテーナさんの身柄は安全なところへと移しましょう」
「ああ、そうだなクリミア」
「私は行かなくてはいけない所があるので、一部のメンバーにお願いできますか?」
「もちろんだクリミア、そして俺もクリミアの方に着いて行くぞ」
「ありがとうございます、ゴライアス先輩!! とっても心強いです!!」

「あ、あの……もしかして、ミルフィさんとはここで別れることになるのでしょうか?」

 ミルフィさんとゴライアスさんの会話内容が気になって、私は思わずそう問いかけた。

「ええ、一緒に行けなくてごめんなさい。でも私はカネフォーラを止めなくちゃ行けないから!!」
「っ!!」

 え……カネフォーラ様のところへ?

 私はもっと詳しく話を聞きたかったのですが、ミルフィさんと他の方々が話し込んでしまい話しかけることができず……更にその話が終わると、この部屋には僅かに2人だけを残して、ミルフィさんを含めた他の方々は、そのまま走ってここから出て行ってしまいました。


「ではカルア令嬢、自分たちが安全な場所までお連れします。歩けますでしょうか?」
「……はい」

 カネフォーラ様……。
 彼のことは気になる。でも私がミルフィさんたちのあとに着いていっても、きっと邪魔になるだけな気がする。
 ミルフィさん……もし私にもアナタのような力があれば……。
 そう思ったところで、とある台詞が私の頭の中に蘇る。

『酷い目に合いそうな誰かが目の前にいて、放っておくなんてできないわ』

 いえ、きっと違いますね……あの方は力があるという理由で私を助けたのではなく、そういうお人柄だからこそ、そのような選択をしたのでしょう。

 恐らく、現状カネフォーラ様の説得を考えているのは私だけ……例えそうじゃなかったとしても、あの方が心の底で、人を殺すことを嫌ってる部分があると察しているのは、彼と会話の出来た私だけのはずです。だからこれは私にしか出来ないこと。

「申し訳ありません、お願いがあります。実は——」

 もし、それが僅かな可能性であっても、皆が少しでも救われて報われる結末になるのであれば、私はそれを選びたいのです。
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